第百五十七話 手がかり
日が暮れるまでコーデリアとランマに実験に付き合ってもらった。色々『詠唱魔法』についてわかったので大変満足した。これならば皆の戦力増強にもなる。なんなら騎士団の戦力底上げなんてことにもなるかもしれないと俺は思った。まあその辺りはシャーロットに任せよう。そして俺達は屋敷へと帰ったのだった。
「今日は二人共付き合ってくれてありがとう。助かったよ。」
「いえいえ拙者も魔法が使えて楽しかったでござるよ!」
「私も…他の属性魔法…よかった。」
「そうなんだ。後で私もやってみようかな。」
夕食を済ませた後、お茶を飲みながら今日あった出来事をアリアに話していた。手伝ってくれた二人もなんだかんだ楽しんでくれたようでよかった。この日記を貸してくれたモリスさんとノービスさんにも改めてお礼をしないといけないなと考えながらふと日記を見た。そこに書かれていた文に俺は目を凝らした。
「私が魔導天空都市カノンコートから持ち出せなかった物は多いができる限りのことは書き記しておきたいと考える。」
「ユーリ殿、何を言ってるでござるか?」
「いやこの日記に…」
俺はノービスさんの日記に書かれているとある文章が気になった。魔導天空都市カノンコート、初めて聞く名前の国だ。それに魔導天空都市という部分が気になる。もしかしてこれは黒雲の上で見た空に浮かぶ島のことなのではないだろうか。
「魔導天空都市カノンコート、もしかしてこれが空に浮かぶ島の手がかりになるんじゃないかな。」
「たしかに天空都市っていうくらいだから無関係だとは思えないよね。」
「シャーロット殿も何か情報が集まってるかもしれないでござる。」
「明日…集まる…?」
すぐにでもこの情報は共有しておきたい。それに『詠唱魔法』のことも説明しておきたいしな。明日は皆に集まってもらうようにしよう。
「そうだね。シャーロット達も何か情報があるのかもしれない。」
「もしかしたら誰かこの名前に聞き覚えがあるかもしれないもんね。」
俺達は次の日、早速皆を集め王城にて情報共有の場を設けた。俺は『詠唱魔法』について調べていたこと。そこで辿り着いたノービスという人物の日記の中に『詠唱魔法』だけでなく、魔導天空都市カノンコートという名前が出てきたこと。
「魔導天空都市カノンコートですか。」
「誰か聞いたことはない?」
「俺は知らないな。」
「私も。」
皆、首を横に振っている。それもそうか、冷静に考えれ魔導天空都市というくらいだから知っていれば空に浮かぶ島という話が出た時点で話が出ていてもおかしくはない。シャーロットの方は何か情報が集まっているだろうか。
「シャーロット達はその後、何かわかったことはある?」
「ええ、ユーリ君から聞いたことを元にあることを調査しました。」
「あること?」
「黒雲の出現と落雷についてです。」
そういうことか。これまでに黒雲とそれに伴う落雷が観測されているかというのを調べたのか。以前コータに聞いたことがあるが異世界では毎日のように天候を予測することができるらしく、こちらの世界ではほとんどが晴れか曇りなので驚いたらしい。だからこそシャーロットは調べたのだろう、セルベスタで黒雲ができ落雷なんてかなり珍しい天気であるから空に浮かぶ島との関連性が高いかもしれない。。
「それで結果は?」
「皆さんも知っての通りセルベスタ王国ではほとんど黒雲や落雷は観測されません。ですがここ数年その頻度がかなり上がっています。」
「何か決まった特徴はあるのか?」
「現在わかっていることは観測されている場所に共通点はありません。雨は降らず、急遽黒雲が発生したあと落雷が数回確認されたかと思うとすぐに消えてしまうそうです。」
俺達のときも同じ様な感じであった。おそらく空に浮かぶ島関係で間違いないだろう。サラが殺されたことを考えると普通の天候の様に見せかけて落雷で何かしらの攻撃をしているということだ。
「それによる被害者はいたのか?」
「はい。落雷を受けた後は必ず胸の辺りに大穴の空いた死体があるそうです。ほとんどは自宅近くの現場で不審な点もほぼなかったので事故だと思われていたのでしょう。実際に騎士団もそう処理をしていたようですね。」
やはりサラの様な殺され方をした被害者は他にもいるようだ。しかしそれならば騎士団が事故と間違えて処理されてしまっても不思議ではない。死体自体は明らかにおかしい部分はある、ただの落雷で人間の身体にあんな綺麗な穴が空くことはないとは騎士団も思っただろう。だがまさか空に浮かぶ島からの攻撃だとは思わないだろうし、自宅近くでは不審な点も少ないだろう。
「そして亡くなった人物の身元までは判明しているようですが、それらの人々の共通点は今のところ何もありません。もちろんサラの様に《迷い人》ということでもありませんでした。ただ…」
「ただ…?」
「どの被害者の方たちもその辺りが出身ではないようなんです。」
「それってそんなにおかしいことではないよね?」
攻撃を受け亡くなった場所。つまり現在の住居がある場所と出身地が違う…これだけ聞くと別にフルーの言う通りおかしなことではない。ここにいる皆もほとんどは王都出身ではないし、ランマやコーデリアなんかはそもそもセルベスタ王国出身でもない。人が集まる所の方が学びの場や仕事もあるから生まれた土地を離れること自体は別におかしなことではないのだ。
「うん。別におかしくはないと思う。」
「私もそう思っていましたが、サラとの会話を思い出してみてください。」
「サラとの会話?」
「はい。」
俺はサラとの会話を思い出す。たしかサラの両親はヴェルス帝国出身ではないために親族がいるのかどうかわからないといった事を言っていたはずだ。つまりサラにも当てはまることではある。
「たしかサラの両親も出身は別の所だけど、それがどこかはわからないといったことを話していたね。」
「だから親族がいるかわからないって話だね。」
「私にはここに何か秘密があるのではないかと考えております。その線から調べていこうと思います。」
どうやらシャーロットはここに何か引っかかっているようだ。たしかに皆が皆出身地がわからないというのはただの偶然で済ませるには出来すぎているという気持ちもわかる。
「わかった。シャーロットにはそれをお願いするよ。俺は一応ノービスさんのところに行って魔導天空都市カノンコートについて何か知ってるか聞いてくるよ。」
「あれ?でもその人話せないって言ってなかったっけ。」
「モリスっていう娘さんがパン屋をしているんだ。魔導天空都市カノンコートについて何か知らないか、今から聞いてくるよ。」
「では私も行きます。」
「私も。」
シャーロットには空に浮かぶ島からの落雷によって亡くなった人達の出身地について調べてもらう。俺は日記に書いてあった魔導天空都市カノンコートについて何かを知らないか、アリアとエレナを連れてモリスさんに聞きに行くことにした。
「それではユーリ、エレナ、アリアの3人はモリスさんに聞き取りを。私は出身地について。その他の皆さんは魔導天空都市カノンコートという場所についての情報を集めてください。」
「わかった。」
「任せて!」
俺達は早速城を出て、モリスさんのパン屋へと向かう。時間的にも店はそろそろ終わるはずだ。
「モリスさん、こんにちは。」
「ああ、あんたかい。今日はべっぴんさん二人も連れてどうしたんだい?」
「そんな…」
「べっぴんさんだなんて…」
店にいくとちょうどモリスさんは店を閉める準備をしていた。俺があいさつをするとこちらに気付いてくれた。今日は前回と違い、アリアとエレナを連れているので少し驚いた顔見せるが、流石接客業をしているだけあってすぐに二人の容姿を褒めた。二人は照れているが俺はここに来た目的をモリスさんに話す。
「実はあの日記に書かれていたことで聞きたいことがありまして。」
「魔法のことがあたしにはわかるかどうかはわからないけど…」
「いえ今回は魔法のことじゃないんです。」
「そうなのかい?まあとりあえず中に入んな。」
「お邪魔します。」
モリスさんに店の中へと案内される。椅子に座りお茶を貰い落ち着いたところで俺は本題へと入る。
「実はノービスさんの日記の中に魔導天空都市カノンコートという名称が出てきたのですが。」
「モリスさんはこの名前に聞き覚えがあるでしょうか?」
「うーん。聞いたことのない場所だねぇ。」
どうやら魔導天空都市カノンコートについてはモリスさんも知らないようだ。続けてエレナは質問を続ける。
「失礼ですがモリスさんはご出身はどちらでしょうか?」
「あたしかい?あたしは生まれも育ちもセルベスタだよ。」
「そうなんですか。」
先程出身地の話をしたからだろうか、一応エレナはモリスさんの出身地について質問をする。しかしモリスさんはセルベスタ王国出身らしい。ということは父親であるノービスさんもセルベスタ王国出身なのだろう。
「じゃあノービスさんもセルベスタなんですよね。」
「いや、違うよ。というかあたしは知らないんだ。」
「えっ、そうなんですか?」
「ああ。あたしはじいさんと本当の親子じゃないからね。」
少しでも面白いなと思っていただけたら幸いです!
皆さまの応援が励みになりますので、ぜひ下部よりブックマーク・評価等お願いいたします!




