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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
暁闇の偽り編

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第百二十四話 亜人族

レシア砂漠は同じセルベスタ王国内にあるためそこまで時間はかからない。問題はどうやって砂漠の民を見つけるかである。そう簡単に見つかれば噂レベルの話ではないだろう。そもそも噂だけで確かめに行くのも無謀かもしれないが、そこは俺の勘を信じる。


「それにしても砂竜(サンドドラゴン)ってどんな生物なの?」

「俺も見たことがないな。」

「うーん、魚みたいな見た目なんだけど竜種だからね。プライドが高くて簡単には乗りこなせないんだ。」

「なぜかアリアにはすぐに懐いていましたけどね。」


そういえば初めてジンタさんのところに行ったとき砂竜(サンドドラゴン)が凄くアリアに懐いていたことを思い出した。まるでペットの様にベロベロ顔を舐めていたな。そんな話をしながら歩いている内にどうやら森を抜けレシア砂漠が見えてきた。ジンタの小屋はこの辺りにあるはずだ。


「えーっとたしかこの辺に…。」

「あそこじゃないか?」

「そうだね。ジンタさんいるかな?」


俺達は森とレシア砂漠の境目にある小屋を見つけた。あそこが砂竜(サンドドラゴン)を飼育しているジンタさんの小屋である。以前訪れた時はいなかったんだよな。今日は小屋にいるだろうか?


「すいませーん!ジンタさーん!」

「おお!お前らはいつぞやの坊っちゃん嬢ちゃんじゃねぇか!」

「お久しぶりですね。お元気そうで何よりです。」

「はっはっは!毎日砂竜(サンドドラゴン)と鍛えてるからな。」

「この人がジンタさんか。」

「なんというか凄い肉体だね。」


ディランとコータは初めて会うジンタという一人の老人の姿に驚いているようだった。気持ちは凄く良くわかる。俺達も初めて会った時は老人とは思えないその筋骨隆々な肉体に驚いたものだ。というか以前よりもさらに磨きがかかっているようにも感じる。一体どう鍛えたらこうなるのだろうか。


「お前ら今日は何しに来たんだ?」

「最近ここらで噂になってる。砂漠の民について何か知っていますか?」

「私達その砂漠の民を探しに来たんです。」

「なるほどな。まあここじゃなんだとりあえず入れよ。」

「わかりました。」


ジンタさんに促され小屋の中に入る。中は少し小汚く家という感じはしないが、それなりに家具は揃っているようでお茶を出してくれた。そのお茶はなんだか独特な香りがしたが、とても美味しかった。


「これ美味しいですね。何のお茶ですか?」

「砂漠草のお茶だ。癖は強いが中々上手いだろ?それで砂漠の民についてだったな。」

「何か知ってるんですか?」

「砂漠の民なんてのはな…いない!」

「えっ?いないんですか…。」


お茶の話もほどほどにジンタさんが衝撃の事実を口にする。砂漠の民はいないということらしい。俺が少し残念そうな顔をするとジンタさんが話を続ける。


「まあまてそう慌てるな。俺が言ったのは砂漠の民はいないという話だ。」

「砂漠の民はいないんですよね?」

「ああ、巷で噂されている砂漠の民っていうのはいない。あれは亜人族の集まりだぞ。」

「亜人族の…」

「集まり?」

「そうだ。」


亜人族と言えばシロの様な獣人族やルミの様なドラゴン族、ライラさんのエルフ族など人間族以外の種族のことを総称して亜人族と呼ぶ。セルベスタ王国では比較的亜人族は多いほうだろう。現在は禁止されているが長年奴隷にされていた種族というのもある。実際シロも奴隷にされていたしな。


「どうして亜人族の方達がレシア砂漠で暮らしてるんですか?」

「詳細は俺にもよくわからんが色々事情があって逃げてきたらしい。俺はこの砂漠を隅々まで知り尽くしとるからな。何か変化があればすぐに気付く、だから彼らがここに来たこともわかったのさ。」

「事情があって逃げてきたですか。どうしてレシア砂漠で生活ができるのですか?砂漠から発生する魔力の影響で幻を見たりしますよね?」

「俺はあんまり魔力や魔法には詳しくないからあれだが、一人とんでもない魔力の持ち主がいるらしくてな。そいつおかげでなんとかなってるそうだ。」

「そうなんですか。」


何人くらいいるのかわからないが、たった一人の魔力でこの砂漠の魔力に逆らうことができるのだろうか?それとも何かそういう魔法なのだろうか。詳細はわからないが、もし本当にそんなことができるならかなりの実力者であろう。ぜひとも会って喋ってみたい。


「ジンタさん色々教えていただきありがとうございました。」

「探しに行くのか?」

「はい。」

「そうか、まだ砂漠にいるかはわからねぇが砂竜(サンドドラゴン)は貸してやるから乗ってけ。」

「ありがとうございます!」

「仮にいたとしてもお前たちの話を聞いてくれるかはわからないぞ?」

「なんとか敵ではないって証明しますよ。」


俺達はジンタさんから砂竜(サンドドラゴン)を貸してもらい、砂漠の民改め亜人族の一団を探すことにした。とはいえ手がかりは何もない、いくら砂竜(サンドドラゴン)に乗っているとはいえ時間はかかってしまう。それに逃げてきたと言っていたから姿を隠している可能性は高い。簡単に見つけることは容易ではないだろう。俺達はそれぞれ砂竜(サンドドラゴン)に跨る。相変わらずアリアにはべったりくっついている、なぜアリアにはこんなに懐いているのであろうか。初めて砂竜(サンドドラゴン)を見るディランとコータは驚いている。


「これが砂竜(サンドドラゴン)か。」

「魔物はともかくこういう生物を見ると異世界って感じがするなぁ。」

「やっぱいこういう生物は異世界にはいないの?」

「そうだね。飼育されてる生物で乗れる動物といえばやっぱり馬とかかな。」

「異世界にも馬はいるんですね。」

「それじゃあジンタさん借りていきますね!」

「おう!気を付けてな!」


俺達はジンタさんに別れを告げ砂漠へと繰り出した。とりあえずあてはないが端から隅々まで探していくことにした。時間はかかるがいつかは近くを通るはずだ。隠れていたら気付くかどうかわからないかもしれないが、そこでアリアとエレナの出番である。二人の《副技能(サイドセンス)》であれば見つけることができるだろう。


「どうアリア何か魔法の痕跡はあった?」

「今のところ何もないかな。」

「エレナはどう?」

「私の方も今のところ何も変わったことはありません。」

「そっか。」

「俺も探ってはいるがやはりここの砂漠じゃ上手く魔法が使えないな。」

砂竜(サンドドラゴン)のおかげで自分で魔力を放出する必要がないのは楽だけどね。」


どうやらこの辺りでは二人の《副技能(サイドセンス)》で何かを感じることは出来ないようだ。かといって俺やディランの探知系の魔法は砂漠の魔力に邪魔をされてしまい役にはたたない。しばらくは目視で何か違和感を探すしか無いかと思っていた。そんな矢先、俺は強烈な違和感を前方から感じた。


「前の方から何か感じない?」

「そうですね。なんだか不思議な感じがします、魔力とは違うような。」

「私は何も感じないから魔法じゃないかも。でも何でユーリとエレナにはわかるんだろ?」

「…まさか《勇者》がいるってことか?」

「でも亜人族の一団なんだろ?《勇者》は人間族から選ばれるんじゃないの?」


俺とエレナの共通点と言えば《勇者》同士であることだ。魔力ではないという点と俺とエレナだけが感じているということからディランは《勇者》がいるのではないかと思ったようだが、なぜか俺はしっくり来ていなかった。いつもの《勇者》同士が邂逅する時の感覚とも少し違う気がする。それにコータの言う通り俺達の探している一団は亜人族とジンタさんが言っていた。だが《勇者》は人間族であるのだ、俺の様な例外があるから一概には言えないが…。


「とりあえず行ってみよう。」

「そうだね。」


この違和感が何かはわからないがとりあえず向かってみることにした。近づけば近づくほどその違和感は強くなっていくが砂漠の景色に変わりはない。するとアリアも何かに気付いたようだった。


「ここ何かあるよ。多分結界だ。」

「結界ということはここに亜人族の一団がいるってことだね。」

「どうする?」

「入ってみよう。だけど皆くれぐれも先に手を出さないように。」

「そうだね。僕達は敵じゃないってことをアピールしないと。」


俺達は慎重に結界の中に入る。するとそこには土でできた家のような建物が複数建っていた。人の気配は感じるが隠れているのだろうか?と考えていると俺に向かって土の塊が飛んでくる。


「ユーリ!」

「大丈夫!『身体強化(フィジカル・ブースト)』!はぁ!」

「お前達何をしに来た!」


飛んできた土の塊を素手ではたき落とす。それほど強い魔法ではない。建物の向こうから獣人族の女の子が俺達の目の前に現れたのであった。


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