第百四十四話 囚われの姫
コーデリア達は王都の中でもあまり建物がないエリアへと来ていた。このエリアに建物がないのは騎士団専用の演習場があるからだ。学園内にも演習場がいくつかあり、そこを利用することもあるが騎士団は基本的に専用の演習場があるのだ。とはいえ王都に常駐している騎士団は宮廷魔道士団だけであり、常に使用するわけではないので、普段は冒険者の魔法の練習などに開放されている。
「コーデリアどうだ?」
「今の所…何も。」
「拙者、あんまりこの辺りには来たことがないでござる。」
「そうだな、普段は初心者冒険者の講習などが行われている。俺達でも利用できるが街を破壊しかねないからな。」
ディラン達は普段、王都の外で修行をしているがそれは街を傷付けないためでもある。思い切り魔法を発動しようと思うと、どうしても広い場所が必要になる。この場所も十分広い場所ではあるが、他に人がいる可能性を考えると外に出た方がいいと考えているからである。
「この辺りは建物が少ないからすぐに調べることができるだろう。」
「魔法が飛んできそうなのにここに住んでる人もいるんでござるな。」
「危険がある分土地が安いからな。」
「そういうことでござるか。」
3人は少ない建物の中を見て回るが、眠らされている住人しかおらずシャーロットは見つからなかった。
「どうするでござるか?」
「他のエリアと合流するか。」
「ちょっとだけ…待って欲しい。」
「コーデリア殿、何かあるでござるか?」
「うん…何か…ある気がする。」
コーデリアは《勇者》同士の感覚ではない何かを感じていた。目を閉じて集中する、するとどこかで水が落ちる音が聞こえた。
「水の…落ちる音…。」
「水?でござるか。」
「この近くに噴水や水路はないはずだが。」
「何もない…演習場の方。」
「とりあえず向かってみるか。」
3人は再び演習場の方へと足を運ぶ。演習場は芝が生い茂っている、一部魔法の影響で剥げているのだろうが特におかしな所はない。もちろん建物もない。
「うん…やっぱり…聞こえる。」
「どのあたりかわかるか?」
「あそこ…少し芝がない…ところ。」
「拙者には何がなんだか…。」
ディランはコーデリアが感じている物が何を示しているのか理解できたが、ランマはどういうことなのかわからず少し戸惑っていた。そしてディランはコーデリアが示した方向に魔法を発動させる。
「『電気探査』!」
「どう…?」
「…たしかに空間がある。」
「ディラン殿どういうことでござるか?」
「水が落ちる音が聞こえるということはそれだけ空間があるということだ。もしかしたらそこにシャーロットが囚われているのではないかと考えたんだ。」
ディランが魔法でコーデリアが示した辺りを調べるとたしかに土の中に空間があることがわかった。水が落ちる音が聞こえたということは、ある程度広い空間があるということだ。とくにこの演習場では建物がなく地面が続いているだけである。こんな所で水が落ちる音は聞こえるはずもないのだ。
「なるほど、だからディラン殿は探知の魔法を使ったでござるな。でもどうして水の落ちる音がコーデリア殿には聞こえたのでござろうか。」
「わからない…。」
「恐らくだが、それが彼女の《副技能》なのではないか?」
「《副技能》…。」
コーデリアは水の位置がわかるという《副技能》に目覚めていた。3人は空間がある方へと向かっていく。ディランが土魔法で周辺の土を掘り返すと階段が出て来た。そこでコーデリアはその先から《勇者》特有の感覚を感じた。
「この先…シャーロットが…いる!」
「進むでござる!」
「ああ!」
3人が階段を降りて先へと進んでいくと薄暗く四角い空間の中に、鎖で繋がれているシャーロットを発見した。
「シャーロット!」
「み、みな…さん。」
「よかった、無事のようだな。俺は皆を呼ぶための合図を送ってくる。」
「お願いするでござる。」
シャーロットは少し、傷ついているが元気そうであった。鎖を破壊し地上へと連れ出す。ディランの合図によってユーリ達のグループとエレナ達のグループと合流する。シャーロットは『治療魔法』によって回復し、口を開いた。
「皆さんありがとうございます。」
「大体のことはカルロスから聞いたよ。」
「今回は兄が皆さんにご迷惑を…」
そう言ってシャーロットは深く頭を下げる。いつもの堂々とした姿とは異なり随分弱っているようにかんじる。こんな地下に囚われていたということもあるだろうが、自分の兄が引き起こした事件というのもあって責任を感じているのだろうか。
「シャーロットが悪いわけじゃないんだ、気にしなくていいよ。それよりも早くこの状況をなんとかしないと!」
「そうですね。詳しいことは城に向かいながらお話します。」
俺達はシャーロットを含めた9人で城へと向かう。そしてシャーロットはアンドリューのことを語りだす。
「4つ上の兄であるアンドリューは私が幼少期の頃はとても優しい人でした。誰からも好かれていて、もし王の素質がなくても次期セルベスタ国王になって欲しいと望まれるほどに。そして《女神の天恵》で授かったのは《王の器》という能力でした。」
「期待されていた通りの能力だったということだね。」
「そこまでは順調のようだけど…。」
「はい。当時はまだ不確かな情報でしたが《勇者》が現れたという情報がセルベスタ王国にも入ってきました。最初はセルベスタ王国として協力を求めるために兄が代表として《勇者》の捜索をしていたのですが…いつしかその《勇者》の力そのものを求めるようになってしまいました。」
今となってしまえば《勇者》が現れたというのが偽の情報だとわかる。ヴェルス帝国の様に勘違いしていたということもあるだろうが、エレナとシャーロット以外の二人は自分が《勇者》であることを最近まで知らなかったのだから、当時の情報は偽なのだ。ではなぜヴェルス帝国の様なことが起こったのか。理由は俺なりの解釈ではあるが、本当の《勇者》を魔族から守るためにあえて間違った伝説や伝承を各地に残していたのではないかと思う。そしてその伝説的な話通りならば莫大な力である、何がきっかけはわからないがアンドリューが求めるものわからないでもない。
「そして兄を国外に追いやることになった一番の原因は、私が《剣の勇者》であったことです。実妹が《勇者》であれば利用しやすいと考えたのか、私を利用して他国を力で支配しようと考えていました。ですがいち早くそれに気付いた父…セルベスタ王は兄を国外へと追いやるため外交の任を命じました。」
「アンドリューの国外追放後はどうだったんだい?」
「ヴェルス帝国領にいたということまでは把握していましたが…中心街が魔族に襲われて以降連絡がとれなくなってしまっていたのです。」
「なるほど、そこで死んだと思っていたのかな。」
「正直に申し上げるとそうですね。」
《勇者》の力を求める兄と《勇者》の力を持ってしまった妹か。セルベスタ王も自分の息子がまさかそんな風になるとは思わなかっただろうな。だがシャーロットの話を聞く限り対応に問題があったとは思わないし妥当なところだろう。
「そして親衛隊を7人連れて、このセルベスタ王国に帰ってきたということだね。」
「はい。すぐに何かを起こすことは私も王もわかっていたので、目的を聞き出そうと警戒していたのですがこんなことになってしまいました。すぐに追い出しておくべきでしたね。身内だからか甘くなってしまったのかもしれません。」
「でも目的は何なの?さっきの話じゃ随分《勇者》にお熱だったみたいだけど、ユーリ達に直接手を出してこない辺り何か別の目的があるんだよね?」
フルーの指摘はごもっともである。アンドリューの狙いが《勇者》であるならば俺達に親衛隊をぶつけたらいいだけのようにも思える。そっちの方が手っ取り早いからな。でもわざわざ俺達を人質という形で学園に留めようとしたということは《勇者》が目的というよりは《勇者》の必要性はわかっているが目的のためには邪魔といったところだろうか。
「恐らく。ですが、それが何かというのは私にもわかりません。」
「うーむ、《勇者》に興味がなくなるようなこと…。」
「まあ本人に会えばわかることだろ。」
「そうだね。まだ親衛隊は残っているし、気を抜かないように行こう。」
俺達はアンドリューと親衛隊の待つ城へと急ぐのであった。
◇◆◇◆
アンドリューとサラは親衛隊の3名がそれぞれ撃破される所を映像魔法によって把握していた。さらにシャーロットが救出されたところも見ていたのであった。
「くっ…どいつもこいつも使えない!」
「サラ。」
「も、申し訳ございませんアンドリュー様。」
「構わない。それで奴らはここに向かっているのだな。」
「はい。すぐに処分いたします。」
サラ少しだけ苛立っていた。思っていたよりも《勇者》の力は大きく親衛隊はあっさりとやられてしまったからだ。アンドリューは反対に落ち着いていた。相手はあの《勇者》だ。最初からあれくらいでなんとかなるとは考えていなかった。
「ユウ!バウ!」
「「はっ!!」」
サラがユウとバウという名前を呼ぶとすぐにローブを被った二人が現れた。
「姫を含めた《勇者》の一団が城に向かってきている。」
「わかりました。処分してまいります。」
「サラ様、我が王しばしお待ち下さい。」
「ああ。」
そして二人の姿は一瞬で消え去った。
(少し《勇者》を侮りすぎたわね。やはりどの世界でも《勇者》っていうのは特別なのかしら。まあいいわ、例えここまで辿り着いたとしても私に勝つことは絶対にあり得ない。)
サラは不敵な笑みを浮かべる。アンドリューは映像魔法に写ったシャーロット達の姿と囚われている王の姿をただ無言で見つめているのであった。
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