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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
魔導天空都市編

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第百五十八話 出身地

ノービスさんの出身地はセルベスタ王国ではないらしい。さらにモリスさんとノービスさんは本当の親子ではないから本当の出身地は知らないとのことだ。これは詳しく聞いてみる必要がありそうだ。


「養女ってことですか?」

「ああ。元々あたしはセルベスタにあるアーポという田舎町に生まれたんだが、冒険者をしていた両親を迷宮(ダンジョン)でなくしちまってね。そんな時にじいさんが現れたんだよ。じいさんは私の両親の知り合いで世話になったからといって預かってくれたのさ。」

「そうだったんですか。」


なるほど、ノービスさんとモリスさんの両親が知り合いだったということか。アーポはたしか迷宮(ダンジョン)が近くにある街だが、その近所に迷宮都市があるからあまり旅の拠点としては使われない田舎町である。だが冒険者として住むのであれば悪くはない。


「あたしもどういう繋がりなのかはあまり知らないけど、じいさんの話じゃ元々迷宮(ダンジョン)に住んでいてあたしの両親に色々と面倒を見てもらっていたらしい。」

迷宮(ダンジョン)に住んでいた?」

「そんな人いるっていうか、できるんですか?」

「まあやろうと思えば…」


迷宮(ダンジョン)に住むということ自体はまあできなくはない。魔物が少ない階層や階層を移動する際に通る階段で寝泊まりはできる。実際、長い期間潜る冒険者パーティーはそういうところで野営をすると聞く。だが問題は水や食料だ。持ち込むには限界があるし、水は魔法で作り食べれそうな魔物を食料とできるがそれも魔力の限界は来るからな。


「だからモリスさんの両親に面倒を見てもらっていたってことでしょ。」

「そうですね。ですがどうしてノービスさんは迷宮(ダンジョン)で暮らしていたのでしょうか。」

「昔、あたしも聞いたことあるんだけどねぇ。何て言ってたかねぇ。」


どうしてノービスさんが迷宮(ダンジョン)に住んでいたのか。迷宮(ダンジョン)に住むことで一体どんな得をするのだろう。日記にもそれらしいことは書かれていなかった。


「とりあえずノービスさんに挨拶してもいいですか?」

「もちろんだよ。」


俺はとりあえずノービスさんに挨拶することにした。日記のおかげで『詠唱魔法』について学ぶことができたし魔導天空都市カノンコートという名前も知ることが出来た。そのお礼もいいたいしな。モリスさんに案内されノービスさんのベットに向かう。今日も調子がいいのかノービスさんは目を覚ましていた。


「今日も目を覚ましているとは、あんたが来ると調子がいいね。」

「そうなんですかね。」

「この方がノービスさんですか。始めましてエレオノーラ・スカーレットです。」

「アリア・リーズベルトです!」

「やっぱり可愛い子がいるからかしら。」


俺が来たから調子がいいのか、それとも若い女性が二人もいるから調子がいいのかわからないとモリスさんは笑う。どちらにせよ元気なのはいいことだ。俺はノービスさんに『詠唱魔法』を使用したことや自分なりの見解などを話す。


「まあとにかくおかげで色々とわかりました。ありがとうございました。本当は魔導天空都市カノンコートについても聞けたら良かったんですが…」

「ユーリ君、ノービスさんが!」


俺はノービスさんの方へゆっくりと視線を向ける。ノービスさんはゆっくりと口を開き、何かを伝えようと必死に口を動かす。


「大…賢…者…。」

「《大賢者》?《大賢者》の能力者がどうかしたんですか?」

「気を…つけ…。」

「…寝てしまいました。」


ノービスさんは眠りについてしまったようだ。《大賢者》に気を付け…か。


「《大賢者》に気をつけろ、と言いたかったのでしょうか?」

「私!?」

「アリアのことじゃないよ多分。魔導天空都市カノンコートの名前を聞いてそう言ったってことはつまりそういうことなんじゃないかな。」

「そういうこと?」

「ディミスさんの話では《大賢者》が土地を浮かばせた土地が島になったと言っていましたよね。それが魔導天空都市カノンコートなのではないかとユーリ君は言いたいんですよね?」

「そういうこと。」


皆薄々は気付いていたとは思うが、ノービスさんの言っていたことからディミスさんが読んだ書物の話と魔導天空都市カノンコートは恐らく同じ物であると俺は考えている。


「さてそろそろお暇しよう。すぐにこの情報を共有したいし。」

「そうですね。」

「うん。モリスさんありがとうございました。」

「いや大丈夫さ。またいつでも来な。」


一度城に戻ってこの情報を共有しなければ。俺達は急いで城へと向かう。


「しかし《大賢者》…ね。」

「どうかしたんですか?」

「いや、《大賢者》の能力者って他にもいるって聞くけど俺達はアリアしか会ったことがないだろ?だから本当にほかに《大賢者》なんているのかなってちょっと思っただけだよ。」


ディミスさんの書物の話を聞いたときにも思ったが、《大賢者》という能力者が本当にアリア以外にいるのかという疑問があった。仮にいなかったとして何か問題があるわけではないのだが少し引っかかる。


「まあそう言われると気にはなりますね。実際、《勇者》の伝説くらい《大賢者》の話もありますが全て同一人物のものかもしれませんし。《大賢者》は複数いるという情報に踊らされているだけかもしれません。」

「そうかも。だって《勇者》の伝説だってヴェルス帝国では仔細が違ったということもあったわけだし。」

「案外アリアの他に《大賢者》はいないのかもしれないね。《勇者》みたいにその年代には決まった人数しかいないみたいな。」


《勇者》の伝説だって間違っていた、というより正しくない伝承もたくさん残されていた。だから《大賢者》の能力者の話も案外嘘か勘違いなのかもしれないと納得仕掛けたその時。背後から声を掛けられた。


「いますよ《大賢者》は。」

「はっ…。」

「なっ…。」


急に声を掛けられた俺達は驚きのあまり声を出せなかった。俺達の背後にはローブを被った女性が立っていた。他に周りに人はいない、この人が声を掛けてきたのだろうが…。この女性から魔力は感じる、しかし声を掛けられるまでまったく気付かなかった。認識阻害系のローブか?何にせよ只者ではないことは間違いない。


「今のお話を聞いていらしたんですね。ところであなたはどちら様でしょうか?」

「これは失礼いたしました。私はワメリ・ミームと申します。」


ワメリ・ミーム、聞いたことのない名前だ。ワメリは丁寧に頭を下げて挨拶をする。一体彼女は何者なんだろうか、警戒をしたまま彼女にいくつか問いかける。


「それでワメリさん一体私達に何のようでしょうか?」

「まず本題に入る前に《大賢者》についてお話させていただきましょう。私は《大賢者》に会ったことがあります。もちろん現在のお話ですよ。なので先程、そこにいらっしゃるアリアさん以外の《大賢者》はいると申しました。」

「なるほど、それはわかったよ。でもどうしてアリアが《大賢者》だってわかった?」

「アリア・リーズベルトさんが《大賢者》だということは有名ですから。もちろんあなた方のことも知っていますよ。《勇者》のユーリ・ヴァイオレットさん、エレオノーラ・スカーレットさん。それに先程のお話を少し盗み聞きさせていただいたので確証が得られました。」


ワメリが先程《大賢者》がいるといったのはアリア以外の《大賢者》に会ったことがあるからの発言だったようだ。そして俺達のことも元々知っていたようで、会話を盗み聞きして本人であると判断できたようだ。あまり褒められたことではないが。


「それで本題の方は?」

「あら、私ったら下の人をお話するのは随分久しいので少し舞い上がってしまいました。」

「下の人?」

「ええ、私は上から来ましたので。アリアさん、《大賢者》であるあなたを上の世界へとお連れするために。」

「えっ…私?」


ワメリは下の人という聞き覚えのない言葉を口にした。そして自分はアリアを上の世界へと連れて行くために上から来た…と。まさか!


「一緒に来ていただきますよ。」

「ユーリ!エレ…」

「アリア!!!」


ワメリがアリアの肩に置くと二人の姿は一瞬にして消えた。俺がアリアの名前を叫んだ時にはすでに二人の魔力は感じられなかった。目の前で人が消える、しかも魔法なしでだ。俺はあまりの事態に頭が回っていなかったがエレナだけは冷静だった。


「ユーリ君!」

「エレナ…アリアが…。」

「わかっています。今は手がかりがありません!急いで城へと向かって皆さんに協力を仰ぎましょう。」

「ああ。急ごう!」


俺はエレナの冷静な様子を見て落ち着きを取り戻し、今は城に行くべきだというエレナの判断に従い城へと向かうのであった。


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