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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
暁闇の偽り編

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第百三十三話 《勇者》の力

「うぉぉぉ!!!」

「もっとだ、もっと来い!」


俺はワンダーに向けてひたすら《聖剣クラレント》で斬りかかる。魔族であっても魔力は無限ではない、回復し続けるにもいつか必ず限界は来るはずだ。そこまで追い込めば勝機が見えてくる。しかし今までの《序列》魔族よりもそれを簡単にさせてくれるほどワンダーという魔族は弱くはないのだ。


「『悪魔の風球ディアボリカル・ウィンドボール』」

「『炎神の二撃(アグニ・ツインブロウ)』!」

「躊躇いはなしか。」

「ここ!」

「だが甘い!」


悪魔の風球ディアボリカル・ウィンドボール』を『炎神の二撃(アグニ・ツインブロウ)』で弾く。ユーリはワンダーの攻撃を回避するよりも正面から突っ込んで一撃を食らわせることを選んだ。


「くっ…。」

「『悪魔の風槍ディアボリカル・ウィンドランス』」

「ぐわぁ!」


ユーリは風の槍に当たってしまう、どうやら《紅蓮の勇者》の魔力は残り少ないようだ。その前に残りの全ての魔力を使用して、大きな魔法をワンダーに当てたいところだが。問題はどうやってその隙を作るかだ。小手先の策が通用する相手ではない。


「『炎神の十字架(アグニ・クロス)』!」

「我を捉えるつもりか。だが!」


ワンダーに向かって飛ばした十字の炎は身体に纏わりつき炎によってダメージをあたえると共に動きを拘束した。しかしワンダーはそれをすぐに弾いたため拘束自体はそこまでできなかった。だがユーリの狙いはその一瞬の動きを止めることだった。


「『煉獄門(パーガトリー・ゲート)』!」

「これは!?」

「いけぇ!」


ユーリは『煉獄門(パーガトリー・ゲート)』の中にワンダーを押し込んだ。門は捕らえた者を異空間へと誘い、浄化の炎で焼き尽くす大魔法だ。前回戦った時はワンダーにこの魔法を見せる前に殺されてしまった。初見で対処できる魔法ではないが…手応えを感じない、勝利したという感じもしなかった。すると門はいつまで立っても消えることなくその場に存在している。


「まさか…。」


すると門に亀裂が入り、そこから魔力が漏れ出ていた。この魔力はワンダーの物だ、やはりこれで倒し切ることはできなかったようだ。門は大きな音をたて、荒々しい風によって吹き飛ばされた。すると中から全身を炎に包まれたワンダーが出てきた。


「なるほど捕らえた者を焼き尽くす魔法か。」

「お前は焼き尽くされず出てきたけどな。」


そのタイミングで《紅蓮の勇者》の魔力は全てなくなりユーリは元の姿に戻った。ワンダーを包んでいた炎も消える。


「まだ他にもあるのだろう?」

「言われなくても見せてやるよ!」


ユーリは続いて《溟海の勇者》の魔力を引き出した。髪の色は青くなり先程までの魔力よりも静かで落ち着いた雰囲気へと変化していく。


「今度は何をするのか楽しみだ。」

「楽しみだと?」

「以前はすぐに終わってしまったからな。もっと我を楽しませろ《勇者》!」


ワンダーは歓喜していた。彼は戦うことが好きである、しかし魔族同士で争うということはしなかった。正確に言うならば彼の望むような戦いは魔族同士ではできないのだ。魔族は数が少なく同族同士の命のやり取りは禁止されている。純粋に自分の力を出し切れる様な相手と殺し合いをしたかったワンダーの願いは叶わなかったのだ。


「勝手に言ってろ!」

「フハハ!来い!」


だが自分たちが滅ぼすべき人間族なら戦えるし、さらにユーリの様な《勇者》であれば全力を出すことができる。だからこそワンダーはこの戦いで歓喜しているのだ。


「『海神の圧ポセイドン・プレッシャー』!」

「今度は水か。先程の炎より動きづらいが…フン!」

「ダメか!」


ユーリは『海神の圧ポセイドン・プレッシャー』でワンダーの動きを止めることを試みる。しかしすぐに水は弾かれ拘束を解かれてしまった。この魔法で抑えることができないとなるとユーリが使える魔法でワンダーの動きを完全に止めることのできる魔法はもうないだろう。ここは攻撃魔法に切り替えるべきだと判断した


「『海神の咆哮ポセイドン・ハウリング』!」

「『悪魔の旋風ディアボリカル・ホワールウィンド』」


水を圧縮し勢いよくワンダーに向かって飛ばすが、ワンダーは同等の大きさの風を起こし互いの魔法はぶつかり合う。どちらも威力は同じくらいなのか押し合っている。ユーリはその魔法で身体が隠れている所を利用し、ワンダーの背後まで駆け抜けた。


「はぁ!」

「ガァ!小賢しい!」

「うわぁぁぁ!!!」


背後から《聖剣クラレント》で斬りつける。ダメージを与えるがワンダーは怯むことなく、そのままユーリを殴りつけた。ユーリは吹き飛ばされ遠くの砂の中に叩きつけられる。


「はぁはぁ…『治療魔法(ヒール)』!」

「そろそろ限界が近いか?」

「まだまだやれるさ。」


現時点で《紅蓮の勇者》と《溟海の勇者》の魔力を使用している。意識的に今までは二つ《勇者》の魔力を使用するのが限界だと感じていたが、今ならば3つ全てを使用することができると考えていた。できる限り削って最後に一番《聖剣クラレント》の力を引き出せる《剣の勇者》の魔力を使おうと考えていた。それがワンダーを倒せる唯一の勝ち筋だ。


「『海神の波(ポセイドン・ウェーブ)』!」

「『悪魔の風槍ディアボリカル・ウィンドランス』」

「押し切れ…!」


ユーリは魔力を込めて風の槍を押し返そうとする。しかし向こうの魔法も勢いが衰えない。改めてこのワンダーという男の底が知れないことを感じる。今まで戦ってきた《序列》魔族でもここまで手強い相手はいなかった。ワンダーは純粋に基礎的な部分の能力が他の《序列》魔族と比べて高いのだ。


「どうやらその姿でもまだ俺には届かないようだ。ハッ!」

「押し返される…!うわぁ!」


ユーリは再び風の槍によって魔法を破られて吹き飛ばされる。《溟海の勇者》の力は他の二つに比べまだ完全に操りきれていないというところがある。それに相手の動きを止めることができる『海神の圧ポセイドン・プレッシャー』がワンダーに通用しないため、《聖剣》の力を完全には活かしきれていない。


「くっ…ここまでか。」

「その青い髪の状態も終わりか。」

「さて次は…邪魔が入りそうだな。」

「?」


周囲を確認すると他の《序列》魔族倒したアリア、エレナ、ディラン、コータがこちらに向かってくるのがわかった。皆ボロボロだが無事なようだ。


「我達の戦いの邪魔をするな。『悪魔の風球ディアボリカル・ウィンドボール』『悪魔の風矢ディアボリカル・ウィンドアロー』」

「きゃぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁ!!!」

「皆!」


ワンダーはこちらに向かってくる皆に向かって魔法を放つ。すでに戦闘をした後で疲弊しているのかワンダーの攻撃を避けれず直撃してしまった。


「くそっ!」

「ラニエス、ボルナもやられてしまったか。《序列》魔族もこれで半壊か。」

「お前もすぐに倒してやるよ。」

「フハハハハ!今の自分の姿を見てみよ。どこからその自信が湧いてくるのか。」


皆だけではなくすでに俺もボロボロで、しかも《勇者》の魔力もすでに二つ使った。一日に3つの《勇者》の力を使うことは初めてである。ここから先は未知の領域だ。


「まだ終わってないからな。」

「ほぅ…まだその変身は残っているのか。では見せてみろ。」

「言われなくても…!」


俺は3つ目の《剣の勇者》の魔力を引き出す。髪の色は淡紫色に変わり、魔力は鋭く突き刺さるようになった。…よし、初めての3つ目だが違和感はない。


「《聖剣》に特化した姿ということか。」

「ああ。お前もそろそろ限界が近いんじゃないのか?」

「たしかに魔力は減ってきているな。だが…」


ワンダーは構えを取ると魔力が上がり、最初に相対した時よりもさらに大きくなったようにユーリには感じた。そして右腕を伸ばすと風が周囲から集まっていくのが肉眼でも見えた。


「『悪魔の風剣ディアボリカル・ウィンドソード』」

「魔力で作った剣で《聖剣クラレント》を防げるとでも!」


ユーリはワンダーに向かって斬りかかる。魔法で作ったただの風の剣で《聖剣》が止められるわけがない。


「何!?」


しかしユーリの考えとは裏腹に《聖剣クラレント》はあっさりとワンダーの風の剣で受け止められてしまった。よく見ると剣同士は交わっておらず、《聖剣クラレント》との間にわずかに隙間ができている。風を纏わせて押し返しているのだ。


「さて第3戦目といこう。」

「くっ…!」


ユーリは歯を食いしばる様な表情をしているのがワンダーは笑みを浮かべるのであった。


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