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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
暁闇の偽り編

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第百三十五話 夜明けに捧ぐ

ユーリはジェマが戦っている間になんとか回復をしようと試みていた。だがワンダーが『悪魔解放ディアボリカル・リベレイション』を発動し、真の姿に変わった影響でこの辺りの一帯の空気が毒のように作用してしまい魔力が上手く魔力を操れないのだ。さらに今のユーリには魔力が残っていない、仮に魔力を扱えたとしても発動するだけの魔力が足りていないのだ。


(回復しようにも魔力が…いや、まだ残っているじゃないか。)


魔力が残っている、それは《剣の勇者》の魔力だ。先程まで戦いで使用していたが、3度に渡る《勇者》の魔力の連続使用で《剣の勇者》の魔力は使い切る前に元の姿に戻ったため残っている。《勇者》の力を借りる状態にはできないが、魔力だけを通常の状態で使用することができるかもしれないと考えたのだ。


(集中しろ…《剣の勇者》の魔力だけを使うんだ…。)


ユーリはこんな状況でも不思議と落ち着いていた、自身の身体は満身創痍で呼吸をすれば魔力は操れない。しかし自然と《剣の勇者》の魔力は素の状態の魔力と変わらないように扱えると感じた。


「『治療魔法(ヒール)』!」


満身創痍だった身体は『治療魔法(ヒール)』によってみるみる内に回復していった。《勇者》の魔力はワンダーの魔力の影響を受けなかった。だからそのまま使用することができたのだ。今までは姿が変わらなければ《勇者》の魔力を使用することができなかったが、今なら使用できる。まだ戦うことができるのだ。


(だが、《剣の勇者》の魔力は元々少ない。長期戦は無理だ。)


《剣の勇者》はその性質上、元々魔力が多いわけではない。使える魔法は限られているため、早々に決着を付けなければいけない。そしてユーリは急いでジェマの元へと駆けつけたのであった。


「『砂漠の刃(デザート・エッジ)』!」

「『悪魔の風刃ディアボリカル・ウィンドエッジ』」


先に動いたのはジェマだった。《大地の勇者》の力によって強化された魔法はワンダーに襲いかかる。ワンダーはそれを風の刃によって防ぐ。そして砂と風の刃はぶつかり合い辺りは砂埃に包まれる。よし、今の内に作戦を立てなければ。


「ジェマ、あいつは普通の魔法じゃ倒せない。」

「なるほど。それでどうする?」

「なんとか《聖剣》で斬りつけられれば倒せるが…俺の魔力はもうほとんどない。あと一発の全力で限界だ。」

「そのお膳立てをしろということだな。任せろ!」


今の俺にはどうにもできない。ジェマはすぐに俺の言うことを理解してくれたようだった。ここはジェマに任せて、俺はワンダーを倒すためになんとか近づいて渾身の一撃をぶつけなければ。


「『砂漠の穴(デザート・ホール)』!」

「それでは我は捕らえられん。」

「始めから捕まえる気はない!『砂漠の雨(デザート・レイン)』!」


ジェマは砂漠に大きな穴を作る。だがワンダーは羽を高く飛び上がった、しかしジェマの狙いはワンダー飛び上がらさせることだったのだ。飛び上がるために広げた羽をめがけて砂の雨を降らせる。


「ぐっ、だがこの程度の攻撃で傷を付けられてもすぐに回復…!?」

「気づいたか。」


ワンダーは羽に傷を付けられて驚きはしたが、すぐに回復すればいいと考えていた。だが思うように羽の再生はができなかった。よく見ると傷口に砂が入り込み回復するのを邪魔している。ジェマは回復することを見越して砂を操り傷口に侵入させていた。


「『悪魔の竜巻ディアボリカル・トルネード』、羽が使えないからっといって貴様らに負ける我ではない!」

「だけど機動力は落ちただろ。」


穴に向かって竜巻を発生させ、その風に乗ってワンダーは飛べないながらも地面へと戻る。これで翼を封じることができた、大分動きは制限できたはずだ。


「やりようはいくらでもある。『悪魔の風矢ディアボリカル・ウィンドアロー』」

「『砂漠の壁(デザート・ウォール)』!」

「吹き飛ばしてくれる!…奴はどこだ?」


ワンダーは風の矢を打ち続ける、ジェマはそれを砂で防ぐ。だがワンダーは気づいていなかった、ユーリの姿がなくなっていることに。


「これで最後だ!『聖剣(クラレント)雷撃一閃ライトニング・ストラッシュ』!」

「まさか…」


ユーリはワンダーの足元から飛び出した。そして残りの全ての魔力を込めた『聖剣(クラレント)雷撃一閃ライトニング・ストラッシュ』を放ったのだ。ワンダーは両腕と羽を前に持ってきてガードをする。しかし《聖剣クラレント》による一撃はそれでは防げない。


「うぉぉぉぉぉ!!!!!」

「グワァァァァァ!!!!!」


ユーリはジェマがワンダーの相手をしている間に気配をできる限り消した。ワンダーは『悪魔解放ディアボリカル・リベレイション』を発動したことで自身の魔力が膨れ上がり大気にも魔力で影響を与えるほどだった。しかしそれには弱点があった、魔力探知が難しくなるということだ。同じように魔力が膨れ上がっているか、もしくは戦闘をしていればわざわざ補足しなくとも気付くことができるが小さな魔力はわからなくなる。ユーリはそこを利用したのだ。


「ただでさえ今の俺の魔力は少ない。お前とジェマの魔力がぶつかっていれば俺の小さな魔力には気付かないと考えた。そしてここの場所まで誘導してもらった、ここはさっき俺達が獣人族と戦った場所だ。彼らは砂の中を潜って魔法で堀りながら進んでいた、その穴を利用させてもらったのさ。もっともジェマが俺の狙いに気づいてくれたからというのもあるけど。」

「ああ。アタシにもユーリの魔力は探れなかったが、《勇者》に目覚めたから砂の中に潜っていることがわかった。これが《勇者》同士の感覚ってやつなんだな。って聞いてんのかコイツ、もう死んだんじゃないか?」

「我は自身の力のせいで小さな力に足元を掬われたというわけか。」


ワンダーはほぼ消滅しかかっている。魔力は確実に残っていないし、身体も回復していない。直に死ぬだろう。


「最後に…我から選別をやろう…獣人族に与えたある物…それを調べて見ろ…。」

「ある物だと…?」

「そうだ…さらばだ…《勇者》達よ…。」


どうやら夜が明けたようで陽が昇ってきている。ワンダーに目を向けると砂のようになり消滅していた。長い一夜だった、俺とジェマはその場で寝転がる。


「ありがとう。」

「それはこっちの台詞だよ。ジェマが助けてくれなかったら死んでたよ。」

「フフッ、そうかもな。」


二人はそのまま気絶するように眠った。その後俺達は亜人族の集落で世話をしてもらったようで次の日まで深く眠りに付いていた。


「う、動けない…。」

「ケガはもう治っているはずなのに。」

「《勇者》の力を使いすぎたことの反動でしょうか。」


俺は目覚め身体に傷はなかったが顔以外が全く動かせないでいた。痛みなどはないが感覚もない恐らく《勇者》の力の反動だろう。今回は相手が相手だったからかなり無茶をしてしまった自覚はある。皆は思っていたよりも元気のようだ。


「かも知れないね。シャーロット達に連絡は付いたかな?」

「ええ、ここは一応セルベスタですからね。ユーリ君の通信機がなくてもぎりぎりですが連絡をすることができましたよ。ここの皆さんを連れてきて構わないそうです。」

「そっかそれはよかった。」

「ただ…」

「何か問題でも?」


エレナは少しバツの悪そうな顔している。何か問題があるのだろうか?


「仕事や居住地の問題がありまして…。」

「たしかにそこまで考えてなかったな。」

「仕事は能力によってなんとかなるとは思いますが問題は居住地の方ですね。できるだけ皆さん同じところに住みたいでしょうから。」

「いざってことがあると思うし、慣れない土地でバラバラというのもね。」

「そんなに王都って住む所ないの?」

「皆こぞって地方から出てくるからねぇ。住んでなくても貴族の別邸があるとかもあるし。」


仕事はその人の能力によって変わるから今すぐどうこうできると言えないということだろう。まあ俺の見立てだと皆そこそこ何かの職業には就けるだろうと考えている。生活能力もあるし魔法を使える者がいるからな。しかし居住地か、少し盲点だったな。たしかに皆できる限り同じ所に住みたいだろうし、王都に亜人族の者が住んでるとはいえ固まっているわけではない。


「うちの屋敷も今でこそ俺達がいるけど、元々空き家みたいなもんだったしなぁ。」

「それなりの土地があれば建物は作れると思うのですが…」

「土地かぁ。」


王都に土地か、うちの屋敷も大きい方ではあるが流石にこの人数が住むとなったら厳しいかもしれない。いや、学園の寮みたいに少し小さめの部屋を集めるタイプなら土地は巨大でなくてもいいのか。それなりの土地というと…


「心当たりあるかも。」

「本当ですか?」

「うん。聞いてみる必要があるけど。帰ったら相談してみるよ。」

「とりあえずなんとかなりそうだね。」


そんな話をしながら俺はワンダーの言っていたことを思い出した。今回の一連の出来事は全て魔族が絡んでいることだった。それに気になることも言っていた。魔族が獣人族に与えたある物、それが一体なんなのか。それは帰ってから皆に相談することにしよう。今は身体を休めることにする。


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