第十話 疾風の如く
「ヴァイオレット君!スカーレットさん達も、無事で良かったです!」
僕達が森を出ると先生が出迎えてくれた。俺は森で起こったザイルとの事の顛末を話した。
「わかりました。ソーン君のことは学園長に報告します。とりあえずソーン君もドレッド君も医務室で治療してもらいましょう。」
「わかりました。」
ガイウスはザイルを担いで医務室へと向かって行った。これからザイルはどうなるだろうか、魔物との関係に魔人になった薬、色々と謎は残っている。
「ところで魔物はどうなったんですか?」
「ああ、それなら《疾風》が倒していきました。」
「あの《疾風》ですか?」
「はい。あの《疾風》です。」
あの《疾風》とは何のことなんだろうか?まったく聞き覚えのない単語だ。それはアリアも同じみたいで疑問を持ったようだ。
「あのー《疾風》って何ですか?」
「《疾風》とは翠狼聖騎士団長の二つ名みたいな物ですね。たしか名前は…」
「オリバーです。オリバー・マイルズ。」
「うん?マイルズってもしかして…」
「はい。オリバーは…私の弟なんです。」
「そ、そうだったんですか。でもあの《疾風》というのは?」
「それは彼の得意魔法が風ということもありますが、とてもせっかちとかそれでついた二つ名が《疾風》というわけです。」
「オリバー一番最初に駆け付けてくれましたが、《キラー・エイプ》を一瞬で2体倒した後後処理を部下に任せて一番最初に戻って行きました。」
なるほど。変わった人なようだが流石騎士団長クラスというべきか、セシリアさんのように魔物を一瞬で倒すとはまだまだ俺も実力の違いを感じさせられるな。森の中で感じた暴風はオリバーさんだったのかもしれない。
「とりあえず、皆は私と学園長に今回のことを報告に行ってもらいます。よろしいですか?」
「わかりました。大丈夫です。」
「私達も。」
俺達は先生と学園長室に向かった。中にはすでに誰かいるようだ、話し声が聞こえる。
「…というわけです。やぁ、姉さん遅かったね。」
「オリバー!」
「とすると君たちが森で戦ってた子たちかな?僕はオリバー・マイルズ、翠狼聖騎士団長、年齢は18、得意魔法は風、趣味は読書、好きな女性のタイプは優しい人で…」
「こ、これが《疾風》…。」
「思っていたより凄いです…。」
オリバーさんは聞いてもいないのに自分のことをべらべらと喋り始めた。しかもずっと喋っているとは…これがあのと呼ばれる《疾風》ってことか。戦いだけじゃなくて喋るのも早いってことね。
「んっ、うん!オリバー君そこまでにしてもらって続きはまたの機会にしてくれ。」
「そうですか?ではまたの機会に。あぁそれと君たち中々強いね。もしかしたら姉さんより強いかも!それじゃあ!」
そういうと目にも止まらぬ速さで掛けていった。あれももしかして風魔法を使っていいるんだろうか?
「学園長、弟がすみませんでした。それと今回の件についてお話できる生徒を連れてきました。」
「君達はたしか、スカーレットにリーズベルト、そしてヴァイオレットだな。」
エレナはともかく僕達のことまで知っているなんて。
「流石、学園長ですね。俺達のことまで把握しているとは。」
「褒められるのは悪くないが、それは私の能力に通ずるところがあってね。まあそうでなくても君達の両親とは知り合いだしセシリア君からも聞いているよ。」
「学園長クラスになればそんなこともできるんですね…。それに俺達の両親とも知り合いだったとは。」
「まあその話は置いておいて今回のことを詳しく話してもらえるかな?」
「はい。」
俺は学園長に魔物のことやザイルのことを話した。
「なるほど…人間を魔人にする薬ねぇ。まさか本当に実在していたとは。」
「学園長はご存知だったんですか?」
「噂ね…。君達は《6人の勇者伝説》は知っているな。」
「はい。もちろんです。」
「あれは迷宮で発見された迷宮遺物に記された物なんだ。その中に魔王が人間を自らの配下にするために魔人に変えていたという話がある。」
「それが今回の件だと。…ということは本当に魔王は復活したんですか?」
「いや…。それはまだ断定できるほどの情報ではないが…、今回の様な事件が他にも起きているかもしれない。王に報告しておこう。君達を危険に巻き込んでしまって済まなかった。」
学園長は俺達に頭を下げた。
「そんな!頭を上げてください!」
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。学園内の警備も強化しなければな。クラス対抗戦も近いことだ用心しなければ。そういえば君達は対抗戦の紅クラス代表だったね。君達なら優勝も目指せるだろう。存分に励んでくれ。」
「はい!ありがとうございます。」
俺達は挨拶をして学園長室を後にした。
「ユーリ・ヴァイオレットか。」
「ヴァイオレット君がどうかしましたか?」
「いや、なんでもない。」
私の能力《占星術師》による『心眼』でも能力がわからないとはな。スカーレットの《紅蓮の勇者》ですらわかったというのに。奴の正体は何者なんだ?《勇者》以上の何かなのか…。
学園長室を後にした後、ザイルとガイウスのお見舞いに行くことにした。ガイウスは心配いらないだろうが、ザイルは大丈夫だろうか?治療は成功したと思うが…。
「ガイウス身体の調子はどうだい?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「ザイルの方は?」
「まだ検査中だ。…ちょうど終わったようだな。」
白衣を着た女性が扉を開けて出てきた。ベル・イースト先生だ。ケガの治療はもちろん能力や魔法についての研究を得意としている。
「イースト先生ザイルの容態は?」
「結果は良好よ。2、3日もすれば目を覚ますと思うわ。」
よ、よかった。俺とアリアの治療は上手くいったようだ。アリアも安心したような顔をしている。
「でも一つだけ問題があるわ。彼、まったく魔力が流れなくなっているわ。魔力を流してもダメ、もしかしたらもう魔法は使えなくなるかもしれないわ。」
「そ、そんな…。」
ザイルの能力的に魔法が使えなくなってしまうのは辛いだろう。もちろん能力が全てではないし、命があっただけでも良しと考えるべきなんだろうが、学園は辞めるしかないだろうな。自業自得ではあるが助けられなかったことは悔やまれる。
「ザイルのことはこれから一生ドレッド家で責任を取る。それが俺のできることだ。」
「ガイウス…。」
これからザイルは大変だろうが、ガイウスと二人なら乗り越えられると信じている。頑張っていってほしいな。
「じゃあ、俺達はこれで。」
「またお見舞いに来るよ。」
「ああ、皆ありがとう。」
俺達はザイルの病室を後にして、帰ることにした。
「それにしても、今日は疲れたね。」
「本当にそうですね。」
「うん。皆無事で本当によかったよ。」
「ユーリ君。」
「うん?何エレナ?」
帰り道今日の労いをしていたら突然エレナが話しかけてきた。何やら深刻そうな顔をしている。アリアも不安なような何とも言えない顔をしてこちらを見ている。
「改めてユーリ君ありがとう。あなたにはいつも助けられてばかりです。」
「いや俺は別に…。」
改めて面と向かって言われるとなんだか恥ずかしい。特にエレナみたいな美少女に言われると。
「ユーリ君に伝えたいことがあります。」
「は、はい。何でしょうか?」
「…。」
俺もアリアも息を飲んだ。
「ユーリ君、、、あなた《勇者》ですよね?」
俺は驚きを顔に出してしまった。
「ど、どうしてそう思うの?」
これではそうだと言っている様な物だ。
「私は魔力の流れが見えると言いましたよね?それが私に似ているというのがまず一つ。これは一種の感覚みたいな物なんですが…ユーリ君を見てると時々胸が熱くなるのを感じるんです。」
「そ、それって告白…。」
アリアが俺の考えないようにしているようなことを言った。まあある意味告白ではあるんだが…。
「ユーリ君も思い当たる節があるのではないですか?」
正直エレナに隠す必要はないような気もしてきた。喋っても悪いようにされる気はしないし、何より彼女は《勇者》であるのだ。俺のことも何かわかるかもしれない。
「そうだね。俺もエレナを見て感じる物はあった。もう隠せないからエレナのは話しておくよ。」
俺は《7人目の勇者》であること。アリアが《大賢者》であるために女神に願った力であること。全てをエレナに話した。
「やっぱり、そうだったんですね…。アリアさんも《大賢者》でしたとは。」
「うん。黙っててごめんね。」
「いえ。いくら信頼していても能力を他人に喋るのは危険ですから。」
「でもエレナは俺達を信用して話してくれた。だから俺達のことも教えることにしたんだ。」
「それにしてもアリアさんはユーリ君にとても愛されていますね。」
「えぇ!?」
「だってユーリ君がアリアさんのことを守りたいと思ったからこそ《7人目の勇者》になったわけですし。」
「そ、それはそうだけど///…。」
「ちょっと羨ましいです。ふふ。」
「もう!からかわないでよ!エレナさん!」
本人を目の前にして言うのは恥ずかしいから辞めてほしいものだ。女性というのはどうしてこうも恋愛の話が好きなんだろうかまどと考えているとエレナがこちらに駆け寄ってきた。
「私も負けませんから。」
「えっ?」
「何でもありません。二人共早く帰りましょう!」
「待ってよエレナさん!」
俺があっけにとられていると二人は前に向かってあるき始めた。というか今耳元でエレナにとんでもないことを言われた気がするが…。まあいいか。俺の学園生活はまだ始まったばかりだが、色々起こりすぎて中々落ち着けない。次はクラス対抗戦だ。また修行しないといけないな。
「ユーリ君!」
「ユーリ!早く!」
夕焼けに照らされた、白金と緋色の髪を靡かせた美少女達に呼ばれながら俺は帰路に付いた。
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