哀れな者たち
愚かな男から始まった。
男は世界を創りたかった。争いもなく、恐怖に支配されることもなく、妬み、乏しめ、謀ることもない。
ただ、『平穏』を創りたかった。
幸運なことに、男には力と時間があった。
成熟するとすぐに旅に出て、世界を渡り歩いた。
生命の有り様を見た。
残酷故の美しさ。無垢さえもつ心。どうしようもない欲望を知った。
その過程で、かけがえのない存在を得た。
長き旅の終わりに、理想を強く描いた。
信念は変わらない。『平穏』の実現。
何にも干渉されることなく、独立した世界の創造を!
そのために、あらゆるものを犠牲とした。
もっとも愚かだったことは、世界を捨てたことではない。
かけがえのない存在までも巻き込み、身勝手な理想に閉じ込めてしまったことだ。
不死の薬を飲ませ、叡智を吸収させ、創造の柱として利用したのだ。
しかし、愚行はそれだけでは終わらなかった。
『平穏』を誕生させる間際、男は力尽きてしまった。
それが故に、『平穏』は未熟なまま産み落とされた。
ーこのままでは長くはもたない。どうにかしなければならない。
考え出された唯一の延命措置。最悪の代償。
大切な存在を供給源として世界を維持する。
男は方法を伝え、その命を全て賭して応急処置を施した。
消えゆく間際に、心からの謝罪と、呪いを遺した。
女神と化した存在は、その呪いが解かれるのを待ち続けている。
もうちょっとだけ続きます。