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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
幻想の呪縛姫編

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第百四十五話 門番

俺達は城の門へと辿り着いた。いつもなら顔馴染みの門番が出迎えてくれるところだが、門は開かれておりそこには誰もいなかった。そして城の前にはローブを被った二人が待ち構えていた。残りのアンドリュー親衛隊なのだろう。


「ここまで来るとはな。」

「我々を倒せなければここは通れない。」

「また親衛隊か。」

「そうだ。お前達が倒した奴らとはレベルが違う。」

「あいつらを倒したくらいでいい気にならないことだ。」


そう言うと二人はローブを脱ぎ捨てた。二人の正体は人間族の男女だった。その鍛えられた肉体からはそこらの騎士よりも強者である雰囲気が出ている。油断することはできない。


「俺はアンドリュー親衛隊の一人バウ。」

「私はアンドリュー親衛隊の一人ユウ。」

「さっきは役に立てなかったから、今度こそ僕に行かせてもらおうかな。」

「見た所一人は剣士、拙者がお相手するでござるよ。」


バウとユウと名乗ったアンドリュー親衛隊の二人の相手は、先程デリラに全てを持ってかれてしまい何もしていなかったウールとユウが剣を持っているからとランマが相手をすることになった。


「いくでござる!」

「来い!」


ユウの剣とランマの刀がぶつかる。ユウという女性も中々の実力ではあるがランマの方が少し押しているように見える。


「『新山田流壱式・疾風迅雷』!」

「ふっ。」

「くっ…。」


ランマの『新山田流壱式・疾風迅雷』を受け止めるとは、相当防御が得意なのだろうか。そんなに魔力も無いように見えるし使用している剣も悪いものではないが、何か特別な部分があるわけではない。となるとユウの能力によるものか。


「それが全力か?なら私の防御力を突破することはできないな。」

「何!」

「私の能力は《鉄壁》。その名の通り自身の防御力底上げするというシンプルなものだ。攻撃が当たってもダメージがなければいくら受けようと問題はない。」


防御力を上げる能力か、たしかにシンプルだが手強い能力だと思う。どんな攻撃も魔法も身体に傷をつけることができなければダメージにはならない。しかも彼女の場合、魔力を使用しているわけではなく素の能力で防御力を上げられるのだ。どれほど防御が上がるかはわからないがその状態を魔力無しで常時維持できるのは大きい。


「それならこれはどうでござるか!『新山田流伍式・泰山砕き』!」

「甘い!『防御の構え』!」


ランマはユウに向かって『新山田流伍式・泰山砕き』を放つ。だがユウが取った『防御の構え』はランマの腕を掴み刀は身体に届くことはなかった。俺は驚いた、ランマは《神速》によって速さを上げている。いくら防御が高くなろうがそう簡単にあの速さに対応できるわけではない。ランマも防がれることはあっても刀を振るう腕を掴まれるのは初めてのことで驚いていた。


「どうやって掴んだでござるか!?」

「なんてことはない。私は防御力が高い、攻撃を食らうことを前提としていればどんなに速さがあろうとそれを防ぐことはできます。」


なるほど、言っていることはわからないでもない。攻撃が来る場所がわかっていればそこに手を置けばたしかに掴めるかもしれない。だがそれは防御を捨てる前提の話である。普通にできる芸当ではないが、ユウの能力あっての技術だな中々苦戦しそうだ。さてウールの方はどうだろうか。


「『水の球(ウォーター・ボール)』!」

「はぁ!」


ウールが放った『水の球(ウォーター・ボール)』をバウは片手で弾いていた。身体強化系の能力だろうか?いや、よく見るとバウの腕はまるで鎌の様に変化している。弾いたのではなく、斬り裂いたのだ。俺はその姿に見覚えがあった。あれは実家に帰った時に出会った魔物ブレイド・マンティスの腕と酷似しているのだ。


「随分と簡単に『水の球(ウォーター・ボール)』を斬り裂いたね。」

「これはある魔物の腕に変化させたのだ。」

「なるほど、そういう能力者ってことか。」

「俺の能力は《魔物変化》。身体の一部を自分の倒した魔物に変化させることができる。」


身体の一部を魔物に変化させる能力か。初めて聞く部類の能力だな。魔物の姿や技を再現するといった魔法は聞いたことがあるが魔物そのものになるという魔法や能力は聞いたことがない。かなり珍しい能力者だろう。


「こうやって鋭い爪を生やすこともできる。」

「だけど当たらなきゃ意味ないんじゃない?」

「たしかにそうだな。だがこれならどうだ!」


バウは腕を毛深く鋭い爪が生えている狼系の魔物の様な腕に変化させる。さらに両足を昆虫系の魔物の足に変化させて一気にウールとの距離を詰めた。


「『狼の爪(ウルフ・クロウ)』!」

「グラスホッパーってやつか!」

「取った!」


一瞬でウールの元へと飛んだバウは鋭い爪でウールの身体を斬り裂いた。ウールの身体は跡形もなく消え去った。


「ふっ、他愛もない。」

「『水の槍(ウォーター・ランス)』!」

「何だと!?ぐわぁ!」


バウが倒したと思っていたウールは『蜃気楼(ミラージュ)』によって作られた分身であった。まあ跡形もなく消え去った時点で疑って欲しいところだが、倒した魔物に変化させることができると言っていたしあまり対人戦闘には慣れていないのだろうか。まあウールの魔法はかなり面倒だから初見で見破れる方が凄いのか。さて、そろそろランマの方は決着がつきそうだ。


「いくら防御が硬くても限界はあるでござろう!」

「それでもいい、少しでもサラ様のために時間が稼げれば…。」

「…?よくわからないけど拉致が明かないでござるな。」


いつかは限界が来る、しかしそれを待っていられるほどの時間はない。ユウは時間稼ぎを目的にしているようなことを言っているが、それに付き合ってやる必要はないのだ。ランマは勝負を仕掛ける。


「『新山田流伍式・泰山砕き』!」

「それはさっきも見た!『防御の構え』!私の防御は突破できない!」

「たしかにそうでござるな。だけどこれは攻撃がもくてきじゃないでござる。」

「何?」


ランマは先程ユウの『防御の構え』によって防がれた『新山田流伍式・泰山砕き』を再び放つ。しかしユウの言う通りこれでは攻撃を当てる前に防がれてしまう。そこでランマはあえて『防御の構え』の引き出すために『新山田流伍式・泰山砕き』をフェイントとして使ったのだ。


「『新山田流弐式・桜華爛漫』!」

「くっ、防げない!きゃぁぁぁ!!!」

「次は攻撃する術を身につけるべきでござるな。」


『新山田流弐式・桜華爛漫』は《神速》の能力を剣速に全て注ぎ込んで繰り出す技である。五秒の間にひたすら相手を切りつけるというシンプルな技である。現在のランマでは剣速に全てを注ぎ込めるのが五秒間が限界だが、成長すればさらに秒数が伸ばせ攻撃回数が上がることになるだろう。


「ふぅ。ウール殿はどうでござろうか。」


俺達とランマはウールの戦いに目を向ける。ウールも戦いが長引くのはあまり得意ではない。というのもウールが使用する『蜃気楼(ミラージュ)』はかなりの魔力を使用する。だから使い所も考えなければならないし、戦いが長引くのは不利になってしまう。


「さて、向こうは決着がついたみたいだしそろそろこちらも終わらせようか。」

「だがお前の攻撃では俺を倒すことはできないぞ。それに分身を作る魔法に大分魔力を使うのだろう?」

「よくわかっているじゃないか。その通りさ。」


バウという男もウールの弱点に気付いたようだ。だがウールはどこか余裕な態度を見せている。デリラとの帰省で何かを得ることができたという口ぶりだったからきっとそれの影響だろう。一体、何を見せてくれるのだろう。


「僕は攻撃魔法は苦手でね。前は手数を増やして攻撃をしようと考えていたんだけど。」

「『狼の爪(ウルフ・クロウ)』!」

「おっとまだ話してる途中だよ。」

「御託はいい!どうせ俺に殺されるのだから!」

「性格まで狼寄りになるのかなぁ。まぁいいか。」


バウは両手両足を狼系の魔物に変化させていた。ウールを連続で攻撃するが魔法を使用せずウールはそれを全て躱す。バウは一度距離を取る、だがそこには先程までユウと戦っていたランマが合流していた。


「ユウと戦っていた女を呼んだのか。2対1だろうと俺は構わないがな。」

「まあ2対1ってのは否定しないけど向こうをよく見てごらん。」

「あっちにも女が!?一体どうなっている。」

「これが僕の新しい魔法『蜃気楼(ミラージュ)現実(リアリティー)』。この魔法はまだ慣れていなくてねっていつも言ってる気がするな。」


ウールは新魔法『蜃気楼(ミラージュ)現実(リアリティー)』によってもうひとりのランマを出現させていた。今まで『蜃気楼(ミラージュ)』でも俺達の分身を出現させたりしていたがこの魔法にはそれ以上の何かがあるのだろう。


「二人でも同じことだ!『狼の爪(ウルフ・クロウ)』!」

「いや、終わりさ。」

「『新山田流壱式・疾風迅雷』!」

「がぁ…。」

「それがランマの剣技さ。」


ランマの分身は『新山田流壱式・疾風迅雷』、つまりランマの技を完璧に再現して見せたのだ。そして斬りつけられたバウはその場に倒れ込む。魔物の姿に変化した部分も元に戻っている。俺達は二人のもとに駆け寄る。


「二人共、流石だね。」

「いやそれほどでもないでござるよ。それより拙者はウール殿に驚いたでござる!」

「そうそう。本当にランマがいるみたいだったよ!」

「ああ、あれはデリラの相手をさせられすぎて覚えた魔法なんだ。」


そう語るウールの顔は悟ったような表情を受けべていた。バルムンク家に帰省している時のことを思い出しているのだろうな。今回の件が片付いてからちゃんと聞いてあげよう。


「さぁ、皆。城に乗り込もう!」

「「「おう!!!」」」


俺達は城の中へと入り、玉座を目指して進んでいくのであった。

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