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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
深淵の復讐者編

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第百二十三話 《業物》

次の休みにレシア砂漠に行くことを決め、屋敷へと帰宅した。いつものようにシロが出迎えてくれたのだが様子がいつもと少し違う。それは奥の方からなぜか悲しんでいる鳴き声が聞こえていたからだ。俺は声のする方に指を向けシロにあれはなんだと目配せするとあははと言わんばかりの苦笑いで返される。俺とアリアは顔を見合わせわけがわからないまでも奥へと進む。そこには鳴き声の主であるランマがうずくまっていた。


「ただいま。ランマどうしたの?そんな大きな声で泣いて。」

「ユーリ殿ぉぉぉ!!!」

「うわぁ!鼻水拭いてよ、ばっちぃなぁ。」

「うわぁぁぁぁぁん!!!!!」


ランマは大声で鳴き声を上げながら涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら俺の胸元へと飛び込んでくる。マルクさんもユキさんもやれやれという感じでその光景を眺めていた。一体なぜこんなに泣いているのだろうか。するとアリアが何かに気付いたようで床に落ちていた物を拾い上げる。それはランマが愛用している刀であった。だがそれは見るも無惨な姿になってしまっていた。美しく磨き上げられた刃が見事に折れていたのだ。


「刀がぁぁぁ!!!」

「はいはい。わかったから落ち着いて。」

「綺麗に折れちゃってるね。一体何があったの?」

「私が…説明する。」

「コーデリアお願い。」


どうやらコーデリアがこの状況を知っているらしいので、ランマを落ち着かせつつ刀がどうして折れてしまったのかという詳しい話を聞くことにした。


「今日も…いつものように修行してた。だけど…《ロック・バイソン》に遭遇した…。」

「《ロック・バイソン》ってたしか岩のように硬い肌でその角はそれよりも硬いっていう魔物だよね?」

「何か話が見えてきたよ。つまりその《ロック・バイソン》を斬ろうとして折れちゃったってことね。」

「だけど…ランマが…おかしいって…。」

「おかしいかな?」


話だけ聞くと別に不自然な所は感じられないように思うが。刀だって丁寧に使用していてもいつかは折れる。刀だけじゃない、《聖剣》だっていつかは折れるかもしれないのだ。誰も《聖剣》が折れる所を見たことがないだけで。ここまで泣きじゃくっていたランマが少し落ち着きを取り戻したのか口を開いた。


「拙者の刀はただの刀じゃなくて《業物》なんでござるよ!」

「《業物》?」

「大和国では名剣のことを《業物》というんですよ。」

「へぇーマルクさんよく知ってますね。」

「ははは。剣には目がありませんから。ですがたしかにランマ様の《業物》はいい刀です、《ロック・バイソン》如きの魔物で折れるとは考えにくいのですが…。」

「他に理由があるってことか…。」


うーむ、最近ランマが《ロック・バイソン》以上の硬さの物斬ってたかなぁ。一番記憶に新しいのはやはりソレイナ国での事件だが…。あのときランマはヒョドルという氷魔法使いの男と戦って氷は斬ってるだろうがそれなら《ロック・バイソン》の方が硬いだろうし。…俺はハッとした、あるじゃないか最近ランマの刀に大きなダメージを与えた出来事。


「もしかしてだけどデリラの攻撃を防いだときじゃないかな?たしかデリラの一撃を刀を滑り込ませて防いでなかったっけ?」

「そう言われてみれば…そうでござる!たしかあの時、咄嗟に刀でデリラ殿の一撃を受けとめたでござるよ!」

「じゃあそれが…原因…。」

「あれは凄かったもんね。」


暴走状態のデリラの一撃は誰も受け止められないほど重く強い一撃だった。いくらランマの刀が《業物》と呼ばれる物であっても折れてしまうのは仕方がないことであると思う。


「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

「わかった、わかったから。良い鍛冶師を紹介するよ。」

「本当でござるか?」

「本当、本当。俺の《聖剣クラレント》を打った凄腕だぞ。」

「でもこれと同等かそれ以上の《業物》がいいでござる!」

「贅沢だね。ちょっとは元気出てきたのかな。」


あまりにも泣き止まないから俺は鍛冶師を紹介することを提案した。知ってる鍛冶師と言えばもちろんピルクだ、刀を打てるかはわからないが俺の《聖剣クラレント》を打った鍛冶師である。実力は間違いないはずだ。しかし人に物を頼んでいる割には《業物》がいいとはわがままな奴だ。いや実力者であるからこそ刀には拘りたいということか。


「お話の途中に失礼いたします。それでしたらその刀をお持ちになった方がよろしいかと思います。」

「もう折れてるのにですか?」

「はい。普通の刀であれば折れてしまったら形だけ繋ぐことは可能ですが、再び折れやすくもう二度と元の刀には戻らず使用することはできません。ですが《業物》であれば折れてしまった場合でも今までに刀が蓄積した魔力のおかげで新たな刀の芯として使用することができるのです。」

「魔力のおかげか。」

「はい、ランマ様は今までに数多くの戦いをしてらっしゃいますから相当刀にも魔力が蓄積されているはずです。もちろんかなりの鍛冶師としての腕は必要とされますし、それでも失敗する確率の方が高いですが…。」


なるほど《業物》の刀は斬り伏せた相手の魔力を蓄積することができ、そのおかげで普通の刀とは違い変わった特性を持つおかげで再び利用することができるというわけだ。なんとも不思議な話である、それに再加工をするのはかなり難しいようだ。だがそこはピルクの腕を信じよう。


「もちろんやるでござる!」

「きっとこの《業物》を超える刀ができると思いますよ。」

「それじゃあ俺はピルクに向けた手紙を書いておくよ。」

「私は…付き添う…。」

「お願いするでござる!」


とりあえずランマを落ち着かせることには成功し、二人も今度の休みにガルタニア国に訪れることになった。しかしいくらコーデリアがついていくとはいえランマが刀なしだと心配だな。誰か付いてってくれる人がいるといいんだが…いつものメンバーの誰かに頼むか。次の日、学園で皆に声をかけようと思ったが俺はあることを思い出した。


「というわけでジークに頼みたいんだけどどうかな?」

「そのなんていうか、僕でもいいのかい?」

「もちろん。昨日鍛冶師の仕事の話をしてただろう?俺の知り合いに若いけど腕のいい鍛冶師がいるからついでに紹介してあげようと思って。その代わりといっちゃあなんだけど俺の友達の護衛をして欲しいってことさ。」

「そういうことならもちろん受けさせてもらうよ。」

「よかった!それじゃあ頼むよ。」


ジークならば実力はもちろん人柄的にも安心である。そして授業後いつものメンバーと合流し、話はランマの刀にについて、どうやらアリアは皆にランマのことを話していたようだった。


「ごめんね、僕のせいで迷惑かけちゃって。」

「デリラが気にすることはないよ。刀だっていつかは壊れる物だよ。」

「うん…。」

「アリアから聞いたがガルタニアに行くんだろう?」

「そう、俺の《聖剣クラレント》を作ったピルクって鍛冶師を訪ねにコーデリアと二人でね。」

「でも2人だけで大丈夫なの?」

「そう思って皆に頼もうと思ってたんだよね。」

「ああ、そのことなんだけどもうジークに頼んでおいたんだ。」

「ジーク・レイヴァンか。」


皆に刀の件を詳しく話す。恐らく折れた原因であるデリラに言おうか迷ったが内緒にする方が後でわかった時に傷つけてしまうと考えて素直に話すことにした。そしてジークに護衛を頼んだということも話した。


「俺とコータが空いているから付いていこうと思ったが…」

「ジーク君が行くのであれば僕達はユーリに付いていこうかなって。そっちのほうが面白そうだ。」

「面白そうって。」

「だけど興味あるなぁ。砂漠の民でしょ?私も予定がなければいくんだけど。」

「僕はデリラが心配だからそっちに付いていくことにするよ。」

「ウールらしいね。」


結局、砂漠の民探しには俺、アリア、エレナ、ディラン、コータの5人で行くことになった。デリラとウールはバルムンク家とブランシェさんに会いにいくことに。そして時間は進み学園が休みの週末になった。朝からジークが俺達の屋敷へと訪れていた。


「ジーク・レイヴァンです。よろしくお願いします。」

「拙者はランマ・ヤマダでござる。」

「コーデリア・ブラウ…。」

「はい、これ手紙。三人共仲良くやるんだよ、ピルクによろしくね。」

「わかったでござる!」

「うん…わかった…。」

「それでは行ってきますね。」


三人の旅立ちを見送る。何も考えずにジークを誘ってしまったが国境を越えることができるのか心配であった。しかしジークはああ見えて冒険者ライセンスを持っていいるらしい、ちなみにランクはCだとか。三人を見送ったあとエレナとディラン、コータも合流した。


「さて俺達もそろそろレシア砂漠に出発することにしようか。」

「最初は砂竜(サンドドラゴン)を借りに行くところからですね。」

「皆元気かなぁ。早く会いたいよ。」

「よし、出発。」


俺達はレシア砂漠を目指して進むのであった。果たして噂の砂漠の民に会えるのであろうか少しの期待に懸けることにしよう。


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