第十六話 聖騎士祭2日目【S・L《スピード・ランドスケープ》】②
ここはどこだろうか…何もない真っ白な空間、あんなにボロボロにやられていたのに身体の感覚もない。だが意識ははっきりとある、、、そういえば前にも似たようなことがあった気がする…。
《ユーリ、聞こえますか?》
「うっ…はい。あなたは?」
《私は女神、天恵を授けた以来ですね。あなた自身もわかっていると思いますが、今あなたは死にかけています。》
「はい。魔族にやられてしまいました。」
《それはあなたがまだ《勇者》の力を使いこなせていないからですね。》
「そうかもしれません。ですが…わからないことが多くて。」
《私はあまり干渉することができませんので多くのことは教えることができませんが、あなたの力は他の《勇者》と関わることで真価を発揮します。》
「他の《勇者》と?」
《はい、そろそろ時間ですね。私はいつでも見守っています…。》
「あっ、ちょっと…」
女神様の言葉を最後に俺は意識を失った―――。
◇◆◇◆
競技場に駆け付けたのは、青薔薇聖騎士団長セシリア・グランベール、紅鳳凰聖騎士団長アルフレッド・マーティン、黄角聖騎士団長ブランシェ・アンバーの3人だった。他の二人は街に出現した魔物の対処に向かっている。そんな騎士団長達の登場にバリオンは驚いていた。本気ではなかったとはいえ、自分の拳を剣一本で防がれたのだ。かなりの実力者だろう、自分の力に自信はあるが過信はしていないバリオンは一度距離を取り体勢を整えた。
「アリア、ユーリを連れてここから離れるんだ。巻き込まれてしまうからな、それとこれを使ってやれ。」
「は、はい。ありがとうございます。」
アリアはセシリアから上回復薬を受け取りユーリを抱えて競技場から離れた。
「さて、随分と私の後輩を可愛がってくれたようだ。魔族貴様どうやってここに侵入した!」
「そこで伸びている宮廷魔道士団副団長が快く我らを引き寄せてくれた。」
「なるほど。だから結界の内側に侵入できたということか。イヴァンの処分は後にするとして…。」
「とりあえずコイツをぶっ飛ばせばいいってことにゃ!」
バリオンが現れたのと同時に学園には無数の魔物が出現していた。魔物自体は他の騎士団員でも対処はできるが、数が多く苦戦を強いられていた。
「そう簡単に我を倒せると思うなよ。」
「それはこっちの台詞だにゃっと!!」
黄角聖騎士団長ブランシェ・アンバーは《猫妖精の加護》の効果で『身体強化』と同じ様に身体能力が上がっている。純粋な身体能力だけでみれば彼女の右に出るものはいない。ブランシェはバリオンの懐に入り込み拳を交わし、『魔力撃』を打ち込む。
「グゥ…」
「まだまだぁ!」
「ええい、鬱陶しいわぁ!!!」
ブランシェはさらに畳み掛ける、しかしバリオンの身体から放たれた、黒い魔力に何かを感じ一時離脱する。
「あの魔力浴びたら、ヤバそうにゃ。」
「ならこれでどうですか。『地獄炎の監獄』!!!」
「なんだ!これは!」
「それは地獄の炎魔族ならそのくらい余裕でしょう。」
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!!」
赤黒い炎はバリオンの身体に纏わり付き、勢いは増していく。相手を燃やし尽くすまでこの炎は消えることがない。
「さぁ、止めですよ。」
「消え去れ!『聖剣・雷撃一閃』!!!」
セシリアの持つ《聖剣ガラティーン》に自身の雷魔法を載せた一撃をバリオンに向かって放つ。その剣撃はバリオンの身体を真っ二つに切り裂き、地獄の炎が肉体を燃やし尽くし消えた。
「ふむ、意外と大したことなかったのぉ。」
「なんか拍子抜けだにゃー。」
「早く街に放たれた魔物の方も対処しに向かいましょう。」
「…ククク、まさが我がここまで追い込まれるとはな。」
「貴様、完全に消し去ったはず!」
「我々魔族はその程度で死にはしない。少し貴様たちを甘く見いていたようだ。本気でいかせてもらおう!!!ウォォォォォォォォォォォ!!!」
バリオンの魔力量が跳ね上がったかと思うと、肉体はより大きく強靭に変化した。
「魔族というのはタフだねぇ。何かカラクリがあるんじゃろう。」
「何度復活しても同じこと!死ぬまで倒すだけだ!」
「やってやるにゃ!」
◇◆◇◆
競技場から少し離れたところで、アリアはユーリに上回復薬を飲ませた。だがまだ意識は戻らない。泣きそうになりながらも必死に『治癒魔法』を掛け続ける。ようやく顔色が良くなってきた。
「お願いユーリ…目を覚まして…!」
「…ア、、、アリア?ここは…。」
「よかった、ユーリ…もう目を覚まさないかと思ったよぉ…。」
俺が目を覚ますとアリアが抱きつき泣き出してしまった。頭を優しく撫でてやる、かなり心配させたようで申し訳ないな。
「それで、状況は?」
「あのバリオンとかいう魔族はセシリアさん達が相手をするから私達に逃げるようにって。それで少し離れたここでユーリにセシリアさんがくれた上回復薬と『治癒魔法』で治療してたの。」
「そういうことか。…そういえばエレナ達は大丈夫か?!」
「私も探ってみたんだけど、この前の森の時と同じ様に学園に魔法が掛けられてるみたいでどうなってるかわからないの。」
「なるほど。もしかしたら魔物も学園に入り込んでるんじゃ!?」
だとすれば急いでエレナと合流しなければ。最後は野外演習場の森だったはず!
「アリア!エレナを探しに森まで行こう!」
「で、でもまだ身体が…。」
「もう大丈夫みたいだ!行こう!」
俺はアリアと一緒に野外演習場の森へと向かっていった。
◇◆◇◆
時は少し前に遡る―――。
「このまま一位で逃げ切れればいいのですが…。」
エレナは森に入ってから独走状態にあった。他クラスの生徒は来ている気配はない。このままの状態を維持できれば確実に一位でゴールできると考えていた。しかし森の中頃に差し掛かった時異変を感じた。
「これは森に仕掛けられている罠…?」
レースのために仕掛けられた罠だろうかと考えたがその考えはすぐに改められた。目の前に現れた黒い穴が2つ。そこから現れたのは2体の魔人だった。ザイルより遥かに強いと直感でわかった。
「魔人?!」
「おやおやお嬢さん。我々は魔人ではなく“純粋”な魔族ですよ。」
「貴様ら人間族が魔族になるのとはワケが違うんだよ!」
魔人ではなく魔族、つまりザイルのような人間が変化したわけではないということだ。ならば何故魔族が学園に入り込むことができたのかが疑問だった。
「あなた達一体どこから!」
「どうせ死ぬんだから聞いても意味がねぇよ!」
「まったくビースは気が早いですねぇ。」
ビースと呼ばれた魔族の一人が飛びかかってくる。エレナは咄嗟に手を前に出し応戦した。
「『炎の壁・二重』!!」
「効かぬわぁ!」
「がっ…!」
『炎の壁・二重』は簡単に突破されエレナの身体に拳が入る。後方まで吹っ飛ばされる。
「簡単に壊れちゃつまらないぜ!もっと楽しませろよ!」
エレナは飛びそうな意識をなんとか保っていた。このままでは確実に殺されてしまう…だけど簡単には逃げることができない。それにここで奴らを逃がすこともエレナにはできなかった。どんなに絶望的でも諦めることは決してない。それが《勇者》なのだ。
「フン!これで終わりとは、つまらんな。せめて一撃で楽にしてやる。死ね!」
ビースは拳を振りかざした。それはエレナを確実に貫いたが、手応えを感じなかった。
「『蜃気楼』この魔法はそう簡単に見破れないよ。」
「あ、あなたはたしか…」
「僕は《青》クラスのウール・レディ。それと…」
ビースが貫いたエレナの姿はレディが『蜃気楼』によって作り出された、幻影だった。さらに横から猛スピードで一人の女声が突っ込んできた。
「『風の拳』!!!」
「グゥ…」
「私は《翠》クラスのフルー・フルーラ!レースしてたら急に爆発音がしたから飛んできたら、ヤバそうな状況だったってわけ。」
フルーの拳はビースの横腹に入り、その巨体を数メートル吹き飛ばした。
「お二人共助かりました。」
「それでこれ、どういう状況?」
「どうやらこの聖騎士祭を狙ってやってきた魔族の様です。」
「あれが魔族!?初めて見たよ。かなりタフみたいだね。」
フルーが打ち込んだ『風の拳』のダメージはあまりないようだ。ビートはすぐに立ち上がる。
「少しは面白くなってきたなぁ!!!デラルキンお前もどうだ?」
「ワタシは遠慮しておきましょう。疲れるのは嫌ですから。」
エレナはレディに『治癒魔法』をかけてもらった。動けるようにはなったがダメージはまだ残っている。
「助かりました。」
「悪いね。『治癒魔法』はあまり得意じゃなくて。」
「いえ、動けるようになっただけでも充分です。」
「二人共!来るよ!」
ビートはこちらに向かって突進してくる。
「『蜃気楼』!」
「小癪なぁ!!」
「『風の弾丸』!」
レディとフルーの魔法で攻めることはできているが、ダメージはあまりない。それほどまでに魔族は頑丈なのだとエレナは考えていた。奴を倒すには生半可な技では通用しない。一度離脱し、作戦を立てなければならない。
「『煙幕』!二人共、今の内に!」
「何だこれは!どこへ行く!」
三人は一先ずその場を離脱することに成功した。
「このまま逃げるか?」
「いえ、この森に掛けられている魔法が発動している限り逃げることはできないでしょう。」
「じゃあ倒すしかないってことだよね…できるかな?」
「奴はかなり打たれ強いみたいだからな、大技を当てないと…。僕はあまり火力の出せる技はないよ。」
「私も戦ってわかったけど正直倒せるかは微妙かも…」
「私はできるかもしれませんが、魔法を発動させるまでに時間がかかります。」
「ということは私達で時間を稼げばいいってことね!」
「でもそう簡単にいくかな?」
レディの言う通りだ。先程までの戦いでわかったが、3対1という状況にも関わらず全員にダメージを与えてきている。それが二人になってしまえばより負担は増えるし、魔法を発動させる前にやられてしまう可能性の方が高い。せめて後一人いてくれれば…
「あ、あの…ぼ、僕にも強力させてもらえないかな?」
「あなたは《黃》クラスの…」
「マーク・ルーカスです…。すみません異変があったのはわかっていたんですけど、怖くてずっと隠れてたんです…。でも皆さんのお話を聞いて何か協力できればと思って…。」
「ありがとうルーカスさん。とても心強いわ。」
「は、はい。」
これで人数は揃った。あとはやるだけだ。
「おっ、かくれんぼは終わりかぁ?」
「ええ、ここからは本気で行きます!それでは皆さん手筈通りに!」
「ああ!」「OK!」
「楽しませろよ!」
まずはレディとフルーがビートを足止めする。だが二人に減ってしまったことで二人の負担は増えている。
「『水の弾』!」
「『風の鎧』からの『風の拳』!」
「もっと!もっとだ!!」
「「うわぁ!」」
ビートは二人を倒し、エレナへと真っ直ぐに進んでくる。エレナは手を前にしたまま目を閉じているまだ魔法は発動していない。
「死ねぇぇぇぇぇ!!」
「『閃光』!!!」
「ウッ!何だこれは?」
「今だ!」
隠れていたマークが『閃光』でビートの目を背けることに成功した。エレナはビートが呆気に取られている間に魔法陣を重ねるように3つ展開させる。
「『炎の槍』『増大・二重』これで終わりです!『揺レ動ク神ノ槍』!!!」
『炎の槍』は『増大・二重』を通り、より炎の勢いを増し、早く鋭く強化された『揺レ動ク神ノ槍』へと変化した。
「な、何だコレはァァァ!!!」
『揺レ動ク神ノ槍』はビートの身体を吹き飛ばしそのまま森を消し飛ばした。エレナは魔力を全て使い果たしその場に倒れ込む。ビートは回復を試みたが再生することができないほどダメージは大きかった。
「ガァ…グ…デ、デラルキン…回復してくれ…。」
「フム。嫌ですね。」
「な…!」
「さようならビート。」
「ァ………。」
デラルキンはビートの身体を跡形もなく吹き飛ばした。
「お、お前仲間じゃなかったのか?」
「いいえ。目的を果たせないようなザコは魔族にはいりません。」
デラルキンの容赦のない行動にレディは思わず問いかけてしまった。だが魔族はそういう生物である、人間族の考え方とは大きく違う。仲間意識などはない、そこには目的を果たせるだけの強さがあるのかどうかだけだ。
「さて、それでは順番に殺していきましょうか。まずは厄介そうなこのお嬢さんから!」
「辞めろ!」
「辞めてぇ!」
デラルキンはビートを倒したエレナはを一番に排除するべきだと考えた。レディとフルーは止めに入りたいが、傷が深く身体を動かすことができず、叫ぶことしかできない。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「うるさいなぁ。」
デラルキンの腕が切り落とされる。突然のことに驚きつつもその場を離れ腕を再生させる。
「な、何者です?!」
「そこにいる子の友達さ。アリア!」
「『範囲・治療魔法』!!」
「傷が癒えてく。」
「た、助かったぁ…」
レディとフルーの傷は癒えたが、エレナの傷は深くまだ目を覚まさない。アリアはエレナの元に駆け寄り、『治療魔法』を掛ける。意識は戻らないが顔色は良くなっていくひとまずは安心だろう。それより…
「貴様がやったのか?」
「いいえ。私ではないですがまあ似たような物でしょう。」
「そうか、だったら死ね!」
俺はこれまでにない怒りを感じていた。
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