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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
幻想の呪縛姫編

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第百五十四話 空に浮かぶ島

「いや、詳しく知っているというわけではないんだが…以前読んだ書物にそんな話があった気がするんだ。」

「そうだったんですか。一体どんな内容だったんですか?」


ディミスさんは黒雲の上に浮かぶ島について何か知っているらしい。俺達はその書物の内容を詳しく聞くことにした。


「昔、とある村に《大賢者》がいた。」

「話の頭からあんまり入ってこないんだけど。」

「アリアだっで《大賢者》でしょ。静かに。」


コータがフルーに嗜められる。コータの気持ちもわかるけどな。《大賢者》の能力者なんてアリアが《女神の天恵》で授かるまでは御伽噺の中の物であったのだから。現代にもいるらしいが、所詮らしいである。俺達は色々な国に行っている方だと思うが、それでもアリア以外の《大賢者》には出会ったことがない。


「その《大賢者》は村の者達の生活を豊かにするため様々な魔法を開発したそうだ。干ばつが起こった時には雨を降らせる魔法、疫病が流行った時には治療魔法を開発したそうだ。だがある時そのあまりにも異様すぎる力に村人達は恐怖してしまった。そして《大賢者》を村から出ていくように言った。」

「まあよくある話だね。」

「昔は今よりも魔法が当たり前に使える能力者は少ないと聞くしな。」


いつの時代も強い力は恐れられるものである。今でこそ魔法はそこそこ一般的ではあるが、昔はもっと使い手も少なく簡単な魔法でも恐れられたと聞く。この話がいつの時代のことかわからないが、仮に今の時代だったとしても天候を変えるほどの魔法はそうそうできるものではない。


「《大賢者》はそれを受け入れ、替わりに土地を一部貰うと言い村にあった自分の家と周辺の山を魔法で切り取り浮かび上がらせそれはどこか遠くへ飛んでいってしまった。っていう感じのお話だよ。」

「なるほど、たしかにそれが本当なら空に浮かぶ島っていうのは《大賢者》が浮かせた島ってことか。」

「いやいやいや、いくら《大賢者》と言えどそんなことできるの?ちょっとやそっと浮かすだけじゃないんだよ?」


島を浮かせる、実際に見た俺やルミはともかく見てない皆は想像もできないだろう。目の前で見た俺でさえあんな物を魔法で浮かすなんて信じられない。


「もう少し調べる必要がありそうですね。」

「僕も似たような話がないか書物とか絵本とか色々探してみるよ。」

「私は兄にもう一度サラについての情報を聞き出して調べてみます。それでは今日はここで終わりにしましょう。長い時間お疲れ様でした。」


俺達は一通り今後の方針を決めたあと解散することにした。


「ユーリ君。」

「どうしたエレナ?」


帰り際にエレナが俺に話かけてきた。何か用事でもあるのだろうか?


「この後いつもの店でお茶でもどうですか?」

「もちろん。」

「ではアリアさんと3人で行きましょう。」


俺達は城を出た後、いつものカフェへと足を運んだ。他の皆を誘わずに、わざわざ3人でと言う辺りよほど何かいいにくい相談か何かなのだろう。カフェに着くと席に案内され、それぞれ注文をする。城での話し合いが長引いたのでもうすでに日は沈みそうだ。ここで何か食べたら夕食が食べれなくなりそうなので、飲み物だけにしておく。


「なんだかこうして3人で来るのも久々だね!」

「そうですね。出会ったばかりの頃に比べて随分仲間も増えましたから。」

「忙しさもね。」


他愛もない談笑をしつつ、茶を飲みながら時間が過ぎていく。そしてエレナが少しだけ真剣な表情になったのを感じた。そろそろ相談の本題かなと俺も背筋を正した。


「ユーリ君、何か隠してませんか?」

「何か隠してるだって?」

「はい。」


エレナの口から出た言葉は予想外で驚きが表情に出てしまった。正直、心辺りは何もない。だが隣にいるアリアもエレナと同じ様に真剣な顔でこちらを見ている。ここは変にとぼけるよりも素直にわからないと説明した方がよさそうだ。


「ごめん、本当に心当たりがないんだけど。」

「わかりました。」


エレナは一息つくと、再び口を開く。


「ユーリ君、サラとの戦いで《勇者》の力を使っていませんでしたよね?」

「うん。」

「どうしてですか?」

「どうしてって…それは…」


そう言われるとどうして使わなかったんだろう。いくら皆がいたとはいえ、俺が本気を出さない理由にはならない。むしろ皆よりも親衛隊と戦っていない俺が一番元気であった。にも関わらず俺は無意識で本気で戦っていなかった。


「皆ね、多分気付いていたよ。でもユーリが少し前まで魔法が使えなかったから、ユーリだけに無理をさせ過ぎたんじゃないかって心配してるの。」

「そうだったのか。」


二人に指摘されるまで全然気付いていなかった。ワンダーとの戦いでまた限界ギリギリの戦いをした俺は、《勇者》の力を無理に使ったせいで魔力の器が壊れるという病に侵されしばらく魔法が使えない状態であった。もしかしたら心のどこかでまた《勇者》の力のせいで魔法が使えなくなったらどうしようと思っていたのかもしれない。


「心配かけてごめん。もしまた魔法を使えなくなったらどうしようって、心のどこかで思っていたのかもしれない。」

「いいんです。実際、私達はユーリ君がいなかったら死んでいたかもしれない場面がたくさんありました。ユーリ君一人に頼りすぎていたのかもしれません。」

「ユーリももっと私達のことを頼っていいんだよ。」

「ありがとうそうさせてもらうよ。」


自分でも気付いていなかった違和感に気付くとは流石だな。皆もこの二人ならと思って敢えて三人だけにしてくれたんだろうな。今度何かご馳走しよう。


「実は私、ユーリ君が《紅蓮の勇者》の魔力を使っている時の魔法ができるようになったんですよ。」

「えっ、そうだったんだ。」

「蒼い炎もそうですが、ここ最近はどんどん力が溢れるのを感じます。」

「どうしてだろう。」


エレナは炎属性の魔法しか使用できなかったが、『治療魔法(ヒール)』の効果がある蒼い炎。それに俺が《紅蓮の勇者》の力を借りている時に使用できる魔法も覚えたようだった。


「これはあくまでも私の仮説ですが、ユーリ君が《勇者》の力を使い慣れてきたからではないかと思ってます。」

「俺が?」

「はい。なんとなくですがユーリ君の方から力が流れてくる感じがするんです。気付いたのは今回のことがあってからですが。そしてそれは恐らく私だけではなくて、他の《勇者》もそうなんじゃないかと思います。」


エレナの仮説では俺が《勇者》の力を使用することに慣れたからではないかということだった。それが本当であるならば他の《勇者》の皆も俺の成長によって強くなれるかもしれないということである。


「なるほど、なら尚更《勇者》の力を使わない手はないな。」

「でも無理はダメだからね!」

「わかってるよ。さぁそろそろ帰ろうか。」


俺達はカフェでの話をお開きにして帰宅した。学園も明日からまた始まる、準備もきちんとしておかなければな。そういえば学園長に頼んでいた『詠唱魔法』の使い手の件はどうなっているだろうか。今回の事件や師匠達の話を聞いて思ったが、『詠唱魔法』もパーティーの様に複数のメンバーがいると使いやすいのではないだろうかと思ったのだ。習得できればかなりの武器になる。


「お帰りなさいませ!」

「ただいまシロ。」

「ただいま!」


家に帰るとシロが出迎えてくれた。今回の事件でシロは襲われたそうだが、その恐怖よりもマルクさんとユキさんの圧倒的な実力の方に驚いてしまったようでほとんど気にしていないみたいだ。しかし俺も二人の戦う姿を間近で見てみたかったなと少し残念だ。


「お夕食の準備ができております。皆様お待ちですよ。」

「ありがとうございます。すぐにいただきます。」

「承知いたしました。」


こうしているとどこからどう見ても普通の執事なのだが、修行をしていても本当に底が見えない人だ。まあそのおかげで安心して留守を任せることができるのだがな。


「ユーリ殿、アリア殿遅いでござるよ!」

「待ってた…。」

「ごめんね待たせちゃって。」

「先に食べてくれててもよかったのに。」

「せっかく皆いるのでござるから食卓は皆で囲みたいでござるよ。」

「…そうかもしれないな。」


今日だってさんざん人との関係の大事さを教えてもらったばかりじゃないか。冒険者、同級生、《勇者》、執事に侍女。それぞれ得意なことや不得意なことはあるがお互いに支え合うことが大事であるのだ。


「それじゃあ…」

「「「いただきます!!!」」」


ユーリは今、皆と過ごせるこの時間を大切にしていこうと思うのであった。


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