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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
魔導天空都市編

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第百五十六話 試し打ち

あれから昨日貰ったノービスさんの日記をずっと読んでいた。それはもうびっくりするほどに。今日だって授業中も先生の目を盗んで読んでいた。それだけこれは凄く勉強になる日記なのだ。魔法の使い方や解説はもちろん、あらゆる状況を想定した使い方には俺でも感心した。


「ユーリ君。」

「うん?」

「今日ずっとそれ読んでるよね?」


俺が日記に夢中になっていると、カイラが話しかけてきた。いつの間にか今日の授業は全て終わっていたようでいつまでも俺が帰らないから声を掛けてくれたのだろう。


「ああ、ちょっと魔法の勉強をね。」

「それどうしたの?」

「元冒険者の人に借りているんだ。」

「そうだったんだ。たしかに色々とびっしり書いてあるもんね。」

「だから夢中になっちゃって。そろそろ帰るよ。」

「うん、気をつけてね。」


遅くなるといけない。続きは家に帰ってから読むことにしよう。日記を閉じ、持ち上げるとノートの隙間から一枚の紙が落ちる。カイラはそれを拾った。


「はい、これ。挟まってたのかな?」

「ありがとう。随分古い日記だから多分落ちちゃったんだ。」


そして俺はその紙を見て驚いた。そこには『詠唱魔法』の文字が書いてある。これだ俺の探していた物をついに見つけた。


「これだよこれ。探してたのは。」

「これって『詠唱魔法』について書いてあるの?」

「そうだよ。元々『詠唱魔法』これについて知りたかったんだ。ほら授業でやったでしょ?」

「うん。でも《勇者》や《大賢者》が今の詠唱を必要としない魔法を広めたんだよね?今の魔法よりも優れているってことはないんじゃないの?」

「それが気になる所なんだよね。実際に使ってみないとって思ってさ。」


たしかにカイラの言う通り、授業では詠唱がなくても魔法は発動することが出来る現代では、この詠唱という技術は廃れている。それは昔は詠唱破棄ができる魔法使いはそれほど多くなかった。しかし《勇者》と《大賢者》が人々に詠唱のいらない現在の魔法を広めたために技術は廃れたのだ。それに俺は少しだけおかしいなと思っている点があった。それは数百年は前に廃れたはずの技術がなぜ現代にまで伝わっているのかということだ。


「『詠唱魔法』は失われた技術である。しかし、我々はそれを後世へと伝える必要がある。だって。」

「もっと詳しく読み込まないと。」

「程々にね。」

「うん、それじゃ。」


俺は紙を日記に挟み帰宅する。やっぱりこの日記には何か大事なことが書かれているに違いない、『詠唱魔法』だけじゃないなにかももしかしたら…。そうと決まればもっと読み進めなければいけない。俺は屋敷に着くなり食事をすぐに済ませて自室へと籠もる。


「さてと、なになに『詠唱魔法』の基礎。『詠唱魔法』はいくつかの言葉を組み合わせた魔法である。そして出来上がった文章によって魔法が発動するか。」


正直よくわからないな。試しに何か使ってみることにするか。とりあえず一番上に書いてある言葉の短めな、軽い魔法からやってみよう。


「『火の精霊よ・器に留まりて・弾け飛べ』!」


詠唱が終わると同時に手のひらから炎が吹き出す。そしてそれは球状に変わり俺の部屋の窓を突き破り弾け飛んだ。これは紛れもない『炎の球(フレイム・ボール)』である。


「ユーリ様!どうされました!」

「何かあったでござるか!?」

「何事…。」

「大丈夫?」


俺が部屋の窓を破壊したことで皆が大きな音を聞いて、集まってきたようだ。俺は皆に『詠唱魔法』を試していたことで『炎の球(フレイム・ボール)』と思われる魔法が発動し窓を破壊してしまったことを説明した。


「いやーまさか『炎の球(フレイム・ボール)』が出るとは思わなくて。」

「もう、知らない魔法を試す時は広いところでやるのが常識でしょ!」

「ご、ごめんなさい。」


アリアに説教をされて、俺は深く反省する。たしかにアリアの言う通り新しい魔法を試すのならば広い場所に移動してやるべきだった。一番上にある簡単そうな魔法だから弱いだろうという俺の勝手な判断のせいである。幸い壊れたのは窓だけだったので明日にでもマルクさんが直しておいてくれるみたいだ。


「マルクさんもすみません。」

「いえ。ただアリア様がおっしゃる通り新しい魔法は外で試していただけると…」

「はい。」

「それにしても『詠唱魔法』ってどんな魔法でござるか?」

「いくつかの言葉を組み合わせると発動する魔法だよ。」


俺は『詠唱魔法』についての説明とノービスさんの日記について皆に話した。


「それでここのところ部屋に引きこもってたんだね。」

「納得…。」

「しかし『詠唱魔法』は普通の魔法に比べて劣っていると認識していましたが…。」

「ユキさんも一応『詠唱魔法』のことは知ってたんだ。」

「はい、そういう魔法があるということだけは。ただ私の場合は詳しいことはわからなかったのでそこで調べるのを辞めてしまいました。」

「私も授業で習ったけど特に興味は持てなかったかな。結局今の時代の魔法は詠唱が必要ないんだからそっちの方が便利だし。」


ユキさんは一応『詠唱魔法』について知ってはいたようだ。だがやはり情報を集めることができず調べることは辞めたみたいだ。俺も偶然が重なっただけだ。アリアの方は同じく授業で学んだはずなのだが、あまり興味は持てなかったようだ。


「まあ本当に使えないかはこれから試すところだから待っててよ。明日は学園が休みだし、朝から色々やろうかな。」

「それだったら拙者も付き合うでござるよ。」

「私も…。」

「私はエレナと約束があるから。二人共しっかりユーリのこと頼むよ。」

「俺は子供か…。」


アリアの言い方ははともかく、明日ランマとコーデリアを連れて『詠唱魔法』の実験をすることにした。さっき使用してわかったこともあるのでちょうど協力者は必要だった。そして翌日、俺たちは朝から王都を出て草原へと来ていた。ここならば思いっきり魔法を使っても大丈夫だろう。魔物相手に実験もできるしな。


「たしか昨日は『炎の球(フレイム・ボール)』を使ったんでござるな?」

「うん。この日記には何がどの魔法か詳しく書いてあるわけじゃないから試しに一番上の詠唱が短いやつにしてみたんだけど。多分ノービスさんは詠唱でどんな魔法かわかってたからだと思う。」

「試しに…やってみる…。」

「それが一番だけどちょっと怖いでござるな…。」


そして俺は昨日やったように『炎の球(フレイム・ボール)』の詠唱を始める。


「『火の精霊よ・器に留まりて・弾け飛べ』!」

「おお!」

「これは…『炎の球(フレイム・ボール)』。」


昨日とは違いちゃんと何もない空中に向かって放つことができた。そして再び詠唱魔法を使ったことでわかったことがいくつかある。『詠唱魔法』は全ての詠唱が終わるまで魔力は使われないということ。つまり一度使おうと考えても詠唱さえ辞めてしまえば魔力が減ることはない。まあこれが何に使えるかというのは一旦置いておくが。


「次はこれをコーデリアに試してもらいたいんだ。」

「私…?」

「コーデリアは《溟海の勇者》で水属性の魔法が得意だろ?逆にいえばそれ以外の魔法は使えないわけだからどうなるのかなって。俺はよくも悪くも属性は何でも使えるから。」

「わかった…任された。」


俺以外の《勇者》はそれぞれ得意な属性魔法がある。《女神様》曰く、魔力特性というものらしい。さらにいうなら《勇者》は得意な魔力特性以外の属性魔法は現状使えないのだ。シャーロットだけは無属性を使っているところから無属性は可能なのかもしれない。まあとにかくコーデリアは水属性しか使えないので試しに炎属性の『詠唱魔法』を試して欲しいということだ。


「『火の精霊よ・器に留まりて・弾け飛べ』!」

「おぉ!」

「出たでござる!」


コーデリアは『詠唱魔法』による『炎の球(フレイム・ボール)』を発動させることができた。まだ一回だけなので確定はできないが、自分が使えない属性の魔法も『詠唱魔法』ならば使えるということだ。


「これなら私も炎属性が使える。」

「俺が発動したのと変わらないレベルだったし実戦でも使えそうだね。じゃあ次はランマやってみようか。」

「せ、拙者でござるか!?拙者魔法は…」

「知ってるよ。だけどコーデリアが出来た所を見ると魔力があれば発動できるんじゃないかな。」

「ユーリ殿がそう言うならやってみるでござるよ。」


ランマは魔法が使えない。ただ能力で身体強化に近いことはしている。実際、能力を使用している時は魔力も感じるし他人の魔力も感じることができるのだ。ということは適正がまったくないわけではないと俺は考えている。コーデリアがやって見せてくれたように『詠唱魔法』には魔力特性なんかは関係がない可能性が高い。それならばランマの様に魔法が得意ではなくても発動できるかもしれない。


「『火の精霊よ・器に留まりて・弾け飛べ』!」

「出た!」

「ランマも…できた…!」


結果は俺の予想通り、『炎の球(フレイム・ボール)』は発動した。ランマの様に魔法が使えなくても『詠唱魔法』ならば使用できるのだ。これは大きな発見である。


「でも…やばいで…ござる…。」

「ランマ!?」


ランマはその場で倒れそうな所を支える。恐らくこの症状は魔力切れによる物だ。俺とコーデリアにはなかったがランマには現れた。もしかしたら使用する魔力には個人差があるのかもしれない。ランマは元々魔法が使用できないからな。


「とりあえず、『魔力供給(マジック・フィード)』!」

「あ、ありがとうでござるよ。」


とりあえず無理のない範囲で色々試してみることにしたのであった。


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