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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
幻想の呪縛姫編

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第百四十一話 シャーロットの行方

俺達は学園長の案内で職員室へと向かう。職員室内では複数の教員がリリス先生や《白》クラスの担任の様に気絶していたが軽症だった。すぐに『治療魔法(ヒール)』を掛け、手当をする。学園長は職員室にあった本を手に取る。これが学園の結界の依代なのだろうか。


「この本が依代になっているんだ。代々の学園長だけが知っていたんだが、これはもう使えないな。」

「そうですね。緊急事態なのでやむを得ません。」

「まあ学園長の魔力しか反応しないようにしてあるから私以外は動かせないのだな。」


この何の特徴もない本がこの学園全ての結界を維持しているらしい、そうは見えない。賊もそれには気付かなかったのだろう。しかし疑問は残るな、侵入した方法はわかったがどうやって俺達の位置を特定したのだろうか。学園内の地図があったとして、結界の中で唯一登校していた俺達を真っ直ぐに狙いに来ることができるものだろうか?


「これで外に出られるはずだ。」

「わかりました。俺達は外に救援を呼びに行ききます。学園長は先生達と残った生徒を守ってください。」

「ああ、気をつけていけよ。」

「はい!」


俺と動けるメンバーだと判断したいつもの7人は救援を呼ぶため学園の外に出た。しかし門を出るとそこには異様な光景が広がっていた。街が霧で覆い尽くされているのだ。


「何だこれ。」

「空が見えない。それに誰も歩いてない?」

「学園だけじゃなくて王都で何かが起こってるってことだね。」

「…ダメだ。やっぱり魔道具での連絡ができない。」

「『探知(サーチ)』!…魔法もダメみたいですね、何も見えません。」


街は太陽の光が入ってこないほどの分厚い霧で覆われており、誰も歩いておらず全体的に薄暗く不気味な雰囲気になっている。さらに外にいるのに学園同様に通信も探知系の魔法も発動はできるが何も見つからない。朝にもなんとなく違和感があったが、学園だけではなく王都全体で何かが起こっており学園での出来事は一部に過ぎないのかもしれない。


「この霧、結界か?それとも自然に発生させてるのか?」

「私に任せて!『風の拳(エア・フィスト)』!」


フルーは霧を吹き飛ばすために風属性魔法を発動する。これが結界が発生させている霧であるなら、吹き飛ばすことはできない。しかしフルーの放った風の拳は霧を吹き飛ばし太陽の光を見ることができた。


「やった!」

「これは結界じゃないってことか。」

「見て!霧が戻ってく。」


だがすぐに霧は押し寄せ再び当たりは薄暗くなってしまった。つまり結界が発生させている魔法ではないが、とてつもない規模で発動している霧そのものを発生させる魔法ということになる。


「こんな規模で魔法を発動させることができるのは…。」

「魔族…か?」

「たしかにね、だけどわからないよ。ジェマみたいな特殊な体質ってこともあるんだから。」

「コータの言う通りまだ断定はできないね。とりあえずこのまま城に向かおう。連絡が取れない以上直接出向くしかない。」

「そうだな、急ごう。」


俺達が城に向かって走り出そうとするとこちらに向かって駆けてくる足音が聞こえた。その音はかなり素早くもうすぐそこまで迫っているという感じだ。俺達は音のする方に身構える。


「ユーリ様!アリア様!」

「マルクさん!一体どうしたんですか?」


こちらに向かってきたのは俺達のよく知る人物マルクさんであった。一体どうしてこんな所にマルクさんがいるのだろうか。


「実は先程屋敷の方に傷だらけのカルロス様がいらっしゃいまして。」

「カルロスが?」

「ええ、今は屋敷にて手当をしておりますが、ユーリ様達に城へは行くなと伝えるように頼まれました。ただ事ではないと思い学園に向かおうと外に出た所、この霧でしたので何かが起こっていると思い急いで参りました。」

「そうでしたか、ありがとうございます。」

「どうするユーリ?」


ここのところ学園に来ていなかったカルロスが傷だらけで家を訪ねて来た。何もないわけがないだろう、むしろこの状況に対して一番情報を持っている可能性がある。《拳銃》の件もあるし、ここはカルロスの様子を見に行くほうがいいだろう。


「皆、とりあえず一度家に行こう。」

「そうだね。学園のことや街で起こってることについて何かわかりそうだ。」

「急ごう!」


俺達は屋敷へと向かった。学園から屋敷に帰るまでにも、人の姿を見かけなかった。家に帰るとユキさんとシロがカルロスの手当をしていた。息はしているが身体中に傷が付けられている。カルロスがここまでやられるとは…。


「カルロス!」

「ユーリ…シャーロット様が…。」

「いけません!まだ起き上がれる様な状態では…。」

「第一王子が謀反を起こしたのです。」

「なんだって!?」

「最近戻ってきたっていう第一王子か。」


カルロスは俺達の姿を見ると起き上がる。しかしまだ身体は上手く動かないようでユキさんが身体を支える。カルロスの話によると第一王子が謀反を起こしたということらしい。学園に入ってきた自称衛兵の賊も関係があるのは間違いない、なにせ王都の衛兵は第一王子の管轄だからだ。


「はい。第一王子であるアンドリュー様は正体不明の男女を7名連れて帰り、自身の管轄である王都の衛兵を操って何かを企んでいる所までシャーロット様は突き止めたのです。しかしそれを勘付かれ捕らえられてしまいました。」

「正体不明の男女7人?」

「はい。認識阻害のマントを被っていたので男女がいたということくらいしかわかりませんでしたが、並の能力者ではないと思います。街の霧も恐らくその連中の仕業だと思います。」


第一王子アンドリューがどんな人物かはわからない。しかしシャーロットや王様からここまで話が出なかったということは戦闘系の能力者などではないと思われる。もしそうだったら手元において戦いに赴かせている気がする。そして正体不明の7人の男女、そいつらが今回の事件に協力していることも間違いないだろう。


「実は学園にも賊が侵入してきたんだ。そいつらは衛兵を名乗ってて、王様の署名と偽造のできない特殊な紙を使用していると学園長は言ってた。」

「アンドリュー様であれば簡単に手に入れられるでしょうね。」

「それでカルロス、話を聞く限りじゃ城に向かっても良かったと思うんだけど何故僕達を止めたんだ?」

「シャーロット様は恐らくどこかに捕らえられているのです。」

「捕らえられている?」

「私は宮廷魔道士団で《拳銃》の試作品と設計図が盗まれたと聞き、研究所にいました。そこで違和感を覚えた私はシャーロット様に報告するため城へ向かったのですがそこで正体不明の7人の男女に襲われました。抵抗しようとしたのですが映像魔法に写された囚われのシャーロット様を見て手が出せなくなり、なんとか逃げ出してきたのです。」


やはり《拳銃》は盗まれたものだった。あのバーリットという男は正体不明の7人の男女の一人だろうか。さらに勘付かれ邪魔になったシャーロットをどこかに幽閉したということだ。殺さないという選択肢を取るあたり目的はシャーロットに何かがあると考えてもいいかもしれない。《勇者》がいなくなるのは困るということかもしれないが、これだけのことを起こす連中がそこまで考えるようにも思えないからな。


「シャーロットが捕らえられている場所はわかる?」

「城ではないとこは確かですが…どこかというのは…。」

「『探知(サーチ)』が使えない以上、どうやって捜索する?流石にこれだけの人数であてもなく探すのは厳しいぞ。」


街に発生した霧のせいで魔道具の通信も『探知(サーチ)』の魔法も意味をなさない。この広い王都の中からどうやってシャーロットを見つければいいのか。何か方法があるはずだ。すると扉の方から声がした。


「私達なら…わかるはず。」

「コーデリア、ランマ!二人共無事でよかった。」

「冒険者ギルドに行こうと思ったら霧が発生して、これは何事かと引返してきたでござる。」


後ろを振り返るとそこにはコーデリアとランマがいた。二人共屋敷にいなかったから心配はしていたがどうやら無事に帰ってくることができたようだ。


「何事か…わからないけど…シャーロットの居場所…私達なら探れる。」

「そうですよ!私達《勇者》同士の感覚で探すことができるんじゃないですか?」


そうか俺達に共通している《勇者》であればお互いの感覚で見つけることができるかもしれない。ジェマを砂漠で見つけた時も魔力や結界の影響はあったし、ジェマ本人が《勇者》と自覚していなくても反応していた。ということはこの霧の中であっても反応する可能性が高くシャーロットを見つけることができるかもしれない。


「そうだね、今までのことを考えるとこの霧の中でも見つけることができるかも。」

「それでは3つのグループに分かれましょう。」

「じゃあ俺とアリア、デリラ、ウール。エレナとコータ、フルー。コーデリアとランマ、ディランで分かれよう。」

「見つけたら空に向けて何か合図を送るようにしましょう。」

「わかった。皆気をつけて。」

「皆さん…シャーロット様をお願いします。」

「もちろんだ。ユキさんカルロスのことよろしく。」

「お任せください。」


俺達は3つのグループに分かれてシャーロットを捜索することにした。一刻も早く見つけなければ。

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