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伝説では6人しかいないはずの勇者なのになぜか俺は7人目の勇者  作者: 銀颯
王の領域《キングス・テリトリー》編

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第百四話  【王の領域《キングス・テリトリー》】⑥

コータ、ウール、カルロスはその場で倒れてしまった。だが、何かダメージを受けて倒れたわけではない。ただ眠っているだけである。倒れるように眠ってしまった三人に近づく二人の女生徒がいた。


「成功したみたいだね。」

「うん、上手くいってよかったよ。」

「ジーク君には後でお礼を言っておかないと。」


三人に近寄ってきたのは《黒》クラスの女子生徒、ラライ・プローイとロロイ・プローイである。二人は双子である。彼女らが行った策は非常にシンプルなものであり、《白》クラスの第二部隊全員をそれぞれ結界に閉じ込めて、それぞれ戦闘不能にしたのだ。ただこの三人を閉じ込め眠らせることが出来たのはラライとロロイのおかげである。


「ユーリ君の言った通り私達でもできるんだ!」

「うん!やれてよかった!」


プローイ家はごく普通の一般家庭である。両親も冒険者や騎士団に所属しているということもなく、王都で宿屋を経営している。もちろん戦闘向けの能力でもなかった。そんな二人の間に生まれた女児はなんと強い魔力を持った双子の女の子であった。能力や魔力、使用できる魔法に遺伝は関係なくこういったパターンもよくあることである。そして10歳になり《女神の天恵》を受けて授かった能力がプロイは《結姫》とロロイは《眠姫》と強力なものであったのだ。そして彼女達は学園に来ることになったのだが、ジークと同じく彼女たちは戸惑っていた。突然力があると言われても周りに一般の人しかいなかった二人にとってはまるで別世界の話であった。とはいえそれも学園に通う内にそれも慣れていき試験の中で魔物を倒すこともあったし戦うこと自体は苦ではなかった。だが同級生に比べると自分達はそこまで戦う力がなく能力を上手く使いこなせず、劣等感を感じていたのだった。そんな気持ちのまま騎士団に入るわけにもいかず進学を選択した。そして今回のことがあり、その気持をユーリに相談することにした。


「ラライとロロイは能力を上手く使えないってこと?」

「そうだよ。だからそんなに強い魔法は使えないし自信がなくって…。」

「うん、私達役に立てないかも…。」

「うーむ。鍛えれば多少はマシになると思うけど…」


ユーリが初めて二人を見た時、この二人はとても不思議な感じがしていた。それは二人の魔力がとても似ているからであった。ユーリは相手の魔力を見る能力に長けているわけではないが、たくさんの人物と会い戦ってきたことで多少は判別が付く。その中でまったく同じ感じ方をする魔力は存在しなかったが、二人はまるで同一人物の様な魔力をしていたのであった。そこでユーリはあることを思い出した。


「二人共、使える属性魔法はある?」

「私は炎なら…。」

「私は風だけど…。」

「よしそれじゃあ、こういうのはどうかな。」


三人は競技のための演習場に移動すると、ユーリは二人にあることを教える。二人はユーリに教えられ半信半疑ではあったものの言われた通りに試してみることにした。


「『炎の壁(フレイム・ウォール)』!」

「『突風(エア・ブラスト)』!」

「『合体魔法(シンクロ・キャスト)灼熱旋風(フレイム・サイクロン)』!!!」


ユーリが二人に説明したのは『合体魔法(シンクロ・キャスト)』のことであった。本来異なる魔力を合わせることは難しく『合体魔法(シンクロ・キャスト)』はそうそうできるものではないのだが、ラライとロロイはあっさりとやってしまった。ユーリの見立ては間違っていなかった、二人は双子であるためか魔力が一緒であるのでできそうだと思ってのだ。


「こんなすごい魔法、私達がやったの?」

「そうだよ。簡単にできる魔法じゃないのにこんなにあっさり。」

「ちょっと自信出てきたかも。」

「二人が協力すればきっともっと凄い魔法ができるよ。」

「ありがとうユーリ君。他にも色々教えてよ!」

「私達もっと強くなりたいの!」

「もちろん!一緒に頑張ろう!」

「「おー!」」


こうして二人は悩みを解決し、さらに強くなるために特訓をした。そうして二人は自分たちの能力を活かして戦えるようにまでなった。


今回、二人の担当はトリップ達第一陣がやられてしまった場合、侵入してきた《白》クラスの第二陣を倒すことである。ラライの能力《結姫》によって複数の結界を同時に張ることができる、これにより第二陣の部隊をバラバラにした。三人が知らない間に仲間がいなくなったと感じたのは結界のせいであった。そしてロロイの能力《眠姫》は睡眠系の魔法の効果を強める効果がある、しかし睡眠魔法自体発動や相手に当てることが難しいので時間がかかってしまう難点があった。そこでジークに時間を稼いでもらっていたというのが《黒》クラスの策である。


「それでこっちの被害は?」

「私達を含めて残ったのは5人だけだよ。」


結界によっていくつかのブロックに分断した後、《黒》クラスの生徒にそれぞれ《白》クラスの生徒は戦いを仕掛けたが、やり返されてしまうブロックもあった。なんとか全滅させることが出来たが《白》クラスも何名かやられてしまった。


「元々の地力が違うとはいえ、よくやった方だと思うよ。」

「そうだね。それにこれでこっちは完全に数的に有利だし、このままだと本当に勝てちゃうかも!」


《黒》クラスの正確な人数は把握出来ないもの《白》クラスの方が優勢であるとロロイは考えていた。実際この時点で《黒》クラスは残り3名、《白》クラスは8名であり圧倒的に有利であった。


「このまま誰が来ようと倒しちゃうよ!」

「ロロイ調子に乗りすぎだよ。」

(ラライ、ロロイ!気をつけろ何か…うわぁ!)

(どうしたの!?)


二人の元に突然不穏な『念話(テレパシー)』が入った。どうやら何者かに襲われているようであった。二人は先程までのゆるい空気感から一気に戦闘体勢に入る。どこから何が襲ってくるかわからないため、周囲を警戒する。ここまでの策で二人はかなりの魔力を消費していたが、そうやすやすとやられる気はない。少しでもダメージを与えてやると思っていた。


「ラライ、他の皆はやられちゃったのかな?」

「わかんないけど…ロロイ、気を抜いたらダメだよ。」

「わかってるって。」


辺りが異様な空気に包まれる中、それは突然やってきた。


「『風の壁(エア・ウォール)』!」

「ぐっ!」

「ラライ大丈夫?」

「うん、また来るよ!」


二人に向かって小岩が複数飛んできた、ロロイは咄嗟に反応し魔法で防ぐ。だがそれは止むことなく色々な方向から二人を襲う。


「きゃあああ!!!」

「うわぁぁぁ!!!」


とうとう処理しきれなくなった二人は戦闘不能になってしまうのであった。そんな二人を木の後ろから眺める男が一人。そう《黒》クラス三人のアリア、エレナを除く最後の一人ガイウス・ドレッドであった。ガイウスは本来コータ達と同じ第二部隊として《黒》クラスの陣地に攻め込む役であった。しかし彼は部隊から離れ最後尾から見守っていたのだ、何故ならば彼はユーリ・ヴァイオレットという男をずっと見てきたからである。去年の事件があってからというものユーリに対して深い尊敬の念を抱くと共にライバル視もしていた。もちろん自分の力では敵わないというのはわかっているが、それでも腐らず努力を重ねてきた。そしてそれを発揮する絶好の機会が今回訪れたのだ、しかし彼はディランとは違い私情を優先しない男であった。勝利のためにあえて別行動をとり《黒》クラスいやユーリの策を観察していたのだ。結果的にそれは正解であった、結界に入ることなくこうして不意打ちで5名倒すことができたのだから。


「後はキングを狙うだけだ。」


ガイウスはこの時点で残る相手の人数は把握していなかったが、おそらくあと数人であろうと考えていた。この読みは当たっておりラライとロロイが倒された時点でお互いに3人ずつとなった。いよいよ大詰めである、ガイウスは更に奥地へと進んでいく。そこで二人の男女の生徒を見つける、キングかどうかはわからないが全員倒せば確実であると考えた。あちらはこっちに気付いていない、攻撃をするなら今である。


「『土の弾丸(アース・ブレッド)』!」

「カイラ!来たよ!」

「『防御(プロテクション)』!」


《黒》クラスの陣地にいた最後の二人はカイラ・マルクルとライン・ガンツェルトである。だがラインはすでに『念話(テレパシー)』の能力を使いすぎたため、もうほとんど魔力が残っていないため戦闘においてあまり役に立てないだろう。


「連絡が途絶えたから来るとは思ってたけど、まさか全部すり抜けてここまで辿り着くとは…。」

「ユーリ君が念には念をって言ってた意味がよくわかったね。」

「お前たちを倒させてもらう。」


こうして《黒》クラス陣営にてカイラ&ライン対ガイウス、《白》クラス陣営にてユーリ対アリア&エレナの2学年度クラス対抗戦【王の領域(キングス・テリトリー)】における最後の戦いが始まったのであった。

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