第百五十三話 錬金術師
錬金術師とはざっくり言うと色々な物を作れる能力者である。マークの様に錬金術師じゃなくても魔道具を作ることはできるが限界はある。例えば魔法袋は『空間魔法』が付与されているが、普通はこれを付与することはできない。だが錬金術師は物に対して半永久的な効果の付与をすることができるのだ。ディミスさんはそれで『空間魔法』を付与することができるのだ、しかもそれに対して魔力は必要ない。
「ディミスさん…。」
「君がユーリだね。まさかディアナが弟子を取るとは思わなかったよ。」
「はは、よく言われます。」
「私の作った魔法袋の使い心地はどうかな?」
「これディミスさんが作った物だったんですか!ありがとうございます。いつも助かっています。」
「それはよかったよ。」
そうかこの魔法袋を作ったのは錬金術師であるディミスさんだったのか。師匠に貰った物だから師匠の知り合いには間違いないと思っていたが。ディミスさんは一体何者なんだろうか。
「ディアナさんって一体何者なんですか?」
「改めて自己紹介を、私はディミス・ブリューゲル。ここにいるディアナと同じパーティーである【真夜中の魔女】のメンバーだ。」
「あなたも【真夜中の魔女】なんですか。」
「そうですよ。ディミスには国としても色々な物を作成してもらっています。」
「まあ何でも簡単に作れるわけじゃないけどね。ディーテにも会ったんでしょう?これで【真夜中の魔女】と全員と面識があることになったわね。」
ディミスさんも師匠やディーテさんと同じAランクパーティーである【真夜中の魔女】のメンバーであるようだ。これで3人全員と面識を持ったことになるらしい。それを聞いてフルーは驚いていた。
「【真夜中の魔女】って3人しかいないんですか!?」
「ええ、そうよ。」
「初めて知りました。」
「【真夜中の魔女】は謎が多いパーティーですからね。」
そういえばそんなこと言ってたな。でも師匠を通して俺は3人共結構軽く知り合っている、だから謎が多いとかそんな感じはしない。ところで師匠たちはどうしてここに来たんだろうか。シャーロットに何か報告があって来たんだろうけど。
「ところで師匠達は何をされに来たんですか?」
「ああ、頼まれていた物を持ってきたのよ。」
「頼まれていた物?」
そう言うと師匠は魔法袋から手を触れないように影を使ってある物を取り出した。俺はそれが魔法袋から出てきた瞬間に身構えた。その物が放っている異様な魔力は今までに何度も対峙したことのある魔族の魔力のそれであった。
「皆、落ち着いて。」
緊張が走った空気感の中に師匠の一言が響く。俺だけでないここにいる全員が魔族の魔力を感じ、身体が硬直してしまっていた。
「し、師匠それは何なんですか?」
「これは《迷い人》の衣服よ。シャーロットに依頼されてあなた達が捕まえた獣人族に話を聞いて、秘密裏にオルロスまで潜入してきたの。」
「じゃあこれがワンダーの言ってた物なのか。なんて禍々しい魔力なんだ。」
「たしかにこれなら《魔王》に縁のある物だって言われても違和感ないかも。」
師匠が持っていたのは以前、ワンダーが言っていた魔族が獣人族に貸し与えていたという《迷い人》の衣服だ。これを見る限り初代《勇者》である《魔王》の衣服ということで間違いなさそうだ。そうやら師匠はオルロスまで行きこれを回収する依頼をシャーロットにされていたようだった。
「今は私の魔力で包んでいるからこれだけど、剥き出しの状態だともっと危険なのよ。」
「たしかにディーテさんが包んでてこれじゃあやばいかも。」
「だけど獣人族はこれの魔力を剥き出しの状態で浴びていたの。正気を保てなくても不思議じゃないわね。」
「アタシ達を追ってた連中はこれのせいでおかしくなっていたってことか。」
「恐らくそういうことね。」
《魔王》の魔力が籠もっている衣服。これを直に浴びていればおかしくなっても不思議ではない。魔族はこれを使って獣人族と人間族との確執を深めようとしていたということだ。なんとも魔族の考えそうなことではあるが。
「うーん。」
「どうしてコータ?また《迷い人》目線の疑問か?」
「疑問ってほどでもないけどね。間違いなく僕の世界の服だなって思っただけだよ。《魔王》が《迷い人》というのも納得というか僕と同じ世界且つかなり近しい時代っていうのがわかった。」
「近しい時代?」
「うん。この服はジャージといってそこまで高価な物でもない普通な服だよ。でもこのブランド…作った人達というのかデザインもそうだけど見たことがある様な物だからかなり僕が生きていた時間に近いと思う。」
名称や見た目はよくわからないがとにかくコータの世界にあった物ってことはわかった。それにコータの生きていた時間と近いということは異世界からこちらに来る年代はバラバラであるということだ。コータと《魔王》は生きていた時間こそ近いけれど、こちらの世界では数百年の差があるということになる。
「まあそれがわかったからどうってことはないけどね。《魔王》と僕はあっちの世界では同じ様に時代を過ごしていたのかもしれないけどこっちでは数百年単位で違うんだから。」
「たしかにな。」
「ちょっといい?」
「どうしたのウール。」
「あのさ、この《魔王》の衣服ってもしかして《女神様》の言ってたやつなんじゃないの?」
今度はウールが気になったことがあるようだ。《迷い人》の衣服改め、《魔王》の衣服が《女神様》の言っていたものではないかということ。《女神様》の言っていた物というのは《魔王》復活のための条件のことだろうか。
「《女神様》の言ってたやつって《魔王》復活のための条件ってやつ?」
「そうだよ。」
「何それ?」
「俺が王都の教会で《女神様》に《魔王》復活の時期を聞いたんですよ。それで時期はわからないけど復活のためには条件を満たさないといけないということを教えてもらったんです。《勇者》の能力を持った人間が6人現れること、復活のための魔力を集めること、魔力を込める器を用意することの3つです。ちなみにその時にうっすらジェマというか《勇者》の居場所も聞いたんだよ。まさか本当にいるとは思わなかったけど。」
「そうだったのか。」
俺は《女神様》から聞いた《魔王》復活のための3つの条件を知らなかった師匠やジェマ達に説明した。
「抑えててそれだけの魔力があるなら復活のための魔力って奴に当てはまるんじゃない?」
「たしかにその可能性はあるな。」
「それならそれだけ魔力が込められているのに何も影響がなく、衣服の状態を保っているから魔力を込める器っていう方にも当てはまりそうだよね?」
「はい。どちらにせよこれが魔族にとって貴重であるのは間違いないと思います。」
ウールの言う通り、復活のための魔力もそうだし、フルーの言う魔力を込める器というどちらにも当てはまっているように感じる。これを魔族が回収するよりも先に回収できたのは大きいかもしれない。ワンダーには感謝だな…まてよワンダーがわざと回収させたというこも考えられるのか?癪だがワンダーは魔族の中でもそういう騙し討ちの様な事をするタイプではないと思う。どちらにせよ警戒は必要だな。
「これを俺達にわざと回収させるのが目的だったかもしれないし、奪われて焦った魔族が狙いに来るかもしれない。」
「そんなことは考えてもしょうがないわよ。もう回収してきちゃったんだし、今の所魔力を放つ以外は害ないから。」
「それが一番の害なんですよ!」
「私の魔力で包んでいる内は大丈夫でしょ!」
「まあ魔法袋に入ってたら魔力はわからないからそこまで心配しなくてもいいだろう。君もディーテの強さはわかっているだろう?」
相変わらず師匠は適当だなぁと思いつつ、そうそうやられることのない師匠であれば大丈夫だなとも思ってしまった。実際ディミスさんの言う通り、魔法袋に入れている間は魔力は感じないしな。とはいえ魔族は何をやってくるかわからないという心配もあるのだ。
「でも…。」
「ユーリ君の心配もわかります。しばらくは遠出はしないようにしますし、【真夜中の魔女】もバラバラにならないように配慮しますから。」
「シャーロットがそう言うなら。」
「ディーテ可愛い弟子が心配してくれてよかったな。」
「う、うるさいわね。」
シャーロットがしばらくは配慮してくれるみたいで俺は安心した。本当は闇属性の魔法を誰かが使えればいいが師匠以上の使い手はいないし仕方のないことだ。そして最後の話題へと変わっていく。
「それでは最後に黒雲の上にあった島の情報についてですが…」
「何かわかった?」
「残念ながら有益な情報は何も得られませんでした。」
「そうか。」
サラを殺した相手の正体は何もわからないまま、黒雲の上にあった島に関わっているのは間違いないと思われるのだが詳細は未だにわからないままだ。
「黒雲の島?」
「何か心当たりでもあるんですか?」
どうやらディミスさんには何か心当たりがあるようであった。
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