第2話
転生早々即死って、もっとマシなオチがあるだろ。物語が始まる前にオチがついたんだけど?
やばい。視界が真っ暗だ。すごく眠い。一回経験したからわかる。これマジで死ぬ5秒前だ。
「だ、大丈夫ですか?」
遠のく意識の中、女の子の声がする。心底心配をした、慈愛の心に満ち満ちた声。あのスカしたギャルではないと断言できる。
パァァッと光が広がっていく。眼の前が明るくなる。いつの間にか口の中に溜まっていた血を石畳へゴホゴホ吐き出し、俺はようやく一息つけた。
「よかった」
開けてきた視界に映ったのは、少女の安堵した顔だった。歳は俺やミツルと同じくらいか。長い髪を隠すように被っているフードは、仰々しいくらい装飾が施されており、その頭を覆う部分の両脇には牛か羊の角のようなものが生えている。
「あなたが……助け……?」
うまく回らない舌をどうにか働かせ、それだけ言えた。彼女は意図を汲んだようで困ったように笑って、
「突然私の部屋に落ちてきて、怪我をしていたようなので回復魔法を」
そばに置いてあった身の丈ほどもある橙色の杖を見せてくれた。先程老人が持っていた仙人然としたものと違って、どこか禍々しい気がするが、まあいいか。
ようやく状況がつかめてきた。俺は異世界デビュー早々転落事故に遭い、彼女に救われて九死に一生を得たわけだ。ついでに言うと、今の俺は彼女に膝枕で介抱されており、これが中々居心地がいい。無愛想なだけで接客サービスのなっていない神どもと違って、この子こそ女神ではなかろうかと、割と本気でそう思う。
「言い忘れてたけどさー」
遅れて、無愛想なのがやってきた。脚から入ってきて、落下もなんのその。あっさりと着地してみせた。厚底なのに。
「トーケーテキに、異世界転生者の死因の三割くらいが転生直後のアクシデントなんだよねー」
それを先に言えよ。とお決まりのツッコミを入れるかどうか考えて、そんなこともうどうでもいいと膝枕の柔らかさに屈する。
「あの……」
「あ、アーシはミツル。こいつの……まあ、お目付け役みたいなポジ。シクヨロ」
ああ、そうか。
これは自己紹介の流れだな。
俺は後頭部を揺らして枕を堪能しつつ考える。別に、本名――向こうの名前をここで使う理由もないだろう。心機一転するなら、むしろ過去の遺物だ不要だ産廃だ。
とすると、ここでの名前というものを考えねばならない。いいね、キャラメイクっぽい。らしくなってきたじゃないか。
はてさて……
「俺は……」
あんまり長ったらしいと中二病マシマシみたいで恥ずかしいし、かといって安直なのもな。うーん。状況的にそんな長々と待たせられないし……
「……ヨハン・フランツ。ヨハンとでも呼んでくれ」
うん。長すぎ短すぎず。カッコつけすぎず気取ってもいない。中々バランスがいい。
「その顔でヨハンって……」
うるせえぞヤマンバギャル。山に帰れ。
「ミツルさんにヨハンさんですね……私は」
身に纏うオレンジをメインにしたローブと高そうな首飾りを揺らし、少女は、
「マオン・ヴェルギリウス・ヒース・テーゲルと申します」
と臆面もなく名乗った。
長えなおい!
今日日中学生だってもう少し遠慮するよ? どんだけてんこ盛りなの? 親からの過度な期待が詰まってるの? テストじゃいちいち全部書くの?
「なげーわ」
ミツルも思うところは一緒らしい。お前なんて三文字だもんな。向こうは何倍だ? ……五倍?
「マオでいい?」
「はい。お好きにお呼びください」
俺もそうしよう。もうなんて名乗ったか思い出せん。名前覚えるの苦手なんだよ。マオン・ベルギー・キース・テーブル……?
とりあえず自己紹介も終わったし、今更ながらマオに敵意はないようだ(むしろこんな雑に転生させてくれちゃった神様にだんだん悪意を感じてきた)。これはあれだ、チュートリアルキャラとかそういう感じだろう。この世界のことについて解説してくれたり、戦闘の手ほどきをしてくれたり。そういう便利キャラ。なんか魔法使いっぽいし。
「とりあえず見てのとおり、俺達は訳ありだ。簡単にこの世界の説明をしてほしい」
「転移魔法に失敗でもしたのでしょうか」
「だいたいそんな感じ」
実際ほとんど失敗というか事故だしこれ。
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https://kakuyomu.jp/works/16816700426124062593
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