第百十五話 氷の男
ヒョドルは氷魔法の使い手である。氷魔法に有効な魔法は炎魔法であるが、残ったランマとコーデリアは二人共炎魔法を使うことが出来ないことをヒョドルは知っていた。故にこの2人に負けることはないという自身が彼にはあった。
「お二人は炎魔法を使えないと思っていましたがどうして私の相手を?不利ではないですか。」
「逆に聞くでござるがどうして炎魔法以外には負けないと思っているでござるか?勝負は有利不利だけの相性では決まらないでござるよ。」
「それは…あなたの驕り…。」
「ふふふ、そうかも知れないですねぇ。ですがそれはそちらも同じでは?多少腕が立つからといって調子にのらない方がいいですよぉ。」
ヒョドルは2人を煽る。しかし2人はそんな安い挑発には乗らないタイプなのだ。ランマはこの男の態度や言葉遣いから一番厄介な相手であると考えていた、だからこそ自分が残ると言ったのだ。もし他の皆であればこの男のペースに乗せられていたかもしれない。しかし自分であれば心を乱されることはない、それはコーデリアも同じことだった。
「『新山田流壱式・疾風迅雷』!」
「『氷の壁』!いきなり仕掛けてくるとは容赦ないですねぇ。」
「『水の弾丸』!」
「私にその程度の水魔法は聞きませんよ。」
ランマはヒョドルに向かって攻撃を仕掛ける、それを『氷の壁』で囲み防ぐことで動きを止める。続けてコーデリアが『水の弾丸』を放つも魔法はヒョドルに辿り着く前に凍りつき、地面に氷の塊が転がり落ちるだけであった。
「やっぱり…凍る。」
「ええ、そうですよ。私の能力は《氷の男》文字通り氷を自由自在に操ることができます。それに私がこの能力を意識的に発動している間は周囲の温度がどんどん下がっていく。お気づきだと思いますが水魔法は私に届く前に凍ってしまうのですよぉ。」
コーデリアは川でヒョドルと戦闘した時にすでになんとなく気付いていた。あの時ヒョドルを囲んだ『水の壁』が少し凍りついていた。だからもしかしてという予感はあった、だから先程確認をするために『水の弾丸』を放った。それでわかったのは水の量によって凍りつく時間は違うということ。であれば大量に水が出る魔法であれば凍らせることはできない、これがコーデリアが考えていた策である。
「これなら…『水の球・二重』!!」
「なるほどぉ、確かにそれなら能力だけでは凍らせれませんが、魔法を使えばいいだけの話。『氷の息』!」
ヒュドルは口から息を吐く、その白い息は『水の球』を包み込み一瞬にして凍らせる。大きな水の塊が一瞬にして凍りつき氷塊が2つできあがった。しかしランマはそれを見逃さなかった。
「甘いでござる!『新山田流伍式・泰山砕き』!」
「何!?」
ランマは氷塊を叩き割り、それをヒュドルに向かって飛ばした。ただの刀でそこまでできるとは思っていなかったヒュドラは予想外の攻撃に回避できずダメージを受けてしまう。だが傷は浅く、戦いに支障が出るほどではなかった。
「なるほどこんなこともできるのですねぇ。流石は侍といったところでしょうか。」
「私達のこと…どうやって…知った…?」
「私はこの組織の諜報を担当していましてね。少し前からずっとセルベスタ王国に潜み調査をしていましたから。目的を果たすために邪魔をされたら困りますからね。特にあなた達は最近目立っていますから、すぐに情報は集まりましたよ。」
情報を持っているとは思っていたが、まさか潜入されていたとは2人共思っていなかった。これは帰った後にシャーロットに報告をしておかなければいけないだろう。なにせ相手は簡単にセルベスタ王国に侵入している、騎士団がその辺りは気を付けているはずだが協力者などがいるのかもしれない。または侵入しやすい経路でも作られているのかも知れないのだ。
「さて…どうするでござるか。このままではどんどん身体が動かなくなってやる前にやられてしまうでござる。」
「もう一つ…考えがある…。ちょっと…」
「ふむ…なるほどでござる。たしかにそれなら行けそうでござるが。」
「うん…ただ…できるかどうかは…わからない…。」
すでに周囲の気温はかなり下がってきている。地面には霜が降りているし、身に付けている衣服も少しづつだが凍ってきており息も白い。先程から動き回っているランマですらこれなのだ、コーデリアはもっと寒さを感じているだろう。戦いが長引いてしまえば、何もされずともやられてしまう。コーデリアはランマに策を話す。
「考えている暇はないでござるな。やるしかないでござるよ!」
「やる…しかない…!」
「拙者達、何だか今のはユーリ殿みたいでござったな。」
「うん…一緒にいる内に…似てきた。」
「私はシャコウと違って人を傷つける趣味はないので、できればこのままお嬢さん達は寒さでやられてもらうのが一番いいんですけどねぇ…。向かってくるなら容赦はしませんよ?」
「ではコーデリア殿、時間稼ぎは任せるでござる!」
ランマはコーデリアに作戦を聞いた後、時間を稼ぐために一人でヒョドルに向かっていく。そしてコーデリアは集中する。これから発動する水魔法は今までに発動したことがない新しい魔法だ。想像はできても実際に行うのは難しい、それこそアリアのように《大賢者》でなければ。しかし水魔法に限って言えばコーデリアも負けていない、なぜなら彼女は《溟海の勇者》なのだから。
「『新山田流壱式・疾風迅雷』!」
「その技はもう何度も見た!『氷の壁』!」
「その防ぎ方ももう見たでござる!」
ヒョドルはランマとの間に氷の壁』を発動するが、そう何度も同じ手にやられるランマではない。ランマはスピードを緩めずにそのまま壁を飛び越える。だがヒョドルはランマが壁を飛び越えることも予想していた。
「『氷の槍』!」
「くっ!」
「空中では回避できまい。」
ランマが飛び上がったところを狙ってヒョドルは魔法を放つ。空中では踏ん張りも効かないためランマは回避することができず、『氷の槍』を受けてしまいそのまま壁はで吹き飛ばされた。
「そんな動きで私に勝とうなど100年早いんですよ!」
「これでいいんでござるよ。」
「何だと?」
「拙者は時間稼ぎをしているんでござるから。」
ヒョドルはランマを相手にすることに夢中になるあまり、コーデリアのことを忘れていた。コーデリアの方を見ると魔力を集め大きな魔法陣がすでに出来上がっていた。だが焦ることはない、彼女は水魔法しか使えない落ち着いて凍らせてしまえば問題はないのだ。
「何をしようと水魔法は聞きませんよぉ!」
「水魔法を…舐めないで『間欠泉』!」
「ただの水魔法ではないですか、こんなものすぐに凍らせてさしあげますよ。『氷の息』!」
コーデリアから勢いよく大量の水が吹き出した。それをヒョドルは『氷の息』によって凍らせて回避する…はずであった。
「何故だ!何故凍らない!これは…お湯?ぐわぁぁぁぁぁ!!!!!」
「熱湯は…もっと冷たくないと…凍らない。」
コーデリアが放った水魔法はただの水ではなく熱湯である。つまり温度が高い、ヒョドルの『氷の息』の温度ではそれを一瞬で凍らせることができず勢いを緩めることも出来なかった。そのままヒョドルは熱湯に飲み込まれた。全身にやけどを追い気絶してしまっている。周囲の気温も徐々に上がって元に戻りつつある。
「なんとか…上手く出来た。」
「流石コーデリア殿でござるな。しかし水魔法で熱湯なんて出るもんなんでござろうか。」
「わからない…でもできた。」
ランマもコーデリアも気付いてはいないが通常水魔法に熱湯を出す魔法は存在しない。厳密に言うならば水魔法単体では存在しない。しかし炎魔法と水魔法の『合体魔法』であれば実現できる。しかしコーデリアはそれをやってのけたのだ。その発想はもちろんだがそれを実現できるだけの力《溟海の勇者》の力があったからこそ実現できたことであるのだ。
「ランマ…怪我…。」
「このくらい平気でござるよ…くっ。」
「ごめん…私『治療魔法』使えないから…。」
「大丈夫でござるよ。少し休憩してからユーリ殿達を追いかけることにするでござるよ。」
「うん…そうだね。」
ランマは先程のダメージをがまだ残っておりすぐには動けなかった。コーデリアも気付いてはいないが魔力をかなり消耗している。2人は少し休んでから追いかけることにした。
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