第百五十話 処罰は
ヴェルス帝国が魔族に襲われたのは一年くらい前の話である。その時期にアンドリューとサラは出会いサラの両親は殺されてしまったということだ。だがその後に俺達が解決し今ではヴェルス帝国はほぼ復興している。どうして今回の事件を起こしたのだろうか。
「魔族に集落が襲われた時、たまたま少し離れていた所にいた私は魔族に襲われることはなかった。そして急いで集落に戻るとそこには悲惨な光景が広がっていた。私は必死に生き残っている者がいないか探した。すると潰れた家の中から声が聞こえた。」
「それがサラだったということですか。」
「そうだ。サラは奇跡的に瓦礫の隙間に入り込み助かっていたのだ。サラは集落を見て突然大量の魔力が溢れ出したかと思ったらその場に倒れ込んでしまった。信じられないかもしれないが、それ以降サラはまるで別人の様になってしまったんだ。元々不思議な雰囲気を纏ってはいたがな。」
奇跡的にサラが助かったのも《迷い人》であることが関係しているのだろうか。死にかけて本当の能力を思い出したという点ではコータと共通している部分だ。だが《女神様》の話ではそれは俺達《勇者》が側にいることによる影響だったはずだ。サラは一体どうして本当の能力を…。
「続きは私が話しますわ。」
「サラ!」
「起きたのか!」
どうやらサラは目を覚ましたようだ。ディランとエレナの二人は即座にサラの元へ駆け寄り戦闘態勢に入る。一応抵抗できないようにしてはいるが、まだ何をしてくるかわからない。だがサラの顔は随分とスッキリとしているように見えた。
「今更、抵抗しようとは思いませんわ。それに流石の私でもこの状態では鼠一匹殺すことはできませんよ。」
「だからそれだけ喋れるのはおかしいんですよ。」
「これを警戒するなという方が無理な話だ。」
二人の指摘はもっともだ。サラは先程戦闘でダメージを負って魔力を抜き取られて手足の拘束までされている。にも関わらずもう喋れるようになっているとは回復が早いな。
「まあ二人共、これだけの人数を相手に今更抵抗しないでしょ。」
「中々話のわかる《勇者》ね。続きを話しても?」
「お願いします。」
「両親と家で食事をしている最中に魔族に襲われて、私は家の下敷きになったの。そしてたしかに死んだわ。だけどそこで不思議なことが起こった。身体の傷が自然に治癒していた、さらに周囲の瓦礫も溢れ出る魔力で押しのけていたわ。」
「アンドリューさんはそこで君を見つけたんだな。」
「そうよ。」
コータの方に目線をやる、するとコータは頷いていた。やはりまったく同じような状況だったらしい。コータも突如、傷が塞がり前世のことを全て思い出したはずだ。
「目が覚めた時には全てを思い出していたわ。最初はこの世界で過ごしてきた記憶と混濁したけれどそれも徐々に鮮明になってきた。私はこことは違う世界で一度死んだ。そして《女神様》に《魔力吸炉》の能力を与えられてこの世界に転生したということをね。そこで私は決意したのよ、前の世界だけでなくこちらの世界でも両親を殺されてしまった復讐をするために魔族を滅ぼすとね。」
「…ってことはつまり魔族を滅ぼそうとしてセルベスタ王国を乗っ取ろうとしたってこと?」
「そういうことになるわね。他に親族がいるのかも私にはわかりませんでしたし、両親がヴェルス帝国出身ではないということは知っていましたけど。他に行く宛もないからこそ復讐の決心も付きましたわ。」
サラがセルベスタ王国を乗っ取ろうとしたの、は故郷を潰した魔族に復讐するためだったようだ。とりあえず魔族に操られているとかそういうことではなかったので俺は少しだけ安心した。
「アンドリュー様には申し訳ないけど私の戦力を手に入れるため利用させてもらったに過ぎないわ。魔力を極限まで吸って弱らせて薬を使用すれば簡単に正常な判断はできなくなり、操りやすかった。他の親衛隊もアンドリュー様同様に操りアンドリュー様と私の言うことを聞くように仕込みましたわ。」
「なるほど身体的に弱らせて薬で精神的にも弱らせたということか。」
「セルベスタ王国に《勇者》がいることも知っていたし、ヴェルス帝国に来た魔族を倒したということも知っていました。そのまま戦力を利用できればそれに越したことはなかった。まあ《勇者》を操れなかったのは誤算でしたけれど。」
「たしかに君の能力なら、人がたくさんいればいるほど強力な物になるな。」
「どうして言ってくれなかったんですか?魔族を倒したことを知っていれば当然私達がどういう人間なのかというのもわかっていたはずです。協力し合うこともできたと思います。」
そして自身の能力を最大限活かすために人口も多く、多くの能力者も揃い何より《勇者》のいるセルベスタ王国を乗っ取ることにしたのだ。幸か不幸かちょうどアンドリューも近くにいたというのがサラに取っては都合が良い状況を作り出してしまったのだ。だがヴェルス帝国での一件を知っているならば俺達と協力する道もあったはずだ。
「信用できないからよ。」
「えっ…?」
「私はアンドリュー様から《勇者》を巡る争いについて聞いて知っていた。だからあなた達がいくら魔族を倒していようとそれで仲間になれるかどうか信用することはできなかった。だから無理にでも操ろうとした。まあそれはできなかったから人質を取って脅す作戦に切り替えたのだけど。」
「信用か…。」
サラの言うこともわからなくはない。前世の記憶がどんなものであったか俺達にはわからないが、少なくとも今の年齢よりも上なのだろう。魔族を倒したのが事実であってもすぐに俺達の様な子供を素直に信用できるはずもない。
「それでこれからどうするの?」
「死人が出ていないとはいえ、被害者はたくさんいますから。」
「セルベスタ王とシャーロットに任せるしかないだろう。」
二人は深く考え込む、被害者は王都にいる全ての住民だ。死者は出ていないとはいえ、一歩間違えば危ない所だったのは事実だ。死罪とまではいかないが重い罪は避けられないだろう。サラはともかくアンドリューは第一王子だからな。軽すぎても民に対して失礼だろう。
「私はどんな罪でも受ける。」
「アンドリュー様は私が操っていただけですわ。私が言えた立場ではありませんがどうか寛大な処置をお願いします。」
「そう思えるなら最初からこんな事件起こさないで欲しかったけどね。」
「大体なんでアンドリューには様付けなんだよ。」
「それは…」
たしかにサラはアンドリューを操っていたと言う割には随分と慕っているようだ。まあ第一王子なのだから様付けでも別におかしくはないのだが。表に立たせて目立たないように裏で操るには親衛隊というのはいい隠れ蓑になるのはわかるが、今はもうアンドリューを庇う必要はない。
「それは…私がアンドリュー様のことをお慕いしているからですわ。愛しているということです。」
「あ…」
「愛してる!?」
まさか異性として好きとは…それは予想していなかった。皆はそれを聞いて驚いていたが女性陣はどこか納得したような顔をしていた。
「処分は…この場で判断することができない。私もシャーロットもこの様な状態で正常な判断ができない。後日改めて処分を下す。」
「父上…。」
「だが確実に言えるのは死罪にはしないということだ。それよりもこの国のために身を粉にして働いてもらう。死罪よりも厳しくな、全ての責任は私が取る。」
「は、はい…。」
セルベスタ王はこの場では二人をどう処分するか決めきれないとのことだった。だが死罪にはしないようだ。元を正せば魔族のせいで起こった悲しい事件と言える。事情がわかっている俺達はまだしも住民が納得してくれるかはわからないがそれはこれからの働き次第だろう。
「ここにいる全てのことを知る皆には悪いが…。」
「いえ、俺達はセルベスタ王の判断に任せていますから。」
「ありがとう。」
「サラもこれからは俺達に協力してくれないか?」
「私が?」
サラは俺からの提案に凄く驚いた顔をしていた。それもそうださっきまで殺し合いをしてた仲なのに協力しろと言われても驚くだろう。だが彼女の話を聞いた俺はきっといい関係性が築けると思ったのだ。
「…それで罪滅ぼしになるのなら。」
「もちろんさ。これから俺達とやっていこう。」
「ところでサラはこっちの名前は何ていうんだ?」
「サラよ。たまたま前世と一緒なの姓はないわ。両親は家を捨ててヴェルス帝国に逃げてきたの。それがどこかというのはわからないけど。」
「へぇーそうなんだ。」
サラの両親が何から逃げてきたのかはわからないが、ヴェルス帝国を選んだのは賢い選択だな。一年前まではまだまだ同盟賛成派と反対派が争っていた時期である。それ故に他国との関わりがなかった。どこの国からだろうと隠れるのは一番いい国であっただろう。アンドリューがヴェルス帝国にいたのもそういう面があったからかもしれない。変に情報が入らないほうがどうなったかわからず恐怖心を煽れるからな。
「それじゃあそろそろ学園に…」
学園長達を待たせている学園に帰ろうとしたその瞬間に爆音が轟き閃光が走った。目を開くとそこには胸の辺りに大きな穴ができたサラがいた。
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