第百十四話 闇に紛れし暗殺者
シャコウは自身の身体を闇の中に潜ませる。この洞窟の暗闇の中では影の中に身を潜めることができるシャコウにとってかなり有利な場所であるのだ。
「俺の能力は《潜む者》、闇魔法の中でも影を自在に操ることができるの能力だ。故に影さえあればどこにでも入り込むことができる。」
「それでセルベスタで冒険者を操って私達を襲ってきたわけだ。」
「他の冒険者達はどうしたの!」
「さあ、どうなっただろうな。俺を倒してからゆっくりと探したらどうだ?」
「そうさせてもらうよ!」
フルーはシャコウの挑発に真正面から挑む。影を操る能力なのは、セルベスタ王国で襲われた時にある程度確認している。ユーリの師匠であるディアナの闇魔法も見たことがあるが、シャコウの魔法はそれほど協力ではないしどんな攻撃が来るのかある程度わかっている。攻め込むことに躊躇いはなかった。それにアリアの魔法があれば影に捕らえられてもどうにかできる。
「『風の拳・二重』!!」
「『影の壁』!」
両腕に風を纏いフルーは殴りかかる、シャコウはそれを『影の壁』で防ぐ。フルーは始めて影に触れるという感覚を味わった。硬いようで柔らかく、どこか掴みどころのないような不思議な感覚があった、どちらかといえば不快な感覚だ。
「うげぇ、何か気持ち悪い。」
「あの影、厄介だね。ここは暗いからそこら中に影ができてるし、あいつにとっては有利な場所だ。」
「だけど避けれない程じゃないよ、次は叩き込む瞬間にアリアの魔法で影を払って。」
「わかった!タイミングは任せて。」
相手は魔法に頼り切りの戦闘スタイルなのか自分よりも動きは良くない、影さえなんとかすれば攻撃を当てることができる、フルーはそう考えていた。もう一度シャコウに向かって一直線に突っ込んでいく、今にもフルーの拳が届きそうな瞬間影が出ていきたがそれを見計らってアリアの魔法が放たれる。
「『聖なる光』!」
「やぁ!」
「ぐわぁ!」
シャコウは同じ様に影で防ごうとしてきたが、読みどおりそれはアリアによって邪魔をされ、もろにダメージを受けてしまった。フルーはたしかな手応えを感じていた、確実に骨を折ったはずだ。
「おじさん鍛え方が足りないんじゃない?」
「くっ、小娘共め。そういえば光の魔法が使えるのだったな。光は闇を照らせるが、闇もまた光を飲み込むことができる。」
「あの人何言ってるの?頭もやられちゃった?」
「そういう感じではないと思うけど…。油断しちゃダメだよ。」
「闇の真髄を見せてやる。」
するとシャコウの身体から魔力が溢れ出す、それは影が伸びるように広がっていき辺りを飲み込んでいく。洞窟内がさらに暗くなっていくのを感じる。その異様な雰囲気に2人は息を呑んでいた。先程までとは一味違う、油断はできない。
「『影の棘』!」
「何だあれ!?」
「こっちに向かってくる!」
広がった影から地面に沿って黒い棘のついた枝が2人に襲いかかる。
「『風の見切り』!」
「『聖なる光』!どうして?きゃぁぁぁ!」
「アリア!」
フルーは『風の見切り』により棘が当たるギリギリで回避し続けるが、アリアは《聖》属性の魔法を使ったにも関わらず、棘は消えず身体に突き刺さる。そのさまはまさに光がまるで闇の中に飲み込まれているようであった。
「お前はまだ未熟だ。俺の闇には届かない。」
「この!『風の弾丸』!」
「『影の壁』!」
一度アリアを連れ距離を取るために魔法を放つ、しかし簡単に防がれる。やはりあの影をどうにかしないとフルーではダメージを与えることができない。しかし『聖なる光』が闇の影に飲み込まれてしまった、一体どういうことなのだろうか。
「たしかに闇魔法の弱点は光魔法ではあるがそれは光魔法も同じこと。互いに弱点であるということはつまり有効でもあるのだ。」
「単純に押し負けた…ってことかな。」
「大丈夫アリア?」
「うん、大丈夫だよ。でも…。」
シャコウの言うことが本当ならばさらに強い光魔法であればいいわけだが、今アリアが使えるのは『聖なる光』とその光を集めた『聖なる光円』の2つだけだ。どちらも《聖》属性としての力はそこまで変わらない。あの『影の棘』を破るためにはさらに強い魔法じゃないといけないのだ。新しい魔法でなくても多重展開ができればいいのだが、まだ《聖》属性の多重展開は習得できていない。アリアは大きく深呼吸をする、できないのであれば今からできるようになるしかないのだ。
「フルーちょっとだけ時間稼げる?」
「もちろん!任せてよ!」
「何を企んでいるかは知らんが無駄だ。俺の闇に飲み込まれろ!」
「ふん!こっちだって光があるんだよ!『風の拳・二重』!!」
フルーが時間を稼いでくれている間にアリアは集中する。なんてことはない他の魔法と同じ様に多重展開をすればいいと考えていた、しかしアリアは気付いていなかった。闇魔法がこの洞窟という暗闇で力が増すように光魔法は弱体化する。そんな中でやったことのない試みをしなければならないという状況なのだ。
「お友達はいいのか?」
「おじさんこそ!こんな小娘一人相手に何手こずってんのさ。それにおじさんの影魔法私達の影は操れないんだね。」
「ふっ、それに気付いたからなんだと言うのだ。この洞窟内であれば影などそこら中にある。『影の庭園』!」
『影の棘』よりもさらに範囲が広く地面だけではなく壁や天井からも黒い棘のついた枝が襲いかかってきた。フルーはこれを『風の見切り』で回避することは不可能だと思った。無闇に逃げるよりも防御を固めてダメージを減らすことを選んだ。
「『風の鎧』!」
「そんな物では防げまい!」
フルーがやられてしまうと思ったその時、アリアの方からとてつもない魔力を感じた。だがそれはシャコウのものとは違いどこか暖かく安心できる魔力であると感じた。
「『聖なる光・三重』!!!」
「何!俺の影が飲み込まれていく!目がぁ!」
「今だよフルー!」
「OK!『風の拳・二重』!!うらうらうらうらうらうらうら!」
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!!」
アリアは『聖なる光』の多重展開、しかもいきなり三重を成功させた。すでに《聖》属性はかなりアリアは発動していることもありスムーズに発動できる。それを多重展開として行うだけだ、だがその難易度は相当な物である、さすがは《大賢者》だ。その光はシャコウの魔法を飲み込み、消し去った。フルーはアリアの魔法が発動するタイミングがわかっていたので、光で目がやられることなく自由に動けた。対してシャコウは魔法が消された動揺と洞窟内での強烈な輝きで目がやられてしまい、動揺してしまっている。そこを逃さずフルーは今度こそ仕留めることができるように拳を叩き込む。
「これが私達の力だ!」
「フルーちょっとやりすぎかも…。」
「えっ…。」
シャコウは腫れのせいか顔が変わったように見える、歯も顔の周辺にボロボロと落ちてしまっている。ただ息はしているので死んではいない。もっともこのまま治療もせずに放っておけば死ぬだろうが。
「ま、まあ生きてるからセーフ?かな。」
「それよりも皆を追いかけなきゃ!」
「ごめん、思ったよりも魔力を使ったみたいで。ちょっと休んでからでもいい?」
「あっ、ごめんね。休んでから行こ。皆なら大丈夫だよね。」
アリアは不利な状況で魔法を使ったために思ったよりも魔力を消費してしまった。ユーリ達を追いかけるのはもう少し回復をしてからにするのであった。
◇◆◇◆
このさきにいるのはあと一人、そしてこの事件の首謀者であると思われる。師匠はどこに行ってしまったのか問いたださなければならない。
「君たちが派遣されてきた冒険者か。」
「派遣されたというのは正しくないな。」
「私達は自分達の意志でここまで来た!」
「そうか…。」
俺達は最後の一人がいる場所にたどり着く。そこには男が一人椅子に座り込んでいた。まるで覇気を感じない、だが口ぶりから察するにこの男が今回の首謀者なのだろう。
「ライラは…ライラ・エヴァーは元気か?」
「ええ、ライラさんを狙って今回の事件を起こしたんですね。ナルガス・ギブロさん。」
「どうしてそう思う?」
「短剣に名前が入っていたことです。最初に“呪い”の短剣で襲われた時回収しなかった。もしナルガスさんを慕っている部下であれば形見のような物を使い捨てることはしないでしょう。だが自分でいくらでも作れる物であればそうではありません。」
「なるほど。…その通りだ。私がナルガス・ギブロだ。」
今回の冒険者を襲った2つの事件、これらの首謀者は死んだと思われていたナルガス・ギブロであった。俺はある程度予測していた、“呪い”の短剣を回収しなかったこともそうだが、ヘクターを襲った“呪い”の針の感じが短剣と似ていた。同一人物が作った物であると考えた、針の様な使い捨ての武器なら尚更使用しないであろうと考えたのだった。
「どうしてこんなことを?」
「復讐するためさ。」
「誰に?」
「ライラ・エヴァー、いや全ての冒険者かな。」
こうして男は今回の事件の目的を語り始めるのであった。
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