第百五話 【王の領域《キングス・テリトリー》】⑦
アリアとエレナはここまで戦闘をしておらず、魔力は十分にある。それに対してユーリはここまでディランとの戦闘を行っている、さらに先程強力な魔法である『揺レ動ク神ノ槍』を使用した。このまま距離を保って攻撃をしていればいつかは耐えきれなくなる。しかしユーリもそんなことはわかっているはずだ、一体何を狙っているのだろうか。
「準備が整っているとはどういうことですか?」
「教えないよ。まあ見てればわかるさ。」
「その前に倒しちゃうけどね!『炎の槍・三重』!!!」
ユーリに向かって『炎の槍』が飛んでいく、それをギリギリの所で交わしながら逃げ惑う。しかしその隙をエレナは逃さない。
「くっ!」
「『炎の檻』!」
動きを止めたユーリを『炎の檻』で捕らえることに成功した。あとはこのまま魔力を上げて暑さで倒れるのを待つのみである。
「捕らえました。これで止めにします。」
エレナは手を前に上げ魔法陣を3つ展開させる、あれは『揺レ動ク神ノ槍』の構えである。ユーリは焦った先程自分が放った『揺レ動ク神ノ槍』は本当の『揺レ動ク神ノ槍』ではない。エレナと違いユーリは姿形は再現したが威力はほとんどないもので、本来ならば『|炎の槍フレイム・ランス』と『増大・二重』によって発動する。しかしユーリは『|炎の槍フレイム・ランス・四重』を一つに合わせ『増大』は多重展開せずにに再現した言うならば『贋揺レ動ク神ノ槍』なのだ。
「消し飛ばす気か!」
「ユーリ君なら大丈夫ですよ。」
「やっちゃえエレナ!」
「『揺レ動ク神ノ槍』!!!」
ユーリが放ったものとは違いその軌道は視認できず、威力も申し分ない。このままだと間違いなく死…戦闘不能になってしまう。だが、ユーリはこの瞬間を待っていたのだ。
「この時を待ってた!『魔法時限爆弾』!」
「きゃあ!」
「これは一体!?」
エレナとアリアは突如光に包まれたかと思うと爆発した。だがユーリも叫んだと同時に『揺レ動ク神ノ槍』の爆炎に飲み込まれる。ユーリが放った『贋揺レ動ク神ノ槍』はエレナの様に再現しない理由があった。1つ、上下左右に揺れ相手に軌道を読ませないのが本来の特徴だが森の中で放てば被弾する前に木々にぶつかり気付かれるおそれがあったこと。2つ、『魔法時限爆弾』の魔法を組み込む必要があったためだ。だからあえて再現しなかった。さらに言うならこの『魔法時限爆弾』という魔法はある程度魔力が減っていないと魔力の多い二人にはダメージが入りにくい、だからあえて大技を見せて向こうが魔法を使うことを誘ったのだ。
「………。」
「………。」
「………うっ。」
爆風で辺りは土煙が上がっていたがだんだんと晴れていた。その中で立ち上がる影が一つ、それはアリアの姿であった。ユーリとエレナはお互いの魔法によって気絶していた。アリアは爆風に巻き込まれたがエレナより魔法を使っていないこともありダメージは軽く済んだのだった。
「…勝った。私達、ユーリに《黒》クラスに勝ったんだ…。」
アリアは【王の領域】試合終了のアナウンスをその場で待つのであった。
◇◆◇◆
ガイウスはいくら攻撃してもカイラに防がれてしまい攻めあぐねていた。ガイウスはそれほど攻撃力が悪いわけではない、魔力もまだ残っているし本気を出していないわけではない。しかしそれ以上にカイラの守りが強固すぎるのである。それもそのはずカイラ・マルクルの能力である《守護天使》は自身や発動する防御系の魔法の力を強めることであるからだ。
「『岩突風』!」
「『防御』!」
ガイウスは更に攻めるがやはり防がれてしまう。そこで真正面からではなく下から攻撃することを考えた。そうすれば『防御』では防げないと考えたのだ。
「『大地振動』!」
「『防御・球体』!」
「何…効いてないのか?」
「この魔法は地面の中まで『防御』で守る魔法です。もちろん振動も辿り着きません。」
カイラは地面の中まで『防御』を広げることで地面を伝わる振動を防いだ。流石のガイウスもこれには驚いた。彼女は防御に優れており、生半可な攻撃では通らない。しかし幸いなことに向こうから攻めてくる様子がない。
(いや、もしかして…。)
ガイウスはとあることに気づく、先程から攻撃の手を辞めているこの時間にも彼女の方から動く気配はない。後ろの彼は単純に魔力が残っていないのだろうと感じることができたが、目の前の彼女はそうではない。
「なるほど、攻撃魔法が使えないんだな?」
「!」
「図星か。」
カイラは自身の能力を見透かされ動揺したが、顔に出さなかった。しかし後ろに隠れていたラインはそうではなくしまったという驚きの表情を浮かべてガイウスにバレてしまったのだ。
「ごめんカイラ…。」
「もう!」
ラインは謝罪をする、バレてしまったものは仕方がない。それにこのままそう思ってもらった方が都合がいいのだ。実は厳密に言うと攻撃する手段がないわけではない、ただカイラが唯一使える攻撃魔法はカウンターなのだ。一度見せてしまったら確実に対処されてしまうし、相手が威力のある魔法じゃないと跳ね返した所で倒すことができないのだ。だからこうして『防御』で耐えて、大きな魔法を誘うのがカイラの戦闘スタイルである。
(ほら本当の狙いの方はバレてないから。)
(そうは言っても危なかったですよ!まったく。しかし、あのガイウスさんという方お話で聞いていたより随分と印象が違いますね。)
(うん、かなりね。もしかしたらカウンターしてもすぐに対処されちゃうかも。)
《黒》クラスの生徒はカイラとライン含む全員が、あらかじめ《白》クラスの主要メンバーの情報をユーリから説明されている。もちろんガイウスも例外ではない、彼は土属性の魔法に適性があり主に近距離戦闘を得意なはずである。冷静ではあるが感情的になることもしばしばあり、戦闘となれば真っ先に敵に向かっていき盾役を引き受けると聞いていた。しかし単身であるということもあってかかなり消極的だ、あるいはこちらの出方を伺っているのかもしれない。
(僕に考えがある。)
(…上手くいくかな。)
(やるしかないよ。)
こうしてこそこそ作戦会議をしている間にもガイウスは待ってくれているのが好都合だった。しかしガイウスもそろそろ決着を付けなければいけないと考えていた。それは自陣地の方から振動が伝わってくており、おそらくキングであるアリア達が戦闘をしているということがわかったからである。第一陣と第二陣が全滅していることはわかっている残る自分がやられても危ないし、キングがやられても試合には負けてしまう。ならばユーリと戦っている向こうよりも目の前の二人を自分が倒す方が勝率は高いのだ。仮にユーリがキングだとしてもナイトの全滅で勝利する。
「そろそろ作戦会議はいいか?」
「ええ、いつでも。」
「行くぞ!」
ラインはカイラの前に立ち手を前に出し魔力を込める。それに合わせてガイウスも手を前に出し魔力を込める。先程まで全く魔力を感じなかったのに今は感じる、ラインはカイラの後ろに隠れながらずっと回復に専念していいたのだ。だが発動させまいとガイウスも魔法を発動させる。
「くらえ!」
「させない!『大地破壊』!」
「かかったな!」
ラインは構えを辞めてガイウスの方へ向かって一直線に突っ込む。『大地破壊』は地面を大きく揺らしながらその衝撃波がカイラの方へと向かっていく。そしてこちらに突き進むラインに対しても魔法を放つ。
「『岩突風』!」
「今だ!カイラ!」
「『防御・反撃』!」
「何!?ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
『大地破壊』の衝撃はカイラによって跳ね返されガイウスに向かっていく。ラインに魔法を放ったせいで防御することができなかったガイウスはダメージを受け戦闘不能になる。
「ライン!大丈夫ですか?」
「……なんとか。危なかったよ、まさかあんなところに石があるとは。」
この時点ですでにユーリとアリアとエレナの決着は着いていた。《黒》クラスのキングはカイラだったため、ラインがここで気絶していた場合ナイトの全滅となり《黒》クラスの敗北となってしまっていた。しかしラインはガイウスに向かっていく際に石に躓き奇跡的に『岩突風』を回避していたのだ。
「試合終了!!!」
「あ、アナウンスみたいだ。」
それはリリス先生の拡声魔法によって届いた試合終了の合図だった。
「結果を発表します。《黒》クラス、キング1ナイト1、《白》クラス、キング1となりましたので、2学年度クラス対抗戦【王の領域】の勝者は《黒》クラスです!!!」
勝者は《黒》クラス、その結果に会場も戦闘不能になった生徒たちも驚いていた。圧倒的な戦力差ではあったがユーリのおかげ、いやクラス皆の力で勝利を掴むことが出来たのだ。
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