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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
幻想の呪縛姫編

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第百四十話  動き出した影

俺とジークは正体のわからない男二人を制圧することができた。すぐにカイラとリリス先生に『治療魔法(ヒール)』を発動する。二人ともそこまで傷が深いわけではないのですぐに傷口は塞がり回復できた。時期に目が覚めるだろう。男たちも目が覚めたときに抵抗できないように魔法で縛り上げておいた。


「さて、これからどうしたもんか。」

「リリス先生が目を覚めるまで待つ?」

「いや他にも学園に侵入した奴らがいるかも。とりあえず隣の《黒》クラスの様子を見てくるよ!」


他にも侵入した奴らがいないか確認しなければ。だがどうやって学園に侵入したのだろうか、そう簡単に侵入できるとは思えない。学園長がいるのはもちろんだが、リリス先生もあんな簡単にやられてしまうとは考えにくい。《黒》クラスの前まで着くと俺は扉の前で聞き耳を立てる。すると扉が勢いよく開かれた。


「やばっ!」

「ユーリ君でしたか。」

「エレナか、びっくりしたよ。」


教室の中に目を向けるとすでに男が二人拘束されていた。どうやら《黒》クラスにも男達が侵入していたようだがすでに制圧されていたようだ。まあ《黒》クラスの方が戦闘力は高いし、血の気も多いから心配はしていなかったが。エレナに話を聞くと侵入者が扉を開ける前に《副技能(サイドセンス)》によって担任教師の魔力の異変に気づいたエレナはすぐに皆に合図を送り、ディランとデリラが飛び込んだらしい。片方の男はリリス先生同様に気絶した《黒》クラスの担任を抱えていたようだ。


「ユーリ君がこちらに来たということはやはり…。」

「うん。こっちにも侵入者が来たんだ、男が2人。一体どうやってとか目的とかはわからないけどね。というか学園ってこんなに簡単に入れるの?」

「学園にある守りは魔物避けくらいだからな。学園長や教師陣が不審人物と思わなければ侵入することは容易いだろう。」


あまり学園について把握していない俺だったがどうやら認識はあまり間違っていないようだ。学園にあるのは魔物避けくらいだということ。当たり前だが魔物避けは魔物や魔族の侵入には反応しても人間であれば普通に通ることができる。その人間が悪いかどうかまでは判断できないのだ。だから生徒や教師以外の外部の人間が来る際は学園長の許可が必要であるはずだ。


「そう考えるとこいつらは学園長を騙して先生達を倒したことになるけど。」

「実力的に正面突破してきたというわけではないだろうな。」

「例えば大人しくしなければ生徒をみたいに脅された…とか。」

「それなら襲う順番が逆じゃないか?」

「たしかに。」


生徒を人質にするなら先に教室を襲いに来るだろう。それに生徒を人質に取るという脅しくらいで教師陣が油断して負けるようには思えない。ということは考えられるのは…


「こいつらは正式な手続きを踏んでこの学園に入ってきたことじゃないだろうか。」

「お客さんとしてってこと?」

「それだったら簡単に学園に入れたことも不思議じゃない。」

「なるほど一理ある。だけどお客さんっていっても普段から学園に来る人なんてそうそういないと思うけどね。」


たしかにコータの言う通りだ。少なくとも俺達が一年と少しこの学園にきて外部の人が来たのはクラス対抗戦くらいだ。俺が休んでいる時に来ている可能性もあるが、コータがこう言うならそうなんだろう。


「尚更怪しいと思います。」

「そうだこっちのクラスに侵入した男は銃を使ってたんだよ。」

「銃ですか?」

「うん、カルロスの持ってるやつと違って小型のやつだけど。」

「僕なら詳しいことわかるかもしれないから見せてもらっていい?」

「そうだね頼むよ。エレナ達は外部との連絡と学園内に他に侵入者がいないか調べてくれ。できたら他の学年の安否も。なるべく魔法は使わないように、もし他に仲間がいたら俺達が自由にしているとバレたら何をしてくるかわからないからね。」

「わかりました。」

「任せてよ!」


できることなら探知系の魔法を使用したいところだが、校舎内は探知系の魔法が使えないのだ。詳しい原理は俺もよくわかっていないが、他学年の教室がわからないようになっている結界の影響らしい。他学年も心配だが…どうやって教室向かえばいいのかもわからない。ただ無事であることを祈るしかないな。俺とコータは《白》クラスの教室に着いた。


「これなんだけど…。」

「間違いなく《拳銃》だね。カルロスのと違って小型になってる銃って武器だよ。でもこれはおかしい。」

「どういうこと?」

「僕とカルロスというか宮廷魔道士団も含めた皆で作った銃はカルロスの《狙撃銃》しかないんだよ。もちろん《拳銃》も作ろうと思ったんだけど中々上手くいかなかったんだ。」

「じゃあこれは一体何なんだ。」

「この《拳銃》は僕達の試作品だと思う。ここ見てよ、《K&C》って書いてあるでしょ?これはコータとカルロスの名前を取って僕達が刻印した物なんだ。試作品は宮廷魔道士団で管理しているはずだよ。」


たしかカルロスがシャーロットに頂いたという言い方はしていたが、実際はコータと2人で作ったので使用する許可をもらったということだろう。そしてその《狙撃銃》の名前は《K&C-S》だったはずだから刻印とも合致する。本来、宮廷魔道士団が管理している試作銃をどうして賊が使用しているのだろうか。カルロスにも話を聞きたいところだがシャーロット共々今日も休んでいる。


「試作っていうけど普通に使ってきたよ。」

「うん、僕も驚いたけどこれを見る限り完成していると思う。打ってみないとわからないけど細かいパーツは試作品の時には上手くいかず作成できなくて設計図に落とし込んでいただけだったけど。」

「ということは試作品の《拳銃》とその設計図も宮廷魔道士団から盗まれたということか。」

「まあそういうことになっちゃうよね。こいつら本当に何者なんだろう。」

「ユーリ君どうなってるんだ?」


そんな話をしているとジーク達が駆け寄ってくる。俺は軽く事情を説明してとりあえず安全が確保できるかわからない内は教室にいて油断しないように皆に指示をだしておいた。


「さて俺達は学園長室に行くことにしよう。」

「わかった。」


俺とコータは学園長室に向かうことにした。俺が場所を把握していることもあり、学園長の身を案じたからだ。リリス先生がやられている以上、学園長もやられてしまっている可能性が高い。もし命に関わるようなケガをしていたら急がなければいけない。俺達は学園長室の前で立ち止まる。


「中から声は聞こえないようだけど。」

「合図したら飛び込もう。」

「わかった。」

「せーの!」


俺とコータは学園長室の扉を勢いよく開ける。するといつもの椅子に腰掛けた状態で学園長は意識を失っていた。すぐに俺は学園長に駆け寄る。腹部に穴が空いており血をかなり流している。おそらく《拳銃》によるものだろう。


「『治療魔法(ヒール)』!」

「うっ…。」

「よかった。学園長大丈夫ですか!」

「ユーリか…。」


学園長はすぐに目を覚ました。軽く部屋を見渡すが、荒らされたような形跡はない。やはり賊は正式な手順で侵入しているに違いない。


「状況は…?」

「俺達二学年のクラスにバーリットと名乗る男を含め4名の賊が侵入。両担任と女生徒が軽症を負っていますが治療をし命に別状はありません。今は手分けをして他に校舎内に侵入した賊がいないか調査しています。」

「そうか…済まない。すっかり油断してしまったようだ。」

「いえ、一体彼らは何者なんですか?」

「彼らはここ王都の衛兵を名乗っていた。」

「衛兵ですか。」

「ああ、学園内の見学だと言ってちゃんと王の署名が入った手紙まで持っていた。あの特殊な紙は偽造できないようになっているちゃんとした本物だった。だから疑わずに通してしまってこの様だ。まさかこんなことになるとは。」


王都の衛兵、最近耳にした覚えがある。たしかカイラとトリップが職業体験で訪れ、第一王子に厳しくされたという話を聞いた。本当に衛兵ならばそういう繋がりで王の署名も偽造のできない特殊な手紙が手に入ってもおかしくない。だが衛兵が学園の教師に手を出し、生徒を人質に取ろうとするなんて…。きな臭くなってきたな。そうこう話している内に校舎内を探索していたエレナ達も合流した。


「ユーリ君!ご無事でしたか学園長。」

「今ユーリに助けられた所だ。それで他はどうだった?」

「他に侵入者はいないようでした。他学年の教室は見つけることができなかったのでわかりませんが…。」

「それは大丈夫だ。1学年は学外でしばらく授業で、3学年は自由登校だが今日は誰も出席していない。だから君達以外の生徒はいないんだ。」

「そうでしたか。」


それは不幸中の幸いというやつだろう。他に生徒がいなければとりあえずの安全は確保できたと思う。俺は学園長に聞いた話を皆と共有する。そして外部との連絡はどうなっているかを尋ねる。


「外部との連絡が繋がりません。それにこの校舎から出ることもできないようなんです。」

「なんだって?」

「どうやら結界魔法がかけられているようです。」


なるほど中々手が混んでいるかなり準備された計画だな、非常に厄介だ。なんとかして結界魔法を破壊したいところだ。アリアの《副技能(サイドセンス)》であれば結界の依代の位置もわかり破壊できないだろうか。


「アリア結界の依代の位置わからないか?」

「さっきからやってるんだけど学園に元々仕掛けられてる魔法のせいで上手く探れないの。」

「それであれば職員室に行けば止められるはずだ。案内しよう、済まないが手を貸してくれ。」

「はい。」


俺達は職員室へと向かう。果たして賊の目的は何なのか、嫌な胸騒ぎがする、とにかく今は一刻も早く学園から出ることを考えよう。


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