第百十九話 残る謎
俺達は数日ソレイナ国で休ませてもらった。デリラ以外の皆はすぐに回復したので観光を楽しんだりしていたが、デリラだけは丸2日ほどずっと意識を失っていた。だが3日目には急激に目が覚めすぐに元気を取り戻していた。本人にナルガスとの戦いのことを話したらまったく覚えていないようだった。攻撃をされて洞窟の壁に叩きつけられた所までは覚えているらしいが…。身体の異変は特にないようなので俺達はセルベスタ王国へ帰ることにした。
「皆さんお世話になりました。」
「ありがとうございました。」
「いやこちらこそ事件解決の協力感謝するよ。コーデリアも皆さんの力になれるように頑張りなさい。」
「うん…任せて…。」
「またゆっくり観光しに来てくれよ。」
「ああ、クレストもヘクターも今度はセルベスタ王国に来てくれ、案内するよ。」
「それは楽しみですね。」
俺達はライオス、クレスト、ヘクターの3人に見送られソレイナ王国を後にした。馬車に揺られ王都へと向かう。来る時と同様にアリアに『揺れ止め』を発動してもらい快適な移動である。ランマも外を走るなどという無謀なことを言わなくなった。そして話題は自然と今回の事件についてになった。
「それにしても闇魔法っていうのは不思議でござるな。」
「そうだね。私も光魔法と反発しあうっていうのは初めて知ったよ。」
「よくも悪くも使い手がもっとも少ない魔法だからね。それにそれぞれも魔法の中にも色々種類があるし。」
「《聖》とか…“呪い”とか…。」
「まだまだ知らないことが多いよね。」
だから闇魔法と光魔法は基本の5属性に入っていないというのも納得である。使用している本人たちでさえ完全に全てを把握してはいないのだから。無魔法だってそれぞれに当てはまらないというだけで一括にしているが突き詰めていけば分類できるのかもしれない。
「皆、本当にごめんね。僕のせいで皆に怪我させちゃって…。」
「いや大丈夫だよ。結局皆無事だったし。」
「そうそう。終わりよければ全て良しってコータも言ってたし!」
デリラは目が覚めてからというもの、洞窟での出来事を聞いてショックを受けたようだ。それに自分は全く見に覚えがないというのも辛いところだろう。
「まあとりあえず『部分強化』の魔法はしばらく控えた方がいいと思う。」
「うん。わかった気をつけるよ。」
俺は今回『魔力流失』によってデリラの魔力を奪い暴走を止めることができた。しかし毎度必ず誰かがいて止められるかはわからない。暴走しないようにしばらく『部分強化』の魔法の使用は控えるようにした方がいいだろう。
「それと連戦するのも控えた方がいいかな。」
「わかった。でもいつも修行している時は結構な時間戦ってるんだけどな…。」
「これは俺の仮説なんだけど、《戦闘狂》が戦闘だって認識するのにはズレがあるんじゃないかなって思う。」
「ズレ?」
「そう。いわゆる修行や模擬戦っていうのはあくまでも命を取るということを目的にしてないだろ?だから今回みたいに相手に自分が殺されるかも知れないって思う時の戦闘だと戦いたいっていう衝動も身体強化も上昇率が違うんじゃないかな。」
《戦闘狂》という能力は少し特殊な部類であるため、はっきりとしたことはわからないが修行や命のやり取りをする場合では違うのではないかというのが俺の仮説である。それにしても暴走状態は凄かったな、魔力も変質していたし。というか魔力って変質するものなのか?うーん、覚えがあるのはルミが人型からドラゴンになる時だが…何か関係はあるのだろうか。イヴァンさんに相談してみるか。
「なるほど。少し意識して考えてみるね!今度は皆に迷惑かけないように僕、頑張るよ!」
「焦らずにゆっくりいこう。俺だってわからないことだらけだし。」
「私も今回はあんまり役に立てなかったからなぁ。もっと攻撃できる魔法があればいいんだけど…。」
フルーも今回はあまり役に立てなかったことを気にしているようだ。それぞれに課題を感じることになった戦いであったと思う。だがそれもまた強くなるためには必要なことなのだ。そんなこんなで俺達は王都へと戻ってきた。そのままシャーロットの所に直接報告に行くことにした。
「ディアナ無事でよかったです。」
「ええ。心配かけたわね。」
「それで何かわかったかな?」
「ええ、ナルガスのギルド解体命令というのはやはりライラには見に覚えのない書状だったようですね。そして国の認可というのもそういった記録は残っていませんでした。」
「暗殺ギルドを利用していた貴族たちっていうのは?」
「すでに別件で処理をしていて、情報を聞き出すことはできたのですが本人たちは知らないの一点張りです。」
すでに捕まっている身で嘘を付く利点は無いように思える。本当に知らなかったのであれば誰かがライラさんやその貴族に罪を被せてナルガス達を焚き付けたということになる。いやナルガスが生き残ったのは偶然であり、今回の事件が狙いだったわけではない可能性もある。仮にライラさんに恨みのある人物だったとしてもやり方が回りくどすぎる。ナルガスが復讐を考えない可能性だってある。だが今回は少し出来すぎている気もする。誰かが裏で糸を引いているようなそんな感じだ。
「王都の冒険者ギルドがなくなって困るのは誰なんだろう。」
「そうですね、国じゃないでしょうか。騎士団では全てをカバーすることはできませんし特に王都の冒険者ギルドがなくなると細かい案件は処理しきれなくなりますから。」
「それが目的だったということはない?」
「国の力を削ぐということですか?ありえない話ではないと思いますが…まさか?」
「うん。魔族の仕業ってこと。」
「ですがそれにしては少しやり方が周りくどすぎるようにも思えますが…。」
「魔族だって今のように力を付けてたわけじゃないだろうから、昔はそういった工作をして国の力を削ごうとしていたっていうのはありそうじゃない?」
これも俺の仮説レベルではあるが当時国の認可を受けた王都の冒険者ギルドというのをいつか排除するために魔族が仕組んでいたということもあり得る。ナルガス達は国を出ていたとはいえ、昔の仲間が戻ればライラさん達が油断するのは間違いない。いかにも魔族の考えそうなことだ。
「なるほど、その線でも調べてみましょう。」
「特にあのシャコウとヒョドルの2人を絞った方がいいだろうね。あの二人は結局どういう繋がりなのかよくわからないし。セルベスタ王国に簡単に出入りしていたっていうのも能力を込みにしても怪しすぎる。」
「わかりました。後はこちらでやっておきます。皆さんお疲れでしょうからゆっくり休んでください。」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。」
俺達は城を後にして帰宅した。師匠もしばらくは王都に滞在するようなのでまたすぐに会うことができるだろう。とにかく今は家に帰ってゆっくりしたい所である。俺達が家に帰るとシロが元気よく出迎えてくれる、これが癒やしか…。
「お帰りなさいませ!」
「ただいまー。」
「こうやってシロに出迎えられると家に帰ってきたって感じがするよね。」
「そうですか?お食事の準備できてますよ!」
「すぐに頂こうかな。」
「わかりました!」
俺達は食事を取った。シロが来てからそろそろ一年が経つのか、こうして立派に育ってくれてなんだか親心のようなものも感じる。王都に来ていた同じ獣人族の人によるとシロの年齢は見た目よりも高いらしく恐らく9歳であるということ。ということはシロはそろそろ10歳になるのだ。
「そういえばシロって《女神の天恵》受けた?」
「はい、受けてみました。ですが…」
「何かあったの?」
「そこは私がお話しましょう。実はシロの能力は《判別不能》なんです。」
「《判別不能》?」
《判別不能》と言えば俺もそうだったが、稀に修道女が今まで確認したことのない能力が備わると《判別不能》になるというあれだ。しかし何の能力を持っているか本人ならば判別することができるはずだ。
「でもシロ本人なら判別できるんじゃない?俺もそうだったけど。」
「それがどうやらわからないみたいなんです。」
「わからない?そんなことあり得るんですか?」
「ディラン様の計らいでイヴァン様や色々な方にも調べていただいたんですが…わかりませんでした。こんなことは過去の例もないとのことです。」
ユキさんの言う通りだろう。俺の様に今まで存在しなかった能力ですら修道女はわからなくても自分でどんな名前かは理解することができた。それがシロの様に自分でもまったくわからないとなると初めての事例になるだろう。
「まあ焦ることはないさ。」
「そうそう!きっとすぐにわかるよ。」
「はい…。せっかくお二人の力になれると思ったんですが…。」
全然気にしなくて良いが…たしかに気になるな。女神様に直接聞くことができればいいのだが、こればかりはどうしようもないな。狙って死にかけるなんて芸当はできないのだから。
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