第百十二話 事件の関係性
俺達が待っていると準備ができたといってヘクターに連れられて立派な扉の前まで来た。ヘクターが扉を開くとそこには装飾された長机と椅子があり、どちらかといえばギルド長室に似ているかもしれない。その椅子に座っているのは30代くらいの男であった。
「やぁ初めまして。コーデリアは久しぶりだな。」
「久しぶり…。」
「初めましてユーリ・ヴァイオレットです。」
思っていたよりも柔らかい雰囲気の男であった。コーデリアともかなり砕けた話し方をしている。この人がこのソレイナ国の首相、一番偉い人ということなわけだが…。正直に言わせてもらうとそうは見えない、失礼ではあるがせいぜい騎士団長くらいに見える。
「改めまして、私の名前はライアン・ブラウ。このソレイナ国の首相をしている者だ。」
「ブラウ?コーデリアと同じ苗字なんですか?」
「ああ、彼女は私が引き取ってブラウ家の人間になっているからね。一応私の義妹ということになっているよ。」
「そうだったんだ、コーデリア教えてくれてもよかったのに。」
「忘れてた…。」
いやいやコーデリアさん忘れてたって…。とはいえよく考えたらコーデリアは孤児で拾ってもらった後すぐに《溟海の勇者》であることがわかったから、クレストとヘクターに連れられてセルベスタ王国を目指して旅に出たのだ。そこまでライアン首相とは関係が深いわけではないのだろう。
「コーデリアらしいがね。さてよく来てくれた、そんなに緊張せず話してくれて構わない。私も堅苦しいのは苦手だからね。」
「そうだぜ、ドーンとしてればいいのさ。」
「クレスト、お前は少し崩し過ぎだぞ。」
「固いこと言うなよ、ヘクター。」
そう言ってヘラヘラ笑うクレストに対してやれやれという顔をしているヘクター。コーデリアの護衛を任されただけあってこの二人は相当信用されているのだろう。
「それで君達は最近この辺りで見つかった冒険者の不審な遺体について聞きに来たんだったね。少し前に全身黒尽くめの女性も訪ねてきたよ。」
「そうです。その女性は僕の師匠なんですが連絡が取れなくなってしまいして、それに関係があるのかわかりませんが王都で冒険者が襲われる事件が起きまして…。」
「わかった、お互いの情報交換をしよう。」
俺はセルベスタ王国で起こった事件について話した。《黄金スライム》という金を排出するスライムが目撃されるようになり、冒険者は一攫千金を狙っていた。ギルドとして正式に依頼も出し多くの冒険者が捜索に加わっていた。だが冒険者達は失踪し一部の者は深傷を負い、“呪い”を受けたがかろうじてギルドに帰ってくることはできた。俺達はそれを調べていた所、失踪した冒険者に襲われこれを対処。その時冒険者が持っていた“呪い”の短剣にはナルガス・ギブロと書いてあったのだが、そしてナルガス・ギブロはすでに死んでいるということである。
「それでこの事件と関係があるかはわかりませんが、こちらでも冒険者の不審な遺体が見つかったと聞きまして。すでに師匠が調べに来ていることは聞いたのですが、連絡が取れなくなってしまいまして。」
「何か関係があるんじゃないかと考えたんだね。なるほど、それではこちらの事件も詳しく話そう。ヘクター。」
「はい。数週間前ソレイナ国とガルタニア国の境にある川沿いで不審な遺体が発見されました。服や荷物は剥ぎ取られており、体中に切り傷がありました。顔にも切り傷があり身元がわからず困っていましたが、ちょうど最近行方知らずになっている冒険者がいるとのことだったので確認してもらったところその人物と一致。そして相次いで川沿いで遺体が見つかりどれも行方がわからなくなっていた冒険者ということが判明しました。」
詳しいことを聞くとやはり王都で起きた一件と似通った点はあると思う。こちらと違うのは全員殺されていることだろう。“呪い”がかかっていたかどうかは確かめようがないか…。
「どうして冒険者が行方不明になっていたのかというのは?」
「実は詳細はわかっていないんだ。噂レベルにはなってしまうが、行方不明になった冒険者は皆ソレイナ国を出て大きな仕事があると言っていたそうだが本当のところはわからない。」
「なるほど、冒険者を誘い出すための罠という点でいえばどちらも間違っていないかも知れません。」
「つまり最初から冒険者狙いだったと?」
「だけどそれならどうして王都の冒険者は助かったのって話しなかったっけ?」
「そうなんだよなぁ。」
冒険者を狙っていたのならばどうしてどうしてソレイナ国の冒険者は全滅させられて、王都の冒険者達は生かされていたのだろうか。うーむ、わからないことだらけだ。
「一度遺体が見つかった川沿い見に行くか?」
「そうだな、二人共皆さんを案内してやれ。」
「わかりました。」
「任せろ!」
「それじゃあよろしくお願いします。」
俺達は2人に連れられて、ソレイナ国とガルタニア国の境にある川沿いまで来ていた。特別何か変わった様子はない、この辺りは海からも距離があるおかげか流れもそんなに速くないようだしこれといった特徴的なものはない。だがこれだけ見通しが良く、近くに人が通る道もあるし誰かに気付かれるような気もする。
「この近辺での怪しい人物の目撃情報などは?」
「ありませんでした。怪しい人物はもちろん、声や戦闘音を聞いたという報告も上がっておりません。」
「そっか、アリア何か見えないかな?」
「ちょっと待っててね。」
アリアは《副技能》で現場に残された魔法の痕跡を探る。かなり時間が経っているし望みは薄いがどうだろうか。するとアリアは急に川の方へ視線を向けた、何かを見つけたようだった。
「川の中に何かある。」
「川の中でござるか?拙者が取ってくるでござるよ。」
「待って!多分だけどこれはあの“呪い”の短剣と同じ物だと思う。」
「私に…任せて…。」
「頼むよ。」
“呪い”の短剣と一緒だと触るだけでも危険が及んでしまうかもしれない。アリアはそれを恐れてだろうランマが拾いに行こうとするのを止めた。するとコーデリアに何か策があるようで任せてみることにした。
「『水の網』!」
「おお、水で拾い上げるってことでござるか。」
コーデリアは『水の網』を発動し、手を触れることなく川の中に沈んでいた物を拾い上げた。それは俺達が冒険者に襲われた時に使われた“呪い”の短剣に酷似していた。アリアはその短剣にかけられた“呪い”を『聖なる光』によって解呪する。俺はその短剣を拾い上げ確認する。
「やっぱりだ。ナルガス・ギブロって書いてある。」
「それじゃあ王都の件とこの事件は…」
「うん、繋がったってことだ。」
「しかし、一体何の目的があって…」
ヘクターがそう口にした途端辺りの雰囲気が急にかわり始める。皆も気付いているようで緊張が走る、辺りの温度が徐々に下がり始める。口からは白い息が出始め、川の水も凍り始めている。このままでは身体が思うように動かなくなってしまう。
「『炎の円』!」
「助かったよ!これは攻撃なのか?!」
「間違いなく何か仕掛けられています!皆、気を抜くなよ!」
アリアの魔法によって周囲の温度は徐々に上がりだす。これは恐らく氷魔法だ、そして明らかに俺達を狙ってきている。周囲を警戒するがまったく気配を感じない、王都で襲われたときのように影に潜んでいるのだろうか?
「アリア、『聖なる光』を!」
「『聖なる光』!」
影に潜んでいると考え『聖なる光』を発動してもらったが姿が現れない。あの時と同じ様に影にいるわけじゃないのか?だったらどこに…すると突如どこからかヘクターに向かって目に見えない何かが襲う。
「うわぁ!」
「ヘクター!」
「そこか!『炎の槍・三重』!!!」
俺は凍った川に向かって魔法を放つ、するとそこから黒い影が飛び出した。
「よくわかりましたねぇ。」
「ヘクターに氷の礫を飛ばしたのが間違いだったな。アリアの魔法で川以外の温度はすでに元に戻っている。まだ凍っているのは川だけだったからな。」
「なるほど、噂以上ですねぇ。」
「噂以上…だと?」
「ええ、ユーリ・ヴァイオレット君。それに他の皆さんのことも存じておりますよ。」
凍りついた川から飛び出したのは黒布を纏った怪しげな男だった。始めて会う男のはずだが何故か俺達のことは知っているらしかった。
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