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第3話:ホームレス勇者は悪人へ

アンジェに馬鹿にされ、町を飛び出す横田。そのいく先には大きな困難が待ち受けていた…?

「うわあああああああーーーー!!」


横田は力の限り叫びながら走った。

滴る汗もお構いなしに、一人街中を駆け抜けていく。


「クソーーーーーーーあの女ーーー!!」


その目には少しだけ涙が浮かんでいた。

目一杯街を走り抜けると、街道まで抜け出ていた。


ふとアンジェの言葉を思い出す。


「外は魔物で一杯ですよ。」


横田の頬に一筋の冷や汗が流れた。

辺りには何の気配も無い。


横田はアンジェの言葉に後ろ髪引かれながらも、

街道を一人進んで行った。


―ガサガサッ


茂みから音がする…。

それは段々と近づき、横田の目の前に現れた。


「キュウ?」


可愛らしいウサギの姿。

横田はホッと胸を撫で下ろし、目の前のウサギに近づいた。


ウサギが僅かに震えた。


―メキメキッ


耳に触る音を上げ、ウサギの姿が変わっていく。

横田は恐怖で動く事が出来なかった。


「うわあああああ!!」


ようやく声を上げると、すっかりと姿の変わったウサギから、

全力で走って逃げだした。


『グゥゥゥゥガァァァアア!!!』


ウサギ(?)が遠吠えしながら追いかけてくる。


「ヤバイヨヤバイヨー!!」


どこかで聞いた様な台詞を叫びながら、

横田は全力で逃げる。


ウサギ(?)は走るのが苦手なのか、距離がドンドン開いて行く。

気づけばウサギ(?)の姿は遠くなっていた。


「ハァー…ハァー…」


横田は脇腹を押さえながら、呼吸を整えている。


「何か…スポーツ…ゼェ…やっとけば…ハァ…良かった…」


日頃の運動不足がたたり、根こそぎ体力を奪われていた。

街道を繋ぐ橋へと来ると、隠れる様に橋の下へと逃げ込んだ。


「お…ここ…案外快適♪」


壁はひんやりと気持ちよく、小川から爽やかな涼風が吹く。

程良い気温と疲れが、横田を眠りの世界へ誘う。


「スゥーッ…スゥー…」


横田は深い眠りに着いた。


翌日。流石に固いタイルの上で眠るのも辛い。

そんな理由から、横田はベッドになりそうな物を探していた。


軽く茂みをかき分けると、古びた馬車が捨ててあった。

土台と屋根を持ち帰ると、簡単な家を作った。


「おおー。いいじゃないか!!」


完成した我が家(?)らしきものを眺め、

横田は一人頷いていた。


当面、寝床の心配はいらなさそうだ。

次に探すのは、当然の食糧であった。


こちらに来てからまともに食事を取っていない。

空腹感に襲われ、橋を渡り森へ入る。


頭上には木の実が生っていた。

横田はすかさず木の実の確保に登った。


しかし、登りきると、足元には昨日のウサギの群れがいる。

降りれない状態で横田は木の実を頬張った。


「うまい!!」


空腹感と相まって。格別な美味さを感じた。

そのまま群れが移動するのをひたすら待った。


2日…3日…


待てども待てども、群れは一向に移動する気配がない。

このままでは木の上で暮らす羽目になる。


突然、横田の頭に名案が閃いた。


「…そうだ!ウサギっぽいし…この木の実が目当てかも…」


横田は試しに、木の実を一つウサギ(?)の群れへ放り投げた。


「キュウ〜♪」


可愛らしい声を上げ、木の実をむさぼっている。

横田は木の実を、自分の位置から遠い場所に全力で投げた。


すると、ウサギ(?)の群れはそちらに向かい移動して行く。

すかさず横田は木から降り、全力で寝床へ走って行った。


「さすがに…疲れた。」


横田は寝床に横になると、そのまますやすやと眠りに着いた。


「ううぅ…!?」


突然横田の腹を、激痛が襲いだした。

どうやら食当たりしたらしい。


「ノノオオオオゥ!!」


変な声を上げながら茂みに隠れる。


「オオオゥ…♪」


君の悪い声を上げ、横田は茂みから這い出した。

寝床に戻り横になる。


そのまま眠りに着いた。


それから数日。

横田はめぼしい食料を見つけられず、

一人寝床でぐったりとしていた。


「…腹…減った…無理…。」


遠い目をしながら、頭上の橋を眺める。

日中はチラホラと人の足音がするが、

こちらを気にする人もいない。


試しに橋の上に座り込み、

通行人に話しかけるが、皆関わりたくないといった表情で、

横田を避けながら歩いて行く。


当然だろう。

横田の風貌は、最早ホームレスそのもの。


髭は伸び、髪はボサボサ。ヨレヨレの汚れた服。

どうみても勇者ではない。


「何で俺が…こんなめに…うぅ…。」


横田の目には少しだけ涙が浮かんでいた。

虚しくなり、寝床に戻り息をひそめる。


そんな生活が1ヶ月続いたある日。

限界を超えた横田の頭に、一つのプランが浮かんだ。


「…もう…通行人から奪うしかない…。」


勇者としてあるまじき思考である。

横田に余裕は全く無く、目は逝っている。


遠くから女性の姿が見えた。


「よし…あいつから…ククッ…」


すかさず期の後ろに隠れ、じっと息を潜め待つ。

目の前に女性が通りかかった。


「おらぁあぁあぁぁああ!!」


横田が突進して行く。


「キャァァアア!!」


女性は驚き戸惑っている。


「お前の荷物をよこせ!!さもないと…」


女性は声を出さずにカクカクと頷くと、

手荷物を置きその場を去った。


横田はそれを拾い上げると、

一目散に寝床へ向かって駆けて行った。


戦利品を寝床で確かめる。

入っていた物は、パンとミルク、それから少しばかりのお金。

それに果物ナイフと、リンゴみたいなものが2つ。


横田は目の前の食糧をガツガツと食い漁った。


「うまい…うぅ…生きてて良かった。」


食料を食べ終えると、久々の空腹感で直ぐに眠りに着いた。

明日はどんな獲物が来るだろうと、横田は楽しみに明日を待った。


翌日。

この日は朝から「獲物」が良く通った。


老人・子供・女性…

弱い者ばかりを狙う横田。


罪悪感など既に持ち合わせていない。

もともと巻き込まれただけに、横田は「自分は全く悪くない」と

心の底から思いこんでいた。


「そろそろ「獲物」を変えて行こう。」


横田はそう思い、自分の持ち物を見返した。

食糧3日分、果物ナイフ、女性用の服、トマトケチャップ…etc


どうも戦闘は出来そうにない。

横田は効率良く「獲物」を狩る為の策を練った。


「そうだ!!女装だ!!」


女性用の服に身を包むと、伸びた髪の毛を軽く纏め、

帽子を深くかぶった。


数日の断食が続き、横田の体はすっかりと痩せ細っていた。

しゃがみ込んでいれば、喋らない限り分からないだろう。


早速横田は橋の上にしゃがみ込むと、

「獲物」を待った。次のターゲットは…戦士。


「戦士は女性に弱いはず!」と、勝手な思い込みを

横田はしていた。


すると、早速最初の「獲物」が現れた。

20歳前後の若剣士といったところか。


横田はトマトケチャップを口に含み、

戦士が目の前を通るのを待った。


しゃがみ込んでいる女性(?)を見て、

若剣士が声をかけようとしたその瞬間…


『ゴフゥッ!!』


派手にトマトケチャップを吹き出した。

若剣士は動揺し声をかける。


「大丈夫ですか!?」


若剣士が近づいた瞬間、

横田は服に忍ばせたナイフを首元に突き付ける。


「…命がおしけりゃ…装備一式おいてきな。」


耳元でボソッと呟く。

若剣士は冷や汗を流しながら、説得を試みる。


「…お前…男か…卑怯だと思わないのか…?」


横田はフッと鼻で笑うと、若剣士に言い放つ。


「卑怯?何がだよ。いいからさっさと装備をとけ。」


若剣士は仕方なく横田の指示に従う。

横田は若剣士の装備を奪うと、縛りあげその場に残した。


「おい!!待て貴様ッ!!」


横田は振り返ると、万面の笑みで若剣士に言う。


「バーカ♪」


そう言って横田はその場を走り去った。

若剣士はその後ろ姿を悔しげに眺めていた。


こうして装備の整った横田は、

次の町へ向けて歩き出した。


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