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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
暁闇の偽り編

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第百三十八話 各々の目的

次の日、俺は学園が終わった後早速イヴァンさんに紹介された医者の元へと向かっていた。王都にある大きい病院は行ったことがあるから大丈夫だと思っていたが、どうやら紹介された医者はそこにはいないらしいとのこと。渡されたメモの場所を探しに来たわけだが…


「どう見ても普通の住宅街だよな。こんな所に病院があるのか?」


大きな病院じゃなくて小さな診療所ということなのだろうか。基本的に『治療魔法(ヒール)』や『回復薬(ポーション)』で大抵の傷口は塞がるから病院に行くことは少ない人もいる。だが必ずそれらがあるとは限らないし、それ以外の病気やケガがある今回の俺みたいに。そんな時のために病院や診療所はあるのだ。


「ここみたいだ。」


イヴァンさんのメモによるとここがその場所のようだ。普通の家に見えるが…俺はドアのノックする。


「はい。」

「すいません。イヴァンさんに紹介されてきたユーリ・ヴァイオレットと言う者ですが。」

「あぁ、君がユーリ君ね。イヴァン君から話は聞いているわ、さぁ上がって。」

「よろしくお願いします。」


扉から出てきたのは凛とした佇まいの女性であった。見た目じゃわかりにくいが、イヴァンさんを君付けで呼ぶくらいだから年齢は同い年から年上だろうか。しかし女性に対して年齢のことを口にするのはいけないとアリアとエレナからさんざん言われているのでとりあえず余計な事は言わないようにしておこう。


「いまお茶を入れるわね。」

「ありがとうございます。」


中に入ると外観から見られる通り、普通の家といった感じだった。通された場所は1階のリビングの様なところで『回復薬(ポーション)』などの薬品が置かれているような棚もないし、ベットなどもない。2階が診療所ということなのだろうか。


「さて、初めまして私はケーネ・ジェンナ。事情はある程度聞いているから安心してね。」

「そうですか。それで俺は治るんでしょうか?」

「そうね聞いた限り、私の能力で治療することができると思うわ。」


ふぅ、とりあえず一安心である、治るのであれば問題はない。しかし一体どんな能力なんだろうか。


「ふふ、いい質問ね。」

「えっ?」

「私は人の魔力を見たり操作することができる《魔の制御者》っていう能力なの。見ると言っても戦闘する時に相手の魔力の大きさや居場所を補足するのとは違って、魔力の流れや大きさを見てその人の病気や調子の悪いところ見ることができるの。」

「そんなことができるんですか、凄いですね。でもどうしていま俺の疑問がわかったんですか?」

「顔に出るって言葉があるでしょ?それと一緒で魔力にも顔があってそれで判断できるのよ。ちなみにユーリ君は魔力に出やすいタイプだね。」


俺達が普段魔力を感じることができるというのとは少し違うのか。たしかに大きさやどこに魔力が集まっているか誰の魔力なのかというのはなんとなくわかるが、魔力を見ただけで調子が悪いのか魔法を使いすぎたのかは判断することができない。俺だって元気なのに魔法が使えないから疑問に思っただけで、身体が動かない時は回復していないだけかと思っていたしな。それにしても魔力に出やすいってどんな感じだろう、なんかちょっと恥ずかしいな。


「でも私はそういう治療しかできないから医者なのに『治療魔法(ヒール)』は使えないの。」

「なるほどだから薬品も置いてないんですか?」

「そうだね。ここに来る人は大体紹介で来るからベットもないよ。1階にも2階にもね。」


だから設備のない民家という感じなんだな。納得がいった、そちらの方が家賃も安上がりだろう。


「それじゃあ治療を始めようか。直接肌に触れないと治療できないから服を脱いでもらっていい?」

「はい。」


俺が服を脱ぐ。ケーネさんは俺の背中に手を当てる、不思議な感じだ。俺の中にケーネさんの魔力が入ってくるのを感じる。そして壊れた器を少しずつ排除していく。


「ふぅ、これで治療は終わりよ。何か魔法は使えるかしら?」

「やってみます。」


ここで使える魔法で一番確かめやすいのは『身体強化(フィジカル・ブースト)』だろうか。迷惑もかけないし、使い慣れているから違いがわかりやすいだろう。


「『身体強化(フィジカル・ブースト)』!」


身体強化(フィジカル・ブースト)』は問題なく発動することができた。むしろ今までよりもより発動しやすくなったような気さえするくらいだ。


「うん、問題はなさそうね!」

「はい!むしろ調子が良くなったような気もします。」

「でも無理はダメよ。しばらくはリハビリ程度の魔法にしておいてね。」

「わかりました。ありがとうございました。」


俺はケーネさんにお礼を言い、家を後にして帰路に着いた。屋敷に着くとランマとコーデリアがちょうど帰宅していたようだった。


「ユーリ殿!大丈夫でござったか!?」

「私達がいない間…大変だった…。」

「あっ、ユーリお帰り。二人にレシア砂漠でのこと話したんだ。」

「そうだったんだ。ちょっと無理しちゃったけど、さっき治してもらって魔法は使えるようになったよ。まだしばらくは安静だけどね。」

「それはよかったでござるよ!」


ランマとコーデリアにレシア砂漠での出来事をアリアは話してくれたようだ。まあまさかあんなことになるとは思っていなかったから仕方がない。それに二人の目的も大事ではある。ランマの腰元に目線を落とすと新しい刀を携えていた。納得のいく刀を手に入れることはできただろうか。


「それでランマとコーデリアはどうだった?それ新しい刀だよね。」

「よくぞ聞いてくれたでござる!ユーリ殿がピルク殿を紹介してくれたおかげで《業物》を手に入れることができたでござるよ!ジーク殿にも助けられたでござる!」

「私も…素材集め…頑張った。」

「紹介した甲斐があったよ。ピルクもジークも。」


どうやら目的の《業物》の刀は手に入れることができたようでよかった。ピルクもジークも上手くやってくれたようだ。


「どんな刀か見せてもらってもいいかな?」

「これが《業物》銘は《白月》でござるよ。以前の刀は銘がわからなかったでござるが、今回は自分で付けたでござるよ。」

「刃が真っ白だ。」

「凄い綺麗だね。」


ランマの刀は《白月》という名前らしい。刃も柄も全てが真っ白で、アリアの言う通りとても綺麗な刀だ。一体どうやったらこんな真っ白な刀になるのだろうか。


「ユーリ殿も《聖剣クラレント》の素材を集めたと思うでござるが《聖剣》が作った鉱山で鉱石を集めたでござる。」

「そうだったんだ。でもどうしてこんな白いの?」

「拙者が採掘した鉱石は雪雲晶という白い鉱石なんでござるよ。」

「雪雲晶?」


雪雲晶聞いたことのない名前だ。いや、よく考えたらそもそも知っている鉱石の方が少ないのだ。エクスカリライトやヒヒイロカネも《聖剣》を作る時に初めて知ったくらいだ。鉄や銅くらいならばわかるが、それ以外は身近ではないし殆どが知らないだろう。


「雪雲晶はセルベスタの北の方にある豪雪地帯で採れる鉱物ですね。」

「マルクさん詳しいですね。やっぱり剣関係だからですか?」

「それもありますが、私はその辺りの生まれなので。」

「へぇそうだったんですか。」

「雪が降る地域で採れるからということもありますが雪雲晶は色が白く、その特徴として氷の様な冷たさがあり加工が難しいと言われております。しかしそれを加工した刀は恐ろしく切れ味が良いと言われておりました。」

「流石はピルクだ。よくそんな難しい鉱石を加工できたよ。」

「しかも折れた刀もちゃんと混ざっているでござるよ!」


たしかマルクさんが以前、《業物》であれば折れてしまった場合でも今までに刀が蓄積した魔力のおかげで新たな刀の芯として使用することができると言っていた。それでも難易度は高いようだがどうやらピルクは成功したらしい。流石である。


「すぐにでも戦いたいでござるよ。」

「よろしければ私がお相手しましょう。」

「お願いするでござる!」


ランマはマルクさんと庭で手合わせをするようだ。早く試したくて仕方がないのだろう好きにやらせてやろう。そういえばデリラとウールはどうなっただろうか?そろそろ帰ってきても良い頃だとは思うが…まあ明日くらいには学園に来るだろう。俺はその日すぐに休むことにした、そして翌日。


「ユーーーリ!!!」

「うわぁ!びっくりしたよデリラ。」


授業が終わった後、デリラが俺に向かって飛び込んできた。恐らく砂漠での出来事を聞いて心配してくれたのだろう。


「もう身体は大丈夫なの?」

「うん、なんとかね。しばらくは安静にしてないといけないけど。」

(なぜデリラはユーリ君に抱きついたのでしょう。)

(何でデリラはユーリに抱きついたの?)


何故か冷たい視線を背中に感じるが気のせいだろう。デリラが帰ってきたということはウールも一緒だろう。後ろに目をやるとまるで干からびた死者の様な姿のウールがそこに居た。


「ウールもお帰り。」

「うん。ただいま…。」


何があったが気にはなるが聞いてはいけないような雰囲気が漂っている。元に戻るまでは詳細を尋ねるのは辞めておいたほうがいいかもしれない。


「僕ね、ちゃんと力の制御できるようになったよ!」

「おぉ!それはよかった。」

「実は色々秘密があってね。長くなりそうだから場所を変えて話そうよ!」

「久しぶりに皆が集まったことだし、家に集まって話そうか。」

「そうだね。新しい仲間も正体したいし、ジェマも呼ぼう。」

「賛成!」


こうして俺達は各々の目的を達成することができた。しかしこの短い間にこのセルベスタ王国を渦巻く陰謀が進んでいることにこの時の俺達はまだ気づいていないのであった。


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