第百話 【王の領域《キングス・テリトリー》】②
《白》クラスは先遣部隊として9名を《黒》クラス陣営へと送り込んでいた。3つの部隊に分けておりそれぞれシャーロット、デリラ、フルーをリーダとしている。
「ここからはそれぞれ別れますよ。」
「わかったよ、デリラ気をつけてね!」
「フルーこそ!」
三名は《黒》クラスの陣地に入ったところでそれぞれ別の方向に分かれた。一番早く《黒》クラストリップ・ボーン率いるA部隊と遭遇したのはシャーロットの部隊だった。
「見つけました。倒させていただきます!」
「トリップ敵が来たぞ!」
今回クラス対抗戦では剣を使用できないのでシャーロットは全力を出すことができないが、体術だけでもユーリ同様に《黒》クラスの生徒を倒せるだけの実力はあるだろう。シャーロット達はトリップ達に向かって一直線に突っ込んでいく。その途中シャーロットは何か仕掛けられていることに気づいていたが、迷いなくトリップ達めがけて真っ直ぐに向かっていく。
「かかった!」
「うわぁ!動けない!」
「何なのこれ!?」
シャーロット以外の二人の男女の生徒はトリップが仕掛けた『罠魔法』の『落とし穴』に落ちたのだ。それにそれはただの穴ではなく、中には魔法で水と砂それから石灰を入れ混ぜてあった。それらを混ぜることで出来上がるセメントという物は本来建物などに使われる物である。転生者が持ち込んだ技術でコータ曰くコンクリートというらしい。ユーリはこれを組み合わせることで穴に落ちた者の身体を重くさせ、動きを封じより脱出しにくくしたのだ。普通の落とし穴では時間稼ぎにはなっても戦闘不能に追い込むのは難しいからと考えた策であった。
「大丈夫ですか二人共!」
「まだまだ終わりじゃない!」
「これは!?くっ!」
シャーロットは持ち前の反射神経で落とし穴に落ちる前に罠に気付きなんとか後方に飛び退いた。しかしトリップ達が用意したのはこれだけではない。シャーロット目掛けて第2のトラップである木に吊らされた丸太が振り子のように襲いかかる。
「それでもまだ甘いですよ!」
「…わかっていますよ、それは囮ですから。」
「なんですって?!」
あらかじめ誰が来るかはある程度予測をしていた。その誰と遭遇しても良いようにA部隊が用意していたのは単純な『罠魔法』だけではないのだ。シャーロットはこの丸太の罠に気づいていたいて上で飛び込んでいたが、本来アリアの《副技能》の様に魔法の痕跡を感知でもしない限りわかるはずもないのだ。つまりこの丸太の罠は魔法ではないのだ、厳密に言うならば罠を作るために魔法は使用しているが『罠魔法』ではないということだ。
(あんなにわかりやすく罠が仕掛けられているということに疑問を持つべきでした。)
シャーロットは相手を舐めるようなタイプではない。どんな相手でも全力を持って相手にするだからこそ目の前の敵に集中するあまり罠の存在を失念してしまっていたのだ。しかし、それはあながち間違いではないのだ。シャーロットは空中で身体を捻らせ丸太をタイミングよく叩きそれを回避した。落とし穴と丸太という2つのトラップしかも魔法と人工という二重のトラップではあったがシャーロットの身体能力で回避することができたのだ。結果的に判断は間違っていなかった。
「やっぱりそれも回避するんですね。ユーリ君の言った通りでした。」
「えっ?」
「これで終わりです!」
トリップはシャーロットに向け腕を上げ魔法を発動させる。それは丸太に仕掛けられていたもので無数の蔓が伸びシャーロットを捕らえることに成功したのだった。『罠魔法』にはいくつか種類がありこれは発動させるタイミングを自分で操作できるものだった。
「『蔓の鎖縛』」
「二重、いや三重の罠でしたか。流石にここまでは読めませんでした。」
「僕もです、まさかここまで避けられるなんて。それにユーリ君にアドバイスを貰えなかったらここまでのことはできませんでした。」
「なるほど、彼は用心深いですから。…あなた名前は?」
「トリップ・ボーンです。」
「トリップ・ボーン、覚えておきましょう。」
トリップは世間話や噂話に疎く、自分と同じ学園に王女がいるということをなんとなく知っていたが、目の前の彼女がその王女であることを知らなかった。そんな王女に実力で名前を覚えてもらえるということの価値を知るのはもう少し後のことである。
(トリップこっちは作戦成功だよ!)
(こっちもだ。)
トリップ達がシャーロットの部隊を倒したのとほぼ同時に別の部隊を倒したという連絡が来た。デリラとフルーはまんまと『罠魔法』に引っかかり戦闘不能になっていた。これで25対16戦況は大きく《黒》クラスに有利になっていた。
(こっちも全員倒したよ。とりあえず気を抜かないように待機。)
(了解です。)
(了解!)
そんなトリップ達を遠くから見ている者達がいた。
「中々やるね。」
「まあデリラ達はいつものことだけど、もうちょっと警戒はしてほしかったね。」
「まさかシャーロット様が剣なしだとはいえ負けるとは思いませんでした。やはりユーリは侮れませんね。」
トリップ達を見ていたのはシャーロット達先遣部隊に続いて《黒》クラスの陣地に攻め込んできた《白》クラスの第二陣であるコータ、ウール、カルロスをリーダーとした部隊であった。先遣部隊がやられた後に到着したため遠くで様子を伺っていた。
◇◆◇◆
トリップ達がシャーロット先遣部隊と交戦し始めた頃―――。
「そこにいるのはユーリか?」
ユーリは急にディランに話しかけられて驚いた。魔力も抑えているし魔法も発動していない、にも関わらずディランはこちらの居場所を把握してきたのだ。しかも顔はこちらを向いているハッタリではなく完全に補足されているのだ。
「どうしてわかったんだ?」
「それはこの戦いが終わったら教えてやる。」
「ケチだな。それなら3人の内の誰がキングなのかは教えてくれるのかい?」
「ふふ、素直に教えるわけありませんよ。」
「知りたかったら私達全員を倒すことだね!」
俺は素直にディラン、エレナ、アリアの前に姿を表す。不意打ちできればよかったがバレてしまっては仕方がない。しかしこの三人相手にどうやって戦うべきか、流石に一人で相手をするのは難しい。どうにかして1対1にもっていかないと。
「それじゃあそうさせてもらおうかな!『煙幕』!」
「くっ!煙幕か!」
「これで視界を塞いだつもりですか?アリア!」
「うん!『突風』!」
俺は三人の視界を煙で塞ぎ、その隙に逃走を図る。三人は一瞬動揺したものの、すかさずアリアが風魔法で煙を吹き飛ばし対応をする。ここまでは俺の予想通りだ、後は上手く引っ掛かってくれよ。
「どこに消えた?」
「あそこです!」
「誘われているな、俺が行こう。」
「ですが…」
「ユーリがキングであろうがなかろうが、衝突は避けれないだろう。ここは姿を捉えられてる内に倒すべきだ。」
「わかりました。」
ディランはユーリの後を追いかける。ああは言ってエレナを説得したが、本音はユーリと1戦交えたいという意志があったのだ。去年もユーリとはクラス対抗戦で戦って敗北している、そのリベンジをしたいと考えていたのだ。
「追いかけてきたのはディランだけだったか。」
「そうだ、お前と戦うチャンスだからな。」
「でも一人で追いかけてきたってことは、やっぱりディランはキングじゃなかったか。」
俺は単独で追いかけてきたディランに思い切ってキングかどうかを問いかけてみる。
「ああ、そうだ。だがどうして俺がキングになると?」
「あり得ない話ではないよ。今回のルールで言うなら一番の戦力になるのはディラン、エレナ、アリアの三人だからその内の誰かをキングにする方が無難だ。《白》クラスは客観的に見て《黒》クラスより戦力で上回っているし、わざわざ奇抜な作戦で攻めたことをする方がリスクだよ。」
「ふっ、そこまで考えているとは流石だな。」
ユーリは思い切って真正面から探ったつもりだったが、案外あっさりディランは自分がキングではないことを認めた。まあ三人の中で言えば一番可能性は低いと考えていたが。
「お願いがあるんだけど、できたらどっちがキングなのか教えてくれたりしない?」
「そうだな、俺に勝ったら教えてもいい。」
「はぁ…。まあどっちみち戦闘は避けられそうにないね。」
「そういうことだ。構えろ、行くぞ!」
「来い!」
俺はディランと戦闘に入るのであった。
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