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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
幻想の呪縛姫編

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第百四十三話 迫りくる親衛隊

エレナとコータ、フルーの三人は王都の中でも商店が多くあるエリアへと来ていた。ここには冒険者ギルドもあり普段は一番王都の中でも人の往来が激しいエリアである。だがやはり誰も歩いておらず不気味な雰囲気になっている。


「ここにも人がいないようですね。」

「どうやら家の中で眠らされているみたいだよ。」

「こんな規模の魔法って…。」

「昨日今日で行ったわけではないでしょうね。計画性のある犯行とみて間違いないでしょう。」


流石にそこまでの中長期間、魔族が王都に侵入しているとは考えにくいとエレナは考えていた。であれば間接的かはともかく魔族が直接関与していないことはわかる。だがそれはそれで問題である。理由はわからないが第一王子のアンドリューの意志で行っている可能性もあるのだから。


「魔族はともかくただの人間族に操られていたとなると問題になりそうですね。」

「どうして問題になるの?」

「そりゃもし操ってたのが他国だったら国際問題になるだろうし、かといってセルベスタ王国の人間でもこれだけの被害者を出している。王子様の意志だろうが、操られていようが責任取るのは王家になるんだよ。」

「そのためにセルベスタ家は自分の従者選べるわけですから、判断が間違っていたと思われても仕方ないです。」


王子と言えど王家には責任が問われる。自分の従者に騙されてこんな事件を起こしてしまった。例えそれが操られていたとしても責任は取らなければならないのだ。今思えばだからこそシャーロットは自分で集めた者で構成した騎士団が欲しいと考えているのだろう。


「さて、ここの通りにもいませんでしたね。」

「となると他のエリアってことになるのかな。」

「そうですね。とりあえずどちらかグループと合流しましょう。」


このエリアにいないとわかったエレナ達はユーリ達かコーデリア達と合流することにした。そして歩き出そうと一歩踏み出した瞬間、3人を何かが襲う。


「痛っ!」

「何これ、針!?」


3人は突如針のような物に襲われる。それぞれ腕や足に針が刺さってしまう。だがそこまでのダメージはなく少し痛いと感じる程度の物だ。


「フフフ、《勇者》大したこと無い。」

「あなたは何者ですか?」

「オイラはアンドリュー親衛隊の一人セウ。お前が《勇者》だな。」

「ええ、そうですよ。」


エレナ達の前に現れたのは獣人族の男であった。背中には先程攻撃してきた針のような物が刺さっている。ような物というより毛針だろう。


「アンドリュー親衛隊、なるほどあなたがカルロスの言ってた正体不明の男女の一人ですね。その耳に背中の針、獣人族ですね。」

「そうさ、オイラは針鼠の獣人だ。そして《毒使い》でもある、オイラは身体の針に『毒魔法(ポイズン・マジック)』で毒を付与してある。そろそろ症状が現れるだろう。」

「うっ…そう言われると腕が痺れて動かない。」

「僕も足が動かないみたいだ。」

「フフフ。そうだろう。」


セウという男は針鼠の獣人らしい、先程の針は背中針を飛ばした攻撃だったのだ。さらにその針には毒が塗られているらしい。フルーとコータは徐々に毒の効果が現れ始めているようで、身体が痺れている。しかしエレナは何も感じていなかった。


「なるほど、そういうことですか。」

「なっ、オイラの毒が聞いていない?」

「そうですね。私も驚きましたが、青い炎にはこんな効果もあるようです。」


エレナは針を抜き、最近発現した青い炎によって傷を塞ぐ。するとみるみる内に傷は塞がった、さらに身体に回っていた麻痺毒も青い炎によって解毒されているようだった。これはエレナにとっても新しい発見であった。


「二人にも炎を移せればいいのですが、今はまだできないようですね。」

「ここはエレナに任せるよ。」

「ぶっ飛ばしちゃって!」

「ちょっと麻痺毒が効かないくらいで調子に乗らないことだ!『毒針(ポイズン・ニードル)』!」

「『炎の壁(ファイア・ウォール)』!」


エレナはセウが放った毒針を『炎の壁(ファイア・ウォール)』で毒針を防いだ。否、完全に燃やし尽くしたのだ。コータとフルーは驚いた、いくらエレナが強いとはいえ『多重展開(マルチ・キャスト)』をしていない魔法でここまでの炎を出せるとは思っていなかったのだ。


「オイラの針を燃やしただって!?」

「自分でも不思議です。この前のレシア砂漠で戦ったときから力が溢れるようです。」

「これなら止めれまい!『毒針突進ポイズン・ニードル・チャージ』!」


セウは身体を丸めるとその場で球体の様な姿になった。そして回転が加わり、背中の針が地面を破壊する。この姿で突進されたらひとたまりもないだろう。


「くらえ!」

「受けて立ちます!」

「うぉぉぉ!!!」


転がりながら突進してくる毒針玉となったセウをエレナは真正面から受け止めようとその場を動かない。そして構えを取り右手に魔力を込める。


「『炎神の一撃(アグニ・ブロウ)』!」

「あれは…!」

「ユーリの!?」

「ぐはぁ…ま、まさか…。」


エレナは自身の腕に毒針が刺さるのもためらわず、拳でセウの『毒針突進ポイズン・ニードル・チャージ』受け止めた。そしてそれを止めた魔法は《紅蓮の勇者》の力を使用している時のユーリの魔法『炎神の一撃(アグニ・ブロウ)』である。エレナは意識していたわけではないが使えたのだ。そして傷口は青い炎で回復する、しかしその場で膝をついてしまった。


「流石に青い炎を乱用しすぎましたか…。」

「大丈夫エレナ?」

「はい、お二人は?」

「うん、もう大丈夫だよ。それにしてもエレナさっきの魔法って。」

「ユーリ君が《紅蓮の勇者》の魔力を使用している時の魔法ですね。無意識だったんですが…どうやら使える様になったみたいです。」


フルーとコータは痺れから回復し、エレナの元へと駆け寄る。エレナは二人が無事で安心した、それと同時に自身の目覚め始めた力に戸惑いを持った。


「もっと修行が必要ですね。」

「私ももっと頑張らないとなー。」

「僕も足りない物が見えてきたよ、とりあえず今は皆と合流することを目標にだね。エレナ立てるかい?」

「はい、大丈夫です。行きましょう。」


課題はあるが、今はシャーロットの救出が優先である。皆と急いで合流できるように街を駆けていく3人であった。


◇◆◇◆


ユーリ達はロウの魔法によって動きが取れなくなっていた。そしてロウはゆっくりとユーリ達に近づいて来る。手には蝋で作られた剣の様な物を握っている。


「『蝋の剣(キャンドル・ソード)』、これで順番に息の根を止めて上げますよ。」

「くっ…動け!」

「『炎の円(フレイム・サークル)』!」

「ほぉ。炎ですか。」

「蝋なら炎で溶けるでしょ!」


たしかに蝋燭は火を灯すことで溶けていく。そこでアリアは炎で溶かそうと『炎の円(フレイム・サークル)』で自分達を囲んだ。すると考えていた通り蝋はどんどん溶けていく。しかしそう簡単に脱出できるほど甘くはなかった。溶けた部分からさらに蝋は吹き出し、固められた足元の蝋はどんどん身体の上へと昇ってくる。


「たしかにそうですが、私が対策をしていないとでも?その蝋はただの蝋ではないのです。私の能力は《魔力食い》相手の魔力を少しだけ奪うささやかな物ですが、私の魔力が込められている蝋にもその性質は受け継がれています。蝋は魔法に含まれる魔力を食べそしてそれを利用し蝋は増えていく。」

「そ、そんな!」


蝋を魔法でどうにかしようとすると余計に蝋が増えてしまうということだ。実に面倒な能力である、しかし裏を返せば魔力を込めない攻撃ならば大丈夫だということだ。


「やぁ!」

「な、何!?」


デリラは大剣で足元の蝋を砕く。そして俺達は脱出することができた。デリラの様に元々怪力なのであれば魔法を使用しなくても蝋くらい砕ける。この場にデリラがいて助かった。


「ここは僕に任せてよ!」

「アシストは僕がする。」

「いいのか二人共。」

「絶対他にもいるだろうし、大将は最後に持ってくる物でしょ。」

「大将って…。」

「少し脱出できたくらいで随分と私も舐められたものですね。」


ロウの相手はデリラとウールがしてくれるらしい。たしかにウールの言う通り、恐らくこの霧と街の住人を気絶させた人物がいることを考えると戦力は温存しておきたいところだ。


「舐めてるのはどっちかな。」

「は?」


その瞬間ロウの身体が吹き飛ばされた。デリラが移動してロウの身体を大剣で叩き飛ばしたのだ。今回の帰省でまた力を上げたな、それにソレイナ国のときよりも大分吹っ切れている。あの時暴走してしまった問題はちゃんと解決することができたのだろうな。


「ぐっ…これしきのこと。」

「そうでもないんじゃない?」

「えっ?」

「『龍の爪(ドラゴン・ネイル)』!」

「『蝋の壁(キャンドル・ウォール)』!」

「あの技って…」


たしか『龍の爪(ドラゴン・ネイル)』は紫龍騎士団団長のクリスさんが使う技だ。どうしてそれをデリラが使えるんだろう。デリラは蝋で作られた壁をものともせずにロウを斬りつけた。


「うぉりゃー!」

「ぐわぁぁぁ!!!」


ロウはその場で倒れ込む。完全に気絶してしまっている。


「ふぅ。これが僕達の力さ。」

「ウールは何もしてないような…。」

「危なかったら助けようと思ってたさ。それに僕の新技は使う場所と時を選ぶんだよ。」

「それにしてもさっきの技、たしかクリスさんのじゃ…」

「そうなの?実は実家にあったから覚えてきたんだけど。」


ふむ、なるほど。バルムンク家の中に過去に龍殺しの技の使い手でもいたということだろうか。今となっては龍自体がほぼ絶滅しているし中々継承されにくい部類の技だろうに、どうやって覚えたのか今回の事件が落ち着いたら詳しく聞こう。


「さてと皆と合流して早くシャーロットを探さないと。」

「そうだね。急ごう。」


俺達は他のメンバーと合流すべく、動き出すのであった。


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