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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
暁闇の偽り編

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第百三十二話 雷と風

ディランとコータはアリア達とは反対側まで移動する。今回襲撃してきた魔族は恐らく自分に用があるとわかっていた。魔王軍《序列八位》“万電”のボルナは以前、大和国で父親であるイヴァンと戦い逃げられこそしたものの後少しのところまで追い詰めたという因縁があったからだ。


「久しぶりだな。魔王軍《序列八位》“万電”のボルナ。」

「丁寧に覚えていただいてどうも。ディラン・アレストール。」

「自己紹介はした覚えはないが?」

「もちろん調べたのですよ。私をあそこまでコケにした男の名前を知らないというのもおかしな話でしょう。」

「なるほどな。意外と根に持つタイプなのか?」

「少し妬けちゃうね。僕のことは調べなかったのかな?」

「ええ。あなたには興味がありませんから。」

「おぉ…。」


ボルナは前回倒されかけた恨みからディランのことを調べていたようだった。それにコータは冗談ぽく自分はどうなのかと聞くが軽く受け流される。コータが《序列》魔族と戦うのは今回が初めてであり、《勇者》として有名でもない彼は魔族にとっては特別視する人間族ではない。だからコータのことを調べないのも知らないのも当然なのだ。


「それならこれから覚えてもらおうかな。」

「意味のないことだ。コイツはここで始末するんだからな。」

「そうですね。あなた達を殺せば意味のないことです。」


ディランとボルナはお互いに睨み合う。二人の間には緊張の様な少しリラックスしているようななんとも言えない空気が流れていた。そんな静寂を破るように一番最初に動いたのはコータだった。


「『風の弾丸(エア・ブレッド)』!」


お互いの手の内を知っている二人はどうしても先に動いてもすぐに対処されるとコータは考えたのだ。しかしこちらは二人おり且つ、自分はどういう魔法を使用するのかが相手に割れていない。であるならば自分が率先して動く方がディランも動きやすいと。そしてその考えは正解だった。ボルナはコータを完全に意識しておらず、咄嗟にコータに気を取られてしまった。


「『雷身体強化ライトニング・フィジカル・ブースト』!」

「しまっ…」


風の弾丸(エア・ブレッド)』はボルナの身体に当たるが弾け飛びダメージは入らなかったが、ディランが魔法を発動させるのには十分な囮になった。そしてディランはボルナのもとまで一瞬で移動し蹴り飛ばした。ボルナは勢いよく飛び砂漠に埋もれた。


「この程度の攻撃で…」

「これならどうだい?『風精霊の竜巻(シルフ・トルネード)』!」


砂から起き上がって来たボルナにさらにコータが追い打ちをかける。ボルナはさらに反対方向へと吹き飛ばされた。コータの元にディランが合流する。二人は事前に打ち合わせをしていたわけではないし、初めて連係して魔族と戦うが息はぴったりだった。


「少しはダメージが入ったかな?」

「いや、今まで戦った経験からだと奴らピンピンしているぞ。」

「それは中々骨が折れるね。」

「油断するなよコータ。」

「もちろん。」


ここまで怒涛の攻撃をボルナに仕掛けた二人であったが、《序列》魔族である魔族にダメージを与えるには通常の方法では魔族の魔力に弾かれ通らない。《聖》属性魔法、《聖剣》での攻撃が現在わかっている確実な方法である。ただ勢いよく押すということはできるので一見ダメージを与えているように見えるだけなのだ。


「ふぅ。たしかにあなた達の連係の良さは認めましょう。ですがここからが本番ですよ。」


ボルナは呼吸を整えると魔力が一気に膨らんだ。二人は身構える、何か仕掛けてくる気なのだ。


「私もあれから遊んでいたわけではありません。」

「そのようだな。」

「ここからは気合を入れないといけないみたいだ。」

「『悪魔解放ディアボリカル・リベレイション・フュルフュール』」


ボルナが魔法を発動すると空気中に電気がバチバチと発生する。ボルナの魔力によって周囲に電気が発生しているのである。今までとは明らかに雰囲気が違う。さらにボルナの身体は徐々に変化していく、角はより長く枝分かれしていき背中からは大きな黒い翼が生えていた。


「な、何だあの姿!?」

「この辺り一帯の空気まで変わってる。」

「これが我々魔族の真の姿だ。『悪魔の雷雨ディアボリカル・サンダーレイン』」

「ぐわぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁ!!!」


魔族の真の姿になったというボルナに驚きを隠せない二人。そんな二人に大してボルナは容赦なく魔法を放った。二人の頭上から無数の雷が落ちてきた。回避を試みるが、無数の雷を完全に避けきることができず二人は当たってしまった。


「ぐぅ…。」

「避けきれない…だと…。」

「その程度の速さでは回避は難しいでしょう。」


コータはともかく、ディランは『雷身体強化ライトニング・フィジカル・ブースト』を発動している状態にも関わらずボルナの放った雷はディランの動きに追いついた。さらに上がっているはず防御力を上回るほどの攻撃力だったのだ。


「あれだけ大雑把な技だともっと威力は落ちてると思ったけど結構効くね。」

「真の姿とやらが関係あるのだろう。」

「その通りです。『悪魔解放ディアボリカル・リベレイション』によって悪魔の力を引き出し、この姿になった者の身体能力は一気に上昇します。その代わり誰でも使用できる魔法ではないですが。」

「悪魔の力?」

「まあどの道死ぬのですから深く考える必要はないでしょう。『悪魔の雷柱ディアボリカル・サンダーピラー』」


コータは悪魔の力というボルナの言葉に引っかかりを覚えたが、再びボルナは二人に向けて魔法を発動する。二人の背後に雷の柱が出現し、拘束する。『悪魔の雷柱ディアボリカル・サンダーピラー』という魔法は捕らえた者に持続的に雷を落とす。空気中にボルナの魔力が広がっていることもあり二人の背後に一瞬で柱を出現させることができた。


「うわぁぁぁ!!!」

「がぁぁぁ!!!」

「このまま苦しませて殺してあげますよ。」


このままではやられてしまう。そう思った二人は雷の柱から脱出するために自らに向けて魔法を使用する。


「『風の牙(エア・ファング)』!」

「『雷の球(ライトニング・ボール)』!」


二人は自分の身体を傷つけてしまったが脱出することはできた。ただこれ以上ダメージを受けるわけにはいかない、二人は自分達を治療する手段がないのだ。数的には有利であるが長期戦はこちらに不利である。この辺りで何かボルナを倒す手段を考えなければいけない。


「何かないのか…いや、まだ試していないことがある。」

「ディラン何か思いついたのかい?」

「ああ。お前とならできるはずだ。」

「わかった。詳細を聞かせて。」

「何を考えているかわかりませんが、あなた達に今の私は倒せませんよ。」


ディランはボルナを倒す方法を思いついた、正確に言うならば倒せるかもというレベルだが試してみる価値はあると考えた。そしてそんなディランの提案を疑うことなくコータは了承したのだ。


「わかった。あとはタイミングだ頼むぞ。」

「任せろ。」

「作戦会議は終わったか?」

「ああ、行くぞ!『雷身体強化ライトニング・フィジカル・ブースト』!」


ディランはボルナのもとへと向かっていく。だが悪魔の力を解放した今のボルナにとって取るに足らない身体強化である。


「わざわざそちらから突っ込んでるとは!」

「『風の球(エア・ボール)』!さらに『風精霊の竜巻(シルフ・トルネード)』!」


コータはディランに向けて『風の球(エア・ボール)』を放つそして砂漠の砂を巻き上げディランを覆い隠した。さらにそれを『風精霊の竜巻(シルフ・トルネード)』に包み込む。


「一体何をしようと言うのですか?いや何をしても無駄です。『悪魔の雷矢ディアボリカル・サンダーアロー』」

「ぐっ…これで最後だ!『上昇気流(アップドラフト)』!」


コータは竜巻の中に上昇気流を発生させる。


「完璧だコータ。『落雷ライトニング・ストライク二重ダブル』!!」

「「『合体魔法(シンクロ・キャスト)積乱雲(キュムロニンバス)』!!!!!」」


コータが発生させた竜巻は『風の球(エア・ボール)』に包まれたディランを上空に上げるのと同時に大気を冷やした。そして砂漠はボルナの魔力により温められていた。その空気を上昇気流により混ぜて最後に雷を混ぜることで積乱雲を発生させたのだ。


「たかだか雲ができたからどうしたのですか。」

「ただの雲ならな。」


上空に発生した積乱雲からボルナに向けて雨が降ってくる。それはただの雨ではなく二人の魔力が込められておりそれは弾丸の様な雨だった。さらに落雷がボルナに襲いかかる。


「グワァァァァァ!!!!!」

「特性の雨と雷だ。効くだろ?」

「グワァァァ!!!ナゼダァァァ!!!」

「《序列》魔族は『合体魔法(シンクロ・キャスト)』ならダメージが入るという仮説はどうやら正解だったようだ。」


ディランは以前ボルナと戦った際にイヴァンの魔力を貰い受けた攻撃で、ダメージを与えれたのは何故か考えていた。そしてある仮説を立てた、それは二人の魔力を合わせた攻撃であればダメージを与えられるということ。しかし魔力を合わせるのは簡単ではない、そもそも『魔力供給(マジック・フィード)』を使用できる人物が限られているからだ。だがもう一つ魔力を合わせる方法がある、『合体魔法(シンクロ・キャスト)』だ。


「ガァァ…。」

「消え去れ、“万電”のボルナ。」


ボルナは全身に雨と落雷を受け消え去った。ディランは急いでコータの元へと向かう。


「コータ大丈夫か?」

「…動けないけど…なんとか。」

「初の《序列》魔族との戦いで白星だぞ。これは《勇者》と呼ばれてもいいんじゃないか?」

「昔のことは弄らないでくれよ。それにディランの冗談はわかりにくい。」

「そうか?」


ディランは珍しく冗談を言っている。よほど疲れたのだろうかとコータは思ったが自分もボロボロでそれに上手く付き合えるほど余裕はなかった。


「加勢には行けなさそうだ。」

「今の皆なら大丈夫さ。」

「そうだね。」


ディランもコータの側で座り込んだ。二人はユーリ達に加勢にいけないことを悔やんだが、自分たちの仕事はこなすことができた。後は仲間を信じることにして休むのであった。


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