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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
暁闇の偽り編

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第百二十八話 実力差

ジェマがもうだめだと諦めたその瞬間にユーリが敵の鎚を受け止めて防いでくれていた。そしてユーリは鎚を振り払うと獣人族の男は後ろへと下がる。ジェマの前には昼間に来たユーリを含む5人が立っていた。


「お前達何者だ?」

「通りすがりの人間族さ。お前らこそ何者だ?いや聞く必要はないか。オルロスから逃げた亜人族の人達を追いかけてわざわざこんな所まで来た獣人族の一団だな。」

「たしかにその通りだが、なぜお前らのような人間族がこいつらを助ける?」

「お頭!こんなガキどもに真面目に答える必要ねぇですよ。うぉらぁ!」

「待て!」

「ぐはぁ!」


獣人族の男が俺達を取るに足らない子供だと思いこちらに向かって突っ込んでくる。俺は魔法を放とうと手を上げるがその前にディランが獣人族の男を片手で地面に叩きつけた。『雷身体強化ライトニング・フィジカル・ブースト』を発動しているんだろうが、発動までのスピードが以前よりも確実に早くなっている。ディランの奴また腕を上げたようだな。あれだと今の俺でも勝てるかどうか怪しいかもしれない。


「ちっ、バカが!先走りやがって。」

「次は誰が相手だ?」

「お前らコイツらただのガキだと思って甘く見るな!陣形を取れ!」

「「「おう!!!」」」


どうやらお頭と呼ばれているあの獣人族の男は見た目で判断するほどバカじゃないらしい。お頭が掛け声をすると部下たちは一瞬で陣形を整える。


「トップも頭が悪いというわけじゃなさそうだ。」

「まあそれくらいじゃないと張り合いがないけどね。」

「皆わかってると思うけど生け捕りだからな。」

「もちろん加減はします。」

「エレナが一番心配なんだよなぁ。」

「皆来るよ!」


獣人族達は陣形を取ると砂の中に潜った。レシア砂漠の特性のせいか魔力が完全に消え、獣人族達の居場所がわからなくなった。


「砂の中に潜っただと?」

「魔力も感じない!」

「ここだぜ!」

「うわぁ!」

「コータ!」

「きゃ!」

「アリア!」


コータとアリアの足元から腕が伸びてきて二人は脚を掴まれる。そのまま砂漠に下半身を引き込まれる。奴らはどうしてこの砂漠の魔力の影響を受けずにこちらの正確な位置がわかるのだろうか。


「また来るよ!」

「任せてください!『炎の円(フレイム・サークル)』!」

「あっちぃ!」

「今だ!『三角・鎖トライアングル・チェーン』!」


エレナは自分と俺とディランを含む三人の周りを囲むように地面に炎を走らせる。それにより俺達の辺りの地面が熱せられ温度が上がり、地面に潜り込んでいた獣人族の男は暑さに耐えきれず飛び上がってきた。そこを俺はすかさず捕まえた、これで一人。だが相手もバカじゃないだろうし、同じ手は使えない。それに夜の砂漠は気温が凄く下がるから温めるには普段よりも魔力量が必要になる。


「一人は捕まえることが出来たけど、奴らもバカじゃない。同じ手は通用しないだろうね。」

「奴らどうやって正確に俺達の位置を探ってるんだ?」

「恐らく匂いだと思います。獣人族は鼻がいいので私達の匂いで居場所を探ってるんでしょう。」

「そういえばシロもそんなこと言ってた気がするな。」


獣人族は人間族よりも耳と鼻が良いらしいとシロから聞いた。魔法で強化しなくても元々備わっている物なので彼らにとっては強い武器であるのだ。問題はどうやって砂の中に潜った奴らを攻撃するかだが…


「僕があいつらを地上に引き出すから皆は出てきた敵をよろしく。」

「わかった。」

「コータ何する気なんだ?」

「まあ見てなって。『風精霊の竜巻(シルフ・トルネード)』!」


コータは大きな竜巻を起こすとそれは辺り一帯の砂漠の砂を巻き上げる様に動き出す。地面に潜んでいた獣人族達は砂と一緒に空中に巻き上げられ、身動きがとれないようだった。今のうちに捕らえなければしかしコータの奴ちょっと規模が大きすぎる。土の中の獣人族を巻き上げるためには仕方のないことなんだろうが巻き上げられた砂がこちらにも飛んできている。


「ちょっとコータ!こっちにも砂飛んできてるんだけど!?」

「それはごめんだけど今のうちに捕まえて!」

「仕方がない。とりあえず捕まえるぞ。」

「後で覚えていてくださいね。」


空に巻き上げられた獣人族の男たちを捕まえることに成功した俺達は、先程ケガをさせられた集落の人々の治療をしていた。幸いにも皆大きなケガというわけではなく安静にしていればすぐに回復するだろう。治療を終えたジェマがこちらに寄ってくる。俺達の前に立つと深々と頭を下げた。


「アンタ達のおかげで助かった。ありがとう。」

「気にしなくていい、お互い様だよ。」

「ジェマ!」

「長老!」


どうやらジェマは俺達にお礼を言いたかったようだ。困ったときはお互い様である、気にしなくていいのだ。そこへ長老が慌てた様子で駆け寄ってくる。ジェマの育ての親だと言っていたし、相当心配だったのだろう。


「皆、本当にありがとう助かった。でもどうして敵の襲撃がわかったんじゃ?」

「いえ、構いません。それが…」


集落が獣人族に襲撃される少し前―――

ユーリ達はそれぞれベットに入り眠りについていた。だがユーリだけは考え事をしていて寝付けていなかった。ユーリが考えていたことは結局の結界に感じた《勇者》特有の感覚はなんだったのかということだ。仮にだが結界に《勇者》の魔力が残っていたとしてそれを感じ取ることができるのだろうか。それこそ以前訪れたこのレシア砂漠の迷宮(ダンジョン)の地下であったブリジットさん。彼女からは特に《勇者》に関する何かは感じなかった。まああの場所に《勇者》が訪れていない可能性もあるが、それならば俺達の村から行くことでが出来たエルタさんのいる魔物が住む島。あそこは確実に《慈愛の勇者》がいたはずだ。しかし何も感じなかった。


「うーん、考えれば考えるほどわからないな。」


どうしても何か引っかかることがあった俺は眠れずに居た。


「少し外の風にでも当たるか。」


俺はべっとから出ると窓を開き、夜風に当たることにした。レシア砂漠が近いせいか夜は少し冷える。だが今の熱を持った俺の頭にはちょうどいいことだろう。


「ふー、気持ちいいな。…うっ!なんだこれ?」


窓から外を眺めていると急にレシア砂漠の方から何かを感じ取った。これは《勇者》の力?なんだか胸騒ぎがする。急いで皆を起こしてジェマ達の所に急がなければいけないな。…という経緯で駆けつけることが出来たのだ。


「《勇者》の力?」

「そう、俺達《勇者》同士はお互いのことを不思議と感じ取れるんだよ。実はこの結界に気付いたのはアリアなんだけどそもそもその結界を見つけることができたのはこの集落から《勇者》の気配を感じたからなんだ。それがなかったら結界にも気付かなかったと思うよ。」

「そうじゃったのか。」

「でもここの集落は亜人族の集まりじゃないですか?《勇者》は人間族しかなれないと言われているので気のせいかなとも思っていたんです。」

「それでも特殊事例もあるので一概には言えないんですけどね。」


そう《勇者》が人間族にしかなれないというのは言ってみればあくまでも俺達の想像に過ぎないのだ。前回魔王を封印した《勇者》が人間族だろうが、今の所判明している今世代の《勇者》が人間族だから亜人族に《勇者》がいないといのはあくまでも可能性は低いという話で絶対ではない。そもそも俺が《7人目の勇者》の時点で特例だしな。


「………。」

「どうかされました長老?」


俺達の話を聞いて長老は凄く厳しい顔をしていた。体調でも悪いのだろうか。


「皆に話たいことがある。」

「それじゃあアタシは席を外すよ。」

「ジェマもここに居るのじゃ。」

「?」


気を使ってジェマが席を外そうとするが、長老はジェマにもここに残るように言った。何か関係があることなんだろうか?すると長老が魔力を込める。何かの魔法を発動するようだ。


「『仮装(マスカレード)』!」

「!?」

「こ、これは一体?」

「ジェマの体が…。」


長老は『仮装(マスカレード)』という魔法を使うとジェマの体が光輝き出した。するとジェマの頭に生えていた獣人族特有の耳はなくなり、尻尾がみるみる内に小さくなり消えてしまった。ジェマ本人も何が起こったのかわからないようで自分の頭を触ったり腰の辺りを触って困惑している。


「この亜人族の集落には唯一人間族が居る。」

「ま、まさか…」

「そう。それはこのジェマなのじゃ。」


長老はジェマが実は人間族だったという衝撃の事実を明かした。俺達は驚きのあまり空いた口が塞がらなかったが…


「あ、アタシが…人間族だった…?」


ジェマの方が相当混乱していいる様子だった。それもそうだろう、今まで長老に亜人族として育てられ周りも皆そうだったんだから。ここに来て急に自分は人間族だったと言われて動揺しない方がおかしい。俺達は砂漠の夜風に吹かれ立ち尽くす、夜はまだまだ終わりそうにない。


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