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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
幻想の呪縛姫編

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第百四十六話 異端

俺達は城の中へ進み、玉座へと辿り着いた。見慣れた玉座に座っていたのはセルベスタ王ではなく若い男。そしてその側にはローブを被った人物がいた。身体つきからして女性であることはわかる。


「お兄様!」

「来たか…。」


シャーロットは玉座に座っている人物が見えると大きな声で叫ぶ。お兄様…つまり玉座に座っている男こそが第一王子アンドリュー・セルベスタなのだろう。俺は初めて見るがセルベスタ王に似ている部分が多いように感じる。整った顔ではあるがシャーロットとはあまりに似ていない。シャーロットは母親似ということなのだろうか。


「よくここまで辿り着きましたね。姫様。」

「あなたが黒幕ですね。」

「黒幕だなんて人聞きの悪い言い方ですわ。私はアンドリュー様の親衛隊長としてお側で支えさせて頂いてるだけですわ。」

「一体お前は何者なんだ?」

「私はサラ・イチノセ。アンドリュー親衛隊の隊長をしています。あなた達が《勇者》ですか、まさかああも簡単に親衛隊全員がやられるとは思っていませんでしたわ。」


フードをめくり顔を見せた女はアンドリュー親衛隊長サラ・イチノセと名乗った。年齢は俺達よりも少し上くらいであろうか、正確な年齢はわからないが10代であるのは間違いない。親衛隊が全員やられたと言っていたから未だに消えていない王都の霧はサラが発生させている張本人だろう。


「街の人達を眠らせたのも霧を発生させたのもお前がやったんだな。何であんなことをした、目的はなんだ?」

「たしかにあれをしたのは私ですわ。ですが全てはアンドリュー様をこのセルベスタの王とするため!」

「何だと?」

「アンドリュー様を王にすることが私の全てなのです。そのために必要な準備をしているだけに過ぎません。」


やはり全てはこのサラの仕業のようだ。しかしどうしてここまでアンドリューをセルベスタの王にしようとしているのかがわからない。


「アンドリューなら何もしなくても王になれたはずだ。その道を閉ざそうとしたのは自分じゃないか。」

「黙れ!」

「うっ!」

「くっ…なんて魔力なんだ!」


サラが感情が高ぶり怒りを露わにした。その圧には魔力が込められていた。意図的に込めたわけではないようだが、まるで魔族と相対した時のような圧を全員が感じていた。これだけの魔力なら街の皆を眠らせたり霧を発生させるなんて容易いことだろう。


「サラ。」

「いけませんわ。私としたことが、怒りで我を忘れてしまうところでした。申し訳ございませんアンドリュー様。」

「構わない。お前がいれば全ては問題はない。」

「お任せください。」


アンドリューはサラを宥める。だがどこか違和感を感じている。なんというかアンドリューはたしかに操られているというわけではないがどこかぼーっとしているようにも見える。


「おしゃべりはこの辺りにしてそろそろ戦うとしましょう。ですが多勢に無勢、さすがに私もこの人数を相手にするのは少し骨が折れそうですわね。ならば『霧の兵士(ミスト・ソルジャー)』!」

「霧か…?」

「見て霧が人の形になっていく。」


サラは霧を発生させるとそれは人の形へと変化していき、30体ほどの霧の兵士を作り出した。恐らく魔力で霧を包み込み人型にしているのだろう。


「さぁ始めましょう!」

「『創造(クリエイト)贋聖剣(オルタエクスカリバー)』、シャーロットこれを使って。」

「ありがとうございます。いきます!」

「皆、油断するな!」


俺は何も武器を持っていないシャーロットに『創造(クリエイト)』で作り出した『贋聖剣(オルタエクスカリバー)』を渡す。これで霧の兵士と戦えるはずだ。


「はぁ!」

「ダメだ全然斬れない。」

「霧でできた兵士だから実体がないのか。」


霧の兵士に斬りかかったり、素手での格闘をするが全然手応えがない。魔力で人型に留めているが霧という性質なだけあって物理攻撃ではまったく意味がないようだった。それを見たアリアとエレナは霧の戦士に向かって魔法を放つ。


「『炎の矢(フレイム・アロー)』!」

「『炎の槍(フレイム・ランス)』!」

「霧の兵士が消えていく。」

「どうやら炎に弱いみたいだね。」


どうやらサラが発生させた霧の兵士は炎属性の魔法に弱いようだ。弱点さえわかれば数が多かろうが、問題はない。アリアとシャーロットに続いて俺も炎属性の魔法を霧の兵士に向かって放つ。


「『炎の矢(フレイム・アロー)』!」

「これで全部片付きましたね。」

「なるほど…大体の実力はわかりました。《勇者》…どの世界でもまるで万能の様に語られますが、今の私に勝てるとは到底思えませんね。」


霧の兵士は全て消え去った。サラはそんな俺達の戦い振りを見て不敵な笑みを浮かべる。俺にはサラが言っていることがいまいち理解出来ていなかった。どの世界でも万能の様に語られるとは一体どういう意味なんだろうか。しかし、そんな疑問はすぐに払拭されることになった。


「君、もしかして《迷い人》か?」

「えっ…?」

「どういうことコータ。」

「………。」


コータはサラが《迷い人》ではないかと問いかける。俺達はどうしてコータがそう思ったのかわからず困惑していたが、サラは口を閉ざしていた。まさか本当にそうなのだろうか?


「確信があったわけじゃないけど、沈黙は肯定と受け取っていいかな。」

「ちょ、ちょっと待ってどういうこと?」

「どうしてコータはそう思うんだ。」

「まず1つ、彼女の魔力について。皆もわかってると思うけど王都の霧は今でも消えていない、にも関わらず霧の兵士をあれだけ作れるほどの魔法を使用している。並の魔力じゃないよね。ジェマみたいに魔力が回復する可能性も考えた。でも他に聞いたことがないし、結局蓋を明けてみれば彼女も《勇者》だったわけだからね。特別だったと考えよう。普通の能力者でもそれができないとは言わないけど、それにしては彼女は若すぎると思う。」


王都の霧は今でも消えていない。だが霧とはいえ人型の兵士を再現しつつそれを30体も出せる魔力は普通ではないだろう。コータの言う通りジェマの様に魔力が自然に回復する特殊な体質でもなければである。そしてジェマは《勇者》であった。だから特別でも不思議ではないのだ。だがここまでではまだ他の可能性も考えられる、例えば能力で魔力を賄っている可能性だ。しかしそれでもサラは俺達とそう変わらない年齢であるため、数々の魔族や実力者と戦ったここにいる皆以上の能力者であることが考えにくいということだ。


「そして2つ目は《勇者》に対する考え方とでも言うのかな。どの世界でも語られるという発言は別の世界から来てないと出てこない言葉だと思う。実際、言いたいことはわかるよ。僕も《迷い人》だからね。」

「前に言ってた《勇者》のイメージが違うって話?」

「そうだね、僕の世界じゃ《勇者》はたしかに万能なイメージだから、誰にも負けないとか余裕で勝てるみたいに思う気持ちはわかる。実際、魔族に殺されたり大人の能力者にはまだ勝てないってことを僕は知ってるけどね。ここまで泥臭い《勇者》達も中々いないよ。だけど彼女はそれを知らない、だからああいう言い方になったんじゃないかな?」


2つ目は《勇者》という物のイメージの違いらしい。コータの世界じゃ《勇者》は空想上の物であって実在はしない。魔法や魔物も存在していないと言っていた。だけどそれらも創作された物語の中には存在していて、中でも《勇者》はとてつもない強さを誇っており、負けなしでまさに《英雄》といった感じらしいと以前聞いたことがある。恐らくサラもその様なイメージをしていたから俺達を見てあの発言をしたのではないかというのがコータの見解の様だ。


「そして3つ目、まあこれはちょっと根拠が薄いけどサラ・イチノセっていう名前かな。《迷い人》、つまり転生者は基本的にこの世界の姓と名を貰う。理由はわからないけど不思議とこの世界は元の世界に似た姓と名になる。僕もたまたま元の世界っぽい名前にはなってるし。」

「ん?それなら別におかしいということはないんじゃないの?」

「僕は城の禁書庫でたくさんの《迷い人》が書いた日記や本を読んでる。当然書いた人物の名前も見たことがあるけど、イチノセという名字は聞いたことがない。この世界ではもちろん元の世界でも珍しい部類ではあるんだよ。だから異世界での名前を名乗っているんじゃないかと思ったのさ。前世の記憶が残っていればできない話じゃない。ここまでが彼女を《迷い人》だと判断するに至った理由かな。」


3つ目はサラ・イチノセという名前に思うところがあったようだ。これまた以前にコータに聞いたことだがなんとなく前の世界っぽい名前というのがあるらしい。俺達には判断が付かないが


「あなた名前は?」

「コータ・イマイ。」

「まさかあなたも《迷い人》とはね。しかも記憶のある。」

「じゃあやっぱり…。」

「そう。私もあなたと同じ《迷い人》よ。そして前世のことを覚えているわ。」


サラ・イチノセはコータの言うように《迷い人》であった。それも記憶が無くなっていない。コータは俺達《勇者》に関わっていたから《女神様》と出会い転生前のことを思い出すことができたが、彼女は何故前世のことを覚えているのだろうか。


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