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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
王の領域《キングス・テリトリー》編

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第百七話  詠唱魔法

次の日、久しぶりにアリア達と学園に登校した。こうして歩いているとこの2週間という期間はかなり濃かったなと感じる。授業が終わったあとに皆と鍛えて、ハーミットさんのところに通って夜遅くまで色々教えてもらっていた。やっとゆるりとした時間を遅れている。


「そういえば昨日、ランマとコーデリアの姿が見えなかったけど二人はどうしてるんだろう?」

「マルクさんとユキさんの話だと、冒険者ランクを上げるためにずっと依頼ばっか受けてるみたいだよ。」

「あの二人ならすぐにランクが上がっていくでしょうね。」


冒険者ランクは上げておいて損はない。どこの国でも身分証になるし、強ければトラブルにも巻き込まれにくいのだ。俺は現在Dランクで以前国境を超えるために取得したっきり依頼をあまり受けていないのだ。まあずっと《勇者》探ししたり魔族と戦ったり色々あったから仕方がないが、しばらくは落ちつているだろうし、そろそろランクを上げるのもいいかもしれない。


「それじゃあ私達こっちだから。」

「また授業が終わった後に。」

「うん、バイバイ。また授業後に。」


俺はアリアとエレナと別れ《黒》クラスの教室に入る。クラス対抗戦から一夜明けたわけだが、まだクラスの雰囲気は勝利ムードが漂っている。まあそれが授業のやる気に繋がるならいいことだろう。俺が席についてしばらくするとリリス先生が教室に入ってくる。


「皆さん昨日までクラス対抗戦お疲れさまでした。今日からはまた普段通り授業を行いますので切り替えてくださいね。それでは今日は『詠唱魔法』についての授業を行います。」


昨日までも授業は普段通り行われていたのだが、皆の頭がクラス対抗戦でいっぱいになっていたのは間違いない。先生もその辺りは気を使ってくれていたと思う。さて今日の授業は『詠唱魔法』についてである、周りにも使い手はいないし、なんとなく知識としては知っているが『詠唱魔法』とはどういうものなのだろうか。


「『詠唱魔法』とはその名の通り詠唱という決まった言葉を口に出す魔法です。『詠唱魔法』には発動する前に詠唱を行う『前型詠唱』と魔法が発動した後に詠唱を行う『後型詠唱』の二種類があります。」

「先生、その2つはどういう違いがあるんですか?」

「はい『前型詠唱』は発動するまでに時間がかかってしまいますが、その分最初から強い魔法を放つことが出来ます。『後型詠唱』は発動するのは普通の魔法と変わりませんが、放った後に威力を上げることができるのです。」


なるほどどちらの方法でもいい部分と悪い部分はあるのだな。例えば『前型詠唱』の場合、詠唱中に攻撃されたら魔法が発動できなくなるわけで、発動できなければ威力がどうだろうと関係ない。『後型詠唱』の場合も魔法を防がれたら詠唱が出来ないし、これも詠唱中の攻撃には弱いだろう。複数人いればできるかもしれないな。


「ただどちらもあまり今は使われませんね。皆さんの知っている通り今は詠唱がなくても魔法は発動することが出来ますのでこの詠唱という技術は廃れていきました。昔は詠唱破棄ができる魔法使いはそれほど多くなかったみたいですが、それが当たり前に行っていたのが《勇者》及び《大賢者》です。そして人々に詠唱のいらない現在の魔法を広めたと言われています。」


たしかにリリス先生の言う通りだ。しかし俺は『詠唱魔法』には『詠唱魔法』の良さがあるのではないかと考えている。あくまで仮説段階だから実際に試してみたい所であるが、そもそも『詠唱魔法』を使える人が居いないと試せないんだよな。誰か知っている人はいないだろうか?時間があったら調べてみるか。


「それでは今日の授業はここまでです。あっ、ユーリ君は学園長のところにいってくださいね。」

「はぁ、わかりました。」

「ユーリ君っていつも学園長に呼ばれてるよね。何かあるの?」

「何か気に入られちゃって、色々頼まれるんだよね。俺の方は何もないんだけど…それじゃあカイラまた明日!」

「うん、頑張ってね。」


カイラに突っ込まれてしまった。俺の方は別に学園長に用はないが、向こうが毎度呼び出して何かを頼んでくるのだ。まあ今回の呼び出しはおそらくクラス対抗戦の結果についての話だろう。まあ勝利はしたが当初の目的が果たせたのかどうかはわからないけどな。そして俺は学園長室に向かい扉をノックする。


「ユーリ・ヴァイオレットです。」

「入れ。」

「失礼します。」

「まあ座り給え。」


俺は学園長に促されると椅子に座る。何度も足を運ぶうちになんだかこの部屋も居心地が良くなってきた気がする。


「それで今回の頼み事の結果だが、どうやら上手くいったようだ。」

「上手くいったといいますと?」

「何人かの生徒は自信を持って騎士団員になりたいと申し出があったそうだ。まあ一年間はこのまま学園で過ごしてもらうが来年には見習い騎士団員として入団することだろう。」

「そうだったんですか、昨日クラス対抗戦が終わったばかりなのに早いですね。それに本物の魔物との戦闘では…」

「たしかに君の言う通りだが、正直に話すとほとんどは単に自信がなかった生徒ばかりだった。練習の段階ですでに何名かはそういう生徒がいたとリリスから聞いているよ。魔物との戦闘は実習でもすでにやっているからな。戦闘系の能力持ちで本当に戦えない者は自主的に退学したりしているよ。もちろん他の学校に推薦をしたりはしているがね。」


言われてみれば実習で魔物と戦うんだよな。皆、ちゃんと授業を受けて進学してきているのだから魔物との戦闘はすでに行っている者が多いのだろう。よく考えればわかることだが騙された気分だ。学校だってセルベスタ王国の騎士団に入るためには聖リディス騎士学園に入学しなければいけないが、その他の国ならば変わってくるだろう。


「俺は騙されたというわけですね。」

「騙していたわけではないぞ、それに結果的には成功だ。間違いなく君の教え方のおかげだよ、案外教師に向いているかも知れないな。それで報酬の話だがどうする?」

「報酬は授業の出席に目を瞑っていただくということじゃありませんでした?」

「流石にそれだけじゃ悪いと思ってな。私も鬼ではない、何か希望があれば聞くぞ。」

「なら一つお願いしたいのですが『詠唱魔法』の使い手に心当たりありませんか?」

「『詠唱魔法』?また珍しい物を。」

「今日授業でやって興味がありまして。」

「まあいいだろう。私の方で当たってみよう。」


今興味があることと言えば『詠唱魔法』である。俺が個人的に探すよりも人脈の広そうな学園長に頼んだほうがいいだろうと考えお願いすることにした。学園長室を後にしてアリアとエレナと合流する、そして二人には今回このクラス対抗戦を通して学園長から頼まれていたことを話した。


「そんな頼まれごとをしていたんですね。お疲れさまでした。」

「言ってくれれば協力…はできないか。」

「でしょ?わざと負ければいいってもんでもないからね。皆がどうするかだから。」

「上手くいってよかったですね。こちらのクラスでも皆さん話題にしてましたよ。」

「そうだったね。皆ユーリに興味があるみたい。」

「去年に比べたら俺も注目されるようになってきたかもね。」


去年は優勝したにも関わらず、後夜祭ではアリアとエレナに人気を取られてしまったからな。別に注目されたいわけではないが実はちょっと気にしていたり。その後エレナと別れ俺達は屋敷へと帰宅した。ちょうどランマとコーデリアも帰宅したようだった。


「二人共、久しぶりだね。」

「…久しぶり。」

「気を使わせて悪いね。もうクラス対抗戦は終わったから大丈夫だよ。」

「お疲れ様でござる。」

「二人は冒険者ランクを上げてたんだって?」

「そうでござるよ。拙者はBランク、コーデリア殿はCランクになったでござるよ。」


短期間で二人共かなりランクを上げたようだ。ランマはともかくコーデリアもここまで上げるとは《溟海の勇者》の力もあるだろうが、元々の実力がなければできないことだろう。


「そろそろ俺も冒険者ランクを上げようと思ってるから手伝ってもらおうかな。」

「全然いいでござるがユーリ殿なら一人でも大丈夫なのでは?」

「そんなことないさ。仲間と戦うのも大事なことだよ。」

「たしかに…大事…。」


今回俺がクラス対抗戦を通して学んだ大事なことである。それに俺よりも冒険者として活動している二人の方が俺より知識や経験は優れていると思う。


「それじゃあ早速明日行こうか。学園は休みだし。」

「私も行こうかな。」

「いいでござるよ!」

「私も…大丈夫。」


こうして俺達は冒険者ランクを上げるために4人で依頼をこなすことにした。

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