第百十一話 ソレイナ国
俺達が冒険者ギルドに着くとリゼさんが出迎えてくれた。どうやらライラさんは少し席を外しているようだった。すぐに帰ってくるとのことでギルド長室で待つことにした。昨日の冒険者達はすでにいないみたいだけど、もう意識は目覚めたんだろうか?
「リゼさん、昨日の冒険者の人達は?」
「病院に移動させたわよ。一応、傷は大丈夫だとは思うけど検査にね。まだ意識は目覚めていないから何も聞けていないわよ。」
「そうでしたか。」
ソレイナ国に行く前に冒険者達が目覚めてくれれば色々聞けたんだが、まあ仕方ない。そうこうしているとライラさんが部屋に入ってきた。
「済まない、少し調べ物をしていてね。それでどうしたのかな?」
「いえ、大丈夫です。実は師匠と連絡が取れなくて。」
「ディアナと?」
「はい。最近ソレイナ国周辺で冒険者の不審な遺体が多く見つかっているらしくて。その調査のため師匠が向かったのですが連絡が取れなくなってしまいました。」
「冒険者の不審な遺体か…。」
「それで俺達はこれからソレイナ国に行くのですが、その前に…」
ライラさんもリザさんもこの話を聞いて、俺達の言いたいことを察してくれたようだ。昨日の件と師匠の件は関係があるのではないかという疑問である。共通点は少ないがどちらも冒険者が襲われているのだ。
「ナルガスのことを聞きに来たんですね。」
「はい。ライラさん、ナルガス・ギブロについて詳しく教えて下さい。」
「セルベスタ王国の冒険者ギルドが今のような形になったのは実は最近のことなんです。それでまでは今よりもたくさんの冒険者ギルドがあってそれぞれ依頼の奪い合いや報酬の取り合いで争っていました。そんな中でも要人の暗殺を得意とするギルドがありました、そのギルド長を勤めていた男がナルガス・ギブロです。彼と私はまだ立ち上げたばかりの冒険者ギルドを大きくしようとお互いに切磋琢磨していました。言うなれば好敵手ですね。」
聞いたことがある。どの国も昔は冒険者ギルドの数が多く冒険者の人数も多かった。しかし魔物の《大進行》以降、セルベスタ王国の騎士団が今のように5つの騎士団に別れたことで冒険者を生業とする者が減ってしまった。当たり前だが冒険者よりも騎士団員の方が生活は安定するからである。それでも冒険者の需要はなくならず、冒険者ギルドは国の管理下に入り、セルベスタ王国では今のような形になった。他国では冒険者ギルドが騎士団代わりになっているところもあるらしいが。
「ですがナルガスの冒険者ギルドは暗殺を扱っていたこともあり、恨みを買うことも多くて正式に国の管理下に置かれることはありませんでした。」
「危険が及ぶからということですね。」
「はい。今の貴族、国の中枢を担う人々の中にも利用していた人はいましたが、報復を恐れて関係ないということにしたのでしょう。ですがそれでもナルガスは面倒見がよく折れませんでした、彼は慕っていた冒険者を連れて様々な国で仕事をしていたようですが…その途中で亡くなったと聞きました。」
なるほど、魔物の《大進行》以降表向きには貴族達も協力しているようには見えるが、それまではもっと表立って争っていたのだろう。まあ裏では今でも行われているかもしれないけど。
「聞いたというのは誰に聞いたんですか?」
「その時は冒険者ギルドに手紙が届いたんです。ナルガスのギルドにいたボルドという部下の男から。」
「その男の復讐ってことはないかな?」
たしかにフルーの言う通り復讐という線もあり得るだろう。ナルガスという人物はかなり慕われていたようだしそんな人が殺されたら敵を討とうというのもあり得る。しかしその話を聞く限りでは貴族や王に近い人物が狙われるのであればまだわかるが…。
「なくはないけど冒険者を狙う意図がよくわからないよね。」
「うーん、そっか。」
「ライラさんありがとうございました。もし何かあったらシャーロットに言ってください。」
「わかりました。みなさんも気を付けてくださいね。」
「はい!」
俺達は冒険者ギルドを後にして、ソレイナ国へと向かうことにした。セルベスタ王国からソレイナ国までは馬車で行けば半日もかからない。いつものようにシャーロットには馬車を借りてきたわけだが、相変わらずランマは馬車が苦手なようだ。
「うう…やっぱり外走ってもいいでござるか?」
「ダメだって言ってるでしょ!我慢しなさい!」
「なんかユーリお母さんみたいだね。」
アリアの突っ込みが入った、そこはせめてお父さんにしてほしいところだ。とはいえランマの乗り物苦手はなんとかならないものだろうか、どこに移動するにしてもこれでは辛いだろう。
「なんとか克服できればいいんだけど…」
「場所の何が嫌なの?」
「この揺れというか動きでござろうか?とにかく嫌な感じになるでござるよ。」
「なるほどね。」
どれだけ丁寧に走っても整備された道であっても、揺れは発生する。逆に言えばできるだけ馬車の動きや揺れをなくすことができれば大丈夫なのかもしれない。そんな魔法でもあれば便利なんだろうが、流石にないよな。
「アリア何かいい魔法とかないかな?」
「うーん、動きを軽減か…。」
「頑張れ!」
「頼むでござる!」
アリアは思考を巡らせる。《大賢者》の力はありとあらゆる魔法を使うことができるのだ。これまでも色々な魔法を想像して使用できるようになってきた。きっと揺れを抑える魔法も作成できると思うが…どうやら何かを掴んだようだ。
「いけるかも、使うね。『揺れ止め』!」
「ランマどう?」
「………平気でござる。何も感じないでござるよ!」
「よかった。多分皆にも効果が出てるはずだよ。」
「言われてみれば…。」
「揺れがなくなってるかも。」
どうやらランマだけではなく俺達全員に『揺れ止め』の魔法が掛かっており、馬車の揺れを感じなくなっているようだ。ソレイナ国はガルタニア国が近いこともあって鉱山近くを通る必要があるからランマじゃなくても揺れはいつもより感じてしまうが、これなら問題はなさそうだ。
「これなら快適な旅ができるでござる!ありがとうアリア殿!」
「どういたしまして!」
「本当にアリアは何でもできるよねー。」
「めちゃくちゃ強い人を出す魔法とかないかな!?」
「それは流石に無いんじゃないかなぁ。」
そんなこんなで馬車に揺られてついにソレイナ国へと到着した。ソレイナ国はそこまで大きくないが、海に面しており海岸があるので観光的な面でも外から来る人は多くいるというのが特徴である。俺達は門番に話しかける。
「身分証をお願いします。」
「はい、どうぞ。」
「確認できましたってもしかしてコーデリア様ですか!?」
「そう…帰ってきた…。」
門番が俺達の身分証を確認する。その中にコーデリアの名前があるのを見つけると門番は飛ぶように驚き急いでどこかに連絡しているようだった。迎えがくるからしばらく待つようにとのことだった。5分くらい待っていると街の方から見覚えのある顔をした二人がこちらに向かってきた。
「よう!久しぶりだな!」
「お二人共元気そうでよかったです。」
「クレスト!ヘクター!二人も元気そうでよかったよ。」
この二人はガルタニア国で勇者教や魔族との戦いで協力したソレイナ騎士団所属のクレスト・アクスとヘクター・ケイバルである。二人共、元気そうでなによりだ。
「ユーリこの人達は?」
「ソレイナ騎士団所属のクレスト・アクスとヘクター・ケイバルだよ。前に話したと思うけど俺が《聖剣》を手に入れにガルタニアに来た時に勇者教や魔族との戦いで協力してもらった二人だよ。」
「ああ!あの時の!」
「ところでユーリはこんなべっぴんさんばかり連れてどうしたんだ?」
「最近この周辺で冒険者の遺体が見つかってるんだよな?それでディアナ・リーゼという冒険者が来てないか?」
「たしか少し前に来ました。なるほどそういうことですか、とりあえずここではなんですから落ち着いて話せる所までご案内します。」
「そうしてくれると助かるよ。」
クレストはあまり理解してなさそうだが、ヘクターはすぐに理解してくれたようだ。俺達は二人に案内され街の中へと入っていく。ソレイナ国は海が近いからなのか街の中にも水路がたくさん流れている。船に荷物を載せて運搬していたり、観光客のような人が街の中を案内されたりしている。とても落ち着いていて綺麗な街である。
「いい街だね。」
「だろ?水も綺麗だし、魚料理がおすすめだぜ!」
「美味しい…久しぶりに…食べたい。」
「二人共、目的を忘れてはいけませんよ。」
「そうそう観光はあとで時間があったらね。」
そんなこんなで街の中を歩いていると中心地と思われる広場の様なところに出た。真ん中には3階建ての建物がある。ソレイナ国は王国ではないから城ではないんだな、ここがその代わりなのだろうか。俺達は連れられるがままにその建物へと入っていく。
「ここがソレイナ騎士団の詰所兼、官邸だ。」
「官邸?」
「ソレイナは王政ではなく首相と呼ばれるリーダーが国を纏めている。言うなら官邸は王城というところかな。」
なるほど、聞き慣れない言葉だったので困惑したが、ようは城であるのか。それにしては少々殺風景かなと思ったが騎士団の詰所も兼ねているならばこんなものかと納得した。
「悪いが一度首相に会ってもらえるだろうか?」
「大丈夫だ。こちらの持っている情報も提供したい。」
「助かるよ。それでは少し待っててくれ。」
首相つまり王ってことか少し緊張するな。俺はフルーとデリラに特に注意するように言いつける。果たしてソレイナ国のリーダーはどんな人物なのだろうか。
少しでも面白いなと思っていただけたら幸いです!
皆さまの応援が励みになりますので、ぜひ下部よりブックマーク・評価等お願いいたします!




