第百九話 《黄金スライム》
冒険者が掛かっていた“呪い”を払った後、『治療魔法』によって回復し命に別状はないくらいには回復した。だが傷が深いこともあり、まだ意識は覚めないようだ。詳細を聞くにはもう少し回復してからじゃないと厳しいだろうな。
「ありがとう助かったよ。」
「いえ、大丈夫です。」
「それにしても一体何があったんでしょうか。」
「《黄金スライム》を探していたということはわかっているのですが…。」
いくら冒険者がトラブルに巻き込まれやすいとはいえ、ここまで一方的に酷くやられることはないだろう。ここまでの被害を見ると冒険者同士のいざこざという感じではなく、完全に殺そうとしているように思える。だからといって《黄金スライム》にやられたとは考えにくい。いくら金を出す珍しいスライムだからといってここまでの強さではないと思う。それに“呪い”がかかっていたことも気になる。
「魔物か…あるいは同じ冒険者か…。」
「私の知る限りではこの辺りの冒険者に“呪い”を使える能力者はいないはずです。」
「とりあえずここで考えていてもわかりません。俺達が依頼をこなすついでに現場を見てきますよ。」
「いいのですか?」
「ええ、ここまで関わって何もしないのも気になりますから。」
「すみません、ですが皆さん無茶はしないでくださいね。」
「わかってるでござるよ!」
「任せて…。」
とりあえず俺達は依頼をこなしながらこの件を調べてみることにした。あの二人はなんとか助けることができたけど、他の冒険者はまだ見つかってないから心配だ。昨日あそこですれ違った時に声を掛けていればあんなことにはならなかったかもしれない。悔やんでも仕方ない、何か手がかりを見つけられるといいのだが。
「しかし犯人は何の目的があって襲ったのでござろうか。」
「うーん、《黄金スライム》を先に取られるのが嫌だったとか?」
「たしかにその線もなくはないけど、それだったら“呪い”まで付けないんじゃない?」
「そろそろ…事件の場所…。」
話をしている内に昨日冒険者達を見かけたあたりまで来たようだ。あれだけ深い傷だったから血痕くらいは残っているかもしれないと思ったが、血痕どころか荒れた様子もない。そもそもあの冒険者達はあんな深いキズでなぜ帰ってこれたのだろうか。あの冒険者達はわざと逃されたのか?
「ん?」
「ユーリ!ダメ!」
考え事をしている俺に向かって短剣が飛んできた。スピードは遅かったので俺は掴もうと考えたが咄嗟にアリアが叫んだために回避した。
「それ“呪い”がかかってるよ。」
「なるほど、向こうから仕掛けてくるとは手間が省けたな。隠れてないで出てこいよ。」
俺は短剣が飛んできた方に向かって声を掛ける。すると木の陰から不気味な男が姿を表した。顔は隠れていてよくわからない。
「お前が冒険者達を襲ったのか?」
「………。」
「どうやら話す気はないようだな。まあ関係なくてもこんなことして逃げれると思うなよ。」
先に動いたのはランマだった。相手の男に向かって走っていく、しかし男は突然姿を消した。それは素早い動きで逃げたという感じではなく、何も無くなったという表現が正しい。
「消えた?!」
「どこにいったでござる?!」
「皆、気を付けて。まだ近くにいるはずだ。」
気配はまるで感じないが、逃げたとは考えにくい。木々に隠れたのだろうか、いやそれならば気付くだろう。そういえば最初の短剣を投げた時も木の後ろから出てきたが、まったく気配を感じなかった。暗殺系の能力者であれば魔力はもちろん存在自体を認識させないと聞くが…。
「コーデリア!」
「っ!『水の壁』!」
「また消えた?」
「いやカラクリが分かった!アリア、『聖なる光』を!」
「『聖なる光』!」
コーデリアの背後に現れ襲いかかろうとするも『水の壁』によって防がれる。そしてまた姿を消す、しかし俺は奴が影の中に入っていくその瞬間を見逃さなかった。そしてアリアに『聖なる光』を使うように言った。影の中に潜む魔法に心当たりはなかったが咄嗟に闇属性だと判断し光属性《聖》の魔法である『聖なる光』が有効であると考えた。
「出てきた!」
「任せるでござる『新山田流一式・疾風迅雷』!」
「『三角・鎖』!」
『聖なる光』に照らされた男は影から姿を表し、狼狽えた様子であった。その隙をランマは逃さず刀で斬りつける。倒れたところを俺が鎖で縛り付けた、これで捕縛には成功した。後は本当に冒険者達を襲った犯人なのか問い詰めるだけだ。
「さて布で隠してる顔見せてもらおうかな。」
俺が男の顔に巻きつけられた黒い布を取る。するとその顔は見覚えのある人物のものだった。
「この人…昨日見た冒険者だ。」
「えっ、どういうこと?」
「つまり仲間割れだったということでござるか?」
「うーん、何か違う気がするな。」
ただの仲間割れという感じではない気がする。この人の様子は明らかに異常だった、それに奇妙な点は解決していないままだ。証拠隠滅のために現場を整えたというのはまだわかるが、そんな犯人がみすみす冒険者を二人も逃がすだろうか。それにここに待ち構えて俺達を襲う意味もよくわからない。謎は深まばかりだがひとまずギルドに連れて行こう。幸いこの人は目立った外傷はないようだし、回復すれば話も聞けるだろう。
「とりあえずこの人をギルドに連れて行こう。それとあの“呪い”の短剣も、なにかの手がかりになるかもしれないし。」
「うん、でもどうやって持ってく?触るだけでも危ない感じがするんだけど。」
「“呪い”は消していこう。できたらそのまま持っていきたいけど、何かあったら危ないから。」
「そうだね。『聖なる光』!…うん、もう大丈夫だよ!」
「この短剣…何か書いてある…ナルガス…ギブロ?」
アリアは短剣の“呪い”を払うとためらいなくコーデリアが短剣を拾い上げる。“呪い”の方は大丈夫なようだが、ちょっとは慎重に拾ってほしいところだ。コーデリアが拾った短剣には名前が書いてあったようだ、ナルガス・ギブロ聞き覚えのない名前である。
「聞いたこと無い名前だね。」
「この冒険者の名前でござろうか?」
「ライラさんに聞いてみよう。」
俺達は襲ってきた冒険者と短剣を持ち帰り冒険者ギルドへと帰った。ギルドに入るとまっさきにリズさんとライラさんがこっちに駆け寄ってきた。
「ドンさん!」
「ユーリ君これは?」
「現場に言ったらこの人に襲われたんです。昨日《黄金スライム》を探してた冒険者ですよね?」
「ここでは何だから2階に行こう。詳しく聞かせてもらえるかな?」
「ええ、もちろんです。」
騒ぎが大事にならないように配慮してだろうが、すでに冒険者達は《黄金スライム》に関連した何かが起こっていると噂されているようだ。こんなことが起きてしまっては依頼は取り消しにするべきだろうな。
「それで襲われたというのは?」
「昨日冒険者の人達を見かけた所に行ってみたんですよ。そしたらいきなり“呪い”が付与された短剣を投げられました。その後戦闘にはいったんですけど影に出たり入ったりする魔法を使ってました。多分闇魔法だと思います。」
「変ですね。たしかドンさんは普通の剣士系の能力で、魔法も無属性の『身体強化』くらいしか使えないはずです。」
つまり元々このドンという冒険者は闇属性魔法は使えないにも関わらず、使用していたということか。もちろんリゼさんが把握しておらず実は使えたということも考えられなくはない。少しでも使えれば《制限失薬》で能力のブレーキを失くして強化するということもできる。
「あっ、それと最初に投げられた“呪い”の短剣なんですが…」
「それは大丈夫なんですか?」
「はい、もう解呪してあるので。ここ見てください、ナルガス・ギブロって書いてあるんですけど…」
「ナルガス・ギブロ?!」
「ライラさんご存知なんですか?」
どうやらライラさんはナルガス・ギブロという人物に心当たりがあるようだ。だがその顔はかなり驚いているというか信じられないという顔をしているように見える。
「ナルガスはすでに死んでいるんです…。」
「死んでいる?」
「はい。これがいつ作られたものかはわかりませんので、まだナルガスが生きていると決まったわけではないですが…。この件は詳しく調べないといけませんね。みなさんが回復するまでは待つしかありませんね。」
「そうですね。」
正直これ以上の手がかりはない。後はドンを含め怪我をした冒険者の回復を待って、あの日何が起きたのか詳しく聞くしかない。
「皆さんご協力ありがとうございました。ユーリ君とアリアさんのランクは上げるように申請しておきます。」
「ありがとうございます。俺達に協力できることがあればいつでも言ってください。」
「はい。本当にありがとうございました。」
無事ランクを上げることができた、俺もアリアもCランクになった。しかし当初の目的は休みの内に達成することはできたが…。
「なんとなく後味の悪い結果でござったな。」
「うん、私達の知らないところで何かが起こってるって感じ。」
「危険…迫ってる?」
「一応シャーロットに報告しておこう。もしかしたら《副技能》で何かを感じ取っているかもしれないし。」
俺達の知らない所ですでに何か大きな陰謀が動いているのかもしれない。しかし何が起こっているのかわからない以上何も出来ない。ただいつも通りの日常を送ることだけが今の俺達にできることだ。
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