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第6話

「で、なんでアータがここにいるのよ」

「俺だけ野宿しろとな。やっぱギャルって糞だわ」

「なんで同じ部屋なのかって聞いてんだよ!」

 俺がアメニティを漁ってると、マオが覗き込んできた。

「こういうのはな、たいてい使い切りで片付けなくていいんだ。持って帰っても構わない」

「え、持って帰ってもいいのですか」

「えーと、持って帰ってもいいけど怒られないってだけで、俺達はやめておこうな」

「わかりました」

「聞けって!」

 うるさいですね……。俺はキーキーやかましいギャルを見る。


「金だって、あるにはあるが無限にあるわけじゃないんだ。節約して何が悪い」

 ちなみにそれで納得したマオと一緒の部屋にしようとしたら、このいらない子まで押しかけてきた流れである。しかたないから三人部屋である。


「嫌なら出ていっても構わんよ。つうか出て行け」

「アータがな!」

「は? 俺の身になにかあったらどうしてくれる」

「それはこっちのセリフ!」

 貞操観念ガバガバのギャルが何を言うか。


 俺に襲われるとか男子と寝るのが生理的に嫌とかそういう理由もあるだろう。しかし俺とてこんなところで孤立して寝るのは危険なのだ。誰に襲われるかわからんし、襲われたら護身できないから詰む。乱暴されちゃう。その点フル装備の魔法使いが一緒にいれば安心だ。あわよくば大人の階段のぼりたい(ここ重要)。


「あの」

 先程から部屋の四隅でよいしょよいしょしていたマオが振り向く。

「結界も完全に展開できましたし、襲われる心配はないかと」

 ベッドそばの机に丁寧にたたんだローブと杖を置く。ちなみにベッドは三つあって、三人用のデカイベッドが一つあるわけではない。自分で言ってて思ったが三人用ってなんだ。あるのかそんなの。


「甘いわね。男は狼なのよ」

 草食系を通り越して絶食系すら超越した断食系男子の俺になんという暴言。

「狼ですか。それはかわいいですね」

 予想外の反応。もっとも、この世界の狼なんてチワワみたいなもんかもな。


「アータねぇ……寝る部屋まで一緒ってなんとも思わないわけ?」

「楽しいです」

 これも予想外の反応。ミツルもぽかんとしてる。


「同じくらいの歳の人とこうやって外に出てお泊りして……ずっと憧れていて、きっと叶わないんだと思っていましたから」

 拝みたくなるような眩しい笑顔であった。

「ヤベ。なんかウルっときたわ」

 俺も目頭が……


 人のことも言えんが、そばのうるさいだけのヤマンバギャルを見ていると、さぞかし教育が行き届いているのだろう。子は親を映す鏡なのだ。事情が事情とはいえ、ご両親になんの挨拶もしてなかったが……まあいいか、同年代の相手の親と話しても気まずいだけだし。別に誘拐したわけでもないし。……いや、家出をそそのかしたのってひょっとして俺か……? いやいやまさか……


「それはいいとして」

 ミツルが俺にチェックインするときに渡された寝間着を投げつけた。

「着替えはよそでやれ!」

 ちっ。

 渋々と部屋を出る。「いいって言うまで入ってくんなよ」と声が飛んできた。遅れてガチャリと鍵がかかる。まったく信用されてない。傷つくわぁ。


 勇者(予定)の俺になんて仕打ちだ。

 物悲しいものを覚えながら廊下で服を脱ぐ。この感じあれだ、体育の授業で教室で着替えるときのあれだ。ちょっと男子ーはやく出ていきなさいよー。うん、どうでもいい思い出だ。


 薄暗い、申し訳程度にランタンが並ぶ廊下は、人が三人は通れるくらいの幅がある。突き当りの窓は開いており、そこからほんのり流れる風が灯りを揺らす。

 その突き当り、ちょうど窓を中心としたT字路になったそこ、その陰に誰かいた。


 え? 覗き? 

 キャー。とっさに腕で体を隠してみる。

 揺れた灯りに照らし出されたのは、ちんまい女の子だった。


 赤い髪をツインテールにして腰まで垂らし、簡素な赤いワンピースを着ている。ランドセルでも背負わせたら、夏の小学生の一風景としてしみじみすることだろうさ。

 問題は、そんな子が俺の着替えを物陰からじっと見ていることである。


 いや、見世物じゃないし、見せるほどのものでもないだろ。いや、待てよ。こっちの世界ではこういう趣向(しゅこう)というか、嗜好(しこう)なのか? こんな子が男の着替えを覗いて性的興奮を覚えるのがデフォなのか? 業が深いな。


 俺がそんなカルチャーショックを受けている間も、ずっと少女は視線を外さなかった。こっちが気づいてるのはわかってるだろうに、まったく微動だにしないのだ。ここは恥じらったり逃げたりするところだろうに。この世界の幼女はなんというか、肝が()わってるな。


 このまま黙って着替えを続行するべきなのか? でもそんな露出狂みたいな変質者みたいな真似するのもな。かといって声をかけるのも変質者扱いなんだよな。最近は声掛け事案だとかいって、それだけで紙面やネットを(にぎ)わせるし……


 児童の情操教育というデリケートな問題に俺が頭を悩ませていると、そばの扉が開いた。

「おい、終わったぞ」

 ミツルが出てきた途端に、その少女は逃げ出した。たたっと小さな足音が遠ざかっていく。なんだったんだろうな。


「ああ……」

 気の抜けた返事をして黒ギャルの方を向く。こいつに話しておくべきか。いや、いいか。幼女に着替えを見せてた変態扱いとか、そんなテンプレ誤解を招きそうだし。


 黒ギャルが赤ギャルになっていた。

 厳密には黒に赤みがさした赤褐色というべきか。なぜか俺を見てプルプルしてる。え? なに? 進化の前触れ? ようやく真人間に進化するの?


「アータ……その格好……」

 ちなみに今現在の俺の格好はパンツ一丁であり、下着はそのままにするか、それとも素肌に寝間着でいくべきだろうかというところで中断していたのである。


「なあ、パンツも履きっぱなしより脱いだ方がいいかな」

 股間を何本も見ているであろうギャルに相談してみた。

「このドヘンタイー!」

「ギャー!」

 涙目で真っ赤なミツルの拳が俺の顔面に突き刺さる。てめえにそんなテンプレ展開求めてねー!

続きを今すぐ読みたい方はこちらにて発表しております。

https://kakuyomu.jp/works/16816700426124062593


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