第十五話 聖騎士祭2日目【S・L《スピード・ランドスケープ》】①
昨日の競技から一夜明けた本日は聖騎士祭の2日目、今日行われる競技は【S・L】である。出場する予定のエレナは朝から張り切っている。アリアも昨日は少し落ち込んでいたが大分元気が戻ってきたようだ。
「エレナさん体調はどう?」
「万全ですよ。むしろやる気が溢れてるくらいです。」
「エレナにしては珍しいね。」
「そうですね。やはり勝負事なると気が高まってしまうんですよ、これも《勇者》の影響でしょうかね。」
「どうだろうね。でもトラブルに巻き込まれやすいのはたしかだね。」
とはいえ俺やアリアもトラブルに巻き込まれているところを見るとエレナのことを偉そうに指摘することはできないな。強い能力だと何か悪いものを引き寄せてしまうとかあるのだろうか?能力に詳しい人がいたら聞いてみたいな。
「それではそろそろスタート地点に向かいます。」
「うん。俺達も会場から見てるよ。」
「エレナさん頑張ってね!」
「はい!」
そう言うとエレナはスタート地点である学園の正面玄関へと向かっていった。俺達は応援のために昨日の会場へと向かっていった。
「さあ聖騎士祭2日目【S・L】まもなくスタートです。ルールはシンプルで学園の敷地内を一周する競技です。正面玄関からスタートし、屋内演習場、野外演習場と周りゴールの競技場に一番早く辿り着いた人が優勝になります。コース上には様々な障害物が仕掛けられており魔法を使ってそれらを切り抜けてください。もちろん他クラスの代表生徒を邪魔するのもありです!」
俺達はゴールの競技場で映像魔法に写ったエレナと他クラスの生徒を見ていた。線上に皆一直線に並んでいる。気合十分といった感じだ。
「それでは競技を始めます。位置についてよーい、、、スタート!」
「『閃光』!!!」
「うわぁ!」
スタートの合図と同時に《黃》クラスの生徒が魔法を発動し、まばゆい光が放たれた。『閃光』という魔法はそれほど強い魔法ではない。だがスタートの瞬間にやられたエレナを含めた他クラスの選手にはかなり効果的だったようだ。皆いきなりのことに対処できずに目がやられてしまったようだ。《黃》クラスの選手は一人だけ順調なスタートを切り出し、どんどん先へと進んでいく。他の生徒もようやく目が慣れてきたのか続いて走り出していく。
「今の凄かったね。」
「うん。初歩的な魔法でも使い方次第で効果があるってことだね。ただでさえレースは長いから常に魔法を使うわけにはいかないし、どこで何を使うのかっていうのが重要になってきそうだね。」
「さあ、まずは《黃》クラス代表ルーカス選手早くも屋内演習場へと差し掛かります。」
ルーカスが屋内演習場に入ると複数体の土人形が出現し、襲いかかる。
「くっ!」
ルーカスが土人形に苦戦していると他クラスの生徒も追いついてきた。《翠》クラスの生徒は土人形を近づけさせないように身体の周り風を纏っている。
「《翠》クラス、フルーラ選手『風の鎧』で土人形を近寄らせずに駆け上がっていきます。他の選手もそれぞれ対処していく!」
まともに土人形を相手にしてしまうと無駄に時間も魔力も削られてしまう。フルーラの様に近づかせないのが正解だろう。そういえばエレナはどうだろうか、ここまでは普通に見えるが…。
「さあ屋内演習場を超えて次は屋外演習場・平地へと入っていきます!」
「このまま1位はいただくよ!…えっ、うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「おっとフルーラ選手、『罠魔法』である『落とし穴』にハマってしまった!!」
屋外演習場には一見何も仕掛けられていない様に見えるがどうやら『罠魔法』が無数に設置されているようだ。『罠魔法』は発動遅延型の魔法で予め魔法を発動しておき条件が満たされることで発動される仕組みだ。大きな効果を持つものは条件が複雑だったりするらしいが、今回の『落とし穴』であれば恐らく魔法陣の上を踏んだら発動するとかそんなところだろう。
「お先に失礼するよ!」
「ここで《青》クラス、レディ選手!フルーラ選手を抜いて1位になった!」
ドカン!!!
「ぐっ!」
「しかしまたしても『罠魔法』だ、これは『地雷』による爆発!!!レディ選手大丈夫か?」
「ギリギリセーフかな…。」
「レディ選手、間一髪『水の壁』を発動していたようです!」
「これくらいできなきゃデリーの相手はできないからね。」
完全に『地雷』が発動した後に対処が間に合っている、レディの魔法発動速度は中々な物だ。エレナはというと…最下位だ。何か考えがあるのだろうが大丈夫だろうかっと考えていると何か魔法陣を展開し始めたぞ。
「『炎の翼』そして『火炎口』!!!」
「凄い!エレナ空飛んでるよ!」
「本当だ…。」
エレナは『炎の翼』を出し空中に浮いたかと思うと、『火炎口』を背中から噴射しながら凄いスピードで進んでいる。おそらくあれは厳密には飛んでいるというより浮いた状態で勢いを付けて進んでいるという感じだろう。その炎の勢いで地面に仕掛けられていた『地雷』は誘爆し、他クラスの選手達に襲いかかっている。
「うわぁぁ!!」
「一気に行かせていただきます!!!」
エレナは他クラスの生徒達を抜かすとトップに躍り出た。そのまま野外演習場・森へと入っていく。
「このまま逃げ切れるかな?」
「そうだね。もう後半だから行けるかもしれないけど森には何が仕掛けられているのか…。」
「あれ?見て映像が…。」
競技場の上空に映し出されている映像が乱れたあと消えてしまった。何かのトラブルだろうか?ふと競技場の真ん中に目をやると黒い穴のような物が空いている。何だあれ?
「おい!何だあれ?」
「穴から何か出てきたぞ!」
競技場中心の黒い穴から出てきたのは今まで見た魔物や魔人になったザイルと比べ物にならないくらい黒いオーラと威圧感を纏った魔人。会場の全てが静寂に包まれ、警備の騎士でさえ動けないでいる。その魔人は会場を見渡すと、腕を一払いした。すると会場の三分の一が消し飛んだ。幸いにも生徒や騎士団の人はいない方だった。
「ふむ。少し手元が狂ったか。聞け!人間どもよ!我が名は魔王軍四天王が一角、《剛腕》のバリオン!!!この街は魔族に滅ぼされる最初の大都市になるだろう!喜ぶがいい!フハハハ!!!」
バリオンと名乗った魔人が喋り終えた途端、身体の全身から汗が一気に吹き出した。今まで会ったどんな奴よりもこんなに距離が離れている奴のプレッシャーだけで俺は死を身近に感じていた。ただの腕の一振りだけで会場の三分の一が消し飛んだ。早くここから動かなければいけないと頭ではわかっているが身体が動かない。そんな時一人の男がバリオンの前に立ちふさがった。
「魔族よ!私が相手をする!」
「アレストール様!」
「宮廷魔道士団副団長様が来てくれたらもう安心だ…。」
騎士の一人が叫ぶ。あの人が宮廷魔道士団副団長のイヴァン・アレストールか。
「…手筈通りに頼むぞ。」
「あぁ。」
「私の雷を味わえ!『雷帝の一撃』!!!」
無数の雷がバリオンを襲う。その雷はかなりの威力で競技場を吹き飛ばさんとする勢いだった。しかし…
「こんなものか。」
「な、何だと?話が違うじゃないか!!」
「貴様がこんなにも弱いとは思わなかった。死ね。」
「がっ…!!!」
バリオンが腕を払うとイヴァンの咄嗟の防御魔法を軽く砕き、吹っ飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」
その姿を見てようやく生徒達は身体を動かし、逃げ出した。騎士団も逃げ出す者が出ている始末。イヴァンがやられた以上並の人間では殺されてしまうだろう。しかし…このままでは逃げようにも奴が襲いかかってくるかもしれない…!どうする…。
「ユ、ユーリぃ…」
「だ、大丈夫だよ。」
アリアの今にも泣き出しそうな顔を見て俺は覚悟を決める。
「俺が時間を稼ぐ!!!アリアはその間に皆を逃してくれ!!!」
「で、でもあんな奴!!」
「頼んだ!!!」
「ユーリ!!!」
誰かがここであいつを止めなければ、皆を逃がすことはできない。それにアリアを守ることだって…
「貴様何故出てきた?」
「何故出てきただと?」
「貴様の実力では我を倒すことはできないとわかっているだろう?死ぬとわかってて何故出てきたと聞いている。」
「死ぬ…わかっているさ、お前と俺の実力差くらい!だけどここで逃げたら皆が死ぬ!」
「自分が死ぬとわかっていて、尚立ち向かってくるか…貴様名は?」
「ユーリ・ヴァイオレットだ!!!」
「そうか貴様が報告にあった…面白い!どこからでも来い!!!」
「はぁぁぁぁ!!!『身体強化・三重』『創造・贋聖剣』『雷撃一閃』!!!」
間違いなく俺が今出せる最高の一撃だ。
「…ふっ。この我の身体に傷を付けるとはな。」
バリオンの胸元には大きな傷が付いていた。しかし、それほど深くはなく致命傷にはなっていない。まいったな今の一撃でかなり魔力を使ってしまった…。
「今度はこっちの番だ!フン!!!」
「がっ、、、はっ!!!」
俺は贋聖剣でガードをしたが、粉々に砕け身体は後方へと吹き飛ばされた。瓦礫にぶつかりなんとか留まるが、身体が動かない完全に骨が折れている。意識が飛びそうだ…。
「どうした?もう終わりか?」
俺はバリオンの問いかけに答えることができない。すると俺の前に人影が見えた。
「大丈夫?ユーリ!!!『治療魔法』!!!』
「あ、アリア…どうして…。」
「皆は逃げれたよ!だから助けに来た…!」
俺はアリアの『治療魔法』のおかげでかろうじて喋れるようになった。だが身体は動かない。
「に、逃げろ…アリア…。」
「ユーリを置いて逃げれないよ…!」
「次は貴様が相手か?」
「そ、そうだよ!」
アリアの身体は震えている。しかしアリアは立ち向かう。動け俺の身体…!ここで動かなかったらアリアが死んでしまう!!!
「そうか、では死ね!!!」
バリオンが拳を振りかぶった瞬間、光が輝いた。
「ユーリ、よく頑張ってくれた。」
「君中々根性あるね。流石セシリアちゃんの後輩君だ!」
「若者にしてはよくやったのぉ。」
そこには3人の騎士団長の姿があった。
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