第十一話 邂逅
マルクさんとユキさんには俺のことやアリアのことエレナのことを全て話すことにした。まだ短い間柄ではあるが、二人は信用できるという皆の判断だ。最初は驚いていたが、両親のことを知っている二人にとっては何もない方があり得ないだそうだ。そんな俺達は来るクラス対抗戦に備えて、俺達はマルクさんとユキさんに修行をしてもらっていた。前回までは剣術のみであったが、今回から魔法は自由に使える。俺達の魔法は悠々に剣一本で捌き切っている。
「まさか『合体魔法』まで成功させるとは、驚きました。私でも数回しか成功したことがないというのに。流石ユーリ様とアリア様ですね。エレオノーラ様も中々筋がよろしいですね。」
「俺達3人の魔法を剣一本で軽く捌きながら言われても、あんまり褒められてる気がしないですけどね!」
「全く当たる気がしませんね…。」
「自信なくなってくるよ…。」
マルクさんってどんな能力なんだろうか?これだけの実力があれば相当強い能力だと思うけど…ユキさんもかなりの使い手だし、二人のことも聞いてみようかな。
「皆さんお茶が入ったので休憩にしましょう。」
「はい。」
俺達は庭にあるテラスでお茶を飲むことにした。
「マルクさんとユキさんってどんな能力なんですか?」
「皆様の能力だけ聞いていて、私共の能力をお教えしていないのはユーリ様達に失礼でしたね。私の能力は《剣鬼》剣術に関する能力です。お恥ずかしながら昔は冒険者としてやんちゃしていたものです。」
「今のお姿からはとても想像できません。」
「冒険者をしていた頃は人だろうが魔物だろうが襲いかかってくるものは全てと戦い暴れていました。そんな私を止めたのがお二人のお父様であるユート様とレスト様でした。それから改心した私はリーズベルト家に仕えることになったのです。」
「そうだったんですね。」
冒険者とは依頼をこなすことで生計を立てている人達のことを指す。依頼の内容は魔物の討伐や迷宮で《迷宮遺物》などを見つけたり、街のお掃除なんかもある。冒険者にはランク制度がありF〜SSまで存在し、SSクラスは数人しか存在しないが、実力は騎士団長クラスらしい。学園を卒業しても必ずしも騎士になる必要はなく、自由を好む者は騎士になることより冒険者になることを選んだりする。また学園に来れなかった者も冒険者になって実力を見せることができれば騎士団に入団することもできたりする。かなり珍しいことらしいが…。
「ちなみに冒険者クラスはなんだったのですか?」
「そんな大したことはありませんよ。」
「マルク様はSランクでした。ちなみに私はAランクでした。」
「Sランクだったとは…あの実力も納得です。というかユキさんも冒険者だったんですね。」
「はい。私の能力は《氷結の乙女》水と風それとかけ合わせた氷の魔法を使うことができます。私の生まれは東方の国なのですが、向こうでは魔法はそれほど重要視されておらず、刀と呼ばれる武器を使った剣士こそが最強であるとされていました。なので私の様な魔法使いは居場所がなく王都で冒険者になりにきました。しかし魔物に襲われ森で倒れていた所をソフィア様とマリー様に助けていただき命を救われました。」
「それで仕えることになったというわけなんですね。東方の国かぁ…ちょっと興味あるかも。」
「ちなみにですが、東方の国ではみんな黒髪で剣士のことを《侍》と呼んでいます。」
「《侍》ですか?」
「はい。東方の国は《迷い人》が作ったと言われているのでその名残でしょう。」
「へぇ〜。」
東方の国は大陸続きではあるがかなりの距離があるはずだ。《迷い人》が作ったということはこちらと文化や考え方が違うのかもしれないな。機会があるならば行ってみたいが。
「さて、そろそろ修行の続きを始めましょうか。」
「「「はい!」」」
◇◆◇◆
次の日いつものようにアリアと学園に登校していると人だかりができていた。俺はなんだか前にも似たようなことがあった気がして見てみぬふりをしようと思ったが、聞き覚えのある声に無視することができなかった。
「例えそうだとしてもやって良いことと悪いことの区別はしていただきたいですね。」
「私の所有物に私が何をしようと構わないだろう。」
「エレナ!一体何の騒ぎだい?」
「ユーリ君!アリアさんも。」
「何だ君たちは?」
やはり揉め事の中心にいたのはエレナだ。それと見覚えのない人物だ、整った顔立ちに気品のある雰囲気を纏っている少年だ。学園の制服を着ているということは生徒なんだろう。その後ろにはひどく怯えた獣人の少女がいた。
「私は大丈夫ですから…。」
「でも…。」
「ほらこう言っているだろう。いくぞ。」
「はい…。」
少年と獣人の少女は立ち去っていった。エレナに学園までに事の次第を聞いてみた所、どうやらあの少年が獣人の少女に酷い暴行を加えていたようだ。エレナはそれを見ていられず止めに入ったということらしい。エレナの性格上そういったことが見逃せないのはわかるが、どうしてこうトラブルに巻き込まれてしまうのだろう?《勇者》というのが関係あるのだろうか?
「それにしても今時《奴隷》を連れている人って本当にいるんだね。」
「どんな種族も平等であるというのは割と近年に生まれた考え方だからね。一部の貴族には未だに《勇者》のいる人間族こそが優れているという考えが根深いからね。」
「貴族だからといって《奴隷》を持つことは禁止されています!それにあんなに酷いことを…。」
たしかに一部貴族にそういう考え方が残っているとしても、あんな街の往来で《奴隷》を連れ歩くなんてよっぽどのバカか、処分されることがないと思っている上級貴族くらいだろう。あの少年もそうなんだろうか?
「まあとにかくこのことは一応リリス先生にも報告しておこう。」
「そうですね。学園の評判にも関わりますしね。」
◇◆◇◆
さっきの人、私を助けてくれようとしたのかな…?でも私みたいな汚い獣人なんて助けたって何の意味もないのに…。
「おい!さっさと行くぞ!」
「はい…。」
私は逃げることができない。村は魔物に襲われて両親が助けてくれた唯一生き残ったのは私だけ…もう帰る場所もないのだから…。例え逃げることができたとしても私には何の能力もないし生きていくことができない。
「誰か助けて…。」
「何か言ったか?」
「いいえ、何でもありません…。」
「さっさと歩け!」
暴行はされるけど最低限の生活はできる…これしか、これしか生きていく術はないんだ。少女は自分に言い聞かせる。囚われの獣人の少女が救われるのは少し先の話である…。
◇◆◇◆
学園に登校した俺はリリス先生の元へ行き先程の出来事を報告しに行った。
「そうでしたか。報告ありがとうございます。」
「リリス先生はその生徒のこと知っているんですか?」
「うーん、恐らく黄クラスの生徒で宮廷魔道士団副団長イヴァン・アレストール様の嫡男ディラン・アレストール君でしょう。」
「宮廷魔道士団?」
「はい。王都は五つの騎士団と宮廷魔導士団から成っています。騎士団はそれぞれの土地をメインに王都を守護しています。なので宮廷魔道士団は魔物との戦いよりも各国との外交や王都の政治的な統治をしています。」
「へー、その副団長の嫡男ですか。」
「そうです。今年はクラス対抗戦が終わるまでは公平を保つために、他クラスの情報は伏せられているので知らなくても無理はありませんが、かなりの問題児でたびたびトラブルを起こしています。ただ実力があり成績が良いのも事実なので手を焼いているみたいですね。獣人の少女を連れているとの噂もあるので恐らく彼ではないかと。」
「なるほど。ありがとうございました。」
「私が喋ったことは内緒にしておいてくださいよ。ヴァイオレット君なので特別です。この間のこともあるので…。」
「わかってますよ。自分から面倒事に突っ込む気はありませんよ、それでは失礼します。」
面倒ごとの方から突っ込んでくるんですとは言えなかったな。それにしても宮廷魔道士団か…騎士団ばかりが目立っていてあまり印象はないが、、、ディラン・アレストールね…、ザイルの様なただの貴族ならばよかったがそんな組織の副団長ともなると相当地位は高い貴族だろう。厄介なことにならなければいいんだが。
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