第百十八話 事件の真実
デリラをどうにかして無力化する必要がある。しかしどうすればいいのか方法が思いつかない。…いや待てよ?今デリラは魔力が上昇し、身体からはっきり見えるほどに漏れ出ている。であれば魔力を全て奪いきればあの暴走状態は止まるのではないだろうか?試してみる価値はある。
「皆!俺に考えがある。どうにか接触できる隙を作ってくれ!」
「そう言うけど結構しんどいかも。」
「だけどやるしかないでござるよ。」
「援護する…。」
幸いにもデリラはもうすでにナルガスへの興味は失われているようでこちらに興味津々のようだ。だがそちらの方が好都合である。アリアの治療を邪魔をされては困るからな。
「『水の球・二重』!!」
「グガァァァァァ!!!!!」
「咆哮だけで水を軽く弾くとは。『新山田流壱式・疾風迅雷』!」
「『風の鎧』!」
「グガァァァァァ!!!!!」
デリラに向かってコーデリアは『水の球』を放つが咆哮だけで水の形は崩れてしまいデリラには届かなかった。流石に驚きが隠せない、そこらの魔物でもこんな芸当はできないだろう。ランマとフルーはそのことに驚きつつもデリラに向かっていく。
「きゃあ!」
「フルー殿!ぐっ、がぁ!」
「『水の弾丸・二重』!!」
「グガァァァァァ!!!!!」
「全然…効いてない…。きゃあ!」
勢いよく突っ込んでいったフルーだったが、デリラの大剣による一払いで『風の鎧』が解除されるほどの勢いで吹き飛ばされる。そしてランマも目の前に一瞬で移動してきたデリラに反応できず、刀でガードしたもののほとんど意味をなさず吹き飛ばされてしまった。コーデリアは咆哮でかき消されないように速度の早い魔法でデリラを攻撃する。今度は防がれなかったがデリラの身体には傷一つ付かなかった。いくら『身体強化』を発動していても傷が付かないということはない。ましてや《溟海の勇者》の魔法でだ、これではまるで魔族ようである。
「グガァ!」
「うっ…。」
デリラの咆哮で思わずコーデリアは膝をついてしまう。3人とも戦闘不能に追い込まれてしまったが、俺はこの隙を逃さなかった。デリラに気付かれないように近づいて背中に飛びつくことが出来た。
「捕まえた!これでどうだ!『魔力流失』!」
「グガァァァァァ!!!!!」
「くっ!このまま全ての魔力を吸い取る!」
『魔力流失』は他人から魔力を奪い取る魔法である。俺はデリラも戦いの最中に魔力切れで動けなくなるということは知っている。《戦闘狂》はどうなれば戦闘をしていないという判断になり、能力による身体能力の上昇が止まるのかはわからない。だが戦闘が長引けばいつかは魔量が切れるわけである。このことから察するに魔力切れになってしまえば、能力による身体能力上昇も止まると考えた。つまり暴走も魔力を使い切らせれば収まるという結論に至った。そこで『魔力流失』である。
「これで止まってくれよ!うぉぉぉぉぉ!」
「グガァァァァァ!!!!!」
俺はひたすらデリラから魔力を奪い続ける。変質したデリラの魔力はまるで毒の様に俺の身体にダメージを与えてきた。いつもアリアやシャーロット、コーデリアの《勇者》の魔力を使用している時にはこんなことにはならなかった。アリアも初めてシャーロットの魔力を俺に渡した時一度受け取っているはずだが、特に違和感を感じていなかったように思う。《勇者》の力が特別であったという可能性もあるがこの場合デリラの魔力がおかしい方が可能性は高いだろう。俺は痛みで気絶しそうになりながらただただ魔力を奪い続けた。
「もっと!もっとだ!」
「グゥゥ…。」
「これ以上は…俺も…。」
「うぅ…。」
デリラの身体から見えるほど溢れていた魔力は徐々になくなり、元の姿に戻っていった。俺は限界まで魔力を吸い付くしその場で倒れ込んだ。デリラも気を失っているようだが幸い怪我はなさそうだし、上手く言ったようだ。ケガをした皆の治療をしなければと思い俺は立ち上がろうとするも上手く行かない。どうやら俺自身も酷くダメージを受けてしまっているようだ。そのまま意識を失った。
「…し。こら弟子!起きなさい!」
「うわぁ!…ってし、師匠!」
どのくらい眠っていただろうか俺が目を覚ますとすでに洞窟の外であった。そして目の前に行方不明になっていた師匠がいた。色々ありすぎてすっかり忘れてしまっていたが元々は師匠を探しにこのソレイナ国までやってきたのだ。
「よかった!無事だったんですね、というかどうして師匠がここに?」
「…とりあえずお迎えが来たみたいだからゆっくり話しましょう。」
「はい、そうですね。」
クレストを先頭にソレイナ騎士団の面々が迎えに来てくれていた。辺りを見回すとケガをした皆と行方不明になっていた冒険者、それに今回の事件を起こしたシャコウ、ヒョドル、ナルガスが拘束されている。真相はともかくこれで一段落したんだ。その日はそのまま回復に努め、次の日に話し合いが行われることになった。参加者は俺、師匠、ライアン、クレストの4名である。デリラ以外の皆は朝には起きて喋れる状態だったので戦いの最中にわかったことをある程度俺が代表として聞いておいた。
「皆、無事で良かった。早速で悪いがユーリ君。今回の事件について詳しく話してもらえるかな。」
「はい。今回の事件はナルガス・ギブロが首謀者でシャコウとヒョドルという協力者を含む3名が起こした事件でした。ナルガスは過去にセルベスタ王国と王都ギルド長である、ライラ・エヴァーにより自身のギルドの仲間を殺されたことによる恨みが今回の事件を引き起こした原因のようです。」
「ソレイナ国周辺で起こった冒険者の不審な遺体については?」
「ナルガスはとくに喋ってはいませんでしたが、犯行を行ったのはシャコウとヒョドルでしょうね。二人と戦った皆の話によるとセルベスタ王国に侵入したり、俺達を襲ったのも彼らと言っていたようなので。二人とナルガスの関係性についてはわかりませんが何らかの利害関係が一致したことで手を取ることにしたのでしょう。冒険者が殺されればギルド長は出てこざるを得ないでしょうから。そのために《黄金スライム》という架空の魔物を作り出し、冒険者をおびき出したのでしょうね。ソレイナ国の方は大方アジトが割れそうになったとかそんなところではないでしょうか。」
「なるほど、大まかな筋は通っているだろう。詳細は回復した二人に聞くとしよう。」
俺は自分の考えを含めて今回の出来事を皆に説明した。まだ不透明な部分はあるが大体の経緯はこういうことである。そして俺はどうして師匠が今まで行方不明になっていたのかを聞くことにした。
「ところで師匠はどうして行方不明になっていたんですか?」
「…言いたくないわ。」
「…はい?」
「だから言いたくないわ。」
いやいや言いたくないってどういうことなのだろうか。何かどうしても言えない理由でもあるのだろうかと一瞬考えたが、俺は師匠の顔を見逃さなかった。伊達に師匠の弟子はやっていないのだ、あの顔は絶対に大したことではないことを隠している顔である。
「あのですね師匠。俺達は連絡の取れなくなった師匠を心配して皆でここまでやってきたんですよ?傷だらけになって命がけで戦って、デリラなんて未だに目も覚めずに…うっ…うっ…。」
「くっ…。」
泣き落とし作戦で攻めることにした、もちろん嘘泣きである。実際結構苦労はしたのだ、皆無事だったから良かったものの一歩間違えたら死んでいたかもしれないというのも嘘ではない。師匠のつまらないプライドで教えてもらえないのはこちらとしては納得がいかないのだ。
「…知らなかったのよ。」
「何をですか。」
「闇魔法同士が互いに干渉するってことをよ!」
「互いが干渉する?」
「それは私が説明しよう。闇魔法同士はぶつけ合うとお互いに飲み込む力が働くことがあってね、魔法に引き込まれるんだ。シャコウという男は影に潜むという能力があったようだから飲み込まれても自由に出入りできたようだけど、君の師匠は影の中から出られずに行方不明になっていた冒険者共々捕らえられてしまっていたというわけさ。」
へぇ、そんなこともあるのか。闇魔法自体使える人をそんなに知らないから、師匠もそうなるとはわからなかったということだろうな。連絡が取れなかったのは影に捕らえられていて外界と隔絶されていたからということだろう。冒険者たちも同じ様に影に囚われており行方不明になっていたと。まあ何にせよ皆、無事で良かった。
「何だそんなことなら言ってくださいよ。」
「は、恥ずかしいじゃない…頼りない師匠って思われたら…。」
あら、思っていたよりも可愛い理由だった。というかそんなこと気にしていたんだ。なんというか以外であるというか師匠っぽくないというか、だがここでそんなことを言ったら怒らせてしまうに決まっている。ここは気遣う言葉を掛けるのが正解なのだろうな。
「何言ってるんですか。師匠は俺にとって一番強くて頼りがいのある師匠ですよ!」
「そ、そうかしら?」
(おっ、いけそうだな。ここはダメ押しでもう一言。)
「もちろんそうですよ。セシリアさんよりも頼りになります!」
「…そうよね!わかってるじゃない!」
「はい!」
師匠のご機嫌取りにも疲れるなぁ。そしてそこで会合は解散になり、シャーロットに今回の顛末を連絡しておく。謎が残る部分は向こうで調査をしてくれるそうだ。そして俺達はデリラが目覚めるまでソレイナ国で世話になることになったのであった。
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