第百三十話 因縁の対決
月が落ち闇夜が少しだけ明るくなった空に浮かぶ三人の魔族。しかもその内の一人は俺を殺した因縁の相手であった。横にいる女性の魔族も見たことがある、たしかワンダーと一緒に大和国で会ったはずだ。ディランとイヴァンさんが仕留めきれなかった相手である。たしか名前はボルナ、ワンダー同様そしてもう一人小柄な魔族は初めて見る。
「あれがワンダーの言ってた《勇者》かぁ。なんだかあまり強そうには見えないや。」
「油断するなよラニエス。今のお前ではあいつには勝てない。」
「嘘だぁ。まあワンダーがそう言うならあいつは譲るよ。因縁があるんだろ?」
小柄な魔族はラニエスと呼ばれているようだ。直近で戦ったプロクとメスタと同等くらいの魔力を感じる。相当強いと思われる。だが俺達も日々成長している、今の俺達なら圧倒的に負けることはない。
「私はあの男を貰いますよ。借りがあるのでね!」
「あぁ行っちゃった。じゃあ俺はあの女の子達にしよっと!」
俺達の方に向かってラニエスとボルナが真っ直ぐに向かってくる。あの中で一番強いのは間違いなくワンダーである。やはり相手をしたことがある俺が戦うのが一番いいだろう。向こうも俺とやる気のようだしな。
「ディラン!コータ!」
「わかってる!向こうも俺に用があるだろう、こっちは任せろ!」
「僕がサポートするよ!」
ディランとコータは移動し俺達から離れていく。この集落を巻き込まないように離れたのだろう。そしてその後をボルナが追いかけていく。以前戦ったときは撃退出来たようだが向こうも何も対策していないわけではあるまい。充分に用心してくれよ…!
「あの小柄な魔族は私達が相手にします!」
「こっちに向かってきてるしね!こっちはいいから、ユーリはそっちに集中して!」
「わかった!気をつけろよ!」
アリアとエレナの二人は得体の知れない小柄の魔族ラニエスと戦うためにディラン達同様少し離れた場所へと移動した。ラニエスは一瞬こちらを見て不敵な笑みを浮かべた後、アリアとエレナを追いかけて移動していった。魔力はともかく、恐らく《序列》魔族なのは間違いない。何も情報がないから得体が知れず、危険ではあるがあの二人ならなんとか切り抜けてくれるだろう。一番の問題は…
「あの時殺したと思ったがな。いや確実に殺した、だがお前は生き返ったそれが事実なのだろう。」
「それをわざわざ確認しに来たのか?」
「いや、目的は別にあった。だが今最優先はお前の始末に変わった。バーストはともかくプロクにメスタも帰ってこないとなるとすでに倒したのだろう?であれば我ら魔族の脅威である。」
「そうだな、あの時の俺とは違う。今ならお前を倒すこともできる!」
「そうかもしれないな、やはり我の見立ては間違っていなかった。来い!《勇者》よ!全力をぶつけてみろ!」
ワンダーの魔力が跳ね上がる。以前の様にならないために俺も最初から出し惜しみはなしだ。腰の魔法袋から《聖剣クラレント》を引き抜く。さらに《紅蓮の勇者》の魔力を発動させ俺の髪の毛は赤色に変わる。そしてワンダーの元へと勢いよく飛び込んでいった。
「うぉぉぉ!!!」
「それが《聖剣》か。」
俺は《聖剣クラレント》でワンダーの胴体に斬りかかる。ワンダーはそれを回避せずそのまま斬られた、体は真っ二つに裂かれる。
「なるほど我の胴体を真っ二つに切り裂く力。これが本物の《聖剣》なのだな。」
「『炎神の一撃』!」
ワンダーの胴体はすでに元に戻ろうと回復し始めていた。俺はこの程度でやられるわけがないとわかっているので再生する傷口に『炎神の一撃』を叩き込む。傷口は燃え再生が遅くなる、このまま一気に押し切る。
「『炎神の一撃』!何!?」
「そう簡単にやられはしない。『悪魔の風球』」
「うわぁぁぁ!!!」
俺は再び傷口に攻撃を試みるが、腕をワンダーに握られ拳は届かなかった。そして至近距離で魔法をぶつけられ俺は後方へと吹っ飛んでいた。やはりそう簡単にはやられてくないようだ。しかしいくらワンダーほどの回復力があっても流石に傷口に攻撃を叩き込めばダメージは入るということがわかった。《聖剣クラレント》で斬りつけそこに魔法をぶつける、これしか勝つ方法はない。
「本当にあの時よりも強くなったようだ。」
「ああ、死の淵を見てきたからな。」
「なぜ復活できた?それも《勇者》の力なのか?」
「もう一度試してみればいいんじゃないか?」
「そうだな。『悪魔の風槍』」
「『身体強化・四重』!!!!」
ワンダーは俺に追撃するように魔法を放つ。それを『身体強化』で回避する。やはりそう簡単にダメージを与えることはできない。ここからが本当の勝負だろう、俺は再び気を引き締めた。
◇◆◇◆
アリアとエレナはユーリから少し離れた位置で立ち止まる。ラニエスはその後を追いかけてきた。
「鬼ごっこは終わりかい?」
「ええ。」
「ここで相手をする!」
「ふーん。中々自信がありそうだね。」
あの中で一番情報がないのがこのラニエスだ、十分注意しなければいけないなとアリアとエレナは考えていた。すると急にラニエスの魔力は上昇する。他の二人は《序列》魔族であることを考えればこのラニエスも当然そうなのだろう。
「あなたは《序列》魔族ですね。」
「そうだよ、君たち随分倒してくれたみたいだね。まあ僕達に特に仲間意識はないからいいんだけど。僕はワンダーさえいればそれでいい。」
「どういうこと?」
「彼の思想に共感しているだけさ。弟分みたいなものだよ。さてそろそろ戦おうか…っとその前に自己紹介をしておこう。僕は“風紋”のラニエス君たちの言う通り《序列十一位》魔族さ。」
《序列十一位》ということは今までアリアとエレナが相手にした《序列》魔族の中で一番強い。以前、シロが誘拐されたときにユーリが戦っていた双子の《序列》魔族は九位と十位であった。それよりは《序列》下なのだがそれだげが強さの指標ではないのだ。
「それで君達も《勇者》なのかい?」
「答える義理はありません。」
「ははは。そうだね、確かめさせてもらうよ!」
ラニエスは二人に向かって真っ直ぐに突っ込んでくる。
「なっ!」
「くっ!」
「『悪魔の風刃』」
「「『身体強化・三重』!!!」」
一瞬で背後に回ったラニエスは至近距離で魔法を放つ。アリアとエレナの二人は即座に反応し『身体強化』を発動して回避した。しかしラニエスが放った風の刃は二人を追い続ける。
「追いかけてくる!?」
「回避できたのは褒めるけどそれだけじゃあだめなんだよね。」
「『炎の槍・二重』!!」
エレナは追尾してくる風の刃を『炎の槍』で吹き飛ばした。そして『炎の槍』はそのままラニエスへと向かっていく。ラニエスは避けもせずにそれを受け、炎に包まれる。
「ぬるいねぇ。」
「やはりこの程度の魔法は通用しませんね。」
「うん。《聖》属性だね。」
《序列》魔族に大して有効である《聖》属性の魔法を使用するしかないのだ。そしてそれは今のアリアにとって造作もない事である。しかし、相手もバカではないそう簡単にくらってはくれない。だからこそ二人だけの魔法『合体魔法・神が与えし聖なる槍』が鍵となるのだ。
「『聖なる光』!」
「おっと《聖》属性か。『悪魔の竜巻』」
「っく!これは竜巻?」
ラニエスは竜巻を起こし、砂漠の砂を巻き上げる。そして周りを取り囲んだ。先程コータが発生させた竜巻よりも規模は小さいが綺麗に纏まっておりラニエスの体を完全に覆い隠している。これでは『聖なる光』の光が届かない。
「思っていたよりも頭の回る相手みたいですね。」
「うん。今までで一番厄介なタイプかも。」
「ふぅ、危ない危ない。《聖》属性は厄介だね。」
「そのために覚えたからね!」
「あなた達と戦うためです。」
「なるほど。《勇者》かどうかはわからないけど、ここで殺しておいた方が後々楽になりそうだ。」
ラニエスはそう言うと魔力を込める。アリアとエレナはすぐに対処できるように構えるが、異変に気付く。足が動かないのだ。気づけば周辺の砂漠には紋が刻まれており、それが魔法となって二人の動きを止めているようだった。
「こ、これは!」
「動けない!」
「さっきの竜巻ですでに仕込みは終わった。さぁこれで終わりだよ。」
先程『聖なる光』の光を防ぐために発生させた竜巻でラニエスは砂漠に紋を刻みそれが二人を捕らえた。どうにかして抜け出そうとするが足が動かない、二人は危機が迫り焦る。
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