第百三十六話 持つべきものは
俺達は昼頃に王都へと亜人族を連れて帰った。まあ連れて帰ったと言っても俺は動けないため、むしろ亜人族の皆に運んでもらったという方が正しいな。亜人族の皆はとりあえず仮で騎士団員が使用している宿舎に泊まるそうだ。
「ふぅ。まだ少しキツイな。」
「大丈夫?」
「うん、ありがとう。」
俺はやっと少しだけ身体が動かせるようになったのでアリアに手伝ってもらいつつある所に向かった。他の皆には今回の詳しい事件をシャーロットに説明してもらっている。どうせ皆を集めてまた話をするだろうからな、一日でも早く亜人族の皆が安心できるように家を作ってあげたいのだ。
「それでユーリ、どこに行こうとしてるの?私あんまりこっちの方来たことないや。」
「この辺りは王都の外れだし、住宅しかないからここに住んでないと用もないしあんまり来ないよね。もうちょっと先だよ。」
亜人族の住居を建てるためのそこそこおおきな空いている土地。その当てがある場所へと向かっていたのだった。住宅街を抜けると何もない土地が広がっていた。
「ここがユーリの言ってた土地?たしかにこの大きさなら問題はなさそうだけど、ここって誰か住んでた人の土地なんじゃないの?なんか元々家が建ってたっぽい木材とか瓦礫があるけど…」
「そうだよ。ただ一つ訂正させてもらうなら住んでた、じゃなくて住んでるだね。」
アリアは頭に?を浮かべながらユーリの後を付いていく。住んでると言ってもどこにも建物は見当たらず、とても人が住んでるようには見えない。
「アリア悪いんだけど先に歩いてもらっていいかな?道なりに真っ直ぐでいいから。」
「うん?いいけど。」
「それとまだちょっと調子悪いから魔法はきつそうだ。『防御』をいつでも発動できるようにしておいて。」
「わかった、任せて。」
そして二人が進んでいくと地面に扉があるところまで来た。ユーリはアリアに扉を開けるように促し、アリアは扉に手をかける。すると正面に魔法陣が展開される。そこからは炎が吹き出してきた。
「何で!?『防御』!」
「おー助かる。」
アリアは突如目の前に現れた魔法陣に困惑するも『防御』で炎を防いだ。それを俺はのんびりと眺めていた。そして炎が止んだ後、俺は扉に向かって声をかける。
「ハーミットさん!いらっしゃいますかー!」
「その声はユーリ君だね。少し待っててくれ。」
「ユーリここって、まさか…。」
「そう。俺の友人であるハーミット・ストラテジーさんが住んでいるとこだよ。」
ここに住んでいる?といまいち信じられないといった顔をしているアリアだが、扉が開きハーミットさんが出てきた信じざるを得ないだろう。
「やぁ、久しぶり。そちらのお嬢さんはたしか《白》クラスの…」
「アリア・リーズベルトと申します。」
「よろしく。まあ立ち話もなんだから中に入りたまえ。」
「「おじゃまします。」」
ハーミットさんとアリアの自己紹介もほどほどに本題へと入ることにした。俺は亜人族の人達の事情を話し、この土地を借りることができないかお願いすることにした。
「そういうわけでなんとか土地を貸していただけないかと思いまして。」
「別に構わないよ。」
「そうですよね、そう簡単に…っていいんですか?」
「別に構わないよ。それに厳密に言うとここは僕の土地じゃなくて国の物なんだよね。」
「どういうことですか?」
ハーミットさんの話を聞くと、どうやらここの土地の管理は元々国らしい。騎士団に所属することになった時に国の役人からもらった土地らしいのだがその役人はいつしか亡くなり、所有権は国になっている。しかし今までに国から何か言われたことはなく、そのまま住んでいるということらしい。
「だからそもそも僕に決定権はないんだよ。」
「そうだったんですか。」
「国にさえ許可を取ってくれれば僕は構わない。ただ住居としての地下室を残してもらえればね。」
「わかりました。ありがとうございます。」
俺はすぐにシャーロットに連絡をして土地の確保に成功したこととハーミットさんの事情を話した。建設はすぐに始まるようだ。それまでハーミットさんには亜人族の皆と一緒に騎士団の宿舎に泊まってもらうことにする。流石に工事をしている中、地下室で暮らすのは難しいだろうからな。
「ところで表にあった魔法のことなんですけど…」
「ああ、あれかい。」
「どうしてあんな『罠魔法』があるんですか?」
「昔、恨みを買うことがあってね。家を作る時に仕掛けたんだよ。厳密に言うと罠ではあるけど『罠魔法』ではないけどね。」
そうだったのか、知らなかったな。いつもハーミットさんの家に訪れる時は発動するけど炎が出たり、水が流れたりある程度何が来るかわかっていたからいつしか気にしないようになっていた。
「あれはね『刻印魔法』といって予め物に魔法陣を刻印しておくと魔力がある者が触れると勝手に発動するんだよ。扉に刻んである。」
「『刻印魔法』ですか。たしか今ではほとんど使われないんですよね。」
「使う人が少ないって言うのが正しいかな。『刻印魔法』は決まった文字や図形を刻むことで魔法を組み込めるが今や『罠魔法』の方が簡単だからね。だけど『刻印魔法』にも利点はある、文字や図形を刻むのに魔力は必要としないんだ。」
「なるほど。触れた者の魔力を使用するからってことですね。」
「そういうことだ。だから魔法が使えない者でも刻むだけならできるというわけさ。」
「へぇ。」
たしかに魔法が封じられている状況なら使えるタイミングはあるかもしれない。色々発達して魔道具だったり『罠魔法』だったりで不自由しなから忘れされてしまったのかもしれないな。
「それじゃあそろそろ俺達は失礼します。」
「ありがとうございました。」
「またいつでも来てくれ、と言っても家が建ってからの話になるが。」
「はい、よろしくお願いします。」
なんとか俺達は亜人族の住居のための土地を確保することができた。これで一安心だろう、まだ問題は残っているがあとはまた皆で集まった時に話すだろうしな。翌日、学園に行き授業が終了したら城に集まることになった。
「ユーリ君、ジーク君が来てないみたいだけど…何か知ってる?」
カイラは授業が終わった後にユーリの元に来てジークの居場所を尋ねた。ランマの刀入手のためにコーデリアと共にガルタニア国へと行っていることはリリス先生には言ってあるが皆には言っていない。カイラは面倒見がいいから心配してくれているのだろう。俺はジークのことを教えてあげた。
「なんだそうだったんだ。」
「俺も帰ってきてると思ったけど時間かかってるみたい。」
「刀か…。」
カイラは刀に何か引っかかることがあるようだ。
「何か気になるの?」
「私の実家にね、ずっと使われない刀があるって聞いたことあって。」
「へぇー、もしかして《業物》ってやつかもね。」
「《業物》?」
「大和国での名剣の言い方だって。そろそろ約束があるから俺は行くね。」
「あっ、うん。引き止めてごめんね。また明日。」
マルクル家にはどうやら刀があるらしい。とはいえ大和国で使用されている武器なので珍しいといえば珍しい。マルクル家は特に大和国の血が入っているとかそういうことは聞いていないが…まあなにか縁があったのだろう、今度ジークに教えてあげよう。俺はカイラに別れを告げて城へと向かうことにした。《白》クラスの方が先に授業が終わったようで一人で城へと向かった。
「お待たせ。」
「それじゃあ情報交換をしましょうか。」
俺がいつもの部屋に入るといつものアリア、エレナ、シャーロット、コータ、ディラン、カルロス、イヴァン、ジェマ、長老がすでに座っていた。デリラとウールがいないということはランマ達同様まだバルムンク家から帰っていないのか。
「えーまず亜人族の方々の住居ですが、ユーリ君のおかげで無事に土地を確保することができたのですぐに建設に取り掛かります。それまでは引き続き騎士団の宿舎で生活をお願いいたします。」
「はい。何から何まで世話になって申し訳ない。」
「構いません、元々オルロス国との外交はセルベスタ王国としても取り組んできたことですから。」
「そうですよ。モルガさんが無事で良かった。」
「ありがとうございます。」
オルロス国から真っ直ぐにセルベスタ王国に来れば良かったのではないかと思うが、亜人族の中にはやはり抵抗のある者も多かったらしい。だが俺達と触れ合うことで考えを改めてくれたと後からジェマと長老から聞いた。すこしは両国の関係改善に役に立てたと思う。イヴァンさんは昔オルロス国に行っていたこともあり長老とは面識があるようで長老はモルガというらしい。
「それに思わぬ収穫もありましたし。紹介します、彼女が《大地の勇者》ジェマです。」
「ジェマです。よろしく。」
「これで《勇者》は5人揃いました。残るは後二人ですね。」
「あとは雷と…なんだろう?光か闇?」
「ユーリ君が《女神様》に聞き忘れていますから。可能性としてはそうかもしれませんが、断定は良くないですね。」
相変わらずエレナは痛いところを突く。まあ何にせよ見つかったことは良かったことだ。あと二人着々と戦力は整ってきている。あとは《魔王》の復活よりも早く残りの二人を見つけたいところだ。そういえばワンダーの言っていたことを皆に言わないと。
「そういえばワンダーと戦った時に気になることを言ってたんだ。」
「気になることですか。」
「今回の件が獣人族を裏で魔族が手引してたっていうのはわかってると思うけど、何かを人間族反対派に与えたらしいんだ。」
「何か…ですか。」
「それを調べて見ろってワンダーは言ってた。」
「ふむ。」
一体魔族が何を獣人族に与えたのだろうか、それが何かに関係しているのか?まったくわからない。
「もしかしたら…」
「長老何か心当たりがあるんですか?」
「いつからか獣人族に伝わるとある物があるのじゃ。」
「それは一体?」
「異世界の物じゃ。」
長老から語られた物は予想外で俺達は驚きを隠すことができなかった。
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