第十二話 多重展開
俺達はいつものように屋敷で修行を行っていた。『合体魔法』は一度は成功したもののクラス対抗戦ではおそらく使う事ができないだろう。発動するのに時間がかかってしまうのと集中力がいる点が問題であるからだ。あの時だってガイウスが引き付けてくれていたおかげで成功させることができた部分も大きい、クラス対抗戦は3人しかいないのでのんきに発動の準備をしている暇はないのだ。その代わりに何かないかと考えていたらユキさんが新しい技術を教えてくれることになった。
「では今日は『合体魔法』に代わる技術を教えたいと思います。」
「「「はい!」」」
「まず皆さんが今使っている魔法ですが、発動すると同時に魔法陣が展開されると思います。そこから魔法が放たれていきますよね?この魔法陣を複数展開させることで威力、範囲を上げることができます。これを『多重展開』と言います。」
「『多重展開』?」
「実際にご覧になった方がイメージをしやすいかもしれません。『水球・二重』!!」
ユキさんの手の前に2つの魔法陣が展開され、そこから"2"つの水球が放たれた。
「これが『多重展開』の『二重』です。展開する魔法陣の数を増やせば増やすほど威力も範囲もあがります。ただ精密な魔力操作が必要になるので難易度は高いと言われています。」
「なるほど。ユキさんは最高いくつまで展開できるんですか?」
「五つ、『五重』です。」
「五つ!?凄いですね。」
「いえ。歴史上ではもっと多く発動させたのが《大賢者》と言われています。」
「えっ?そうなんですか。」
「はい。なのでアリア様はすぐに私を追い越すと思いますよ。もちろんユーリ様とエレオノーラ様も。」
流石《大賢者》と言ったところだ。同時に五つ出てきただけでも対処するのは難しいだろう。俺はそこで一つ疑問が浮かんだ。
「そういえばアリアの『炎の矢』は3本で、俺のは1本なんですけど何で違うんですか?魔法陣は一つしか出てないんですけど。」
「それはおそらく能力による影響ではないでしょうか。アリア様の場合《大賢者》の能力ですので通常の魔法とは違うのでしょう。」
「ではアリアさんが『多重展開』を使うと手数がすごく増えそうですね。」
「そうだね、早く試したくなってきたよ!」
なるほど、能力によって同じ魔法でも威力や範囲は変わるということなんだろう。よく考えてみれば俺が初めて『炎の矢』を出した時もアリアのより威力や貫通力は上だった。エレナの炎魔法も《紅蓮の勇者》だからこそ多彩で威力も出るのだろう。まあ俺の場合はまだまだ謎が多いのだが。
「では早速修行に取り掛かりましょう。」
「「「はい!」」」
◇◆◇◆
青薔薇聖騎士団長セシリア・グランベールは王宮へ来ていた。月に一度、王、各組織の団長で行われる会議に出席するためである。今日の議題は魔物の活発化に関することだろう。以前ユーリの村に出現した魔物の件については報告している。しかし最近学園内で魔物だけではなく魔人が出たと噂を聞いた。その件についても報告があるだろう。
「いよいよ魔王の復活も現実味を帯びてきたな。」
決戦の時は近いのかもしれない、今よりももっと力を付けなければと考えていたら会議室に着いたようだ。ノックをし部屋に入ると白く猫の耳の様な髪型をした女性が胸に飛び込んできた。
「久しぶりだにゃーセシリアちゃん!」
「ブランシェ!急に飛び込んでくるんじゃない!」
ブランシェ・アンバーは黄角聖騎士団長である。彼女は人懐っこく、特にセシリアにはよく甘えてくる。年はブランシェの方が上であるのにも関わらずだ。その性格は彼女の能力である《猫妖精の加護》によるものなのかもしれない。ブランシェを軽くあしらい周りを見渡すと、紅鳳凰聖騎士団長アルフレッド・マーティン、紫龍聖騎士団長クリス・ドラグニス、宮廷魔道士団副団長イヴァン・アレストールがすでに王の間に来ている。宮廷魔道士団長のセドリック・モルガンはいないようだ。
「アレストール殿、今日はモルガン団長はお見えではないのですか?」
「モルガン殿はお体の調子が悪く、今回は代理で私が出席することになりました。」
「そうでしたか。それは心ぱ…」
「皆さんお揃いですね!僕が最後でしたか?」
セシリアが返事をしている途中に部屋に入ってきたのはオリバーであった。
「君はいつも間が悪いな。もしかしてわざとやっているのか?」
「すみませんセシリアさん。そういうつもりはないんですけどねハハハ。」
ケラケラと笑いあまり反省している様子のない彼の態度に少し怒りを覚えつつも気にしないでいた。しばらくするとこの国の王である・が入室したと同時に一斉に膝をついた。
「表を上げよ。して今回の議題は?」
「はっ。度重なる異常な魔物の出現と魔人の出現についてです。」
「魔物だけではなく魔人も出現したと?」
「詳細は私の方からお話します。」
魔人の件についての詳細はオリバーが報告した。人間を魔人にする薬…そういった物があると噂は聞いていたが本当に実在するとは皆思っていなかったようで驚いている。
「ふむ…。魔人化薬に関しての出どころは判明しておるのか?」
「被害に合った生徒の証言によると黒いフードを被った男に貰ったと。」
「では宮廷魔道士団はその人物についての調査を進めよ!騎士団は管轄の領地の警備体制をより強固にするように!」
「「「はっ!」」」
その日の会議はそれで終了した。
◇◆◇◆
「今日の授業はここまでにして、クラス対抗戦の詳細について説明します。」
授業が終了した後リリス先生からついにクラス対抗戦について説明してもらえるようだ。一体どんな内容だろう?
「今年から始まるクラス対抗戦ですが、3つの競技で争ってもらいその合計得点が高いクラスが優勝になります。【S・S】、【S・L】、【D・B】と呼ばれる競技に代表者1人を選出し、争ってもらいます。」
「先生どの競技もまったく聞いたことないんですけど…」
「はい。知らなくても当然でしょう、なにせ昨日学園長が名前を付けたからです!」
「えぇ〜」
俺だけではなく皆知らないようだ、よかった。3人いるから1人1競技、どんな内容かわからないと誰がどれ選べばいいのか難しいな…というか名前昨日学園長が考えたって、あの人結構適当なんだろうか?
「とはいえもともと騎士団の訓練として行われてたものなので、内容は適当ではありませんよ!なので今回代表に選ばれなかった人達もきちんと競技内容を把握しておきましょう。」
そういうとリリス先生は順番に競技内容について解説してくれた。まずは【S・S】、この競技はシールと呼ばれる魔法で飛ばした的を撃ち落とす競技でである。使用できるのは専用の魔法《魔法弾》のみなので魔力操作や発動スピードなどが重要になってくるだろう。次に【S・L】、この競技は学園の敷地内を一周するレースだ。道中は、制限はあるものの魔法の使用はOKで相手の進行を妨害できる。敷地内にも罠が仕掛けられているらしくそれをどう対処するのかが攻略の鍵になるだろう。最後に【D・B】、これはフィールド上で1対1の決闘を行うシンプルな競技である。相手の胸に付けた校章を破壊することができた方が勝者となる。もちろん魔法の使用は可能で武器の持ち込みも事前に申請して通れば可能である。フィールド上に障害物などはなく完全な1対1である。
放課後、俺達は屋敷でそれぞれの競技に誰が出場するのか決めることにした。
「うーん。まず【S・S】だけどこれはアリアが出たほうが良いんじゃないかな?」
「どうして?」
「俺とエレナよりアリアの方が魔法技能は高いし、何より同じ魔法だからこそアリアの方が有利になるかもしれないし。」
「そうですね。私も賛成です。」
「じゃあ私【S・S】にするね!二人はどうする?」
正直後の2競技はどちらに出てもあまり変わらないような気もする。俺も対人ならマルクさんに鍛えてもらっているし、魔法も色々覚えたからレースの方でもなんとかなるだろう。エレナも色々な場面で応用できる魔法を色々使えるし、対人戦闘は言わずもがなである。
「では私が【S・L】に出場します。」
「エレナが?」
「はい。単純に私よりもユーリ君の方が対人戦闘に向いているというのが一つ、もう一つは…。」
「もう一つ?」
「いえ。何でもありません。」
「?、まあエレナがそう言うなら俺は【D・B】に出場するよ。」
こうしてアリアが【S・S】、エレナが【S・L】、俺が【D・B】に出場することになった。エレナの言動に疑問は残しつつも、俺達はそれぞれが出場する競技本番に備えて対策をすることにした。
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