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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
暁闇の偽り編

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第百二十七話 強襲

この亜人族の集落は皆追われてここまで逃げてきたんだよな。シロの村は盗賊に襲われて全滅していたとディランが言っていたが、もしかして人間族との交流反対派の仕業なのではないだろうか。それに同じ村近くの村出身の人がここにいるかもしれないと俺は考えた。


「長老もう一つ聞きたいことがあるのですが…。」

「なんじゃ?」

「実は家で雇っている獣人族の女の子がいるんです。名前はシロって言います。その子は村を襲われて奴隷契約までさせられてなんとか契約は解除して今は普通に生活をしているんですが、もしかして皆さんを襲ってる奴らの仕業なんでしょうか?それとシロのことを知っている人はこの村にいませんか?」

「あり得ない話ではないのぉ。奴らは儂らの様に人間族の肩を持つ者を捕まえて奴隷にしようとしておる。さらに言うなら最終的な目標は人間族の奴隷化じゃ。」

「そ、そんな…。」


ディランというよりは現場にいたイヴァンさんは全滅した現場を見て盗賊の仕業だと考えたのだろうが、盗賊にしてはわざわざ奴隷契約を結ばせる意味がわからない。もしかしてシロの住んでいた村は比較的人間族が近くに住む、交流のある村だったのではないだろうかと俺は考えたのだ。


「儂はシロという名前に心当たりはないが、皆に聞いてみよう。できればどの辺りの村かわかるといいんじゃが。」

「父の話ではたしかオルロスに向かう途中と言っていたから国境付近の村だろう。」

「ちょうどその辺り出身の者がおるから聞いておくわい。」

「お願いします。」


とりあえず亜人族の集落を見つけるという目的を果たせたし、シロのことが思わぬ所で繋がったかもしれない。元々そこまで当てのない旅であったが充分だろう。一先ず俺達は以前にも利用したイシュカの屋敷に泊まることにした。突然押しかけた挙げ句、集落で厄介になるのは流石に申し訳ない。


「それにしても獣人族の国でそんなことが起こっているなんてね。」

「ですが少し疑問もあります。それだけ反発する連中をなぜ国として放置しているのでしょうか?そんな集団くらい騎士団の様な武力で抑えることができそうな気もしますが。軍や騎士団のような物はないのでしょうか?」

「オルロスという国は少し特殊なんだ。亜人族同士が全て協力的というわけではなく、あくまでも自分の種族の事しか考えない。だから国を纏めているのはそれぞれの種族の長で国としての方針はそこで決められるが、獣人族の問題は獣人族で解決しろということなんだろう。それに軍の様な物はなくそれぞれの種族の戦闘部隊が軍の代わりになるんだ。あまり人間族と交流をしないから知らなくても無理もないがな。」

「ディランは詳しいね。やっぱりイヴァンさんの影響かい?」

「影響というかはわからないが、以前はよくオルロスの方に行っていたからな。どうしてかというのまでは知らないが。」


ふむ、たしかに少し変わっている国だな。国というよりもいろんな種族が集まっているが故にお互いのことはそれぞれで解決するという感じなのだろうが、それが原因でジェマ達の様な者が産まれてしまうのだろうと思う。もう少しお互いに寄り添うことはできないのだろうか。


「まあ僕達にはどうすることもできないし、関係のないことだけどね。」

「そうか?協力体制が取れればいい戦力になると思うが。」

「そうかもしれませんが、やはり奴隷制度という過去がありますから。長老の様な方ばかりなら良いですが中々心情的にはそう簡単に許せないというのも理解できます。」


確かにそう簡単に割り切れる問題ではないのだろうな。俺はふと疑問に思うことがあった。人間族の国は魔族に襲われるということはあるがオルロス国でそういうことがあったとは聞いていない。だからあまりオルロス国について知らなかったのだが、亜人族について魔族はどう考えているのだろうか。


「魔族って亜人族についてどう考えてるんだろうね。人間族は《勇者》がいるから狙うってのは理解できるけど。興味はないのかな?」

「まあ魔族にしてみれば人間族と上手く争ってくれるいい存在って思ってるんじゃないかな。獣人族はともかく他の亜人族とも仲がいいとは言えないから。それに戦力を削いでくれる獣人族には特にね。」


魔族と獣人族に確執があるかどうかはわからないが、人間族と争ってくれるならそれに越したことはないだろう。自分たちが何もしなくても勝手に戦力が削れてくれるならどれだけ楽なことだろうか。まさかとは思うが今回の獣人族の人間族敵視も魔族が絡んでいる可能性はないだろうか。奴隷制度があった恨みを刺激すれば獣人族が人間族と敵対するのは容易に想像できるし、ジェマ達が人間族の国で殺されでもしたらオルロス国としてはちゃんとセルベスタ王国を敵視するという物語ができる。今まで反発していた人達もジェマ達の様に消されるかも知れないという脅しにも使えるし、そうじゃなくても人間族との交流を望んでいたという亜人族が殺されたことを知れば人間族を恨むかもしれない。


「皆を保護するべきかもしれないな。」

「保護ですか?」

「うん。このままあのレシア砂漠に住むってわけにもいかないでしょ。追手が来て殺されでもしたらそれこそどうしようもないし。」

「シャーロットに相談するべきかもな。」

「後で聞いてみることにするよ。まあその前に長老達に提案するのが先かもね。とりあえず明日また行くことにしよう。」


俺達はそのまま休んでまた明日、ジェマ達の所に訪れることにした。


◇◆◇◆


レシア砂漠付近の森の中―――


「奴らこの砂漠にいるようですぜ兄貴。」

「ふん、こんなところまでぞろぞろと逃げてきてご苦労なこった。お前ら準備はいいな!」

「「「おぉ!!!」」」

「行くぞ!」


闇夜に紛れる集団は砂漠に繰り出し、亜人族の集落へと迫っている。彼らはオルロス国からジェマ達を追ってきた獣人族の戦闘部隊である。彼らは普段冒険者という肩書があるためセルベスタ王国に入るのも容易であり、怪しまれることもなく堂々とジェマ達を追ってきたのだ。


「長老何か来る。」

「ついにここもバレてしまったか。戦える者は準備をするのじゃ!その他の者は急いで荷物をまとめ逃げる準備を。ジェマ儂の所に来い!」


ジェマはすぐさま長老の所に駆け寄る。自分に任されるのはなんだろうかジェマは心して聞いていたが、長老の口から聞かされた言葉はジェマにとってとてもショックなことであった。


「ジェマ、お前はユーリ君達を連れてくるのじゃ。」

「どうしてですか!アタシが戦えば問題ない!」

「お前もあの人達の実力はわかっておるじゃろ?今まで逃げてこれたのは奇跡みたいなもんじゃ、今日ここで殺されてしまうかもしれない。じゃがあの方達ならきっと儂らを救ってくれる。」

「そんな…。」


ジェマもユーリの実力は目の当たりにした。自分よりも格上であることも頭ではわかっている。しかし自分達の問題は自分達で解決したいと考えていた。少なからず奴隷制度のせいで同胞達が虐げられてきたことを知っているジェマとしては個人的に恨みはないものの人間族と積極的に仲良くする気もなかったのだ。


「アタシが…アタシがなんとかする!じいちゃんは皆をお願い!」

「待つんじゃ!ジェマ!」


ジェマは長老に静止を振り切り襲ってきた奴らの元へと向かう。結界の端まで来るとすでに戦える人物達が集まっていた。


「状況は?」

「おう、ジェマ。わからねぇ、この闇夜に紛れてて見つけることができない。ブルの奴も探知ができねぇってよ。」


ブルというのはこの集落唯一の探知系能力者である。だが精度はそこまでよくなくこの砂漠に自分たち以外の複数の獣人族が侵入したことはなんとなくわかったが細かい人数や正確な位置はわからなかった。


「何人来ようとアタシが全員倒してやる。」

「その粋だぜジェマ。」

「皆には手を出させない!」

「それはそれは大層な目標なこったな。だがそうそうできないことは口にしないほうがいいぜ。」

「うわぁぁぁ!!!」

「きゃぁぁぁ!!!」

「皆!」


気がつくとジェマの近くに居た二人は後方に吹き飛ばされている。まったく存在に気づかなかった。咄嗟に的に向かって魔法を放つ。


「『砂の爪(サンド・クロウ)』!」

「おっと危ない危ない。」

「『土の球(アース・ボール)』!」

「うわぁ!」


やられた仲間に気を取られている間にすぐ側にいるもう一人に気付かなかったジェマは至近距離でまともに魔法をくらってしまった。完全に不意を突かれたこともありガードができずにかなりのダメージを負ってしまった。


「くっ…こんな魔法で…。」

「魔法の大小だけが殺し合いじゃないんだぜお嬢ちゃん。」

「これで戦える奴はもういないのか?張り合いのねぇ。」


闇夜の砂漠の中からぞろぞろと獣人族が出てくる。その数はざっと数えても10人はいる。すでに仲間はやられてしまっており他に戦えるものは居ない。長老に大口を叩いておいてこの様で、ジェマは無力感に打ちひしがれていた。つまらないプライドのせいで皆を危険にさらしてしまった。素直に自分を負かした人間族に助けを求めればよかったと。


「まあ同胞を殺すのは心が痛むがこれも任務なんでな。」

「ふん、そんなことちっとも思ってねぇくせによ。早くやっちまえ。」

「へい、お頭。あばよ嬢ちゃん!」


ジェマの頭に獣人族の男が鎚を振り下ろす。ジェマは死を覚悟したその瞬間、頭の上でガァン!という金属音が鳴った。それは獣人族の男が振り下ろした鎚がジェマの頭でははなく何かにぶつかった音だとわかった。ジェマは恐る恐る顔を上げるとそこにはユーリが鎚を剣で防いでくれている姿だった。

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