第百五十二話 バルムンク家
ルミは子供の時のことを語り始める。
「これは私の父から聞いた話ですが、その昔父の友人である龍が人間に討伐されたみたいで。たしかその人間の名前がバルムンクだった気がします。」
「友達が殺されたって聞くと悲しいよね。」
「意外とそうでもないですよ。結構笑って話していましたし、もう何百年も生きていますからね。それに負ける方が悪いって感じです。」
ルミの父親の友人だった龍が人間に討伐されたという話。さらには名前がバルムンクというとデリラの話と関係がないとは言えない。俺達人間族の感覚と龍の感覚は随分違うことが多い。特に年齢は寿命が違うからそういう風に感じるのだろうな。それにしても龍は一体何歳くらいまで生きるのだろうか。
「龍とは感覚が違うな。それでデリラ話の続きは?」
「うん、それでおばあちゃんが昔魔物に襲われた時にバルムンクさんに助けてもらったんだって。その時見た身体には龍の鱗があったみたい。」
「なるほど。実際にみた人がいるなら話の信憑性が増すね。」
「まあそれがバルムンクさんだって気付いたのは後のことみたいだね。話せたのも年齢のことくらいだったみたいだし、またすぐにどこかに行っちゃったんだって。その話をおばあちゃんは家族にもしたけど子供の言うことだって相手にされなかったみたい。」
「まあそんな伝説みたいな人が生きてるとは普通思わないよね。それに子供の言うことだし。」
身体に龍の鱗を見た…たしかにバルムンクさんに龍の血が混じったという話は本当のことのようだな。だがここで少し疑問が生まれた。バルムンクというのは名前なのにどうしてデリラの家名になっているのだろうか?
「どうしてバルムンクっていう家名なの?」
「そもそもバルムンクさんは元々冒険者だったんだ。あるとき龍に潰された村があってそこの復興の依頼を受けたそうなんだけど、そこで龍に襲われたんだって。バルムンクさんは人で龍殺しを達成したんだけど、その時傷を負って死んだと思われてたんだよ。死体は見つからなかったみたいだけど、かなりの出血の跡があったみたいだし。それで名誉あるバルムンクの名前を残したいと考えた弟さんが家名として名乗ることにしたみたいだよ。」
「そうだったんだ。…うん?だったらおかしくない?」
コータはデリラの話を聞いて首を傾げた。たしかに今の話ならバルムンク家の成り立ちはわかったが、デリラの能力の暴走の原因が龍の血が混ざっているという最初の話には繋がらない。
「たしかにデリラに龍の血が入ってる話には繋がらないよね。」
「実は龍に潰された村にいた女性が行方不明になってて数年後に突然帰ってきたみたいなんだけど…」
「それがバルムンクとの間にできた子供だったってことね。」
「そう。まあ嘘か本当かわからなかったけど、その頃にはバルムンク家も大きくなって余裕があったから面倒を見ることにしたそうだよ。」
「うーん。」
死んだと思われていたバルムンクさんは村の女性と子供を作っていたという話か。つまり龍殺しの話と血が混ざったということが書いてある書物は女性の話を元にしたんだろうな。そしてその時の子供の子孫の血を受け継いでいるのがデリラだったというわけだ。だがまたしてもコータは首を傾げている。何か疑問に思うところがあったのだろうか?
「これはもしかしたら《迷い人》の感覚かもしれないんだけど、それでもおかしくない?」
「何がおかしいんだ?」
「仮にデリラが血を受け継いでいたとしてもそれは少なくとも三百年は前に生きてた人の話なんでしょ?仮に子孫ができていてもどんどん龍の血は薄まっていくんじゃないの?」
コータの疑問は龍の血は子孫が増えればどんどん薄まっていくのではないかという指摘だった。それについてはジェマが回答した。
「異世界には《先祖返り》はないのか?」
「《先祖返り》?」
「滅多にあることじゃないけど、時々先祖に亜人族の血が入っているやつがその特徴を引き継ぐことがあるんだ。犬の獣人なら嗅覚が鋭いとか兎の獣人なら耳がいいとかな。だけど身体的特徴があるわけじゃないから能力とは別にそれが優れているってところでしか判別はできない。」
「そういうことか。異世界でも親より上の世代の特徴がでるということもたしかにあるよ。」
納得してくれたみたいだ。ただジェマの言う通り《先祖返り》は滅多にある物じゃない。そもそも異種族の子供はできにくいのだから、《先祖返り》しようにも血が混ざってないということだ。
「で納得してもらったところで僕は龍の血が《先祖返り》しちゃったってわけ。」
「だから能力の暴走があった時あんな姿になっていたのか。」
「そういうこと!でどうやって暴走しないようにするかって部分はブランシェさんに聞いてなんとかなったよ!」
「僕の苦労はそこから始まったけどね…。」
デリラの暴走の原因はわかった。そしてそれを制御するために似たような能力者である黄角聖騎士団長ブランシェさんに話を聞きに行ったのだ。バルムンク家はブランシェさんの管轄だからな。会うことが出来てよかった。そしてウールはその時の日々を思い出したようで遠い目をしている。
「ブランシェさんの話によると、僕やブランシェさんは身体強化系の能力の中でも特殊な方に分類するんだって。普通は条件がそこまで厳しくなければ上昇率も低いみたいなんだけど…。」
「そういえばマルクさんも似たようなことを話してたっけ。」
たしかマルクさんに聞いたのは条件が広く発動しやすい場合は、一般的にそこまで暴走するような能力じゃないってことだったな。暴走とはつまり際限なく上昇したり制御できなくならないということだ。それに当てはまらない条件である二人は特殊であるということだろう。
「だから自分にあった対策を練るしかないって話になったんだけど。」
「デリラの場合何が対策かわからないから、とりあえず僕とバルムンク家の人達と死ぬ気で一晩中戦ってたんだよ。」
「一晩中!?」
「そこで覚えたのが『蜃気楼・現実』なのさ。限りなく本物に近いけど魔法で作った分身なら殺されないからね。デリラの中では命のやり取り判定になるから、暴走する限界を探ってみようと思ってね。。」
「そうだったんだ。」
「おかげでなんとなく感覚は掴めたかな。多分暴走する前には戦いを辞めることができると思う。」
今回の事件でウールが門番であるバウとの戦闘で見せた『蜃気楼・現実』。あれはデリラの能力の限界を探る際にできた副産物だったようだ。
「それで有効的な対策ってのは何かわかったのか?」
デリラの能力である《戦闘狂》は戦えば戦闘能力が徐々に上がっていく。しかしそれは命をかけた戦いなのか否かで能力の上昇率は異なる。あまり上昇率の高い戦闘が続くとデリラの意思とは関係なしに暴走してしまうのだ。限界点がわかってももし命の危機に瀕したら戦闘は避けられず暴走してしまうだろう。かといって戦わなければ死んでしまう。
「うん。さっき言ったバルムンクさんの書物にね、彼の剣技が載ってたんだよ!」
「ああ、もしかしてそれがクリスさんが使ってた技なのか。」
「僕もユーリが言うまで知らなかったけどね。どうしてクリスさんも同じ技を使っているのか。」
「クリスは《龍の騎士》という能力です。」
「龍繋がりか、使えても不思議じゃない…のか?」
バルムンクさんもクリスさんも共通しているのは龍に関係しているということだろう。だから使えても不思議ではないと考えるしかないな。
「でそれが何なの?」
「実はあの技を使っていると暴走しなくなるんだ。衝動が抑えられるっていうのかな?」
「暴走しなくなるのか。」
「うん!だから書物に載っていた技を覚えたってわけ!」
「まあ何にせよ解決したなら良かったよ。」
うーむ、なぜあの技を使うと暴走が止まるようになるようのかはわからない。だけどそれでデリラの暴走を止めることができるのなら何でもいいかと気にしないことにした。そんな話をしていると部屋をノックする音が聞こえる。
「どうぞ。」
「おー集まってるわね。知らない顔もあるみたいだけど。」
「あれ?師匠じゃないですか!」
「久しぶりね愛弟子。元気にやってそうでよかったわ。」
部屋に入ってきたのは師匠だった。そしてその後ろには俺の知らない顔の女性が居た。年齢は師匠やディーテさんとそんなに変わらないくらいだろうか。深い紺色の髪色で眼鏡をかけている。そしてかなりスタイルがいい、師匠やディーテさんに負けず劣らずだ。
「ユーリ君。」
「ユーリ。」
俺はまだ何も言っていないのに、エレナとアリアからなぜか冷ややかな視線を感じる。というか言葉に出ているが無視を貫いておこう。今はこの人のことを聞くのが先だ。
「それで師匠そちらの方は?」
「そういえばまだ会ったことなかったわね。」
「私はディミス・ブリューゲル。錬金術師をしている者さ。」
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