第百二十一話 教会の役目
コータの提案した祈りというやつを早速教会で試してみることにした。果たして《女神様》と交流はできるのだろうか。王都には教会がいくつかあるらしいが、その中でも一番大きな教会に行くことになった。この教会は孤児院が併設されており、シャーロット曰く国からの支援を受けているらしい。
「ここが教会か。」
「なんか教会に来るの《女神の天恵》以来かも。」
「普段来ることはないからな。だからこそ盲点で試してみる価値はあるだろう。」
「僕的にはなんだか文化がちぐはぐで変な感じがするけど、よく考えたら僕がいた世界もそんな物だったなぁ。」
コータの話によればあちらの世界でも教会はあるらしいが、信じている神様は様々で教会以外にもいくつか神様を崇める場所があるとかなんとか。だがコータの国では俺達の様に常に祈りに行ったりはしないようで。年に数回行くくらいらしい。他の国では毎日教会に通ったりする信心深い人もいるんだとか。
「うわぁ…凄い綺麗。」
「流石、王都の教会だけあって中も大きくて綺麗だね。」
「村の教会とは大違いだよ。」
「やってることはそう変わらないんですけどね。」
教会の中は奥にある女神の像に向かって椅子が沢山並べられており、天井は一部がガラスになっており太陽の光が女神の像に降り注ぐようになっていた。まさに神々しいというのはこのことだろう。
「女神の像も大きいな。」
「それじゃあ早速祈ってみるか。」
「皆もやってみようよ。もしかしたら誰かはいけるかもしれないし。」
「たしかに《女神様》に会ってみたいかも!」
「そういう物なんだろうか…。」
とりあえず俺達は全員で《女神の天恵》の様に女神の像に手を触れながら目を閉じる。自然と魔力が集まってくるのを感じる。俺はだんだんと意識が遠のいていくのを感じたのであった。…気づけば何もない真っ白な空間、身体の感覚はなく意識だけははっきりとしている。これはいつも《女神様》と会話している空間だ。
《久しぶりですね。ユーリ。》
「お久しぶりですね《女神様》。どうやら上手く成功したみたいでよかった。」
《必ず成功するわけではないのですよ。今回はたまたま呼びかけに答えることが出来ました。》
「えっ、そうなんですか?」
《そういうものなんです。ところで今回は何を聞きますか?何でも話せるわけではなく、話せることは限られていますが…。》
「まずは残りの《勇者》がどこにいるかわかりますか?まったく情報がなくて…。」
《《勇者》について今の時点で話せることをお話します。まずもう気付いているかもしれませんが《勇者》にはそれぞれ得意としている魔法があります。エレオノーラは炎、シャーロットは風、コーデリアは水そしてユーリは無とそれぞれが決まっています。そして残りの《勇者》は雷と土…》
ん?エレナやコーデリアそして百歩譲って俺はまだ理解できるが、シャーロットが風?一体どういうことなんだろうか。シャーロットは《剣の勇者》であり風どころか魔法自体『身体強化』か『付与魔法』くらいしか使えないはずだ。
《魔力特性の話ですよ。気付いていないようですが、シャーロットは風魔法に適正があります。《剣の勇者》ですが剣を介して魔力を流せば魔法を発動することが出来ますよ。》
「魔力特性?」
《以前迷宮遺物で調べていませんでしたか?》
「あー、レシア砂漠の時の。迷宮遺物で得意な魔法属性がわかったというやつですね。」
《はい。それで話を戻しますが、雷と土の《勇者》の所在ですがすでに訪れた土地にいますよ。》
「すでに訪れた土地にいる…ですか。」
俺が今まで訪れた国や街、あるいは山や川とかの場所にいるという解釈でいいのだろうか。
《その解釈であってますよ。》
「じゃあ近くにはいたかもしれないけど、会ってるかどうかは別ですか?」
《はい。なので今まで出会った誰かが隠しているというわけではないです。》
「ということはまだ探してないような場所があるってことか。わかりました、ありがとうございます。」
《いいえ。それと他に聞きたいことはありますか。》
とりあえず《勇者》のことは聞けたとして、やはり一番気になるのは…
「《魔王》復活の時期ってわかりますか?」
《《魔王》復活の正確な時期は言及できませんが、復活のためには条件を満たさなければいけません。》
「条件ですか?」
《はい。いくつか条件を達成しなければいけません。だからこそ封印されてから数百年の間、復活していないのです。》
「なるほど。それで条件というのは一体なんなんですか?」
《《勇者》の能力を持った人間が6人現れること。復活のための魔力を集めること。そして魔力を込める器を用意することです。》
「その3つが揃わないと復活できないんですか。《勇者》はすでに6人いますが、他の条件はわかりませんね…。」
《魔王》復活のための魔力がどれほど必要なのか想像がつかない。それに魔力を込める器というのはどんな物なんだろうか。肉体ということなのだろうかそれとも武器か何かということだろうか?
《すみません、今の私から話せるのはこれだけです。それとそろそろ時間のようですね。》
「いえ、色々なお話が聞けてよかったです。死にかけないで会えたのもよかったです。」
《ですが今回は本当に奇跡に近いと思ってもらって大丈夫です。詳細は説明出来ませんが…。》
「わかりました。また何か方法を考えてみます。ありがとうございました。」
《いつでも皆のことを見守っていますよ…。》
《女神様》の言葉を最後に俺は再び光に包まれ、意識を失うのであった。…俺が目を開くと女神の像の周りに居た皆は後ろの椅子に座っていた。どうやら俺以外は会えなかったということだろうな。というかそもそも《女神様》って同時に会えたりするものでもないのだろうか?それくらいできそうな気もするが。
「おかえりユーリ。」
「話しかけても動かないのでもしかしたらと思いましたが。」
「うん。《女神様》に会うことが出来たよ。」
「それで何を聞いてきたんだい?」
俺は皆に《勇者》の魔力特性についての話をした。それとすでに俺が訪れている場所にいるということも。それを聞いて心当たりはないか皆で考えてみることにした。
「つまりシャーロットは風魔法が使える…らしいよ。」
「そうなんですか。自分でもよくわかりませんが。」
「たしか剣を使ってどうとか言ってたよ。」
「つまり魔法を発動するのに剣を介して発動しろということだな。」
「そんなことできるの?」
「出来なくはない。ただ魔力効率は普通に発動するより悪いんだ。」
ディランの話によると、普通魔法を発動する時には自分の身体から魔力を発することで魔法陣を展開し様々な効果が発揮される。しかし剣などの武器を一度通すと同じ魔法でも発動するまでに必要な魔力量が違うのだ。それにそう単純に発動できる物でもなく普通に発動するよりも余計な物を通す分逆に難しいらしい。
「一度やってみることにします。」
「それで雷と土の魔力特性の《勇者》がなんだって?」
「ユーリが訪れた所にいるよって話。」
「今までに訪れたところか…セルベスタ王国、ヴェルス帝国、大和国、ガルタニア国、ソレイナ国かな?」
「ガルタニアやソレイナはともかくセルベスタは広いからなぁ。」
「そうですね。まだまだ行ってない場所は多くあると思います。」
国という括りで言えば五カ国ではあるがセルベスタですらまだまだ行っていないところはたくさんある。五カ国というと少なく感じるが、これ結構大変なんじゃないだろうか。まあこれだけ絞れただけでも手がかりが無いよりはましだろう。
「それで7人目っていうとややこしいな。6人目の《勇者》は?」
「6人目?あっ…」
「ユーリ君。その感じはまさか聞き忘れたとかではないですよね?」
なんとなく基本の5属性が揃っていたから納得してしまっていたが、俺もを含めて今世代の《勇者》は7人いるはずなのだ。俺、エレナ、シャーロット、コーデリア、雷、土。これでは6人じゃないか!《女神様》に聞くのを忘れてしまっていた。
「忘れました。」
「まあユーリらしいと言えばそうかも。」
「とりあえず最後の一人に関してはまた考えましょう。今は判明した二人の《勇者》を探すことに集中しましょう。」
我ながらなんとも初歩的なミスをしたものだ。《女神様》も言ってくれたらいいのに。そして俺はミスを取り戻すかのようにもう一つの情報に話を移した。
「そうそう。それと《魔王》の復活についても聞いてきたよ。」
「いつ復活するんだ?それとももう復活しているのか?」
「それが…」
俺は《魔王》復活の条件に《勇者》の能力を持った人間が6人現れること。復活のための魔力を集めること。そして魔力を込める器を用意することの3つが揃う必要があることを皆に話した。
「《勇者》はともかく、魔力や器ってのはどうなっているか調べようがないよね。」
「うーん、魔力もわかるけど器ってなんだろうね。」
「武器とか?」
「器っていうくらいだからお皿とか?」
「《魔王》にまつわる物は何か残っていないの?」
迷宮遺物が《勇者》にまつわる物ならば、何か《魔王》にまつわる物も残っているのではないかと俺は考えた。皆は考え込むが意見が出てこない所を見ると恐らくないんだろうな。あったとしても《魔王》復活のために必要なものであればすでに魔族が集めている可能性は高い。
「あったとしてもすでに集められてるか。」
「とりあえず今日はここまでにしておこう。」
「そうだね。遅くなるといけないし。」
「色々わかっただけでもよかったとしよう。」
こうして職業体験の一週間は終わった。謎は残る部分もあったが、新たにわかったこともある。《魔王》復活までの猶予がまだあるとはいえ、いつ復活するのかはわからない。残りの二人の《勇者》を早く探し出さなければ。
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