第百四十八話 触手
俺達は煙が晴れたと共にそれぞれの方向へと走り出す。今のウールの『蜃気楼』はやられなくても持って3分くらいだろう。普段なら攻撃される瞬間に囮として使うが、今は皆の姿を模倣しつつ触手に当たらないように回避させている。魔力を使用し続けなければできないことだ。それ以上はウールが触手を倒すための魔力がなくなる。
(チャンスは一度だけだ。見極めなければ。)
「鬼ごっこするしか脳がないのかしらぁ!でもいつまで逃げ続けられる?小細工では私を倒せませんわよ。私はまだまだ余裕ですわ!」
サラは触手を操り俺達の分身を追い回している。その姿はまだまだ余裕がありそうだ。王都中の魔力を集めているだけのことはある。長期戦には持ち込みたくない。
「ユーリ…そろそろ限界だ…。」
「任せろ。」
するとウールの『蜃気楼』によって作られた分身が触手に貫かれる。サラはそれに違和感を覚えた。急に動きが悪くなったからだ、さらに貫いたはずの身体からは血が流れていない。ユーリ達の姿がないことに気付いたのはその時だった。
「何ですって!?くっ『魔力壁』!」
サラが気付いた時には正面にユーリが迫ってきていた。防御するための魔法を発動させる。
「今だ!」
ユーリが叫ぶと隠れていた皆は姿を現し、それぞれ触手に魔法を放つ。
「『炎の槍』!」
「『風の牙』!」
「『水の球』」
「『風の拳』!」
「『雷の槍』!」
「『水の弾丸』!」
「『魔法弾・貫通』!」
「『新山田流壱式・疾風迅雷』!」
「『千の突き』!」
「『龍の爪』!」
俺はサラが発動した『魔力壁』を吹き飛ばすため魔法を放つ。
「『|土の弾丸アース・ブレッド』!」
「しまった!」
「今だ!」
サラの全ての触手を倒し、『魔力壁』まで発動させた。今が攻撃をする好機である。全員が一斉に更に向かって行く。だがユーリは漠然とした違和感を感じていた。何かがおかしい気がする、サラの方に目を向けるとその口元は笑っていた。
「皆!まっ…」
「『魔力地雷』!」
「うわぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁ!!!」
突如サラの周辺の地面が激しい爆発に包まれた。ギリギリの所で異変に気付いたユーリ以外の皆はその爆発に巻き込まれて吹き飛ばされる。ユーリが囮をしていて動き出すのが一番遅かったことが幸いした。
「私が自分の弱点に気付いていないとでも思ったんですか?甘いですわね。私の近くまで接近したら爆発する仕掛けをさせてもらいましたわ。」
「くそっ!『煙幕』!」
俺は再び『煙幕』によってサラの視界を塞ぐ。だが同じ手では長く持たないだろう。今のうちに急いで皆を回復しなければ。俺は吹き飛ばされた皆を回収して一箇所に集める。まずは『治療魔法』が使えるアリアを回復させる。
「『治療魔法』!アリア大丈夫?」
「うん、皆は!?」
「ここに集めた。かなりのダメージみたいだ。」
「任せて、『範囲・治療魔法』!」
アリアは『範囲・治療魔法』で皆を回復させる。皆は受け身をなんとか取れたようだが、ウールとディランは重症だった。回復させてももう戦えない。ウールは恐らく魔力切れによるものでディランは『雷身体強化』を発動していたため爆発の直前に少し動けたようで、一番近くにいたコーデリアを庇っていたようだった。フルーも全身で爆発を受けてしまったようで傷が深い。
「うぅ…。」
「皆、大丈夫か?」
「なんとか…ディランのおかげ…。」
「あんな魔法全然気付かなかったよ。」
「私の《副技能》でも気付けませんでした。」
「私もだよ。」
エレナの《副技能》は魔力の流れを見るものだが、サラがあの『魔力海烏賊』の姿になってから玉座の間の魔力はかなり荒ぶっているのが俺でもわかる。アリアも同様に魔法の痕跡なんて規模が大きすぎてサラの周りに仕掛けられた魔法に気付かなくても無理はない。
「ウールとフルー、それにディランがやられた。三人はもう戦えない。」
「もう一度同時攻撃するでござるか?」
「それが一番だと思う。ただ…」
これ以上有効な作戦はないと俺は考えている。逸る気持ちがあったから全員が一斉に突っ込んでしまったが、弱点をサラが理解していないと考え油断した俺達が悪い。弱点くらい対処してくるのは当然のことだろう。今度は時間差で攻撃を叩き込めば大丈夫だと思う。ただ問題はウールとフルー、ディランがやられてしまい触手の相手ができる人数が減ってしまったことだ。できないことはないだろうが確実に倒すなら触手に一本につき一人が相手をする方がいい。
「どうする…。」
「皆!」
俺達がどうするか悩んでいると後ろから聞き覚えのある声がした。
「マーク!ルミ!ジェマ!」
「よかった無事で。」
声の主はマークだった。さらにルミとジェマも連れて来ていた。どうして3人はここに来れたのだろうか?
「ちょうどよかった。3人に手伝って欲しいことがあるんだ。」
「僕らにできることなら何でも言ってよ。」
「ここが今起こってることの中心なのは間違いないようだな。」
「私にもお手伝いさせてください。」
俺は3人に要点だけ軽く説明した。今回の事件はアンドリュー王子とその親衛隊長サラ・イチノセの仕業であることを突き止めた俺達は戦闘していること。だが相手はコータと同じく前世の記憶がある《迷い人》で王都の住人から魔力を奪っているせいで長期戦はこちらに不利なこと。そこで見つけた弱点が回復に時間がかかること。
「それで一斉に攻撃するってことだね。」
「話はわかった。やろう。」
「任せてください。」
「煙がもうすぐ晴れる。晴れたら一斉に散ってそれぞれ触手を吹き飛ばしてくれ。最後は必ず俺が決める。」
「頼んだよユーリ。」
そして煙が晴れる。
「作戦会議は終わったかしら?…見知らぬ顔が増えてるようだけど無駄なことよ!触手に潰されなさい!」
俺達は一斉に触手に向かって突き進んでいく。皆はもう一度それぞれの触手に向かって魔法を放つ。
「『炎の槍』!」
「『風の牙』!」
「『水の球』!」
「『魔法弾・貫通』!」
「『新山田流壱式・疾風迅雷』!」
「『千の突き』!」
「『光の弾丸』!」
「『龍の息吹・人型』!」
「『砂の刃』!」
「『龍の爪』!」
先程同様に触手は全て吹き飛ばされる。そしてサラの元へと一斉に駆けていく。
「何度やっても同じこと!『魔力地雷』!」
「うわぁぁぁ!!!」
「きゃぁぁぁ!!!」
皆は再びサラの『魔力地雷』の爆発に巻き込まれ吹き飛ばされる。しかしその爆発を突き抜ける者が二人。
「同じ手にはかからないでござるよ!」
「この程度の爆風で止められると思わないでください!」
ランマとエレナであった。二人は爆風をその身体に受けながら立ち止まることなく正面に突き進んでいたのだった。だがサラはそこまで読んでいた。
「『魔力球』!」
「ぐっ…!」
「がっ…!」
ランマとエレナはサラを目の前にして倒れこむ。サラは同じ手で来ることがわかっていた、あえて触手への魔力の配分を少なくすることで、『魔力地雷』と『魔力球』の魔法を発動できるようにしていたのだ。だがそこまで考えていたサラは重大な見落としをしていたのだ。あるいは人数が増えたことによって起こってしまったことかもしれない。サラが気付いたときにはすでに遅かった。
「『雷撃』!」
「ぐわぁぁぁ!!!」
サラの真横に現れたのは魔力を限界まで消して近寄っていたユーリだった。そして更に『雷撃』を浴びせる。サラが気絶したのと同時に玉座に座っていたアンドリューも気絶した。
「ふぅ。」
ユーリはレシア砂漠での件があってから魔力を隠蔽する技術が上がっていた。完全に魔力がない状態を経験したからなのか、それとも魔力の器が1つになったからだろうか。原因はわからないがそのおかげでサラに気付かれずにここまで近づくことが出来た。
「さて、まずは皆の治療をしないと。」
まずは囮になってくれた皆の治療をしなければいけない。そしてその後はどうしてこの様な大規模な事件を起こしいてしまったのかサラとアンドリューに問い詰めなければならない。
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