盲目の罪人
今世の背景が影響することはほとんどありません。
もし、そうであるなら。前のあなたは、どれほどの悔恨をもっていたのでしょうか。
それを、人はなんと呼ぶのでしょう。
自分が、何を欲しているのかがわからなかった。
けれども、何かを求めている。何かをしなければならない。
そんな目的のわからない使命感に駆られていた。
巨悪を討てば、答えが得られると思った。人々を救えば、答えが得られると思った。
思いつく限りの善行を積んだ。
結局、欲しいものはわからなかった。
次は旅に出た。善行のためでなく、この心の赴くままに、歩を進めた。
広大な海を聴いた。
夕暮れの砂漠を翔けた。
深い森の青さを吸った。
人々の営みを味わった。
旅は、私を形容しがたい寂寥と感動で満たしたようだった。
その都度、涙を流していたようだった。
そうして旅の終わりに、その正体に気が付いた。
足が止まったのだ。少なくとも、疲労によるものではなかった。
そこは、丘だった。
柔らかな風が吹き、草木が息づき、安穏そのもの。
少し離れたところに静かに佇む、大きな樹の下で、夜を待った。
夕暮れが過ぎ、鳥の声も止んだ頃。空を見上げた。
私は、涙を流した。
一切の翳りなく、遠い星々に彩られる夜空。
過去を映し、現在に届き、未来へと放たれた世界の光景。
その美しさとともに、理解した。この長い旅路の全てを。そして、どれだけ自分が愚かであったかを。
忘れてしまっていたのだ。
本来の姿を失ったこと。創り上げた世界の軌跡。大切な人との時間。己の犯した罪さえも!
あまりにも時が経ちすぎてしまったこと、その罪がいまも続いていることは、側に感じる温もりが示していた。
取り戻した記憶の感動と、どうしようもない悔しさと、自らに対する怒りが入り乱れ、涙は止まらなかった。
しまいには嗚咽が漏れ、泣き崩れてしまった。
救わねばならない。かつて遺した呪いから、解放しなくてはならない。
使命は見つかった。もう、揺るぐことはない。
朝が来た時、大きな決意をもって、この地を去った。
次に訪れる時には、必ず、二人で。