第百五十九話 アリアの行方
俺達は急いで城へと向かい皆と合流し事情を説明した。
「その女に見覚えは?」
「いや、まったく心当たりがない。アリアもそうだと思う。」
ワメリ・ミームという女は名前も聞いたこともなければ、面識もない。認識阻害のローブを持っていたことからも只者ではないことはわかるが、今までに会った人物の中で持っていた者は俺達を除けばソレイナ国の騎士以外にはいない。
「通信機はどうだ?」
「試してみたけど繋がらない。」
「ユーリの通信機で駄目となると俺達のでは繋がらないだろうな。」
「それほど遠くにいるってこと?」
「恐らくだけど…。」
アリアが居なくなってすぐに魔道具である通信機で連絡をしてみたが、距離が離れ過ぎているのか繋がらない。それにあの一瞬で移動をした、魔法なのか魔法道具かわからないがあんなのは見たことがない。
「もしかして『瞬間移動』の魔法で移動したのか?」
「それなら目の前で使われてもわかるんじゃない?『瞬間移動』の効果がある魔法道具とかだろうね。そんな物があるとは思えないけど、ワープゲートが存在していることがわかった今ならないとも言えないな。」
「『空間魔法』か…。」
『瞬間移動』という魔法は『空間魔法』の類で距離の離れた二つの地点を瞬時に移動する魔法だ。以前エルタさんに出会った島へと繋がるワープゲートも『瞬間移動』に原理は似ている。だがそれだけの『空間魔法』の使い手がいるとは考えにくい。ディミスさんの様な《錬金術師》が『空間魔法』を付与された魔法道具か何かと考える方が可能性は高い。
「ユーリ君!」
「マーク!」
「話は聞かせてもらったよ。遅れてごめん、もしかしたらアリアさんの居場所がわかるかもしれない。」
「本当か!?」
マークは研究所にいて呼び寄せたのだが、こちらに向かう前にある程度事情を聞いてくれていたようだ。
「ユーリ君の通信機だけは長距離での連絡が可能なはずだ。それでも届かないってことは恐らく高さがある場所にいるんじゃないかな。」
「高さがある場所?」
「その通信機は魔力の量で通信できる距離が変わるっていう説明はしたと思うけど、それでも一応限界はあるんだ。特に上に向かってはどれだけ魔力の勢いがあっても大体100mくらいまでしか繋がらない。」
「ということはこの真上にいたとしても100m以上離れてたら繋がらないってことか。」
マークの作ってくれた通信用の魔法道具は魔力さえあれば長距離でも繋がると思っていたが、どうやら地上から100m以上高いと繋がらないらしい。以前ルミの背中に乗っていた時は地上との通信は出来ていたはずだから下向きには繋がるんだよな。なぜかはわからないが今はそれは置いておこう。
「地下の可能性もあるけど、上っていう発言から空の可能性が高いと思う。ユーリ君の通信機を貸して、研究所にはそれをもっと増幅させる道具がある。それでアリアさんの居場所を探れるはずだよ。」
「わかった。頼むよ!」
アリアの居場所はマークに任せよう。俺達はそれ以外の問題を考えなければいけない。俺は皆に先程ノービスさんの家で考えた仮説を話した。
「空に浮かぶ島が魔導天空都市カノンコートか。たしかに可能性は高い、というか俺達も薄々は同じ場所なのではないかと考えていた。」
「そう簡単に島が浮いてたらたまったもんじゃないしね。」
「それでユーリ君はアリアが連れ去られた上の世界、それが魔導天空都市カノンコートだと言いたいのですね。」
「うん。根拠はないけど、どちらも《大賢者》という共通点がある。目的は不明だけど多分《大賢者》を狙ってことだ。」
アリアが通れ去られた上の世界という発言。それは恐らくあの空に浮かぶ島のことだろう。そしてそれは魔導天空都市カノンコートの可能性が高い。正確な位置はマークに任せ、連れ去られた場所も判明した。問題はどうやってそこまで辿り着くかだ。
「ルミの背中に乗って辿り着ければいいけど、前回みたいに目で捉えられない攻撃をされると厄介だ。それにそこで躓いていると島の姿も見えなくなるかもしれない。」
「翼に穴を開けられたんだっけ?翼の方が防御が薄いとはいえ、そうそう開けられる物ではないと思っていたけど…。」
「そこは僕達に任せてよ。」
「そうそう。なんとか攻撃をそらすか囮とかで突破してユーリを確実に届けるよ。それに島が見えなくなってもアリアの位置さえマークが補足できれば辿り着けると思う。」
「皆…ありがとう。」
「そうと決まればすぐに出発の準備だ!」
「「「おう!!!」」」
前回の様にルミの背中に乗っていけば近づくことができる。しかし問題はあの見えない攻撃をどうやって防ぎつつ島に辿り着くかである。前回は一人だったから対処が難しかったが、今回は皆がいる。きっとなんとかなるはずだ。俺達は各々準備をし城の中庭へと集合する。
「ユーリ君、アリアさんの居場所がわかったよ。彼女は今セルベスタ王国とヴェルス帝国との間にあるロンドの辺りだ。」
「わかった。それならルミの背中に乗っていけば一時間もかからないはずだ。」
「それとこれを。」
マークは俺に通信機ともう一つブレスレットを渡す。
「これは?」
「アリアの魔力だけを感知する物だよ。それがあれば研究所じゃなくても居場所がわかるはずだ。」
「ありがとう、助かるよ。ルミ!」
「はい!『龍化』!」
「それじゃあ行ってくる!」
「マーク君、申し訳ないですが後は頼みます。」
ルミの背中に乗り込んだのは俺、エレナ、フルー、コータ、デリラ、ウール、シャーロット、カルロス、コーデリア、ランマ、ジェマの11人だ。さすがにこの人数が限界だろう。マークに後のことは任せて俺達はロンド上空へと向かった。
「黒雲は見えませんね。」
「でもこのマークから貰ったブレスレットによるとこのまま直線上にあるはずだ。」
「姿を隠している状態というわけか。」
マークから貰ったブレスレットは通信機である腕輪の効果を増幅させる物だ。アリアの魔力だけ強く感じることができる。このまま真っ直ぐに進んだところにいるはずだ、しかし島の姿は見えず黒雲も見えない。すると正面から魔力の塊を感じる、これは前回ルミの翼を貫いた攻撃だ。
「皆、何か来る!備えて!」
「任せてください!しっかり捕まっててくださいよ!」
ルミは少しだけスピードを上げると魔力の塊に向かって突っ込んでいく。そしてギリギリの所で急上昇し魔力の塊を回避した。
「なるほど『魔法弾』のさらに大きい上位互換みたいな魔法か。」
「同じ手は通用しませんよ!」
以前はどんな攻撃なのか見る余裕はなかったが、今ならわかる。『魔法弾』の威力や大きさが増した様な魔法だ。弾丸というよりは大砲の方が近いかもしれない。だが前回よりも距離が空いているし、来るということがわかっていれば避けられない程ではない。
「それで突破できればいいんだけど…。」
「おいおいなんて数だ!?」
「僕達の出番かな。」
しかし考えが甘かった。先程と同じ様な魔力の塊が複数こちらに向かってきている。いくらルミでも回避しきれないだろう。
「『防御・三重』!!!」
「『炎の壁・三重』!!!」
「『雷の槍・二重』!!」
俺達は魔力の塊を魔法で撃ち落とす。近づけば近づく程、攻撃が激しくなっていく。それだけアリアに接近しているということに違いない。
「これだけ攻撃が激しいってことはやはりこの先にいるということだな!」
「うん、でも近づいてわかった。あの島は魔力で覆われている。多分このまま突っ込んでも壁にぶつかるみたいにこっちがやられちゃうよ。」
「ルミ!このまま突っ込んでください!」
よく見ると正面に何かがあるのがうっすらとわかる。魔力で覆われており、それが島の姿を消しつつ防御壁の役割もしていると思われる。このまま突っ込めば恐らくぶつかってしまう。だがエレナはそのまま真っすぐに突っ込むようにルミに指示を出す。
「突破します!『揺レ動ク神ノ槍』!」
エレナの放った『揺レ動ク神ノ槍』は何もない空間を貫き穴を開けた。するとその奥には少しだけ建物と木が生い茂っているのが見えた。穴はゆっくりと塞がろうとしている。
「行っけぇぇぇ!!!」
ルミは加速しエレナが開けた穴へと飛び込んだ。
「入った!」
「ここが魔導天空都市カノンコート。」
魔力の壁を抜けた先には以前見た、空に浮かぶ島である魔導天空都市カノンコートがあった。前回見たのはほんの一部分だったのだろうかかなりの大きさがあるようだ。中心に向かっていくほど建物が多くなっていて、高い塔の様な物が見える。川や森、山々が連なっている場所もあり自然もある。
「ヤバいです!吹き飛ばされます!」
「何だって!?」
「そうか!外と中で温度が違うせいで風が!」
「「「うわぁぁぁ!!!」」」
ルミが最高速で突っ込んだのと外と魔力の壁の中では温度に差があり強風で吹き飛ばされた。ルミの背中から落ちてしまい俺達はそれぞれ別々の方向へと飛ばされる。気が付くとどこかの路地裏に倒れていた。どうやらゴミ箱がクッションになったらしい。横を見るとジェマとルミが人型に戻った姿で倒れていた。
「いてて。」
「ここは…?」
「二人共気がついたみたいだね。どうやら俺達はどこかの街の中に落ちたみたいだ。」
辺りを見渡すと住宅の様な建物が並んでいる。少し先の通りには人も歩いている。ここがどういう街かわからない以上慎重にいかなければ。待っててくれアリア。
「空に浮かんでる島にいると思うと変な感じするな。」
「私もです。」
「気を付けて行こう。」
少しでも面白いなと思っていただけたら幸いです!
皆さまの応援が励みになりますので、ぜひ下部よりブックマーク・評価等お願いいたします!




