第百一話 【王の領域《キングス・テリトリー》】③
「『身体強化・三重』!!!」
「『雷身体強化』!」
俺とディランは互いに身体強化の魔法を発動する。先に動いたのはディランだった、俺の身体に向かって来る。俺はそれに合わせて後ろへと飛び退く。
「『雷の槍・二重』!!」
「『土の壁・二重』!!」
ディランは二本の『雷の槍』をこちらに向かって投げる。俺はそれを『土の壁』で防ぐ。正直なところあまり魔法を使わずに勝ちたい所である。この後にまだエレナやアリアとの戦闘が待ち構えているのだ、無駄な魔力消費はできない。
「くっ!」
「考え事をしている暇はないぞ!はっ!」
「ぐわぁ!」
ディランはいつの間にか目の前から消えたと思ったら背後に回り込んでいた。俺は魔法で防ぐことも考えたが魔力を温存しようと考え、身体を捻らせて回避を試みた。しかし、ディランという男はそんな悠長な判断をできるほど易しい相手ではなかった。俺は防御が間に合わずディランの回し蹴りをもろに腹部に受けてしまい弾き飛ばされる。
「…はぁはぁ。『身体強化』を発動しているとはいえ流石に早いしダメージも大きいな…。」
「去年お前に負けたあの日からずっと修行は欠かしていないからな。」
「知ってるよ。ずっと」
今回俺は《勇者》の力を使う気はない。あまり公にしたくないという気持ちはあるが、知り合い相手の一対一の戦闘ならば使用してもいいだろう。それにルール上別に禁止されているわけではない。ただなんとなくフェアでは無いと考えているからだ。それに俺も自分の力で戦って勝ちたいという気持ちがあるのだ。
「『避雷針』!」
「それで俺の雷魔法を封じたつもりか?同じ手は効かないぞ!」
「簡単に引っかかるとは思ってないよ!」
俺は雷魔法を封じる『避雷針』を発動させる。しかし『雷身体強化』の様な自身の身体に魔力を流している魔法には効かないだろう。だがこれでディランの得意な雷魔法の大半は封じることができる。ディランは素早い動きでユーリの視界から消えたり現れたりと動きで翻弄する。
「『雷の矢』!」
「ん?何が狙いかはしらないがそれでは俺に攻撃を与えることはできないぞ!」
「ぐっ!『雷の矢』!」
ディランに向かって俺は雷魔法を放つ。しかしそれは俺自身が先程仕掛けた『避雷針』に引き寄せられていきディランに当たることはない。その間もディランは一定の感覚で攻撃をしては離れ俺からの反撃を警戒しているようだった。去年のこともあってか恐らく捉えられることを警戒し、不用意に近づかず確実にダメージを与えに来ている。
「『雷の矢』!」
「さっきから何が狙いなんだ?」
「何のことだ?」
「お前が意味もなく、効果のない雷魔法を放つとは思えない。」
「今にわかるよ、『三角・鎖』」
「これが狙いか!だが同じ手には引っかからないと言ったはずだ!」
俺は去年同様に『三角・鎖』でディランの拘束を試みる。去年とは違いマーキングなしで発動させたことにディランは一瞬驚きの顔を見せたが、すぐに上へと飛び上がり回避した。俺はそのタイミングを待っていたのだ。
「『魔法網』!」
「遅い!…何?」
ディランは魔力で作られた網を空中で回避しようとしたが、何故か思うように身体が動かず捕まってしまいそのまま地面へと落ちる。
「何故身体が…これは?」
「気付いたかな?」
「俺の『雷身体強化』の効力が無くなっている。一体何をしたんだ?」
「そんな難しい話じゃないよ。『避雷針』に雷の力を奪われただけだよ。」
「だが『避雷針』は俺が操作している分には影響はないはずだ。」
ディランの言う通り、『避雷針』は放たれた雷魔法は吸い付けるが身体で触れているような雷魔法であれば魔力操作を行えば問題はない。するとディランは何か気付いたようだった。
「まさか先程までの魔法は…!」
「そう俺は『雷の矢』を乱発することでディランと『避雷針』との間に魔力的な架け橋を作ったのさ。そのせいで君の魔力操作も徐々に引っ張られるようになって上手く身体強化が働かなかったんだよ。」
「なるほど、流石の発想力だな。」
「いや、上手くいくかどうかは賭けだったよ。元々考えてはいたけど実際に試せないから。なにせ身体強化も雷属性なのはディランだけだからね。それでキングは誰なんだ?」
「完全に俺の負けだ。キングは…内緒だ。」
「まあそうだよね。大人しく二人のところに行かせてもらうよ。」
俺はディランを戦闘不能にした後。エレナとアリアに会うために再び《白》クラス陣地の奥へと進んでいくのだった。
◇◆◇◆
トリップ達が《白》クラス先遣部隊を倒した頃―――。
(皆、次の部隊が来る前に準備を整えて。)
(了解です!)
(了解だ。)
《黒》クラスの面々はシャーロット、デリラ、フルー達を倒し、少しだが自信が出てきていた。元々能力はあったが彼らに足りなかったのは自信であった。しかし今回の戦闘において彼らは満点の働きをすることができた。だが同時に油断ということも彼らは学ぶのであった。先程の連絡があってすぐに再び連絡が入る。
(敵襲!敵襲!うわぁぁぁぁ!!!)
(こちらもだ!どこから攻撃が来ているんだ?!)
(皆落ち着いて!体制を立て直して!)
トリップは『念話』の先で聞こえてくる仲間の悲鳴を聞いても動じていなかった。この戦闘を通して一番成長したのはトリップである。そして体制を立て直すように指示を出した。しかし敵の第二部隊はそう甘くはなかった。なぜなら彼らは先遣部隊と違い近接戦闘も中距離攻撃も行える万能型のメンバーが揃っているからだ。
「こっちも罠を仕掛けて迎え撃とう!」
「おう!了解し…ぐわぁ!」
まるで気配を感じないのにどこからともなく『魔法弾』が飛んできてトリップの横に居たクラスメイトに直撃し、戦闘不能になってしまった。ここは森林が多く生えている、にも関わらず『魔法弾』によって正確に撃ち抜かれてしまったのだ。ある程度《黒》クラスの情報は聞いていたがここまでやるとは思わなかった。
「カルロス・クライフ…。後退しよう!C・C対応だ!」
「了解!」
「壁を作るぞ!」
《白》クラスはありとあらゆる場面を想定して様々な策を練っている。こちらから相手に向けて策を仕掛ける場合は数字、特定の相手に行う作戦はその人物の名前から取ったアルファベットになっている。今回トリップが出したのはC・C対応つまりカルロス・クライフ対策なのだ。
「『土の壁』!」
「『土の壁』!」
「『土の壁』!」
カルロスの得意魔法である『魔法弾』は距離があっても正確に狙撃することができる、いうなれば避けることはできないということだ。そこでユーリが考えた対策は避けられないなら避けなければいいということだった。距離があるならば着弾までに時間がかかる、それならばその間に物理的に壁を用意して防ぐというものだった。
「うわぁ!」
「大丈夫だ!貫通したけど当たってない!」
「よし!後退しつつ壁を作れ!」
作戦は成功しており『魔法弾』を完璧に防ぐことはできなかったが威力を弱めて軌道を少しずらすことに成功した。
「なるほど、物理的に壁を作って回避しているのか。」
「ユーリが考えた作戦かな。」
「これならどうですか『魔法弾・貫通』!」
コータ、ウール、カルロスは先遣部隊とは違い固まって動いている。まとまって動くほうが危険ではあるが、逆に言えば数的有利は確実に取れるし、お互いにフォローしやすいと考えたのだ。実際トリップ達以外のA部隊はても足も出ず全滅しているのだ。だがトリップ達の部隊だけは簡単にやられることなくしぶとく粘っているのだ。しかしそれも長くは続かない。
「ぐわぁ!」
「きゃ!」
「貫通に特化した『魔法弾』…だけど目的の場所には着いた!これでいける。」
トリップはただ逃げ惑っていたわけじゃなく、この場所に誘い込むために後退を続けていたのだった。これ以上は逃げても無駄だろう。この場所でできる限り向こうの戦力を減らそうとトリップは考えた。
「ストップ。」
「どうしたコータ?」
「多分誘い込まれた。『罠魔法』が仕掛けられてる。」
「なんで分かるの?」
「さっきシャーロット達の戦い見てただろ?あそこに不自然に土の色が変わった後がある。」
「なるほど。こういうときのために予め用意してたんでしょう。ここから『魔法弾』で狙うのは難しいそうですね。」
こに場所は罠が仕掛けられているだけではなく、土地が隆起しており他の場所よりも木が生えておりカルロス対策のためにあるような場所だった。ステージはランダムであったはずだがどこが出ても対応できるように調べていたのだろうか。
「そういうことなら僕達が行くよ。コータ僕の後ろを着いてきて。」
「わかった。カルロスはここで待機しててくれ。」
「気をつけて。」
ウールは罠の場所がわかるわけではない。しかしウールには罠が効かない理由があるのだ。二人は真正面から罠が仕掛けられているだろう場所を突っ切る。当然『罠魔法』が発動する。
「よっと!落とし穴くらいはなんてことないね。」
「それ後でデリラ達に絶対言わないほうがいいよ。」
「そうかもね…また来たよ!」
今度は丸太が2人を襲う、だが二人はそれぞれ魔法で丸太を破壊した。すると中から砂が大量に出てきた、それ自体はダメージを与えられるものではないが二人の足を止めるのには十分だった。隠れていたトリップ達はここがチャンスだと思い一斉に魔法を放つ。
「皆!今だ!」
「『土の弾丸』!」
「『火の球』!」
動きを止めていたウールとコータに魔法は直撃する。
「やった!倒した!」
「…ごめんね。あれは僕の魔法なんだ。」
「えっ…?」
そこには先程魔法が直撃したはずなのに無傷の二人が立っていた。トリップはどうしてなのか理解ができず困惑して固まっている内に気絶させられたのだった。
「しかし『蜃気楼』にこんな使い方があるとは思わなかったよ。」
「これはユーリも知らなかっただろうね。」
初めから罠に向かっていったのは『蜃気楼』によって作られた分身であった。『蜃気楼』で作られた分身は『陽炎』の様な残像を見せ魔法を外させるものではなく、実体があるので魔法は当たる。それは『罠魔法』でも同様で、分身に対して発動するので意図的に誘発させることができるのだ。ウールにとって罠を仕掛けるのは意味をなさない。
「二人共、流石ですね。」
「いやウールのおかげだよ。さて、奥に進もうか。」
「ナイトを全滅させるのが先かキングを取るが先か。」
三人は《黒》クラス陣地の更に奥へと足を進めるのであった。
《黒》クラス13人
《白》クラス15人
戦況は拮抗状態にあった。
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