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8-2:共有すれど


「ミケさん、兄です」


「リベリオ・ローレです。……あなたが、レオのミー兄さんですか?」

 ミケはリリアナ、リベリオ、ステラの順に見てあからさまに顔を顰めた。

「ローレの一族様が大集合じゃねえか……」

 そう嘆いたミケの気持ちがステラには分かる。王城に入りたての頃であれば、ステラも震えながら逃げ出しただろう。そこから早二年近く、この場にいる全員がステラの身内というのは不思議なものだ。

「隣から椅子を持って来ますね」

「ステラ姉様、手伝います」

 ステラとリリアナの部屋から椅子を運び込めば、一階から飲み物を持ってきたクラウディオが追いついた。ごく普通の二人部屋であるので、五人が入ると少し狭い。文字通り膝を突き合わせた話し合いだ。


「その」

「あの」

 リベリオとステラで話し始めが被った。既視感のあるやり取りだが、以前と違うのはそこから二か月余りが経ち、季節は春から夏になり、ここは王城の中庭ではなくローレ近郊の鉱山だ。

 互いに話したいことも話すべきことも多すぎる。どう話し始めたら良いか迷っていると、見かねたクラウディオが手を挙げた。

「あの〜、差し出がましいですが少しばかり進行を仕切っても?」

「こういったことが不得手で申し訳ない。お願い出来ますか、クラウディオ殿」

「できればクラウディオさんと呼んで下さい、リベリオ様。じゃあまずこちらの話から。リリアナ様はステラの話に注釈があれば足して下さい」

「分かりました」

 促され、ステラは辿々しく経緯を話し始めた。無事にリモーネ領園に着いたこと、迎えに来てくれたローレからの護衛がリリアナとクラウディオだったこと。ミオバニア山脈の東端の鉱山から捜索を始め、十二箇所目がこの鉱山だったこと。

「近くの森の中で、ミケさんが匿われていた小屋を見つけました」

「小屋に付けられていた見張りが、先ほど引き渡した四名です。隠密活動に慣れ、戦闘訓練を受けていました」

 ステラが話し、リリアナが付け加える。

「リリアナ、捕らえた四名の顔に見覚えは?」

「ありません」

「北方軍でなければ、私兵か」

 呟くリベリオの声音は重く、沈痛だ。

「雇い主を吐くかは分かりません。……あの、兄様、勝手にローレを出てごめんなさい」

 おそるおそる謝ったリリアナに、リベリオの表情が少しだけ緩む。

「リリアナもお祖父様も、出来る限りのことをしてくれたのだろう。頼りになる妹に礼を言いこそすれ、叱れるような立派な兄じゃない」

 驚きはしたが、リリアナでなければ捕縛が叶わなかった可能性は高い。諜報員と正規兵の相性は悪く、負けないまでも証人として生きたまま確保することは難しい。


「それで、こちらがレオくんのお兄さんのミケさんです。ミケさんはミオバニアの東の産まれで、ミケさんを軟禁して魔石を削らせる手引きをしたのは、スパーダという商人だそうです。ミケさんは、協力を申し出てくれました」

 余計な解釈が入らないように注意しながら、ステラは可能な限り端的にまとめた。

「スパーダというのは、手足の長い長身の男だっただろうか?」

 ローレで急ぎ作って来たという似顔絵をリベリオが出し、ステラとリリアナが再度顔を見合わせる。

「行商に来たときしか会ってねえからあんまり記憶ねえけど、背は高かった……と思う。顔は、こんなに小綺麗にしてなかったけど、多分これで合ってる」

 リベリオが用意した似顔絵の角度を無意味に変えながら、ミケは頷いた。

 ステラはミケが製作した魔石宝飾を出して見せた。美しい雫形に研磨された灰色の魔石を見てもリベリオは驚かず、ただ少しばかりの苦笑でそれを受け取った。

「……あんた」

「?」

「あんたは、なんでこんなものを、って俺に言わないのか」

 リリアナやクラウディオのような嫌悪をぶつけられると思っていたのだろう、ミケが怪訝な顔をする。

「言えない。なんでそんなことを、と貴方に言われるような話が、こちらにもある」

 ミケが青い目を見開き、クラウディオはゲェとカエルのような声をあげて天井を仰いだ。

「心の準備をするんで、そっちの話も時系列順にお願いできます?」

 ヤバい結論があると踏んだクラウディオにリベリオが頷く。


 王都の東の街道でステラと分かれ、フェルリータに着いたこと。イズディハール皇太子やミネルヴィーノ家、エリデの助力が得られたことなどをリベリオは話した。

「エリデ、元気でしたか?」

「ああ、式に出られなかったことを気にしていた。フェルリータの案内をしてくれて」

「エリデは真面目で、面倒見がいいですから。あの、イズディハール皇太子殿下は、リベリオ様の話を聞くに大変気さくな方に思えますが……」

 ステラの知るイズディハール皇太子殿下とは、王城のバルコニーで見た金髪の後頭部だけだ。人となりは知りようがない。

「グローリア様が懐妊され今回の事態を気に病まれているとは言っていたが、実際には魔石宝飾を見たかっただけという気がする。少なくとも介入される気はないようで、ただ助けて頂いた」

 恐らくだが、と付け加えるのをリベリオは忘れなかった。

「グローリア様が懐妊されたのなら……そうですね、内密にとは行かないまでもある程度そのままの形に収まることを望んでおられるのでしょう」

 納得したリリアナは頷いているが、ミケとクラウディオは口を挟むことも出来ず頭を抱えている。 


「カルミナティ女史の繋ぎでポルポラを確保して、スパーダが競売に出した魔石宝飾をポルポラが競り落としたことが分かった。ジュスティーナ殿とイズディハール殿下と競売にもう一度出て、スパーダを確保した」

「それで、リベリオ様がスパーダの名前や姿を知っていたのですね」

 ステラ達がスパーダという名前をミケから聞くより先に、リベリオはフェルリータでスパーダを確保していたことになる。

「スパーダって商人は、今どこです?」

「査問会に合わせて王都まで移送するよう、フェルリータに人員を出した。ミネルヴィーノの義母上や、ハル様……イズディハール殿下が計らって下さるだろう」

「うちの母と帝国の皇太子殿下が一緒に競売に参加した話、全部終わったらゆっくり聞きたいところですねえ」

 はたから聞くには楽しい冒険譚だ。


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