第百二十五話 逃げる理由
「お前達何をしに来た!」
「ちょっと落ち着いて!」
建物の向こうから出てきた獣人族の女の子は俺たちに敵意むき出しという感じである。先程の土の塊を飛ばしてきたのもこの子なのだろうか?すると女の子の後ろからぞろぞろと成人男性の獣人が出てきた。さらにその中でも老人と思われる男性が前に出て来て口を開いた。
「いきなり襲ってすまんのぉ。それで何をしに来られたのかな?」
「俺たちはセルベスタ王国にある聖リディス学園の者です。それと同時に冒険者でもあります。あなた達と敵対する気はありません。話を聞いていただけますか?」
「ふん、信用ならないな!」
「まあ待て、落ち着くのじゃ。それでどんなご要件ですかな?」
「このレシア砂漠で生活している人達がいると聞いて会いに来ました。ここは普通に生活しようと思ってできるような場所じゃないですから。何か魔法か凄い能力を持った人物の魔力で対処しているのか気になりまして。」
俺はできるだけ相手を刺激しないように素直に質問に答える。ここで変に答えるほうが後で厄介なことになる可能性が高いからな。だがあの女の子の獣人だけは俺の話をまったく聞いていないようで睨みつけられている。ジンタさんの話では何かから逃げているということのようだし、疑われてしまうのも無理はないか。
「なるほど。じゃがお主達は相当強いとお見受けするが、どうしてそこまで力を求めるのじゃ。」
「俺は《勇者》なんです。人々を…いや世界を守るために魔族と戦っています。だから強くなるためにできることは何だってしたいんです!」
「…わかった。皆、この者達に手出しをしてはならぬ。」
「長老!いいんですか?こんな怪しい奴らを村にいれて!アタシは信用できない!」
「まあそう怒るな。これもなにかの縁やもしれぬ、それにこの者が只者ではないこともお主ならわかるじゃろ?やるつもりならすでに儂らは全滅しておるよ。」
「ふん!勝手にしな!」
「…なんとかなったのかな?」
「みたいですね。とりあえずあの長老という方に付いていきましょう。」
「どうなることやら…。」
俺は自分が《勇者》であることを明かし、なんとか長老と呼ばれる人に話を聞いてもらえることになった。そしてその長老に付いてくるように言われ俺達は後を付いていく。建物があると思ったがどうやらこれは木材と布で作った簡易的な住居のようだ。そして中心部にある少し大きな建物の中に案内される、中には家具などはなく絨毯の上に簡易的な机とイスが置かれていた。
「どうぞ腰掛けくだされ。大したおもてなしはできんがな。」
「いえ、気にしないでください。突然押しかけたのは俺達ですから。」
「これ砂漠草のお茶じゃない?」
「おや、ご存知でしたかな。」
「先程ジンタさんという人の所でご馳走になりました。」
「おぉ、ジンタさんのお知り合いじゃったか。それなら先に言ってくれればよかったのに。」
「ジンタさんとはどんな関係で?」
「儂らがここで生活し始めた時に色々と世話になったのじゃ。色々分けてくれたのじゃよ、この砂漠草のお茶もその時に頂いたものじゃ。」
なるほど、ジンタさんは亜人族の方達の支援をしていたのか。だから亜人族の集落だって知っていたんだな。だが本当に詳しいことは知らないという感じだったし、理由も聞かずに支援したのだろう。素晴らしい人である、俺達も見習いたい。
「あっ、決して俺達はジンタさんにここの場所を教えられたわけじゃありませんよ。何かから逃げてきてここに隠れてらっしゃるということは聞きましたが、ジンタさんも砂漠にいることはわかっても詳しい場所はわかってないようでしたし。」
「わかっておるよ。それにそう簡単に見つからないようにしてあるはずじゃからな。だがお前さん達は簡単にここを見つけられた。その時点で儂らはいつ殺されてもおかしくないのじゃ。」
「簡単には見つからないってどういうことですか?」
「ここには名のある《錬金術師》に作ってもらった隠蔽の結界を張る魔道具を設置しているのじゃ。、まあお前さん方には簡単に見破られてしまったがの。じゃが《勇者》ということであればそれも可能かもしれないと思ったのじゃ。」
「それで納得したと。」
なるほど結界を張る魔道具ね、レシア砂漠じゃ探知系の魔法も上手く機能しないだろうからこそアリアとエレナの《副技能》でも見つからなかったんだな。砂漠の魔力もどうにかできる結界なのだろうな。だが俺とエレナが《勇者》特有の感覚のおかげなのか見つけてしまったのだ。しかし、結界に入ったもののやはりいつもの《勇者》の感覚とは違う気がするな。まるでここの集落全体に《勇者》の魔力があるようなそんな感覚だ。この結界を作った《錬金術師》とやらが気になるな、《勇者》に関係あるのだろうか?
「ここの結界を作った《錬金術師》というのはどんな人なんですか?」
「不思議な人間族で儂らの様な亜人族にも優しい方じゃった。儂が子供の頃に亡くなられてしまいましたが。」
「そうだったんですが。」
この結界の魔道具を作った《錬金術師》が実は《勇者》なのかと思ったが、すでに亡くなっているとなると違うのであろう。今世代はともかく先代の《勇者》にしては若すぎるしな。謎は深まるばかりだ。村長と話しをしていると建物の外から小さい女の子がこちらを覗いているのがわかった。俺は魔法袋を取り出し、中からお菓子を取り出した。その子にこちらに来るように促す。
「よかったら食べるかい?」
「うわぁ!ありがとうお兄ちゃん!」
「他の子達も出ておいで。まだまだたくさんあるから。」
「僕にもちょうだーい!」
「私にも!」
女の子にお菓子をあげたら凄く喜んでくれた、それを見た他の子供達も羨ましそうに眺めるので皆を呼んでその子達にもお菓子をあげることにした。ぞくぞくと子供がやってくる、思っていたよりもここの集落には子供が多いようだ。
「これこれあまり皆さんに迷惑をかけるんじゃないわい。」
「大丈夫ですよ。差し支えなければどうしてこの砂漠に逃げてきたか聞いてもいいですか?」
「儂らは元々亜人族の国オルロスに住んでいたのじゃ。我々亜人族の中でも最も多いのが獣人族なのじゃが彼らは人間族を嫌っておる。理由はわかるじゃろ?長年に渡る奴隷制度の確執のせいじゃ。」
奴隷制度は今は禁止されているがまだまだ残っているのもたしかだし、そのことで人間族に恨みがあるのは当然のことだろう。だがそれならば彼らが追われる理由はわからない。確執があるのは人間族であって亜人族という括りで見ればお互いに協力し合う関係なのかと思っていたが…。
「じゃが今オルロスは人間族と歩み寄ろうとしておる。そんな矢先それに反対する一派が獣人族から現れた。儂は元々国に仕え人間族との交流を図る役目を仰せつかっておったが、反対派に襲われてしまってのぅ、今じゃ追われる身となってしまったよ。そこでここにいる同じ様な理由で追い出された亜人族を連れてセルベスタ王国まで逃げてきたというわけじゃ。」
「そういうわけだったんですね。俺達に何か手伝えることがあれば何でも言ってください。」
「だったら…お兄ちゃん達お水出せる?」
「お水?もちろん出せるよ。」
「ここはね雨が振らないからお水が中々手に入らないの。」
そうか砂漠地帯だからあまり雨が降ることはない。かといって街に調達しに行くのは危険が伴うからできるだけ自然に調達できるに越したことはないのだろう。だが砂漠ではそれが難しいのだ、だから水魔法を使えるかどうか聞いてきたのだな。こんな子供であってもちゃんと自分達のことを考えているのだな。
「お兄ちゃん達に任せて。アリア。」
「うん。『土の壁・四重』!!!!」
「そしてここに!『噴水・三重』!!!」
「すごーい!お水がたくさん!」
「これでしばらくは大丈夫そうだね!」
俺とアリアは集落のために『土の壁』で土台を作り、そこに『噴水』で大量の水を流し込み簡易的なため池を作った。これならしばらく持つだろうし、雨が降ればここに水が自然に貯まるだろう。
「これほどとは…。」
「他にも何かあったら言ってください。大概のことはできますから。」
「すいません。私達もお願いしていいですか?」
「もちろんですよ。何かお困りですか?」
「家の補修をして欲しくて…。」
「すまない、傷を治したりできないだろうか?」
「それなら私がやります。」
子供達にお願いされてため池を作ったことで、大人たちも警戒心を解いてくれたようで俺達に色々頼んでくるようになった。それぞれ役割を分担して住人のお願いを聞くことにした。そんな俺達を獣人の女の子は遠くから眺めているのであった。
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